2016.12.02

2016年12月1日(木)大阪大学法学会スタッフセミナー「ウズベキスタンにおける国際取引契約のもとでの支払規制の法的枠組について」概要

2016121日(木)1800分から1915分まで、総合セミナー室3(豊中総合学館7階)にて、タシケント国立法科大学(ウズベキスタン)教育担当講師 アクタム・ヤクボフ氏によるスタッフ・セミナー「ウズベキスタンにおける国際取引契約のもとでの支払規制の法的枠組について」を開催しました。ヤクボフ氏は、国際取引法の若手研究者であり、セミナーでは、ウズベキスタンの抱えている国際取引契約の基本枠組とそれに伴う様々な規制の問題について議論しました。当日は会議が重なり、開始時間を遅らせたものの参加者は少なかったのですが、それでも充実した議論ができました。

商事取引は、商品・サービス等についてのやり取りと、支払決済の二つプロセスから成り立っており、それぞれのプロセスにリスクが伴っています。国際取引契約においては、商品・サービス等のやり取りと支払決済の間の同時履行関係が成り立ちにくいことから、商品・サービス等の提供と支払決済のリスクはさらに大きくなります。そこで、そのようなプロセスを円滑化し、リスクを低減するために、国内法、国際法、Lex Mercatoriaといった異なるレベルで国際取引契約の定型化や決済規制が行われています。例えば、ウズベキスタンでは、国際取引契約は文書によるものに限り、その記載事項は法定されており、特に、支払い方法を明記しないかぎり契約が成立しないとされているそうです(Article 10 of the law of the Republic of Uzbekistan «On contractual and legal basis for activities of business entities»)。しかも、その支払い方法は、現金決済を除けば、指図支払(Payment Order)、信用状取引(Letter of Credit)、荷為替手形取立(Documentary Collection)、小切手(Check)による4つに限定されるとのこと(ウズベキスタン民法791条)。いずれも国際取引の円滑化とリスク低減のための規制です。

この点、国際取引の履行を保障する仕組みが整っている先進国間の国際取引とは異なり、中央アジアの新興国であるウズベキスタンが国際取引上直面する課題はいろいろあります。特に、国際取引に必要な外貨の十分な確保が難しいウズベキスタンでは、しばしば国際決済の際にトラブルを生じます。このため、特に信用状取引に決済規制が設けられることになり、円滑な取引が阻害されるという問題も出てきています。ディスカッションでは、円滑でリスクの少ない国際決済のあり方としてどのような方法が可能であるかといった点について意見交換が行われました。もっとも、外貨を十分に確保することが難しいウズベキスタンで採用しうる決済保障手段には限界があり、代金の15%の事前払い込みといった、現在行われている支払リスク担保方法には合理性があるという意見がありました。

今回のセミナーでは、ウズベキスタンの国際取引契約が直面する課題について確認するに留まったが、これは経済成長が著しいいずれの新興国でも直面している課題であり、有意義な議論を行うことができたと考えています。このような貴重な報告を行い、議論の機会を与えてくれたアクタム・ヤクボフ氏に心から感謝しています


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2016.11.29

2016年11月26日(土)司法アクセス学会第10回大会概要

20161126日(土)13時から17時まで、東京・霞ヶ関の弁護士会館講堂クレオにて、司法アクセス学会第10回大会が行われ、参加して参りました。今年度のテーマは「司法アクセス―ニーズへの多角的アプローチ―」でした。学会創立10年のまとめとしての重要な位置づけの大会で、小島武司会長がこの大会をもって辞任するということもあり、いろいろな意味で節目を感じさせる大会でした。大会は、前半が理論編ということで、研究者による2件の報告、後半が実務編ということで、弁護士、司法書士、行政書士の方による3件の報告、質疑応答、そして、最後に小島武司会長の総括報告がありました。以下は各報告の概要です。

理論編「司法アクセスにおけるサーヴィス・モデルとジェンダーの在るべき方向」の第1報告は立教大学の濱野亮教授による「司法サーヴィスのモデルチェンジ―いわゆる司法ソーシャルワークからの示唆を中心として―」でした。濱野報告は、司法ソーシャルワークの登場によって伝統的な司法サーヴィス・モデルがどう変わったかを明らかにし、その変化が司法サーヴィス・モデルをどのように変えていくか、一般化して検討するという意欲的内容の報告でした。いわゆる司法ソーシャルワークの登場によって、弁護士の異業種連携が進み、またアウトリーチ活動が盛んになり、潜在的市場の発掘が進んでいるという指摘はその通りだと思います。ただ、私は、この変化は司法ソーシャルワークの登場と同時並行で様々なルートで起こってきている現象であるようにも思っています。

2報告は、新潟大学の田巻帝子教授による「女性と司法アクセス」でした。田巻報告は、司法アクセスについて検討するための分析視点として「ジェンダー」を用い、主として性別をベースとする各個人の属性に応じた司法アクセス障碍があることを明らかにし、属性に応じたアクセス障碍に対応する司法アクセス支援が必要であることを指摘する好報告でした。確かに、男性と女性でアクセス可能な相談先も異なるし、救済手段へのアクセス可能性も異なっています。その違いが根強く残っている「男は外、女は内」という性別役割観によってもたらされているという指摘も納得できます。女性は、紛争経験に際して非公式の相談先をたくさん持っているけれども、裁判などハードな救済手段を用いることは少ないのに対して、男性は、裁判に訴えたり、弁護士に相談したりすることは女性に比べて多いけれども、非公式の相談先をあまり持たず、紛争経験があっても抱え込んでしまう傾向がある、というのはその通りだと思います。私も10年ほど前に「職場トラブル」について調査した際、同様な調査結果を得ました。個人の属性に応じた司法アクセス支援について、実証科学としての法社会学が果たす役割は大きいと思います。

総会を挟んで、後半は実践編「法実践におけるサーヴィス・モデルとジェンダーのあるべき方向―多元的アクセス・ルートの開発―」でした。コーディネーターは東京大学の太田勝造教授。報告は、弁護士の秋山清人氏、司法書士の山本一宏氏の報告、そして行政書士の伊藤浩氏と依田花蓮氏の共同報告でした。

秋山報告は、一昔前までは弁護士は飛び込みの顧客からの仕事は受けないというのが当然だったけれども、いまでは顧客はインターネットで情報を得ており、弁護士もまた飛び込みで相談に来る相談者の仕事を受けることが日常となってきていることを指摘するものでした。私も、顧客は法情報の収集はインターネットで行い、必要な場合にネット上で弁護士に関する情報を得て、事務所に相談に来るという傾向が強まっているように感じています(ご指摘の通り、市民法律相談に閑古鳥が鳴いているのはこのためでしょう)。このことが弁護士のサーヴィス・モデルを変えていくのは当然だと思います。女性弁護士はまだまだ少ないようですが、以前に比べるとかなり増えており、DV事件など女性が女性に相談できることが望まれる事件で大きな役割を果たしているというのもその通りだと思います。

山本報告は、司法書士の事務所の地域分布状況、男女構成比を紹介した上で、業務内容の変化、司法書士業務と他職種・他機関との連携、兼業・複数資格などについて紹介するものでした。銀行や不動産業との連携、成年後見業務での社会福祉協議会との連携、相続や会社法人登記についての税理士との連携、ワンストップサービスを提供するための複数資格取得(地方では、司法書士の他に、土地家屋調査士、行政書士資格を取得して開業するのが一般的)、新しい業務としての民事信託対応など、いろいろな業務対応の工夫があることが分かりました。月ごとに集中する業務が異なるという司法書士業務カレンダーの紹介は、司法書士の仕事がどのようなものか知る上でためになりました。

伊藤報告は、全国津々浦々に存在する「市民に身近な法律家」としての行政書士の業務形態について紹介し、これとあわせて、共同報告者として、ニューハーフで昼間は行政書士で夜はショーダンサーをしている依田花蓮氏が、LGBTを支援する行政書士としての新しい業務について紹介するものでした。伊藤氏は、建設業と絡めて電気通信事業者の届出をする行政書士や、運送業から転じて廃棄物処理法など専門性の高い仕事をしている行政書士、農繁期は農家をして農閑期に農地転用の業務をする行政書士など、業務が多様で専門分化が進んでいること、士業とは異なる兼業が多いことが行政書士の特徴であること、行政書士の場合にも一見顧客が多いけれども、意外に他士業や取引先からの紹介も増えており、また若手の登録者が増えていること、必要な届出の確認、注意喚起などで仕事を発掘していることなどを紹介し、依田氏は、セクシャルマイノリティーの生きやすい社会を実現するための業務(同姓パートナーの届出、性別変更の手続アドバイスなど)について紹介しました。依田氏の報告は目から鱗が落ちるような内容で、本当に勉強になりました。

質疑応答ではいろいろな質問があり、私もまた、弁護士をはじめとする異業種連携は司法ソーシャルワークの影響というより、弁護士増員以降進んでいる専門職市場の構造変動に関わる現象で、司法ソーシャルワークの方がその一つの現れなのではないかということをコメントした上で、異業種交流が進むのはよいけれど仲間内で仕事を融通し合うのでは競争が働かず、消費者にとってマイナスになるのではないか、異業種交流といっても、争訟性がある事案の代理業務を前提とする弁護士倫理(双方代理、利益相反禁止)と代書業・コンサルタント業務を前提とする司法書士、行政書士倫理では、連携して仕事をする上で問題が生じるのではないかという質問をしました。

小島武司会長の総括報告「司法アクセスの10年―司法アクセス学会の役割―」では、司法アクセス学会の創設の経緯から説き起こして、ここ10年の学会の歩みについて紹介、最後にこれからの司法アクセス学会の課題提起が行われました。1960年代後半の市民権運動が行われていた激動の時期にアメリカ留学をされた小島先生が受けた知的衝撃のお話、イタリアのカペレッティー教授に招かれて在外研究をしたときのお話からは、小島先生の学問形成の原点を知ることができたような気がしています。あわせて、法律扶助の権利性の確立、プロフェッションの多様化への対応、リーガルアクセスの多様化への対応、弁護士をはじめとするプロフェッションに対する信頼の確保、被害者学、弁護士保険、英米の法律扶助改革のフォロー、災害時の司法アクセスから学ぶ日常の司法アクセス、学校教育における司法アクセスの確立など、重要な課題が提起されました。加えて、論集の作成、司法アクセスの哲学の構築など、それ以外の課題も示されました。いずれも重たい課題です。

今回の学会でも、司法アクセスに関する様々な課題が明らかになりました。業務の多様化、異業種連携、個別属性に応じた司法アクセス支援、LGBTに対する司法アクセス支援といった課題が浮き彫りになったと思います。また、小島先生から提起された司法アクセス学会の今後の課題は、学会の次の世代を担う私たちが担っていかなければなりません。

来年度以降、司法アクセス学会は、太田勝造新会長を中心とした新しい体制のもとで運営されることになります。法テラス創設、司法アクセス学会設立から10年が経過し、日本の司法アクセスは岐路を迎えています。小島先生の課題提起は、この岐路を乗り切っていくための課題提起とも言えそうです。私も微力ながらその一端を担っていきたいと思っています。

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2016.09.25

ALSA Singapore 2016 学術大会概要(その2)

(続きです)
23
日(金)は、前日に私自身の報告・司会担当が終わったこともあり、日本では聞けない内容のパネルを中心に参加しました。

9時から10時半までのPanel Session 4の時間、私はB4 Judicial Reforms in the Global Southに参加しました。このセッションの司会はStephanie Khoury博士(University of Liverpool)。報告は3件。第1報告は、George RADICS博士(National University of Singapore)による”Racialized Cosmopolitanism and the Global City: Comparing Alcohol Policies in Singapore’s Little India and Clarke Quay”でした。この報告は、シンガポールの特定地区でのアルコール依存症による多発する暴力事件に対する新規制導入についての報告でした。特に、Little Indiaでは移民が飲酒によって引き起こす暴力事件が大問題となっているとのこと。地区事情に応じた規制が必要というのは分かりますが、移民問題と格差問題、治安問題とが交錯し、一歩間違うと移民差別に繋がる、難しい問題だと痛感しました。第2報告は、Akawat LAOWONSIRI氏(Thammasat University)による”Revival of Legal Positivism in the ASEAN Context A Decelerating Factor of Functioning of Human Rights Norms”でした。報告者は国際法研究者で、ウエストファリア条約から、国連憲章の時代までの国際人権保障のあり方についてLegal Semiotics(法記号学)を用いて分析するという報告でしたが、それが法実証主義のリバイバルとどう繋がるのか、よく分かりませんでした。第3報告は、Pablo CIOCCHINI博士(University of Liverpool)による”A Peculiar Managerialism: Reforms in Argentinean Criminal Courts and Useful Comparisons with Singapore”でした。アルゼンチンはより効率的な刑事司法を目指して刑事訴訟制度の改革を行っているとのこと。陪審制や司法取引などアメリカ型の刑事司法制度の導入を図ったことについてシンガポールのそれと比較するという構想は理解できましたが、一般論に留まっているという印象を持ちました。

10
50分から1220分までのPanel Session 5では、私は、A5 Legal Consciousness, Corporations & Commerceのパネルに参加しました。司会はKeebet Von Benda-Beckmann教授(Max Planck Institute)。報告は4件。すべて博士論文執筆中の若手の報告です。第1報告は、Benjamin LAWRENCE氏(University of Victoria)による”New Constitutional Rites: Indigeneity, Legal Pluralism and the International Finance Corporation's Performance Standards in Cambodia”でした。この報告は、国際金融機関の求める人権基準とカンボジアの現地人の法意識、多元的法規範とのギャップについて問題提起する内容。グローバルスタンダードはどこの国でも現地の法意識との間でコンフリクトを生ずるものです。第2報告は、Lillian Hsiao-Ling SU氏(University of Wisconsin-Madison)による”Flexible Governance: Enforcing Intellectual Property Rights in Two Chinese Markets”でした。この報告は、中国・上海の高級品市場とジャンク品市場とをサンプルとしてとりあげ、規制のあり方などについて検討するものでした。高級品市場では、最近では模造品などマーケットのブランドを損なうような商品はほとんど見られなくなっている一方、ジャンク品市場では、相変わらず模造品の取引が目立ち、当局も厳罰をもって取締りを行っているとのこと。しだいにジャンク品市場でも模造品の取引は減っているということですが、取締りを恐れて水面下に潜っているだけなのではないかという疑いはなお残ります。第3報告は、Arm TUNGNIRUN氏(Stanford University)による”When Local is Foreign: How do Foreign Corporate Lawyers Fill the Legal Void in Myanmar?”でした。この報告は、ミャンマーの新市場出現にあたって、グローバルコーポレートロイヤーはどのような役割を果たしているのか、その際に国内弁護士はこれとどのような形で連携しているのか、市場の拡大に当たってコーポレートロイヤーは具体的に何を行っているのかについて紹介するもの。グローバルコーポレートロイヤーは途上国の「法の欠缺」を埋める存在だという指摘はその通りだと思いますが、問題は単なる一方的な押しつけや搾取になっていないかどうかです。第4報告は、Sumithra DHANARAJAN氏(National University of Singapore)による”What We Talk About When We Talk About Rights: The Rights Consciousness of Lawyers In the Field of Business and Human Rights”でした。この報告は、企業の社会的責任として求められる人権保障について、コーポレートロイヤーはどのような意識を持ち、その実現のためにどのようなことを行うべきかについて検討する報告でした。構想段階の報告ですが、企業活動をいくつかのプロセスに分け、そこで求められる弁護士の役割を検討するという手法は建設的だと思いました。4つの報告いずれも新しい視点に基づくもので、グローバル化が途上国や新興国に何をもたらしているのか、いろいろ考えさせられました。

ランチタイムのあと午後130分から3時までPanel Session 6が行われ、私はE6 Corporations & the Lawのパネルに参加しました。司会はBruce Aronson教授(Hitotsubashi University)。報告は4件。法学研究者のみならず経営学研究者の若手の報告を聞くことができました。第1報告は、Steven VAN UYTSEL准教授(Kyushu University)による”Tackling Cartel Behavior in the Japanese Society: A Quest for a Different Approach”でした。報告は、日本の独占禁止法におけるカルテル規制のあり方について、データに基づいて紹介する内容。新古典派的合理的意思決定論に基づく、経済的インセンティブによるカルテル規制は日本で実効性を持つのかどうか。なお問題提起に留まるものの報告を興味深く伺いました。第2報告は、Stefanie KHOURY博士(University of Liverpool)による”Corporate Exceptionalism: The Case of the ISDS”でした。この報告は、ISDSは、企業の投資利益の阻害を理由として、政府による通常の規制を停止することを認める例外的手段であり、人々の生活の基本価値を破壊すると指摘するもので、やや既視感のある報告でした。第3報告は、Lerong LU氏(University of Leeds)による”The Financing Dilemma of Private Businesses in China: Runaway Bosses, Credit Crisis and Governmental Responses”でした。中国では、旧国営企業が政府系銀行から容易に低金利融資を受けることができるのに対し、私企業は銀行融資を受けることが困難で、高金利の金融会社から融資を受けるのが一般なのだそうです。それでも経済成長率が金利を上回っていた時はどうにかやり繰りできていたのが、成長率が頭打ちになり、私企業の負債が急速に膨らんで、逃亡する経営者が後を絶たなくなっているとのこと。中国政府も重い腰を上げて対策に乗り出したようです。ややルポルタージュ的な報告。巨大私企業の経営者の逃亡が中国経済をさらに混乱させることがないように祈るばかりです。第4報告は、Yanbing LI氏(Singapore Management University)による” Bizarre Love Triangle between Copyright, Market and Fundamental Rights over Expressive Works: A Case Study of the Film Industry in China”でした。この報告は、映画ビジネスにおける著作権と市場、基本権保障のいびつな三角関係を描くもので、要は、著作権保障と裏腹になっている規制が表現内容について二重三重の検閲を可能にし、表現の自由と市場の発展を損なっているということを指摘するものです。中国の場合には、他の先進諸国とは異なる事情から表現規制が非常に重たいものになりがちであり、すでに巨大化した中国の映画ビジネス市場の発展を阻害しているということは理解できます。

3
20分から450分まで、最終のPanel Session 7が行われました。私はこの時間、E7 Issues in Investment & International Lawのパネルに参加しました。司会は、Sean McGinty准教授(Nagoya University)。報告は3件。ここも若手報告のパネルです。第1報告は、Lu XU氏(University of Leeds)による”New Choice-of-law Approach in Relation to Proprietary Rights – a Chinese Perspective”でした。中国の国際私法では、合意による準拠法指定が制限され、しばしば準拠法決定が困難になる場合があったそうなのですが、最近の知財分野の法改正で合意による準拠法指定が広く認められるようになったとのこと。報告はその経緯と内容の紹介。第2報告は、Margalit FADEN氏(National Graduate Institute For Policy Studies)による”Improving Regulation of Foreign Sovereign Investment: A Case Study of the China-Africa Development Fund’s Cement Project in South Africa”でした。国家主権投資は途上国に様々な問題をもたらします。特に、主権免除があることで、汚職などがあっても訴えを起こすことが困難であるなど、投資機関として過度の保障を受けている点に問題があります。報告は、この問題について、中国政府の南アフリカへの開発投資を事例として検討するという内容。しばしば指摘される話ではありますが、具体的な事例の紹介として興味深く伺いました。最後の報告は、Yingying HU氏(University of Wisconsin)による”Taxation Policies to Support the Shanghai International Financial Center”でした。上海の国際金融センターの発展には目を見張るものがありますが、その背景には特別の課税政策があるとのこと。報告は、上海の投資市場への優遇的課税政策は国際的な投資を促進するばかりでなく、規制の透明化を通じて不適切な投資を防ぐことにも役立っており、その結果、世界の投資マネーが上海に集中する結果となっていることを指摘するものでした。他の諸国も様々な投資優遇税制を設けており、中国の税制が特に投資活動の透明化に貢献しているとも思えないので、報告の説明では不十分なのではないかとも思いましたが、指摘の多くは納得できるものでした。

Closing Ceremony
については省略します。大会全体についての感想ですが、日本の参加者の報告は、概して準備がよく、データもきちんとしていて完成度が高いのに、問題意識が内輪向けなのか、パネルには常連の固定客しか集まっていないという印象です。これに対して、他のアジア諸国の参加者の報告は、構想段階のものであっても堂々と問題提起をし、聴衆に強いインパクトを与えることが多く、パネルにはいろいろな国の参加者、特に若手が集まって、活発に意見交換をしているという印象を持ちました。背景には、若手報告者の英語レベルの顕著な向上があるように思います。このことは、アジア諸国の大学ランキングの急上昇と関係がありそうです。日本の大学は海外の研究者とのネットワークをさらに充実させるためにも、情報発信の英語化にさらに力を入れる必要があると思います。これをいう度に「日本語で高等教育ができるということが日本の研究レベルの高さの証しだ」というお決まりの反論に遭いますが、もはやそのような議論をしている段階ではなくなっています。日本語でいくら発信をしても、それを理解する受け手は限られています。かつての日本の「強み」はいまや「弱点」でしかありません。

次回のALSA大会は来年12月に台湾国立交通大学で開催されます。次回は何を報告するか、すでに思案を始めています。来年度も有意義な大会になることを確信しています。
 

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2016.09.23

ALSA Singapore 2016 学術大会概要(その1)

シンガポール国立大学(NUS)法学部で2016922日(木)、23日(金)に開催されている“The Inaugural Asian Law and Society Association (ALSA) Conference—Law and Society in Asia: Defining and Advancing the Field—”に参加するためにシンガポールに来ています。本大会は、East Asian Law and Society ConferenceEastが取れて、アジア全体を視野に入れるようになってから最初の大会です。NUSはご存じの通り、The Timesの世界大学ランキングで今年アジア第1位の大学になりました。記念すべき行事をNUSで実施できるということには大変な意義があります。今大会はジカ熱騒動もあり、やや予定されていたよりも参加人数が減っていますが、それでも100人以上の「法と社会」研究者がアジア各国のみならず、オーストラリア、アメリカ合衆国、EUから参集して、研究成果の報告や新しいテーマについての共同研究の構想発表を行っています。昨日が第1日目で、今日は第2日目です。備忘録も兼ねて、昨日私が参加したセッションの概要についてまとめておきたいと思います。

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日朝は、8時半にホテルからシャトルバスでNUSBukit Timahキャンパスに移動。9時半から開会式。法学研究所長、大会責任者のWelcome SpeechALSA会長の宮澤節生教授(青山学院大学・UC Hastings)によるKeynote Speechが行われました。Keynote Speechでは、ALSAが結成されるまでの経緯と、アジアにおける「法と社会」研究の現状と課題について紹介がありました。

午前1120分から1250分まで、Panel Session 1が行われました。私は、E1 Alternative Dispute Resolution in Asiaのセッションに参加しました。このセッションは司会が藤本亮教授(名古屋大学)で、4件の報告が行われました。第1報告は、台湾医師のDr. Shih-Ying LEE氏(Chen Chung Chwen Memorial Doctor-Patient Relationship Promotion Educational Public Welfare Trust Fund)による”Caring Style Mediation (CSM): Dispute Prevention to Restoration”でした。台湾の医療メディエーションがどのような考えで進められているか、現状はどこまで来ているのかについての紹介。勉強になりました。第2報告は、齋藤宙治助教(東京大学)による”How Can Children Participate in Informal Dispute Systems? From an Analysis of ’School Meeting’ in Japanese Democratic Schools”でした。同報告は、日本の小学校の学級会について訪問調査を行い、そこでも掃除や募金で集めたお金などに関する学級トラブルについての物事の決め方、教師の役割などについて明らかにする好報告でした。研究のタネはいろいろなところに発見できるものです。第3報告は、Joanna JEMIELNIAK准教授(University of Copenhagen)による”Sociology of Arbitration: New Tools for the New Times”でした。国際商事仲裁についての社会学的研究は少ないので興味深く伺いました。もっとも、実証研究というより、そのための理論モデルを提示したという報告でした。第4報告は、Puteri Nemie JAHN KASSIM教授(International Islamic University Malaysia)による”Promoting ‘Open Disclosure’ amongst Medical Professionals through the Enactment of Apology Laws in Malaysia”でした。この報告は、米国、オーストラリア、カナダの議論を手がかりにマレーシアでの「医療者謝罪法」の立法を提案するもので、興味深かったのですが、なお本格的な立法活動は始まっていないようでした。質疑応答については、医師と患者の関係はどうしてひどくこじれるのかといった本質的質問があったほか、無過失責任保険などに関する事項確認的な質疑が行われました。

ランチタイムを挟んで、午後2時から330分までPanel Session 2が行われました。私は、この時間はE2 Mediation, Restorative Justice & Legality in South Koreaのセッションの司会を担当しました(本来は明日の午前のセッションの司会担当だったのですが、諸般の事情でそのセッションがなくなり、E2の司会担当となりました)。報告は3件。すべて韓国からの報告者です。第1報告は、Won Kyung CHANG准教授(Ewha Womans University)による”Old Wine in New Wineskins: A Trial of Restorative Justice in Korea”でした。韓国で実験的に行われている修復的司法の取り組み(10件のサンプル)を手がかりに、修復的司法が本当に人権保障の向上に繋がっているのか同化を検討する報告です。日本でもよく聞く議論ですが、韓国なりの事情を知ることができました。第2報告は、Yong Chul PARK教授(Sogang Univesity)による”Law and Politics in South Korea”でした。刑事裁判、憲法裁判を手がかりに、あらゆる法的過程に政治が含まれていることを指摘し、その逃れがたさについて分析する報告。一般論に終始していたのがやや残念でした。第3報告は、Yong Sung Kang准教授(Yonsei University)による”Mediation And Civil Justice In Korea”でした。この報告は、司法統計を利用して、韓国の民事司法の現状を明らかにした上で、裁判所による民事調停、民事調停センターによる調停の利用率と実際上の問題について分析するものでした。日本と違って、民事訴訟新受件数、民事調停件数がなお増大し続けているのは何故なのか、それが知りたいと個人的には思いました。参加人数が少なかったので、質疑応答については省略します。

午後350分から520分まで、Panel Session 3が行われました。私は、A3 East Asian Legal Practiceに参加し、報告を行いました。このセッションの司会はHelena Whalen-Bridge教授(National University of Singapore)で3件の報告が行われました。第1報告は、Kay-Wah CHAN博士(Macquarie University)による、”Regulating “Incorporated” Lawyers: A Comparative Study of Legal Ethics Concerning Incorporated Legal Practices in Australia and Legal Professional Corporations in Japan”でした。オーストラリアにおける弁護士会社(ILP)と日本の弁護士法人(LPC)の弁護士倫理に関する問題について比較分析する報告。日本の弁護士法人に比べ、オーストラリアの弁護士会社(株式会社形態をとり、配当金の分配が認められる)には独立性など倫理面でいろいろな問題があるようです。第2報告は、私の”Current & Expected Pactices, Skills and Competencies of the Limited Legal Professional in Japan: Based on the Questionnaire Survey on the Labor and Social Security Attorney”でした。社労士総研・全国社労士会連合会の補助のもとに行った社労士の職務に関する実態調査を手がかりにして、社労士の「専門性」が確立されてきていると言えるかどうかを検証する報告です。スライドを作りすぎ、結論部分と分析のみ報告するという変則的報告だったにも拘わらず、熱心に聞いていただいたようです。第3報告は、Robert LEFLAR教授(University of Arkansas)による”The Iridescence of Japanese Patient Safety Reforms”でした。この報告は、日本の医療過誤訴訟の現状を紹介した上で、昨年創設された医療事故調査制度について紹介するものでした。アメリカの医療訴訟とは比べものにならないですが、日本でも医療過誤事件が増え、また数件ですが刑事事件として医療過誤が立件されることが出てきていますが、この状況に対する対策として医療事故調査制度がどの程度貢献しうるのか、ここ1年の実績を手がかりに検討。滑り出しはそれなりに順調と評価してよいでしょう。質疑応答では、弁護士業務のマーケットと社労士業務のマーケットで競争が起こらないのか、倫理面の問題は生じないのか、オーストラリアの弁護士会社では弁護士でない者が法人を支配することが可能になるが、批判はないのか、日本の医療過誤の統制には刑事処分が役に立つのか、医療過誤保険の高騰は日本で起こっていないのか、といった質疑が行われました。

1日目の報告は充実していました。今日はどのような報告が行われるのか、楽しみです。

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2016.07.20

第12回仲裁ADR法学会学術大会概要

すでに大会から10日以上過ぎてしまいましたが、備忘録を残します。

2016
79日(土)午後、東洋大学白山キャンパスにて、第12回仲裁ADR法学会学術大会が開催されました。前半で個別報告2件、後半がシンポジウム。今回も例に漏れずタイムリーな問題を取りあげ、活発な議論が行われました。以下は簡単な概要です。

最初の個別報告は、北海道教育大学函館校の今在慶一朗准教授による「紛争解決における社会的公正の心理学:手続的公正を中心に」(司会:菅原郁夫・早稲田大学教授)でした。報告は、社会心理学からみた「公正」についての概説と、その手続的公正への応用の紹介。印象に残ったのは、労働審判の調査研究による、労働者側が裁判官のアドヴォカシーそれ自体に満足を感じるのに対して、使用者側は手続的公正(公平性、中立性)が確保されていることを通じて満足を得るという調査結果。自己に不利な判断をされる場合にこそ手続的公正が重要であることが理解されました。

2報告は、大阪弁護士会の黒田 愛弁護士による「ハーグ子奪取条約事案における和解あっせん手続―ADR機関の模索と展望―」(司会:小原望弁護士)でした。同報告は、ハーグ条約の概要と家庭裁判所審判の現状と問題を明らかにし、それを補うものとしての、公益社団法人民間総合調停センター(大阪)による和解あっせん手続の概要を紹介するものでした。時間配分にやや問題があり、肝心の民間総合調停センターの実務の紹介が不十分になってしまったことは残念でしたが、条約に基づく家庭裁判所審判の手続保障上の問題や、子の引渡執行の困難を緩和するために、この分野でADRを活用するニーズが大きいことを痛感しました。

総会・休憩(理事会)を挟んで、後半はシンポジウム「仲裁関係者の行為規範と適正行為——裁判外紛争解決におけるソフトローの意義―」でした。シンポジウムの司会は慶應義塾大学の三木浩一教授。報告者は、西村あさひ法律事務所の弘中聡浩弁護士、日本海運集会所元専務理事の松元俊夫氏、ベーカー&マッケンジー法律事務所 の武藤佳昭弁護士の3名。最初に報告者が報告をし、フロアとの質疑を行うという形式。ここでとりあげられた「ソフトロー」とは、主として「国際仲裁における当事者の代理に関するIBAガイドライン」のことです。IBA当事者代理ガイドラインについて、当事者サイドと仲裁人サイドの二つの方向から問題点を検証し、さらに日本海運集会所の仲裁規則について独自の立場から検証するというものでした。

詳細は省きますが、各国の民事訴訟法制上認められること、推奨されること、認められないことが錯綜しており、これはコモンローと大陸法の対立というような単純なものではないこと、例えば、証人に対するリハーサルは日本、アメリカでは認められる一方、英国系の法制では禁止されており、フランス・ベルギーでは弁護士倫理で禁止されているにも拘わらず、国際商事仲裁では認められていること、真実義務、文書提出義務などについても法制、弁護士倫理がそれぞれ異なっていることなど、仲裁手続についてのルールの具体的調整は困難を極めること、グローバル企業に関わる世界的な大規模法律事務所が利益相反を回避することは極めて困難であることなど、考えさせられる論点がいくつも提示されました。

今回の学術大会でも、いろいろな知見を得ることができました。また、今回の大会総会で第5期役員の一人に選ばれたことも、私にとっては大きな出来事です。来年度は大阪大学が大会開催校です。今年の大会に引けを取らない充実した大会にするべく、準備を進めたいと思います。

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2016.06.12

LSA New Orleans 2016大会概要(その3)

64日(土)には、午後の3つのセッションに参加しました。

同日午前中はプレナリーセッションなどがあったのですが、自分の報告が終わって緊張の糸が切れたこともあり、朝起き上がることができなかったので、参加していません。お昼からあとのセッションのみ参加しました。

お昼の時間(12時から230分)にはAssociation Lunchon & Award Ceremonyが行われました。これは懇親行事ではありますが、日本から平田彩子さん(元・東京大学法学政治学研究科助教、UC Berkeley研究員、現・京都大学准教授)がUC Berkeleyで提出されたご論文 Regulation In-between: How Does Inter-Office Interaction Matter for Street-Level Regulatory Enforcement?Graduate Student Paper Awardを受賞され、この場で表彰されたことは特記すべきです。日本のみならず、アジア諸国も含めて初めての受賞です。平田さんの受賞を心からお慶び申し上げます。

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45分から430分までの時間は、Access to Justice and Civil Justice SystemCRN10, Paper Session)に参加しました。司会はダニエル・H・フット(東京大学)、ディスカッサントは前田智彦(名城大学)。報告は、①Sheona BurrowUniversity of Glasgow/CREATeNew Forums for Intellectual Property Claims: The IP Small Claims Track in England and Wales、②Bruno TakahashiUniversity of São Paulo/Federal Court of BrazilOur (allegedly) litigious society: Why do we have so many social security claims in the Brazilian Judiciary?、③Therese MacDermottMacquarie University, AUSPublic interest litigation and anti-discrimination claims、④Paulo Eduardo Alves da SilvaUniversity of São PauloACCESS TO JUSTICE IN BRAZIL - A shift toward restriction and possibilities from a new theoretical frameの5報告。ここでは、イギリスの知財少額訴訟、ブラジルの「訴訟好き」についての考察、オーストラリアの対差別クラスアクションについての紹介、ブラジルの司法アクセス規制政策についての検討が行われました。Bruno Takahashi氏は一昨年から昨年にかけて大阪大学で客員研究員をしていた人で、報告には私の問題意識も反映されており、感銘を受けました。社会保障給付に関わる行政等による相談・調整が不満の解消に役立っていないために結局訴訟が行われる結果になっているという指摘には考えさせられました。


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45分から630分までの時間は、Legal Counseling and MediationCRN10, Paper Session)に参加しました。司会は入江秀晃(九州大学)、ディスカッサントは大田勝造(東京大学)。報告は、①入江秀晃 Beyond Armchair Dispute Resolution discussion: An empirical study on private dispute resolution in Japan、②Luigi CominelliUniversity of MilanMediators with Italian characteristics. Styles, conflict attitudes and settlement rates、③Ryan FortsonUniversity of Alaska Anchorage, Justice CenterThe Effect of Legal Counsel on Outcomes of Custody Determinations,

Kerri ScheerUniversity of TorontoThe Priority of “governability” in Medical Self-Regulating Bodies: A case study of The College of Physicians and Surgeons of Ontario Discipline Committee Hearings、⑤Annette OlesenUniversity of Southern DenmarkTransform rehabilitation Lawyer-client-mentor interactions inside ‘Community Rehabilitation Companies’ in Englandの5報告。ここでは、日本の弁護士会紛争解決センターの利用者満足度調査結果、イタリアの商工会議所による調停スタイルと和解成立率についての調査結果の紹介、アラスカにおける子供の養育権決定についての弁護士関与の影響、医師の自己規律団体のガバナビリティーについての調査、負債を抱えた受刑者のメンタリングプログラムの実態について議論がありました。入江報告は弁護士会ADRの利用者満足度は高いものの、当事者関係が改善される場合は少ない、むしろ悪化する場合が多い。他方、同席ならば当事者間関係が悪化しても満足度につながる可能性があるという指摘をしていました。いずれの報告も示唆に富むものでした。

同日の晩はロヨラ大学トゥレーヌ・スクール・オブ・ローでローカル・レセプション。地元の有名ロースクール訪問の機会は貴重。

大会は65日(日)午前中まで行われていたのですが、帰国スケジュールの関係で参加できませんでした。

今回のLSA大会でも、おおくの出会いがあり、また様々な最新の研究に触れることができ、大いに学ばせて頂きました。来年度はLSARCSLの合同大会がメキシコシティーで行われる予定です。十分に準備をしてこれに臨みたいと考えています。来年度大会が本当に楽しみです。

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LSA New Olreans 2016大会概要(その2)

63日(金)には、私の報告したセッションを含め、5つのセッションに参加しました。

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15分から10時までの時間は、Technology, Law, Ethics, Human Rights and Citizenship in East AsiaCRN 33,
Paper Session)に参加しました。司会者はダニエル・ローゼン(中央大学)、ディスカッサント(兼共同司会)は秋葉丈志(秋田国際教養大学)。報告は、①HUNGYI CHEN(名古屋大学) A Comparative Study on the Equity-Based Crowdfunding Market in Taiwan、②Chao-Tien ChangNational Chiao Tung University Triple Review: How do the Research Ethics Committees of Biobanks Function in Taiwan、③Ching-Yi LiuNational Taiwan University Whose Security Is It Anyway? : China’s New Cybersecurity Law and Its Implications、④Nur Atiqah Tang AbdullahUniversiti Kebangsaan Malaysia, UKMThe Janus Face of Citizenship: the Legal and Sociological Endless Contestation: A Case of Malaysia、⑤Jonathan LiljebladUniversity of New England Understanding the Myanmar (Burma National Human Rights Commission in the Context of Transition。ここでは、台湾のクラウドファンディング市場、台湾の生体資料バンク研究倫理委員会の役割、中国のサイバー情報保護法とその影響、マレーシアの市民権の現状、ミャンマーの移行期における人権委員会の役割について議論が行われました。

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15分から12時までは、Judicial Reform in East AsiaCRN33, Paper Session)に参加しました。ここでは私も報告をさせて頂きました。司会者はMatthew WilsonUniversity of Akron School of Law)。報告は、①福井康太(大阪大学) Current and Expected Practices, Skills and Competencies of Limited Legal Practitioners in Japan: Based on the Questionnaire Survey on the Labor and Social Security Attorney、②Kay-Wah CHANMacquarie University, AUSEmpowering the Quasi-Legal Profession of Judicial Scriveners as Litigators – A Critical Look at the Actual Effect of the Justice System Reform in Japan、③藤田政博(関西大学) Does introducing mixed jury system promote trust in justice system in Japan? Discussion based on the secondary analyses of Japanese General Social Surveys、④Denis De Castro HalisUniversity of MacauJudicial Independence in Practice: Administrative Law Litigation in Macau and China、⑤Yi ZhaoGrand Valley State University, USMapping China’s Judicial Reforms。ここでは、日本の社会保険労務士の職域動向、司法書士の簡裁代理権と訴訟ニーズの関係、裁判員制度が司法に対する信頼を向上させたかどうかについての二次分析、マカオの行政訴訟における司法の独立性、中国司法制度改革の問題状況が議論されました。私の報告は、社会保険労務士総合研究機構研究プロジェクトとして実施したアンケート調査の解析結果の紹介と、社労士が独立のプロフェッションとして成立しているかについての検討。データを盛り込みすぎて時間が足りなくなり、十分な紹介はできませんでしたが、社労士は相対的にではあるけれども独自の専門性を有する専門職になりつつあるという結論を述べさせていただきました。

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45分から230分の時間には、Legal Transplant and Legal Transformation in East AsiaCRN33, Paper Session)に参加しました。司会はDenis De Castro HalisUniversity of Macau)。報告は、①Rostam J. NEUWIRTHUniversity of MacauGlobal Governance and Legal Change: A BRICS Perspective、②Alexandr SvetliciniiUniversity of MacauInternational fragmentation of competition law: The actual and expected contribution of the BRICS countries、③Hiroshi FukuraiUniversity of California Santa CruzThe Civil Jury Trial in Okinawa & Fukushima, Japan: Why Women Plaintiffs All Won Against Multinational Corporations(欠席者除く)。ここでは、ブラジル出身のマカオ大学の研究者が、世界規模の法変容にBRICS諸国が果たしている役割、競争法の断片化をつなぐBRICS諸国の役割について問題提起し、またFukurai教授が沖縄で一時期行われていた民事陪審による企業相手の訴訟で被害女性がすべて勝訴したのは何故かという興味深い問題について紹介し、活発な意見交換が行われました。

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45分から430分までの時間には、Courts, Trials and Justice in East AsiaCRN33, Paper Session)に参加しました。司会は平山真理(白鴎大学)。報告は、①Qingtao XieStanford UniversityAn Empirical Analysis Of The Application Of Guiding Cases In China: Implications For Judicial Reform In China、②Feng JingCity University of Hong Kong Can the Procedural Justice Model be applied to China?の2報告(欠席者除く)。ここでは、中国司法によるGuiding Caseを用いた司法解釈の問題、中国の司法手続に関する法意識について紹介があり、議論をしました。私は、中国の司法解釈は裁判所や法務部が一般論として行うものもあり、両者の関係がどうなっているのか、質問しました。Guiding Caseはあくまで個別事案についての判断なので、一般的な司法解釈とは役割が異なるとの説明には納得しました。


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45分から1830分までの時間には、Cultural, Social and Linguistic Discourses in East Asian Law and Legal SystemsCRN33, Paper Session)に参加しました。報告は、①北村隆憲(東海大学) How Professional Judges Instruct Lay-Judges to establish the ‘facts’、②David BerganNYUMisrecognition and Legality in Practice: Educating Vietnamese Engineers in Intellectual Property、③堀田秀吾(明治大学) Neuro-Linguistic Analysis of Trademark Dilutionの3報告。ここでは、裁判員裁判で裁判官がどのように事実認定を誘導するか、ベトナム技術者に知財教育をする際の難しさ、商標の希釈化について議論がありました。堀田報告の商標の希釈化に関する脳科学的・言語学的研究は発展性があり、今後の実務的活用が見込まれる好報告だったと思います。

このあと、CRN33(アジア「法と社会」学会メンバー)の懇親会があり、アジア太平洋諸国の研究者と様々な意見交換をしました。有意義なひとときでした。

 


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LSA New Orleans 2016大会概要(その1)

すでに1週間が経ちましたが、201662日(木)から5日(日)まで開催されたLaw and Society Association (LSA 2016 Annual Meeting in New Orleansに参加するため、アメリカに出張していました。ニューオルリンズははじめての訪問地。フランス支配の影響を色濃く残す独自の町並みとジャズの街。シーフードも堪能しました。今年の大会のテーマはAT THE DELTA: Belonging, Place and Visions of Law and Social Change。社会の変化と法との関係について多角的に議論するということ。世界各国から1000人以上の法学、社会学、人類学、心理学等の研究者、実務家が集まり、最新の問題意識をぶつけ合い、意見交換を行いました。日本からの参加者も30人程度はいたと思います。以下では備忘録も兼ねて、私の参加した範囲で大会の概要を簡略にまとめておきます。

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2日(木)午前中は、まだ私自身のプレゼンの準備ができていなかったので、参加せずにプレゼンの準備を進めさせて頂きました。不義理をすることになったセッションの先生方にはお詫びを申し上げます。

同日1245分から230分までの午後の最初の時間には、
East Asian Court Reform on Trial CRN 33, Roundtable)に参加しました。司会および解題は宮澤節生(University of California Hastings, 青山学院大学)、報告は、①ダニエル・H・フット (東京大学)、②Erik Herber Leiden University)、③平山真理(白鴎大学)、Matthew WilsonUniversity of Akron School of Law)、④Margaret WooNortheastern University School of Law)。Malcolm FeeleyUC Berkeley)もコメント参加。日本の司法制度の多様化、被害者参加制度、ビデオ録画の問題、裁判員制度、そして中国の司法改革の動向といったテーマについて議論が行われ、活発な意見交換が行われました。

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45分から430分までの時間には、Interface of Law and Economy in East Asia CRN 33, Paper Session)に参加しました。司会は、大坂恵里(東洋大学)、報告は、①清水剛(東京大学) A Tale of Two Organizational Forms – A Review of the Introduction of Japanese Limited Liability Company (J-LLC) and Japanese Limited Liability Partnership(J-LLP)、②カスラフ・ペイヨヴィッチ(九州大学) Challenges of an Aging Japan: How to Maintain the Working Force? ③松中学(名古屋大学) Welcome Economics, Goodbye Foreign Laws? : Assessing Trends in Corporate Law Research in Japan using Citation Data(欠席者除く)でした。ここでは、日本の会社法改革で導入された会社形態と投資家ニーズのギャップ、日本の高齢化社会への対応政策の検討、法学雑誌にみる外国法と経済学の引用数の逆転をめぐる検討など、興味深い議論が行われました。
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45分から630分の時間には、A Study of the Child Right in the Context of Law and Society of East Asia: An Experiment of Cross-Cultural Collaboration in Comparative LawCRN33, Paper Session)に参加しました。司会はAmy Huey-Ling SheeNational Chung Cheng University)、ディスカッサントは松浦好治(名古屋大学)、報告は、①松浦好治 A Method of Collaborative Communication for a

Comparison of Law and Society in a Glocalized Context、②Wei OuyangNational Chung Cheng University Children’s Voice in Healthcare Decision-making: A Comparison between China and Taiwan、③Kuo-hsing Hsieh(National Chung Cheng UniversityJuvenile Justice in Taiwan(欠席者除く)。法制度の国際比較を行う際の課題、台湾における医療上の意思決定に関わる子供の意思の尊重、台湾の少年法について、フロアも交えて様々な角度から問題提起が行われました。

このあと大会全体のレセプションがあり、そこでも各国の研究者との意見交換が続きました。
 

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2016.05.30

2016年度日本法社会学会学術大会概要(その2)

2016528日(土)、29日(日)の2日間、立命館大学朱雀キャンパスにて、2016年度日本法社会学会学術大会が開催され、参加しています。今回の大会のテーマは「《法》を見る」です。529日(日)は大会第2日目でした。2日目は、午前の部はミニ・シンポジウム⑥「事前規制と事後救済の多様化と交錯:医療専門分野における現状と課題」、午後は全体シンポジウムに参加しました。

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日午前中に参加したミニ・シンポジウム⑥「事前規制と事後救済の多様化と交錯」は、医療紛争処理について、法令やガイドラインによる事前規制と裁判、医療事故調査制度、医療ADRなど事後救済の手法の多様化とそれらの相互作用について議論するものでした。報告は、最初に渡辺千原(立命館大学)「企画趣旨」、続いて李庸吉(龍谷大学)「韓国における医事紛争解決システムの構築と専門知の役割―公正さの担保と鑑定の意義―」、平野哲郎(立命館大学法学部)「診療ガイドラインの策定と裁判規範の形成」、一家綱邦(国立精神・神経医療研究センター)「医療(行為)の法規制―再生医療法制を通じた検討―」の3報告が行われ、これに続いてフロアを交えたディスカッションが行われました。李報告によれば、韓国の「医療紛争調停仲裁院」は迅速な患者救済ニーズと医療者側の安定的な診療環境確保ニーズの両方を満たす制度として発足し、着々と利用を拡大しているようです。平野報告の「医療者は司法による医療への介入を嫌い、ガイドラインの司法利用にも抵抗するが、本来ガイドラインは医療者自身による自己規律であり、外部者による直接介入に比べれば医療のオートノミーを尊重するものであり、これを診療契約に組み込む等のやり方で、医療側により抵抗感の少ない規律が可能になる」という提言は、現実的な提言です。一家報告は、再生医療など先端医療を含む医療行為への法的事前規制は医療活動の自立性を損なうものであり、むしろ事前規制は医療者側の自己規律であるガイドラインに委ね、患者の保護は広告規制など消費者法による方が実効的であると問題提起するものでした。この指摘にも唸らされました。フロアとの討論では、ガイドラインによるEvidence Basedなランクづけのバイアスの問題(常識として行われている医療ほど根拠となる研究論文が少ない)、医療研究の自由と診療契約との関係などについて様々な意見交換が行われました。

同日午後は全体シンポジウム。企画ミニ・シンポジウムⅠ・Ⅱで行われた議論を踏まえ、改めて「《法》を見る」ということを考える企画です。全体シンポジウムのコーディネーターは阿部昌樹(大阪市立大学)、司会は濱野亮(立教大学)、大河原眞美(高崎経済大学)。最初に阿部による企画全体の趣旨説明が行われ、見るべき対象としての《法》の多様性、《法》を見る視角の多様性、法社会学的に《法》を見るということの意味について交通整理が行われました。これに続いて、仁木恒夫(大阪大学)「裁判外紛争処理研究をとおして《法》を見る」、上田竹志(九州大学)「裁判研究をとおして《法》を見る」、田巻帝子(新潟大学)「家族研究をとおして《法》を見る」、松原英世(愛媛大学)「刑事司法研究をとおして《法》を見る」の4報告、これらに対する佐藤彰一(國學院大學)と尾崎一郎(北海道大学)によるコメントが行われ、最後にフロアとの質疑応答が行われました。報告の詳細は省きます。各報告では、それぞれの法分野において「見える法/見えない法」があることが紹介され、法社会学はその「見えない法」をできるかぎり見えるものにしていく試みであるということが確認されました。コメントでは、それぞれの報告者による「見える法(見るべき法)/見えない法」の区別について整理する必要があることが指摘され、単なる法社会学の自分探しに留まらない議論が行われる必要性があると問題提起されました。フロアとの質疑応答では、それぞれの報告者への個別の質問に加え、単に「見える法(見るべき法)/と見えない法」という区別ではなく、法が排除しているものを精査すべきではないのかという質問(これは私の質問。分かりにくくて申し訳ありません)、法社会学が自分探しに陥ってしまうのは何故かという質問など、法社会学の根本に関わる質疑が行われました。全体として、充実した議論だったと思います。

来年度の法社会学会学術大会は「法社会学会設立70周年記念行事」として早稲田大学で開催されます。どのような企画になるのか、いまから楽しみです。

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2016.05.29

2016年度日本法社会学会学術大会概要(その1)

2016528日(土)、29日(日)の二日間、立命館大学朱雀キャンパスにて、2016年度日本法社会学会学術大会が開催され、参加しています。今回の大会のテーマは「《法》を見る」です。法社会学研究者の関心が多様化し、《法》についての捉え方も問題関心ごとに多様化するなかで、理論と方法の観点から《法》についての捉え方を一度整理しなおし、これからの法社会学会の議論の発展の手がかりにするというような趣旨の大会企画です。全体シンポジウムの他、2つの企画関連ミニシンポジウム、7つの会員によるミニシンポジウム、3つの個別報告分科会、1件のポスターセッションが行われます。今回私は、個別報告分科会①で報告をし、企画関連ミニシンポジウムIの司会を担当しています。以下で、私の関わった限りで、大会の概要をまとめておきます。

28日午前中は、個別報告分科会①に参加し、報告を行いました。個別報告分科会は、会員がそれぞれ進めている研究について個人として報告するセッションです。5人の報告者が報告を行いました。報告は、実際に行われた順番に、(1) 山口絢(日本学術振興会)「高齢者の法律相談へのアクセスの現状と課題」、(2)小佐井良太(愛媛大学)「学校現場における死亡・重度後遺障害事案の紛争解決をめぐって―「学校事故紛争ADR」の意義と可能性―」、(3) 齋藤宙治(東京大学)「交渉に関する米国弁護士倫理規定の効果:離婚事件において」、(4) 早瀬利博(長崎大学)「行政裁量の羈束と手続保障の要請:上関原発立地にかかる公有水面埋立免許処分について」、(5) 福井康太(大阪大学)「社会保険労務士の職域の新展開と課題について:社労士総研実態調査を手がかりとして」。司会者は大田勝造先生(東京大学)でした。詳しい紹介は省略しますが、ハーバード大学LLM在学中に得られたデータを詳細に分析し、法曹倫理の受講が倫理的判断にどのように影響するかを実証的に明らかにした齋藤報告は圧巻でした。私の報告は、平成25年~27年にかけて行った社労士総研研究プロジェクトで得られた調査データに基づいて、社労士の現在とこれからの業務、期待される能力・特性、自立的に事務所を経営していく条件について論じた上で、社労士が独立した専門職と言えるかどうかについて検討しました。いずれの報告も充実しており、今後の発展が期待されるものばかりでした。

同日午後は、企画関連ミニ・シンポジウムⅠ「《法》を見るための《理論》」に司会者として参加しました。このミニ・シンポジウムは、多様化する《法》についての主要な《理論》を検討し、法についての捉え方を整理しなおすという(ほとんど無謀な)企画です。マックス・ヴェーバー、ニクラス・ルーマン、ミシェル・フーコー、ロベルト・アンガーのそれぞれが法をどのように捉え、それが法社会学にどのようなインプリケーションを持っているかを論ずるという形で進められました。報告は、(1) 恒木健太郎(専修大学)「ヴェーバーと法を「掻い潜る」者:有価証券論を事例として」、(2) 長谷川貴陽史(首都大学東京)「市民社会の描出とニクラス・ルーマンの概念枠組」、(3) 林田幸広(九州国際大学)「フーコーが《排除した法》のあとにフーコーの視座から《法》をどう位置づけるか」、(4) 吾妻聡(岡山大学)「Roberto Unger における法社会理論」の4件、これに高橋裕先生(神戸大学)がコメント。報告では、ざっくり言って、法違反者をどのように位置づけるか、フィクションや身体性をどのように位置づけるか、法を排除した視点から法について何が見えるか、社会的制度をデザインする構想として法を捉える見方の可能性について問題提起が行われ、コメントではそれらの理論が総合的かつ通時的であること、しかしながら総合的な把握という点ではいずれの理論も限界を抱えていることが指摘されました。フロアとの質疑応答では、それぞれの論者の法の定義についての質問があった他、違法は法の外側にあるのか、内側にあるのか(違法を前提にしない法はない)、法を生み出す主体とは一体どのようなものなのか(ミクロレベルの主体のやり取りのなかで法は生成される)、といった議論が行われました。司会者として、活発な議論が行われたことに感謝します。

今日29日は大会第二日目。どのような議論が行われるでしょうか。楽しみです。


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