2008.08.08
2008年8月7日(木)16時30分から19時まで、大阪大学大学院法学研究科大会議室(法経総合研究棟4F)にて、第2回大阪大学企業コンプライアンス研究会が開催されました。基調報告はコンプライアンス研究センターの郷原信郎弁護士。郷原先生は言うまでもなくわが国におけるコンプライアンス研究の第一人者です。報告タイトルは「フルセット・コンプライアンスを考える」。比較的少人数の研究会でしたが、充実した議論を行うことができました。
郷原先生は、「法令遵守が日本を滅ぼす/コンプライアンスが日本を救う」という著書タイトルに用いられたフレーズの紹介から報告をはじめられました。ここで郷原先生が強調されたのは、まず「コンプライアンス>法令遵守」ということ、そして「遵守」という言葉が盲目的遵守をもたらしやすいという問題点でした。「法令遵守」が語られる場合には、枝葉末節にばかり関心が行き、基本原則や法目的といった肝心な問題から注意が外れてしまうという結果になりやすいというのです。
日本では司法は社会の周辺でしか機能していません。司法は、特殊な問題を特殊なやり方で解決するものとしてしか認識されていないというのです。他方、アメリカでは、司法は社会の中心に関わるものと考えられています。日常的な問題が司法的に処理されるのです。喩えるなら、アメリカの司法は文化包丁であるのに対して、日本の司法は伝家の宝刀です。伝家の宝刀は使われないところに意味があります。そのような法文化に慣れ親しんできたところに「法化社会」が浸透してきたために、社会の周辺でしか使われなかった司法が次第に中心でも頻繁に使われるようになってきたというのが、今日の日本の現状だというのです。日本の日常になじまない司法が頻繁に使われるというのですから、人々が抵抗を感じるのは当然とも思えます。
実態と乖離した法令を形式的に遵守させようとすれば、企業はまともな活動ができなくなり、社会は混乱に陥ります。そこで、法令遵守は、まずもって社会的要請と合致するのでなければなりません。しかし、日本の場合には法令を守ることはしばしば社会的要請と合致していません。これでは、法令遵守が徹底されればされるほど社会がうまく機能しなくなってしまいます。「法令遵守が日本を滅ぼす」と言われるゆえんです。
郷原先生によれば、コンプライアンスとは、組織に向けられた社会的要請にしなやかに鋭敏に反応し、目的を実現していくことなのだそうです。そこでは、社会的要請に対する鋭敏さ(Sensitivity)と目的実現に向けての協働関係(collaboration)が強く求められます。そして、社会的要請に組織がどのように適応していくか、複数の社会的要請にいかにしてバランスよく適応していくかを考える視点が「フルセット・コンプライアンス」です。コンプライアンスは、個々バラバラな「点」としてではなく、複数の要素からなる「面」として理解されなければならないとされます。
フルセット・コンプライアンスとは、「方針の明確化」「組織の構築」「予防的コンプライアンス」「治療的コンプライアンス」「環境整備コンプライアンス」という5つの要素をフルセットで実現することだとされます(上図を参照)。まず「方針の明確化」はコンプライアンスの最も大切な要素です。社会的要請に合わせて組織の方針が立てられなければコンプライアンスは始まりません。次に、そのようにして立てられた方針に従って組織が構築されなければなりません。さらに、方針の実現に向けて組織全体を機能させるようにするのが予防的コンプライアンスです。そして、不祥事が発生してしまった場合に原因究明を行い適切な対応を行うのが治療的コンプライアンスです。最後に、不祥事がそもそも起きない環境整備を行うのが環境整備コンプライアンスです。
郷原先生は、日本においてコンプライアンスを実現することがいかに困難かを考えるための例として、違法行為の二つの類型を挙げられます。すなわち、アメリカにおける違法行為はいわば「ムシ」だとされます。ムシは取り除けば、それで問題は解消します。これに対して、日本の違法行為はいわば「カビ」だと言われます。カビは目に見えるところだけではなく、内側に大きく広がっているのが特徴です。一つの違法行為の背景に構造的問題が潜んでいるというわけです。カビ型の違法行為を誤って個別の違法行為として処理すると、カビの被害はどんどん広がっていき、収拾が付かない事態に陥ってしまいます。わが国においてコンプライアンスに取り組むことがいかに困難かが窺われます。
さらに、郷原先生は、コンプライアンスに関連する概念として、リスクマネジメントとクライシスマネジメントを挙げ、両者の違いを説明されます。リスクマネジメントは平時におけるリスク対応で、リスクの顕在化を予防することです。これに対して、クライシスマネジメントとは、危機的状況において損失を最小限に食い止めるための活動を言います。クライシスマネジメントの場面では、コンプライアンスの問題が最も凝縮された形で表れてきます。ここで重要なことは、「責任」にどう対応するかです。クライシスマネジメントにおいては、「社会的責任>法的責任」という考えのもとに問題を処理することが求められます。そこでは、まず事実を徹底的に調査し、原因究明を行い、その原因究明に基づいて社会的要請にマッチした適切なマスコミ対応を行うことが求められます。十分な原因究明を行わずに社会的要請とミスマッチなマスコミ対応を行うと、会社の社会的評価が大きく損なわれ、会社に壊滅的なダメージを与えることになります。しかし、このような対応をアドバイスできる法曹はまだまだ少ないとされます。多くの法曹は、つい法的責任の追及に目がいき、肝心の原因究明をおろそかさせてしまいます。クライシスマネジメントが拙劣であったために会社が壊滅的ダメージを受けたのが不二家です。不二家問題の核心は、食品に対する社会的要請のトレンドが安全から安心に移行していることを見誤り、基準違反の事実ばかりに目くじらを立て、消費者を安心させるための適切なメッセージを出さなかったことにあるとされます。

報告の最後に当たり、郷原先生は、社会の変化を適切に読み取る方法として、上図のような法令環境マップを提示されました。社会の変化は法令の変化に表れます。競争環境の変化は競争法に表れ、情報環境の変化は個人情報保護法に表れます。金融環境の変化は金融商品取引法に表れます。企業活動にとってとりわけ重要なのは事業法です。事業法には目的規定があり、そこから企業の行うべき指針が読み取られます。法曹は、事業法の目的規定と他の関係法令の諸目的とが整合的であるように、企業の具体的な活動指針を示すことができなければなりません。郷原先生は、法令環境マップの使い方を示すために、新日本監査法人元職員インサイダー取引事件を例として挙げられました。この事件の背景は、関係法令である金融商品取引法、監査法人法、公認会計士法から読み取ることができるのだそうです。それらの法令から、監査法人の役割は、内部的立場から外部的立場に役割がシフトしているということが読み取られます。この変化は、企業監査の需要を増大させ、監査法人の大規模化を引き起こしました。監査法人が大規模化し、少数の大規模監査法人に企業情報が集中する一方、監査法人内での公認会計士の労働環境は激変し、末端まで管理が行き届かなくなってしまいました。この結果、新日本監査法人元職員インサイダー取引事件は起こるべくして起こったというのです。
フロアとのディスカッションの詳細は紹介できません。印象に残った質問を挙げると、①法曹が企業でコンプライアンス実現のための役割を担うといっても、そのような役割は誰にでも果たせるわけではない。また企業内に入っていける法曹は限られている。多くの一般的な法曹はどのような形で企業コンプライアンスに関わっていけばよいのか。②経営陣がコンプライアンスの必要性を自覚し、それを末端まで浸透させようとしても、現場が自主的に取り組むようにならないと、コンプライアンスは十分に徹底されない。末端の現場にまでコンプライアンスを浸透させるにはどうしたらよいのか。③社会的要請相互の矛盾に関して、独禁法と労働法とのトレードオフの関係について言及があったが、このトレードオフ関係の一つの解決策として経済法学者は「独禁法解釈において消費者利益を考慮する」という考え方を打ち出してきた。この考え方についてはどのように評価されるか。④アメリカではルールが不合理な場合にはルールをよくしていこうという考え方があるが、日本にはそうした考え方があまり定着しているとは言えない。不合理なルールを是正できるようにするにはそのためのルートが設けられなければならないが、どのような方法が考えられるか。このように、答えにくい質問が次々に出されたにも拘わらず、郷原先生がてきぱきと回答されていたのが印象的でした。
今回の大阪大学企業コンプライアンス研究会からは本当に多くの示唆を頂きました。ご多忙にも拘わらず貴重なお話を頂いた郷原先生、そして研究会でディスカッションにご参加いただいたメンバーのみなさま、本当にありがとうございました。
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2008.08.05
2008年8月4日(月)18時30分から、上智大学(四谷キャンパス)2号館にて、交渉教育研究会会合が開かれました。本研究会では、数年に渡る議論の成果として、今年3月に実演交渉DVD「交渉は楽しい!」を完成させることができました。今回の会合の課題は、まず、このDVDの発展型をこれからどのような形で作り上げていくかを議論し、あわせて今年のインターカレッジ・ネゴシエーション・コンペティションの問題についてのブレーンストーミングを行うことでした。比較的に事務的な内容が主であったにも拘わらず、充実した議論が行われました。
諸般の事情で、会合の前半にネゴシエーション・コンペティションの問題のブレーンストーミングが行われました。主として、学生から評価が分かりにくいといった指摘のある交渉リーグのあり方について様々な意見が出されました。今年の問題作成に差し障りがあるのであまり詳しい内容は紹介できません。興味深かった指摘としては、①無理に交渉がまとまる方向に持っていく必要はなく、最終的に決裂するような交渉であっても内容的に充実していれば高い評価を付けてもよいのではないか(もっとも、その場合の評価基準をどうするかは難しい問題である)、②レッド社とブルー社の二者間交渉だけではなく、多数当事者間交渉にできるような工夫も必要なのではないか、例えば、レッド社とブルー社のほかに「不在の第三者」がいることにして、交渉プロセスを複雑化してはどうか、③交渉リーグに備えて関係する情報について学生が下調べして来るのはよいが、それが過度に至ると、交渉リーグが知識くらべの場になってしまい、かえって交渉センスが発揮されにくくなるのは問題である(この対策として、現実とは異なる架空の設定を課題に盛り込む工夫を試みてきたが、あまりに現実と異なる設定にもできず悩ましい)、④交渉の最後に合意文書をまとめさせるというのは、交渉リーグの時間制限の中では難しくはないか、例えば、合意事項のほとんどはすでに合意できているというような設定にし、未合意事項についてのみ交渉して文章をまとめるというようなやり方の方がよくはないか、⑤交渉に感情を組み込むような工夫はできないのか、例えば、一定の条件をクリアーしないかぎり、社長の激怒が収まらず、交渉担当者が態度を軟化させることができないというような工夫はどうか、⑥交渉に意外性の要素を組み込むために、交渉途中で「相場が急落した」とか「本件に関する判決が出た」というような事情変更情報を流すような工夫はできないか、⑦交渉リーグで審査側が特に学生に求める項目、例えば「相手の話によく耳を傾けているか」といった項目を強調することで教育効果を引き出すような工夫はできないのか、⑧交渉において最も重要なことは、当事者間の見解がぶつかり合っているときに、その対立を超える視点で両者の思惑を合致させるような創意工夫を行うことであり、最初から合意の達成が不可能であるような設定で交渉を行わせるのは生産的とは言えないのではないか、等々。ここでの議論が反映されれば、これからのネゴシエーション・コンペティションはさらに充実したものになることは間違いないでしょう。
会合の後半は、実演交渉DVDの発展型をどうするかについての議論でした。大阪大学の野村美明教授から、今回作成したDVDをアレンジして小中学生を対象に上映し、低年次からの交渉教育ないし法教育のための一つのモデルにしてはどうかという提案が出されました。世界のトップレベルと互角に交渉できるネゴシエーターを育てていくためには、低年次からの交渉教育が不可欠であるという考えに立つ提案です。この考えには基本的に賛成できます。もっとも、今回作成したDVDは基本的に大学生を対象にしており、小中学生の日常の目線で作られているとは必ずしも言えないので、まずは小学生や中学生の日常について学び、彼らがリアリティーを感じることができる題材を集めて、設例を作り直す必要があるという指摘もありました。これについて、NHKのテレビ番組「課外授業~ようこそ先輩~」が参考になるという意見もあり、早速これは見てみないといけないと思いました。私は漠然と、クラス委員を決めるというような設定で、みんながやりたい委員とだれもやりたくない委員を誰がやるかをめぐって、クラス全体の利害を考え、個別の利害を調整し合う工夫をするような(道徳の授業のようですが)設例を作れば、生き生きとした交渉の授業ができるのではないかと考えたりしていたのですが、時間の関係でその場では提案することができませんでした。交渉よりもディベートの方が小中学生の授業には組み込みやすいという意見もありました。しかし、交渉教育の目的は協力し合って問題解決を実現することを学ばせるところにあります。ディベート教育の目的が事実と評価を分けて議論することを学ばせるところにあるとすれば、これと交渉教育の目的はかなり異なっています。これまでの研究会での議論の成果を生かしていくなら、ディベートよりも交渉を教育に用いていく方がよいように思われました。
小中学生に対する交渉教育のためには、現場の小中学校教師の協力が不可欠です。また、実験的な試みに協力して頂ける学校を見つけることも容易ではないと思います。様々な課題が山積していますが、交渉教育研究会の今後の議論はますます面白くなってきそうです。
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2008.07.04
2008年7月3日(木)18時から20時過ぎまで、大阪大学豊中キャンパス法経総合研究棟3Fセミナー室Aにて、第1回大阪大学企業コンプライアンス研究会を開催致しました。本研究会は、企業のコンプライアンスの議論が会社のガバナンスに関わる大きな制度設計の段階から現場レベルでのコンプライアンスの実現に関わる議論の段階へと移行しつつあることを受けて、様々な法分野、社会科学・人間科学分野を交えた学際的な視点で、コンプライアンスを向上させる現場での対話やリーダーシップの望ましいあり方を検討するために立ち上げた研究会です。さしあたりは来年度の科研費・外部資金の獲得を目指し、今年度中に数回の企画を実施しようと目論んでおります。第1回研究会では、親しくさせて頂いている、弁護士で桐蔭横浜大学法科大学院教授の大澤恒夫先生に「励ましとしてのコンプライアンス」というタイトルで基調報告を行っていただき、それを手がかりとしてディスカッションいたしました。少人数ながら学内のみならず学外の研究者や弁護士も交えて充実した研究会になりました。
大澤先生の基調報告は、先生ご自身がどのような経緯で登録後すぐに日本IBMの社内弁護士になられたかというお話から始まりました。そして、日本IBMでの経験と、その後の顧問弁護士や社外監査役としての経験を手がかりとして、コンプライアンスに関わる者(社内弁護士であれ、顧問弁護士であれ、はたまた一般従業員であれ)はどのような役割を果たすべき存在なのかを明らかにされました。大澤先生によれば、コンプライアンスに関わる者は映画「12人の怒れる男」の8番陪審員のように、自分の感じるままに疑問を提起し、周囲の圧力に屈せず、それでいて他者の意見に素直に耳を傾け、その疑問の解明に冷静かつねばり強く取り組むような存在であるとのこと。また、問題発生局面で様々な議論が錯綜するなか、中立的な立場で議論を交通整理するファシリテーターの役割を果たす存在も、コンプライアンスにとって重要だとされます。人間は容易に周囲の雰囲気に流される存在です。雰囲気に流されずに疑問を提起し、ねばり強く解明しようと試みる存在がいかに貴重であるか、また、疑問を解明していくにあたって、議論を交通整理する中立的ファシリテーターの存在がいかに重要であるか、思い当たることは多々あります。大澤先生は、企業における法実践とは、まずもって現場で活動している経営者や従業員の自律を支援し、時として問題に直面し、萎縮している彼らの気持ちをほぐし、問題に積極的に取り組めるようにする(自律性支援)とともに、そのような取り組みが正しいことだと伝えることで正当化の手助けをする(正当性支援)こと、その両方を通じて、経営者や従業員が納得づくで企業活動に取り組めるようにすることであると言います。経営者も従業員も生身の人間です。だからこそ、そのような個人としての経営者や従業員の自律性と正当性を側面から支援する「励ましとしてのコンプライアンス」が重要になってくるというのです。
「励ましのコンプライアンス」にとっては対話が決定的に重要です。対話によって、困難の中で混乱している経営者や従業員の「自己の物語」の修復を支援するのが「励ましのコンプライアンス」の実践です。より具体的には、偏りのない「無知の姿勢」で経営者や従業員の話を積極的に傾聴し、問題の真の原因の探求と、納得できる再発防止策を立てることが求められます。コンプライアンスに関わる者は、たとえ社外の弁護士としてコンプライアンスに関わる場合でも、経営者や従業員と一体となって、彼ら個々人の参加意識を高め、彼らと一緒に真の問題について考え、彼らの自律性・正当性の励ましをおこなわなければなりません。そして、その会社が社会から求められる応答責任に迅速かつ適切に応えることができるように支援しなければなりません。
話はコンプライアンスを担う「専門家」に及びました。大澤先生によれば「専門家」(弁護士を念頭に置いていますが、これに限定されません)は「反省的実践家」でなければなりません。しばしば専門の枠を越境し、経験を通じて学びながら問題の解決に取り組むのが「反省的実践家」です。このような「専門家」は、目立たないところで、忍耐強く慎重に一歩一歩行動する人、犠牲を出さずに自分の組織や周りの人、自分自身にとって正しいと思われることを実践する人、要するに「静かなリーダーシップ」を発揮する存在でなければならないとされます。リーダーシップとは、見えないものを見て、あるいは見ようとして一人で歩み出すことです。そのような実践こそが、困難な状況に突破口を開き、人々を問題解決へと一歩進ませることができるのです。さらに、コンプライアンスを担う「専門家」に求められる技法としてファシリテーションが重要であるとされます。ファシリテーションとは、質問や発言、言い換えや要約、視点の転換といった手法を駆使しながら、中立的な立場で議論の交通整理を行い、関係者が自律的に解決を見いだすのを支援する技法です。専門知識を武器に人々を説き伏せ、強引に問題解決へと導いていく従来の専門家像とは全く異なる専門家像が示されました。
大澤先生は最後に、自ら社外監査役として経験した事案を講義用にアレンジした事例を示して、自らのコンプライアンス教育実践について紹介されました。事例は、あるメーカーで使用期限の切れた製品が販売されているという情報を同社元従業員の内部告発で得たという○○報道社(明らかに反社会的勢力)から、取材をさせろというような内容の手紙が届いたという設定です。授業では、この手紙を受け取った会社として、どのようなアクションプランを立てるべきかをグループ討議し、その後、グループを会社役員・従業員役と弁護団役とに分けて、相談会議のロールプレイを行い、事後に振り返り等を行うことで、法科大学院の学生に実践的なコンプライアンスを学ばせるとのことでした。ちなみに、大澤先生がこの問題に直面されたときには、ためらう社員を励まし、参加意識を持たせ、徹底した事実解明を支援するとともに、再発防止策の策定を手伝い、さらに、先手を打って自主的に監督官庁への報告とプレスリリースを行なって、全社一丸となって問題解決に取り組む機運を高めたのだそうです。大澤先生は、社員の参加意識が高まり、会社の結束力が強まったことが印象的だったと言います。全社一丸となってのコンプライアンス実践は会社を活性化するということが言えそうです。
ディスカッションの詳細は紹介できませんが出された質問の主要なものは次の通り。①小さな組織ならともかく、大きな組織で専門家が対話を促進するというのは困難なのではないか(回答:若い人に責任を持たせて任せ、彼らを対話の専門家として育てていくことで、組織全体に対話実践を広げていくことは可能なのではないか)、②対話を促す環境整備はどのようにして進めるのか(回答:日常の細かな場面に対話的手法を持ち込むことで、対話を促す環境を少しずつ整えていく)、③社内弁護士としての関与と社外の顧問弁護士や社外監査役としての関与とはかなり異なるというイメージだが、実際にはどのように異なるのか(回答:社内弁護士は社員と一緒になって問題解決に取り組むのに対して、顧問弁護士や社外監査役などは、外部者の特権として「無知の姿勢」でいろいろなことを質問し、内部とは違う視点で問題発見に努めるということなのではないか)、④外部からの関与は内部での対話を促進するということが言えそうだが、何によって対話が促されるのか(回答:社外監査役や顧問弁護士にも一定の「責任」が課されており、その責任を果たすべく一生懸命対話に努めるからこそ、社内の対話促進に貢献する)、など。充実したディスカッションでした。
第1回大阪大学企業コンプライアンス研究会は基調報告もディスカッションも非常に盛り上がり、大変楽しいひとときでした。今後はさらに活動を拡げ、外部資金を獲得し、対話実践によるコンプライアンス支援の輪を広げていきたいと思っております。
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2008.06.26
2008年6月25日(水)18時から20時過ぎまで、東京・茅場町の(社)商事法務研究会会議室にて、第3回司法アクセス学会企業法務研究会が開催されました。今回の研究会では、07年8月以来弁護士の人材紹介ビジネスに積極的に取り組んでおられるC&Rリーガル・エージェンシー社の近藤和志氏が基調報告され、活発な議論が展開されました。同社は、弁護士が「弁護士業務に専念できる環境の構築・支援」を理念に、人材を求める法律事務所や企業と、活躍の場を求める弁護士や司法修習生、法科大学院生との人材情報のマッチング・ビジネスを行っておられます。
近藤氏の基調講演は、同社の沿革について紹介するところから始まりました。C&Rリーガル・エージェンシー社の母体であるC&R(クリーク・アンド・リバー)社は、TV局や広告代理店のクリエイターに特化した人材紹介エージェントとして成功した会社です。「分野に特化した」人材紹介を行うというところが同社の売りなのだそうで、ディレクターやデザイナーの紹介を行っているそうです。同社は、医療や技術分野に特化する形で、C&Rメディカル・プリンシプル社、C&Rリーディング・エッジ社を立ち上げ、医療分野やITエンジニアリング分野での人材紹介を行うようになり、さらにC&Rリーガル・エージェンシー社を立ち上げて、弁護士に対する人材紹介を行うに至ったとのことです。C&Rリーガル・エージェンシー社では、弁護士や司法修習生、法科大学院生の登録情報と、法律事務所や企業からの問い合わせ情報をデータベース化し、マッチングを試みます。法律事務所や企業法務の求人情報を求めて、弁護士、司法修習生、法科大学院生の登録数が目下増え続けているのだそうです。
C&Rグループの成功は、メディカル・プリンシプル社の拡大によるところが大きいのだそうです。同社は現在19000人の登録を誇っています。同社が医療分野でのマッチング・ビジネスを大きく拡大させたのは、04年に行われた研修医制度改革をきっかけにしています。この改革で、研修医は大学病院の医局以外の研修施設を自由に選ぶことができるようになり、また研修終了後の勤務先も自分の希望で選ぶことができるようになりました。この結果、新人の医師は都市部の条件のよい病院での研修を選び、そのまま都市部に定着する傾向を強めました。これによって起こったのが地方医療施設での医師不足です。もはや医局の力に頼ることができなくなった地方の医療施設では、自ら人材を確保しなければならなくなりました。そこで、医療人材紹介ビジネスが注目されることになったというわけです。メディカル・プリンシプル社では、常勤医師よりもスポット非常勤の医師の成約件数が圧倒的に多いのだそうです。医師には研究日などの理由で外来に出ない日が認められていますが、そのような空白部を埋めるスポット非常勤医師のニーズが非常に高いということが見て取れます。司法制度改革によって進められている法曹増員によっても、医師の場合と同様の求人ニーズが弁護士について生ずる可能性は高いと思われます。C&Rリーガル・エージェンシー社が弁護士人材紹介ビジネスに注目するゆえんです。
近藤氏は、メディカル・プリンシプル社での経験を踏まえ、医師と弁護士の専門家としての類似性を指摘されます。近藤氏が指摘するのは、①国試合格が必要であること、②医師会や弁護士会のような上位組織への登録制度があること、③専門性が高いこと、④高所得職種と見られていること、⑤ハードワーク傾向があること、⑥慢性的に人手不足であること、です。他方、相違点としては、医師の場合には、新人、経験者いずれにも人材紹介サービスを利用するニーズがあり、また医療施設も新人、経験者のいずれをも採用したいと考えているのに対して、弁護士の場合には、新人、経験者ともに人材紹介サービスを利用するニーズがあるにもかかわらず、経験弁護士に対する法律事務所や企業の求人は多いのに対して、新人弁護士に対する求人は多くはないということです。また、医師の場合には、人材紹介サービスを利用する医療施設が全国のいずれの地域にも広く見られるのに対して、弁護士の場合には人材紹介サービスを利用するのは都市部の大規模法律事務所や大企業に限られるということも、大きな違いです。したがって、弁護士、とりわけ新人弁護士の人材紹介ビジネスで成功するためには、法律事務所や企業に新人弁護士を採用してもよいと思ってもらえるだけの研修サポートや、給与以外にやりがいなどを求めている新人弁護士の就職ニーズと企業の求人ニーズとをマッチングすることが重要な課題となります。
企業で社内弁護士雇用のニーズが高いのはまず外資系で、続いて金融・商社、メーカー、不動産会社、IT・ベンチャー企業となります。IT・ベンチャー企業の多くは、まだ外部の顧問弁護士で足りているとされます。IT・ベンチャー企業では弁護士にふさわしい年俸を払うことが困難だという事情もあるようです。C&Rリーガル・エージェンシー社の今後の課題としては、地方における司法ニーズや弁護士ニーズに応えること、省庁や地方自治体の採用を積極的に働きかけていくこと、大学系列の法律事務所の設置を手助けしていくこと、土・日や深夜に相談を受ける、気軽に相談を受け付けてくれる法律事務所の設置支援といったことが挙げられるそうです。以上が同社のいう「弁護士業務に専念できる環境の構築・支援」ということになります。
諸般の事情でディスカッションの詳細は紹介できませんが、議論になった論点の概要は次の通りです。①医師に言う専門性が診療分野の個別専門性であるのに対して、弁護士の場合には、法分野ごとの個別専門性を問題にするのは大手の法律事務所に限られ、中小の法律事務所では法律を用いて業務を行うということそれ自体が一つの専門性と見られている。実際、分野を問わず、訴訟を行うということはそれ自体で一つの専門性と考えることができるし、また、プライマリーケアを行うこと自体も一つの専門と見るべきである。②同社は人材登録する弁護士の人材評価について、経験年数を最も重視し、何期修習であるかが重要な指標であるとする。しかし、弁護士の場合にはどれだけの報酬額、タイムチャージで仕事をしているかもまた重要な指標である。というのも、医師の場合には、こなしてきた症例数や経験年数の方が、給与額よりも能力の高さに繋がることが多い(例えば、国立病院などの専門的医療経験の多い医師よりも、専門的医療経験のない一般開業医の方がしばしば高収入である)が、弁護士の場合には、地域格差はあるものの、能力評価と収入とは概ね対応していると思われる。③弁護士が転職する基準となるのは多くの場合に前職との収入の差である。もっとも、転職を希望する弁護士は、収入だけで転職を決するのではなく、訴訟をもっとやりたいとか、知財の仕事をもっとやりたいといった、自己実現ニーズもあるのであり、こうしたニーズと求人側のニーズとマッチングすることは重要である。④大手・大都市に限られている人材紹介ビジネスの利用を地方に広げ、地方で就職したいと考えている弁護士や司法修習生のニーズと地方の求人ニーズとのマッチングを進めることは重要な課題である。例えば、地方の企業は、新人弁護士を採用してみようと思っても、自社で人材育成をするだけの設備や育成プログラムを設けることができないために諦めてしまうということもある。地方の法律事務所の場合も同様で、後継弁護士を勤務弁護士として雇いたいと思っても、一人前に育てるだけの体系的なプログラムを用意できる自信がないということがある。人材紹介ビジネスがそのような研修プログラムを合わせて提供することができれば(研修プログラムを提供してもよいという法律事務所や企業、研究教育機関を仲介するのでもよい)、地方での弁護士の就職支援に大きく貢献できるのではないか。④地方の企業だけではなく、自治体もまた弁護士を雇用したいという潜在的ニーズを持っている。ニーズはあっても、現状ではどのように処遇してよいか分からないということが問題である。まずはロールモデルを提示し、潜在的なニーズを顕在化させることが重要なのではないか。⑤企業法務としては、グローバルな取引を行っている関係上、英語力を備え、外国法の基礎知識のある人材を求めている。法科大学院には理系の出身者もおり、またTOIEC750点以上の英語力を備えている学生も多い。これらの人材を企業法務とマッチングすることができれば、社内弁護士は大幅に増えていくのではないか、等々。ディスカッションでは、このように活発な議論が展開されました。
今回もまた、得るものの多い研究会でした。C&Rリーガル・エージェンシー社の近藤様、このような議論のできる貴重な機会を提供して頂き、ありがとうございました。
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2008.06.16
2008年6月15日(日)13時から、同志社大学寒梅館6F会議室にて、日本法社会学会関西研究支部例会が開催されました。今回の研究会では、京都大学大学院法学研究科研修員の古山真知子さんと、立命館大学政策科学部准教授の高村学人さんの研究報告が行われました。いずれも、地域における自主的なルール形成に関わる報告で興味深い内容でした。
古山さんの報告は、アメリカにおけるゲーテッド・コミュニティーについて紹介し、その意味と問題点を検討するものでした。ゲーテッド・コミュニティーとは、1960年代から増加してきた、壁に囲まれ、ゲートがついた高級住宅地のことです。社会的成功者たちが、自らを差別化し、安全で快適な生活圏を確保するために作り出したもので、ゲートの中には公園などの共有地があり、管理運営は家屋所有者組合が行います。また安全で快適な生活を維持するために、コミュニティーの住民には厳格な規則の遵守が求められます。古山さんは、この規則がコミュニティーのライフスタイルの均質化を図り、コミュニティーの秩序を維持するとともに、自治を実現するために重要な役割を果たしていると言います。ゲーテッド・コミュニティーは、新しいタイプの社会的排除をもたらすものという意味で問題を抱えていますが、他方、自主的なルールと自己負担に基づく新たな自治のあり方を提起しているということも言えます。古山報告は、これをどのように捉えていけばよいのかという問題提起型の報告であったと理解しています。
高村さんの報告は、2007年に施行された京都市屋外広告物新条例がどのような動機に基づいて事業者に遵守されているかについての研究報告でした。京都市では、2004年の景観緑三法の制改定によって屋外広告物規制が強化されたことを受けて、屋外広告物条例を全面改正し、屋上広告物の全面禁止、屋外広告物の高さ上限の引き下げ、広告物の面積制限強化、形態の制限、意匠の制限など、厳格な屋外広告物規制を行っています。高村さんは、京都市市街地景観課、京都市屋外美術館協同組合、京都府遊技業協同組合、京都府料理飲食業組合連合会、百足屋町町内会などでインタビューを重ね、新条例の執行・遵守状況を把握するとともに、その遵守の動機について調べておられます。高村さんの報告では、一般には屋外広告規制に最も抵抗を示すと思われそうなパチンコ業界が規制の遵守に最も熱心(軽微な条例違反による営業停止を恐れているため)であること、市中心部のモデル地域で開業した大型店舗は(おそらく市民への積極的アピールのために)規制の範囲内で京都らしい屋外広告を工夫していること、百足屋町や二寧坂では京都らしい町並みを維持するために条例以上に厳格な自主規制が設けられていることなどが明らかにされました。これらの条例遵守の動機には、単に罰則を恐れての規制遵守とは異なる、京都独自の町並みへのこだわりといった価値的な意味合いがほの見えているように思えます。そのような「価値合理的」な規範遵守動機をもっと重視してよいと、私も思います。
いずれの報告も、これからさらに成果が期待される研究報告です。お二方の今後の研究成果から目が離せません。
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2008.06.10
2008年6月9日(月)18時から、阪大豊中キャンパス法経総合研究棟3Fセミナー室Aにて、第1回プロフェッショナル・キャリアデザイン研究会が開催されました。本研究会は、科研費基盤研究A「法曹の新職域グランドデザイン構築」の第二弾となる新科研の申請に関わるブレーンストーミングのために開かれた研究会ですが、予想以上に示唆に富む会合となったので、簡単に概要を紹介しておきます。
基調報告は私が担当しました。タイトルは「プロフェッショナル・キャリアデザイン・プロジェクトの構想について―法曹の新しい職域研究との架橋―」。報告では、①プロフェッショナル・キャリアデザイン・プロジェクトの目的、②本研究に期待される成果、③本研究の実施計画、④他のプロジェクトとの関係、⑤本研究をどのように発展させるのかといった点について、現段階での構想を明らかにしました。プロフェッショナル・キャリアデザイン・プロジェクトの目的は、現科研「法曹の新職域グランドデザイン構築」の成果を引き継いで、弁護士と隣接法専門職の新しい職域の広がりについての経験的データを蓄積するとともに、その分析を通じて医療や建築といった非法律専門職との連携をも視野に入れた、専門職間の共存・共生のあり方を模索し、ベンチマーク形成を行うところにあります。本プロジェクトに期待される成果は、直接的には弁護士と隣接法律職、非法律専門職とが社会の新しいニーズに応えて切り開きつつある新しい職域についての経験的データを蓄積・分析することですが、その成果はさらに法科大学院生が実務に携わる際の橋渡しのための指針として用いることができます。本研究をどのように発展させるかという点については、本研究の成果を生かして現代GP等の教育経費を取得することを目指すという方向を明らかにしました。
ディスカッションでは、旧来の法学系の枠を外して研究フレームを立てることが必要だという指摘に始まり、すでに様々な業界で専門職の職域研究は進んでおり、そのような成果との連携を図る必要もあるという指摘、理系には様々な専門職があり、例えばSEもまた銀行や保険会社のシステム設計に当たって銀行業法や保険業法に関する詳細な知識が求められるが、そうだとすればSEもまた法的専門性を備えたプロフェッショナルではないのかといった指摘、さらに、各士業団体は熾烈な職域開拓競争を展開しており、共存・共生という方向を模索するというのは分かるが、現状ではなかなか難しいのではないかという指摘もありました。これらはみなプロジェクトの立ち上げ作業を進めるうえで耳の痛い指摘です。
私は、弁護士の新しい職域とは、紛争の予防・管理・早期解決を中核とする業務で、それについては弁護士のみならず、他の士業の場合も同様だと考えています。私のこれまでの調査研究で分かってきたことは、法務関係の業務ニーズは企業においてどんどん膨らんでいるけれども、それにもかかわらず、その増えたパイの分け前に必ずしも弁護士がありついていない一方、例えば税理士や企業法務部の職域がパイの分け前のおかげでますます拡張しているということです。弁理士も知財紛争解決業務に乗り出すことで、職域のパイを拡大していますが、本来そこは弁護士が入っていってしかるべき領域です。そのような領域に弁護士が入り込み切れていないのは何故なのか。弁護士の営業面での出遅れは大きいように思います。さらに、各士業の共存・共生については、弁護士が新しい職域に十分に入り込んでいないことによって、各士業のある程度の共存・共生が図られているということも言えそうです。しかし、そのようなネガティブな共存・共生に留まっていてよいのでしょうか。それでは弁護士業務に明るい展望は見えないのではないでしょうか。弁護士と他士業の連携でシナジー効果を生むようなポジティブな共存・共生のあり方は可能なように思えてなりません。
今回のブレーンストーミングでは科研費の構想をまとめるところにまでたどり着けませんでしたが、興味深い示唆を多く得ることが出来ました。目下、次の機会までには具体的な構想をまとめたいと考えているところです。
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2008.05.24
2008年5月23日(金)15時から16時30分まで、大阪大学豊中キャンパスOSIPP棟6Fプロジェクト研究室にて、大阪大学リーダーシップ教育研究会第1回会合が開かれました。本研究会は、大阪大学におけるリーダーシップ教育に関する情報を交換し、産学・社学連携を図りつつ、分野を超えた共同研究を行うことによって、効果的な教育方法を開発し、日本におけるリーダーシップ教育の普及とよりよいリーダーシップの育成に貢献することを目指す研究会です。今回の参加者は、デュポン(株)相談役で大阪大学大学院国際公共政策研究科特任教授の小林昭生先生、弁護士で大阪大学大学院国際公共政策研究科客員教授・桐蔭横浜大学法科大学院教授の大澤恒夫先生など、錚々たるメンバーでした。今回はメンバーの顔合わせと名称・趣旨の確認など、主として事務的な事項を話し合う場でしたが、大阪大学で複数行われているリーダーシップ教育の取り組みの紹介があまりに興味深かったので、簡単に概要を紹介しておきたいと思います。
大阪大学では、国際公共政策研究科・高等司法研究科教授の野村美明先生がこの4月から立ち上げておられる「グローバルリーダーシップ・プログラム」のほかに、医学系研究科教授(医学部保健学科長)の大和谷厚先生と大学教育実践センター教育実践研究部キャリア教育支援部門教授の木川田一榮先生が運営しておられる「市民社会におけるリーダーシップ養成プログラムがあり、それぞれ異なる観点からリーダーシップ教育を行っています。今回紹介されたのは、後者の「市民社会におけるリーダーシップ養成支援プログラム」の取り組みでした。「市民社会におけるリーダーシップ養成支援プログラム」は、大阪大学が懐徳堂や適塾を起源とし、市民の力で設立されたというその歴史にちなんで、市民社会でリーダーシップを発揮するリーダーを養成することを支援しようとする試みです。そこでは「多様な学生に多彩な支援」を与えることが目標とされています。市民社会のリーダーには、①Common Sense Good Sense、②対話力、企画力、構想力、想像力、③多文化共生能力、④社会における組織のあり方を理解し、望ましい方向に引っ張っていける力が求められ、そして、⑤市民のモデルとなる市民でなければなりません。そのような能力・資質を学生にどのようにして身につけさせるのでしょうか。
このプログラムでは、主にクラスやサークル、ボランティアなどで中心となって活動している、やる気のある少数の学生(全学生の1~2%、50名以下)が公募で集められます。そのような学生が自主的にプログラムの運営に関わるということがポイントです。そして、総長、副学長をはじめとする大学トップの直接の関与のもとにワークショップ型研修が年に数回開かれます。ワークショップでは講師が学生に様々な問題を投げかける(結論を出さない)形で対話が行われます。例えば、何も説明もなしに参加学生にドナーカードが配られ、それによって人の死と臓器移植の問題を真剣に考えさせ、そこから対話を始めるといった方法がとられます。その際、学生にはどのような方向が望ましいというような方向付けは一切行われないそうです。むしろ、そこで目指されているのは、学生の固定観念に揺さぶりをかける「創造的破壊」です。学生同士が対話実践を通じて相互の気づきの促すことが期待されています。
はたしてそのようなやり方に効果があるかどうかですが、絶大な効果があるようです。ワークショップに参加すると、「いか阪」(「いかにも阪大生」の略)?であった学生も、高いモチベーションを備えた積極的な学生に変化するのだそうです(もっとも、もともと参加意識の高い積極的な学生が集まっているので、一般学生すべてにこのような効果があるわけではないことに注意する必要があります)。
いくつか課題の指摘もありました。まず、変わることが必要なのは、もともとやる気のある少数の学生ではなく、大多数の「いか阪」の学生であること、また、対話を通じて学生に気づきを促す授業を行うことが出来る教員はきわめて少ないこと、さらに、学生の変化を促す存在には教員だけではなく事務職員も含まれるのであり、事務職員にも変化が求められることなどが指摘されました。手間暇のかかるプログラムを実施するための資金をどうやって確保するかも課題です。課題はなお山積していますが、まずは出来るところからやってみようということだと思います。大阪大学から世界を変えるようなリーダーは育つのでしょうか?長い目で見ていかなければなりません。
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2008.04.25
2008年4月24日(木)18時から、東京・日本橋茅場町の(社)商事法務研究会会議室にて、司法アクセス学会企業法務研究会第2回研究会が開催されました。本研究会は、企業活動に法の支配が及ぶことは広い意味での司法アクセスの向上につながるという認識から、企業法務に関わる問題や企業と弁護士の関係などについて研究を進めています。今回は、第1報告として、日弁連業務改革委員会の中心メンバーである佐瀬正俊弁護士の「中小企業の弁護士ニーズ全国調査報告」、第2報告として、私の「弁護士職の新領域と企業法務―企業における弁護士ニーズに関する調査を手がかりに―」が行われ、密度の濃い議論が展開されました。
佐瀬報告は、日弁連が2006年から07年にかけて実施した中小企業を対象とする弁護士ニーズ調査の概要を紹介するとともに、そこから得られた興味深い調査結果を紹介し、弁護士と弁護士会に向けて政策提言を行うものでした。注目される調査結果の例を挙げると、①弁護士の訴訟利用率は全国どこでもほぼ25~6%であり、訴訟に関する弁護士ニーズは全国どこでもほぼ均等に満たされている、②弁護士利用率の地域格差は訴訟以外の弁護士利用に掛かっている(東京では訴訟以外の予防法務等の業務に弁護士が71.7%用いられているのに対して、全国平均では51.8%である)、③全国の約半分の地域で、弁護士は訴訟を担当してくれる人というイメージしかない、④法的課題についての弁護士以外の相談相手はまず税理士(56.6%)であり、続いて社労士(31.0%)である、⑤(訴訟ではない)法的事項を弁護士に相談しない主たる理由は、そのような事項を弁護士に相談できると考えていないことである、⑥弁護士のツテさえあればすぐにでも弁護士需要がある企業が全体の17%も存在している、⑦企業が弁護士以外の社外の専門家に相談する理由はその企業を熟知していることと頻繁に連絡を取り合っていることである、⑧弁護士と顧問契約する主要な動機は弁護士の専門性と人柄とであり、とくに東京では弁護士との接触機会が多いことから、弁護士は単に専門性を備えているだけではなく、人柄の面でも信頼を得ることができないとなかなか顧問契約を結んでもらえないが、地方の場合にはそこまで行っておらず、弁護士の敷居をさらに低くする努力が必要である、などです。弁護士および弁護士会への政策提言としては、弁護士を法的事項に関する「総合診断者」として位置づけて啓発を進めることや、弁護士と企業との関係を変えていくこと、すなわち企業に紛争予防や経営戦略立案により大きく携わる弁護士イメージを普及させていく一方、そうしたイメージに合うように弁護士もまた企業の現実についてより深い理解を持つようになること、また、より利用しやすい弁護士情報提供制度を充実させること、他士業との連携を充実させること、個人だけでなく企業を対象とする法律扶助が考えられてよいこと、ドイツなどに倣い弁護士費用保険制度を整備すること、そして何より弁護士自身がビジネスパーソンとしてのイロハを身につけることなどが挙げられました。報告に続くディスカッションでは、訴訟での弁護士利用が25~6%に留まっているのであれば、訴訟における弁護士ニーズはまだ十分にあるということであり、法律扶助や弁護士費用保険が充実されればもっと弁護士の訴訟利用率が上がるのではないかといったことや、弁護士は企業の現場にもっと出向いて企業の現実の姿を理解するように務めるべきだということ、弁護士は顧問先の業務分野の特別法などについてもっと積極的に学ぶ必要があること、まだまだ弁護士事務所の敷居は高いのであり、それを変えなければ地方で弁護士利用をさらに進めるのは難しいといったことが指摘されました。
私の報告は、大阪大学「法曹の新しい職域」研究会(科研費基盤研究(A)「法曹の新職域グランドデザイン構築」の研究会)で2007年2月に実施した「企業における弁護士ニーズに関する調査」の調査結果の概要とその分析を紹介するとともに、それを前提に弁護士利用の今後の拡大を展望するものでした。まず、現在の弁護士活用について、わが国では顧問弁護士も企業内弁護士もまだまだ利用が進んでいないこと、その最も主要な理由は企業が弁護士利用ニーズを認識していないことなどを確認し、次に、弁護士以外の専門家としては税理士の利用ニーズが圧倒的に高く、これに司法書士と社会保険労務士、公認会計士が続くこと、とはいえ弁護士利用ニーズも財務関係での利用を除いて他の士業より決して低いわけではないことなどを確認しました。さらに、企業の弁護士活用をフェイス項目と掛け合わせるクロス分析を通じて、一般的傾向としては大企業ほど顧問弁護士も企業内弁護士も利用率が高いが、必ずしも中小・零細企業で企業内弁護士がいないわけではないこと、中小企業では税理士、司法書士、社労士の利用率がとりわけ高いが、大企業になるにしたがって公認会計士の利用が多くなること、そして、将来弁護士を利用したい業務リストを用いたニード分析から、企業における弁護士ニーズとしては相変わらず訴訟に関するニーズが大きいが、財務関係での利用を除けば企業は大半の法的業務で弁護士を使ってみたいと考えていること、さらに、同業務リストを用いた因子分析から、企業が弁護士に求める業務として、①「経営コンサルタント的業務」、②「権利行使業務」、③「戦略法務的業務」、④「労使紛争処理業務」、⑤「契約業務」という5つの因子が見出され、比較的に平均スコアの高い業務が多く含まれるのは②と⑤であり、①と③もそれほど低くはない、といった分析結果を紹介しました。最後に、弁護士の職域に関する展望として、中長期的に見れば、今般の社会状況のもとで、企業が弁護士利用のメリットに気付かないということはない、目下、定型的な法律事務の電子化が進んでいるが、これによって隣接法律職の行う定型的法律事務のニーズは減る一方、定型的処理になじまない先端的法務ニーズは増えていくのであり、この意味でも企業における弁護士利用が増えないことはない、弁護士側の報酬期待と企業側が払ってもよいと考える報酬額の間のミスマッチは弁護士報酬のあり方の多様化の中で次第に小さくなると期待できる、法科大学院がさらに企業側のニーズにあった法曹養成を進めるのであれば、新卒弁護士を企業が採用することも増える可能性はある、といったことを述べさせて頂きました。ディスカッションでは、法科大学院で企業側のニーズにあった教育をするといっても、そもそも実際に使えるレベルの企業法務はOJTで学ぶしかないのであり、法科大学院でできる企業法務教育は企業と新卒弁護士の問題意識の橋渡しができるに留まること、そもそも訴訟を経験しないでいては紛争予防も契約審査も一面的となり、質の高い法的サービスを提供することはできないこと、若い弁護士の多くはまず訴訟をやりたいと考えて大手事務所や企業内弁護士から個人事務所に移ってくるのであり、そのようなニーズに応えていくことも重要であること、日本の企業法務では本当の意味で質の高い法律英語や外国法の知識を求められているとは言い難く、そのような質を高めていくためには様々な工夫が必要である、といったことが指摘されました。企業側のニーズにあった法曹養成といっても、課題は多いということを痛感させられました。
司法アクセス学会企業法務研究会は、前回とともに今回もまた大変興味深いものでした。次回以降についてはまだ未確定ですが、さらに興味深い報告が続いていくだろうと期待しております。
追記)ブログ原稿執筆後、私の報告のディスカッション部分に関連して佐瀬先生からメールを頂きました。佐瀬先生によれば、「現在、法科大学院のあり方についてはいろいろなところで議論されていますが、法科大学院こそ弁護士と学者、そして裁判官、検察官が集まっている一大拠点であり、法科大学院をこれから法曹となろうとする人だけにではなく、すでに経験を積んだ法曹に対するリカレント教育機関と捉え、そのような人に対する研修機関としての法科大学院の役割を大きくすれば面白いと思うのです。この様な研修機関が、国民の弁護士ニーズをきちんと捉え、時代にあった研修講座を設けることができれば、国民の期待に応える法曹教育を実現することができるのではないでしょうか」(一部表現を補正)とのこと。現状では、法科大学院はこれから法曹になろうとする者に一方的にいろいろな要求を押しつけています。しかし、それは目下過大要求になってしまっているという面があります。法曹志望者には、きちんと基本を身につけさせてまず資格を取ってもらい、OJTを通じて弁護士として成長してもらう方がよいのかもしれません。他方、弁護士が理論面で自らの見識を深め、また最先端の法領域をフォローするためには、単に実務を続けておればよいというわけではありません。そのためには、多角的な議論の場としての法科大学院を積極的に活用していくことは有意義であると思います。弁護士のリカレント教育にふさわしい研修講座のあり方やそれを担当する教員に求められる見識などについてさらに検討が必要だと思いますが、法科大学院がそのような方向に進んでいくことができれば、より大きな展望が開けるような気がいたします。
presentation_at_the_meeting_of_association_of_access_to_justice.pdf
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2008.04.03
2008年4月2日(水)18時から、東京・日本橋茅場町の(社)商事法務研究会会議室にて、司法アクセス学会企業法務研究会第1回研究会が開催されました。司法アクセス学会企業法務研究会は、企業活動に法の支配が及ぶことは広い意味での司法アクセスの向上につながるという認識に基づいて、企業法務に関わる問題や企業と弁護士の関係などについて研究を進めるという趣旨で立ち上げられました。今回の研究会では、(株)ビーコンインフォメーションテクノロジー法務部長の高田寛氏、そして弁護士で人材紹介業の領域に自ら進出された西田章氏のお二人が基調報告をされ、それぞれについて参加者が自由に討論するという形式で進められました。著名な研究者や弁護士が参加しており、大変充実した研究会でした。
高田氏は、ご自身が法務部長をしている中小企業(ビーコンITの規模はどちらかというと大企業に近いのですが)の視点から「中小企業の現場から見つめる司法アクセス―中小企業の弁護士ニーズ―」という題目で基調報告されました。高田報告の要点は次の通り。中小企業も様々な法的リスクを抱えており、弁護士ニーズは大きい。それにも拘わらず、経営者の心理的・物理的障害が大きいためになお弁護士利用にはつながっていない。とはいえ、中小企業であっても(ビーコンITのように)成長途上にあり、かなり規模の大きな会社の場合には、必要に迫られて急遽法務部を立ち上げるというようなことをやっている。法務部の立ち上げに際しては、必要な相談に迅速に応じてくれる弁護士に対するニーズ、場合によっては法務部の中核として働く弁護士を雇用するニーズさえある。そのような企業の経営者の意識を喚起すれば、中小企業においても企業内弁護士の雇用はさらに進むものと考えられる。中小企業の経営者は「自分の稼いだお金」という意識が強く、なかなか高い報酬は期待できないが、いったん必要性を理解すれば、それなりの報酬は支払うものである。中小企業で弁護士利用を進める上で必要なことは弁護士側の「営業の姿勢」なのではないのか。高田報告は以上のような内容でした。
質疑でも大変興味深い議論が行われました。私は、企業の求める即戦力の弁護士はかなり高い報酬でなければ雇用出来ず、企業の求める条件では雇えないのではないか、逆に企業の求める条件で弁護士を雇おうと思えば新卒に近い若手弁護士を雇うということになるが、その場合にはどのような資質があれば雇用するということになるのかという質問をさせていただきました。これに対して高田氏は、「新卒に近い若手弁護士が中小企業に雇ってもらうためには、(IT企業の場合であれば)IT等についての専門知識がまず求められるが、そもそも若さ自体が売りになる。そのような若手に対しては幅広い仕事を覚えるチャンスであるという気持ちで仕事に臨んでほしい」と回答されました。他の参加者からは、新卒弁護士を雇用する場合にはどの程度の給与で雇用してもらえるのかという質問や、(中小では司法試験不合格者が法務要員として雇用されているという高田氏の話を請けて)司法試験不合格者を雇用する場合に旧司法試験経験者と法科大学院修了者のどちらにより魅力を感じるかといった質問が行われました。新卒弁護士の給与については、具体的な数字はお示しできませんが、しばしば言われる「弁護士の買いたたき」というような金額よりは多い給与で雇ってもらうことが可能なようです。また、税法や知的財産法など幅広い法的素養を身につけている法科大学院修了者は旧司法試験不合格組に比べて魅力があるという回答に、法科大学院関係の参加者は励まされたようでした。
高田報告に続いて、西田氏が「弁護士と企業を結ぶもの」なる題目で報告をされました。西田報告は多岐にわたるものでした。氏は、冒頭で、自己紹介を兼ねて、成功報酬を得てサーチ型の弁護士人材紹介業を行うことがいかに困難かを説明され、続いて、企業に「リーガル・サービス」のニーズが本当にあると言えるのか、とりわけ「リーガル・オーディット」(法務監査)のニーズはどれほどのものかという問題提起をされ、企業内弁護士の雇用が進まない背景を明らかにされました。また、氏は、大手法律事務所のビジネスモデルを紹介され、そのモデルを前提に、どこまで法律事務所を大規模化することが可能なのか、ほとんど会社化した大手法律事務所は言われているほど効率的に業務を振り分けて処理していると言えるのかといった問題を提起されました。さらに、氏は、弁護士のキャリア・プランニングに引き寄せて、法律事務所のパートナー弁護士に期待される「ジェネラリスト」的能力と、事務所の中でアソシエイト弁護士に求められる「スペシャリスト」的能力とを、今日の法律事務所の昇進競争のなかで同時に身につけていくことの難しさを明らかにされるとともに、企業法務部や企業内弁護士がスペシャリスト弁護士とビジネスの現場との疎通をうまく図ることが出来れば、必ずしも大手法律事務所に所属してパートナー弁護士に依存しなくともスペシャリスト弁護士が活躍することは可能なのではないかということを指摘されました。最後に、氏は、弁護士法72条(非弁行為禁止)や弁護士職務基本規定13条(依頼者紹介の対価禁止)の制約をカッコに括った上で、企業と弁護士とをつなぐマッチングシステムとして弁護士紹介業務を位置づけ、そのような紹介業務がうまく機能すれば、法テラスなどの公的紹介システムや法律事務所による業務振り分けに頼らなくても、それぞれのスペシャリスト弁護士と企業との橋渡しを行うことは可能だという指摘をされました。
大胆な問題提起がいくつも行われたこともあり、討論も盛り上がりました。討論では、大手法律事務所で働く場合と中小法律事務所で働く場合の収入が大きく開いているために弁護士の人材市場がうまく機能しないという問題や、大手法律事務所で弁護士に求められる能力と中小法律事務所で求められる能力には質的な違いがあり、このことによっても弁護士人材市場の機能が阻害されているということ、さらに、弁護士業務の地域格差は大きく、大手法律事務所のスペシャリスト弁護士が地方で開業したり、逆に地方の個人事務所所属の弁護士が東京の大手法律事務所に移籍したりすることはほとんど不可能であることなどが指摘されました。
いずれの報告も充実した内容で、討論もレベルの高い研究会でした。次回(4月24日)には私も報告を担当します。ここでの討論のレベルに対応できるだけの十分な準備をしなければならないと、身の引き締まる思いです。
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2008.04.01
2007年3月30日(日)13時30分から、九州大学大学院法学研究院大会議室にて、九州法理論研究会が開催されました。この研究会は九州大学に関わりのある法哲学や法社会学の研究者が集まって開いている研究会です。いろいろ予定が合わず、私はなかなか出席できなかったのですが、今回はどうにか参加することが出来ました。報告は、同大学で民事訴訟法を担当している上田竹志准教授による「民事訴訟法理論における自己言及と外部参照について―民事訴訟目的論を素材に―」と、法哲学を担当している酒匂一郎教授による「ラートブルフ・テーゼについて」の2本でした。
内容の詳細を紹介することは困難なので要点のみ紹介します(それでも長くなってしまいます)。上田報告は、これまで様々な学者によって論じられてきた民事訴訟の目的論を、「ミクロな個別紛争レベルを重視する/マクロな制度論レベルを重視する」、「訴訟制度自体に正統化根拠を求める/訴訟制度以外の他の制度や社会的要請に正統化の根拠を求める」、「単一の論理階型をもつ一枚岩の理論体系だけで民事訴訟制度の正統化ができると考える/メタレベルの上位概念を設けるのでなければ民事訴訟制度の正統化は出来ないと考える」という区別を組み合わせて8通りの理論形式に整理し、そこから理論上は可能であっても現実には論じられてこなかった民事訴訟目的論の一つの理論形式を抽出して検討するものでした。誤解を恐れずに言えば、上田報告が問題にしようとしたのは、「社会において紛争関係人が紛争をめぐって行う交渉やアクションはすべて「手続」に含まれ、この「手続」が継続する限りにおいて、「手続」は手続であり続ける」とする、手続保障の「第四の波」ともいえる立場の抱える問題点を克服する視点の可能性です。「第四の波」派は、紛争当事者の個別のやり取りによってその都度構築される関係の重要性に気づかせてくれる点で有意義ですが、生の暴力によるやり取りと(正当な)手続とを区別する視点に欠けています。上田報告の目的は、この問題を克服するための「超越論的」視点の可能性を示すことにあったと言えます。上田さんは、そのような視点の可能性を、手続の進行を中断させないようにすることに見いだし、そこから翻って手続に進行に応じて動的に変化する「動的手続規範」を構成しようと試みておられますが、その具体的な展開は今後の課題です。
酒匂報告は、ラートブルフが第二次世界大戦後に行った「法実証主義批判」をめぐる最近の学説の問題点を検討するものでした。周知の通り、ラートブルフは、19世紀後半以来ドイツの法律家を何十年も支配した制定法実証主義は、「法律は法律だ」との原則に立ち、しかもこの原則を制定法への無制限の服従の要求として受け止めることによって、法律家たちを犯罪的内容の制定法に対して無防備にしたとして、法実証主義を痛烈に批判しています(ラートブルフ・テーゼ)。この点、最近の学説では、彼の法実証主義批判を、ナチ司法における堕落と汚点の主たる責任を制定法実証主義に帰し、ナチ司法の裁判官は外側から押しつけられた悪法に対して不承不承協力させられた被害者であるとすることで、ナチ時代の裁判官を擁護しようとする議論だったのではないかと批判的に受け止める立場が有力です。酒匂報告はラートブルフ・テーゼのそのような捉え方が果たして妥当なのかどうかを検討するものでした。結論的には、ラートブルフ自身はナチ時代の裁判官を擁護する意図で法実証主義批判を行ったわけではないと思われるけれども、そのように利用されても仕方がない議論を行い、また彼自身そのように利用されることをあえて牽制しようとはしなかったというところまでは言えそうです。
二報告とも、大変に示唆に富む内容で、いろいろ学ばせていただきました。今後も本研究会に出来る限り参加しようと思っております。
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2008.03.18
2008年3月17日(月)14時から、北海道大学大学院法学研究科付属高等法政教育研究センター・ワークショップ「法の役割の多様化と法の統一性―ひとつの<法>は可能なのか―」が開催されました。私は基調報告を担当させて頂きました。参加者は、京都大学教授の山田文先生をはじめ、北海道大学の長谷川晃先生、吉田克己先生、鈴木賢先生、笹田栄司先生、田村善之先生、田口正樹先生、尾崎一郎先生、千葉大学の松村良之先生など、錚々たるメンバーで、大変な盛会でした。研究会にお招き頂いた長谷川晃先生、本当にありがとうございました。
私の報告は、今の時代が近代法の生成期にも相当する法のあり方の激変期に当たるという認識に基づいて、目下進行しつつある法の役割の多様化について、少し踏み込んで分析し、そのような多様な法の役割のもとで果たして「法の統一性」を問うことは可能なのかという問題を提起するものでした。近代法は、「いつ、どこで、誰に対してでも同様な法が妥当すべきである」という理念のもとに、司法制度において「一般的抽象的法規範」を実現するという方法をとることで、国家レベルで「法の統一性」を実現しようと試みてきました(「一般的抽象的法規範」構想)。しかし、今日のグローバル化、市場化、情報化、個人化といった社会的傾向のもとで、人々の法への役割期待は大きく変わりつつあります。紛争解決よりも紛争予防手段としての法の役割が大きくなり、他方、社会統制における法の役割は間接化し、さらに紛争解決における法の役割もフォーマルな基準の徹底化に関わる役割と一般市民の日常生活上のインフォーマルなニーズに関わる役割とに引き裂かれつつあります。このような状況のもとで「法の統一性」を問題にすることは果たして可能なのでしょうか。
近代法の目指した「一般的抽象的法規範」構想が今日の法の役割の多様化に耐えるとは言いがたいものがあります。しかし他方、「当事者平等」といった司法上の近代法理念がなし崩しになくなってしまうということは由々しき事態です。私は、法が限りなく「交渉メディアとしての法」の役割を大きくしていくなかで、なおそのような「交渉メディアとしての法」が「基準としての法」との相互作用連関を調和的に保つことができれば、そのことを通じて「基準としての法」もまた活性化され、法の動的統一性が実現されるという相互作用モデルを立て、「基準としての法」と「交渉メディアとしての法」の相互作用の調和のなかに「法の統一性」の契機を見出すという、やや抽象的な議論を展開することになりました。
ディスカッションでは、私の相互作用モデルが小島武司教授の「正義の総合システム」における「波及効果」と「汲み上げ効果」の説明と非常に似ているという指摘、当事者のパワーバランス是正における法の役割はなお大きく、水平的相互作用モデルは法のこの役割を見損なうおそれがあるのではないかという指摘、私の議論が法の「資源配分機能」について全く触れていないのはいかがなものかという指摘、知的財産法領域などに見られる、法形成過程に反映されていない利益がユーザーの創意工夫を通じて法に取り込まれることによって生じる独自の法の分化についても目配りをしてほしいという指摘、公法関係も含めてうまく説明する工夫はないのかという指摘、司法のアウトソースとしてのトップダウン型ADRが圧倒的に強い日本社会で、「交渉メディアとしての法」と「基準としての法」の水平的な相互作用モデルをADRに適用するのは果たして適切と言えるのかという指摘、私の議論は「法使用の普遍性」という問題設定をとるかぎりでルーマンの「法/不法の二分コードの使用」に法の統一性を見出すルーマンの構想の延長線上にあるという指摘など、貴重なご指摘を多数頂きました。
必ずしも十分な準備のもとに行った報告ではなかったのですが、参加者の先生方の貴重なコメントのおかげで、このテーマで議論をまとめる方向性が少し見えてきたように思います。すぐには難しいですが、近いうちにこのテーマを論文にまとめようと思います。今回のワークショップにご参加頂いた先生方や院生に心から感謝致します。
「Hokudai_Workshop_Resume_20080317.pdf」をダウンロード
「Hokudai_Workshop_PPT 20080317.pdf」をダウンロード
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2008.03.16
2008年3月15日(土)13時から、大阪市立大学文化交流センターにて、日本法社会学会関西支部07年度第3回研究会が開催されました。報告テーマの関係もあったのか、司法書士の方など会員外の参加者も数名あり、盛会でした。
基調報告は①吉岡すずか(神戸大学)「調停委員の心情と意識構造:『調停時報』投稿短歌を素材として」と、②福井康太(大阪大学)・福井祐介(西日本短期大学)「弁護士に新しい職域は広がっているか-企業における弁護士ニーズに関する調査から読み取れること-」の2報告。それぞれについて1時間程度の報告とディスカッションが行われました。
第1報告は、調査対象の選択が大変に興味深く、まだ荒削りながら、研究成果の今後が興味深いと思えました。調停委員である詠み手は「調停短歌」に何を託したのでしょう。そこには調停委員独特のものの感じ方や立場上のジレンマなどが表れているのでしょうか。あるいはそれ以上に編集委員の傾向が大きく表れているのでしょうか。第2報告は、私と弟(祐介)とによる、科研費「法曹の新職域グランドデザイン構築」の研究成果の一部である「企業における弁護士ニーズに関する調査中間報告書」に基づく報告でした。こちらの方は、すでに何度も話をしている内容だったので、私にとっては新鮮味には欠けていたのですが、ディスカッションのなかで、調査結果の分析方法に工夫できる点をいくつか指摘して頂いたことは、大きな成果でした。指摘された点について、さらに検討を進めていきたいと思っております。
法社会学会関西支部の研究もますます充実してきています。これからが楽しみです。
企業における弁護士ニーズに関する調査中間報告書等ダウンロード
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2008.01.30
2008年1月29日(火)18時から、大阪大学大学院法学研究科法経総合研究棟4F大会議室にて、「法曹の新しい職域」研究会・中小企業研究会合同研究会が開催されました。参加者は少数だったにも拘わらず、充実した研究会でした。
基調報告者は本学の水島郁子准教授。「中小企業における弁護士ニーズ」についての報告でした。労働法学者の視点から、中小企業における労働法上の問題、とくに非正規労働者の処遇上の問題が深刻であること、それ拘わらず中小企業経営者の間では労働問題が重要な法律問題であるという意識が希薄であり、そのような問題は基本的に社内で解決できると考えられていること、改正パートタイム労働法施行が今年4月に迫るなか、中小企業では労働条件格差についての説明義務を十分に果たせるような用意が行われていないこと、などが指摘されました。このような意識の低さが、中小企業における労働問題に関する弁護士ニーズの低さに表れていると思われます。他方、弁護士の「敷居の高さ」も相変わらず大きな問題であることが浮き彫りにされました。
ディスカッションでは、労働CSR意識がサプライチェーンの下流にある大企業で高まりありつつあるなか、中小企業にも労働CSR徹底の圧力が掛かりはじめており、緊急に労働問題への法的対応を行わないと、多くの企業が窮地に陥りかねないのではないかという指摘や、弁護士への相談結果の満足度が税理士や社労士など他の専門家に比べて低いのは、弁護士の業務が個々の企業向けに十分にカスタマイズされておらず、お仕着せになっている部分があるのではないかといったことが指摘されました。
中小企業の弁護士ニーズについては、さらに研究を進める必要があります。中小企業のニーズにあった弁護士とはどのような存在なのでしょうか。
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2008.01.22
2007年12月14日(水)15時から、大阪弁護士会館にて、「企業における弁護士ニーズに関する調査」分析結果に関する大阪大学大学院法学研究科と大阪弁護士会との意見交換会が開催されました。大阪大学大学院法学研究科からは4名、大阪弁護士会からは、12名が参加し、関心の高さが伺われました。
意見交換会に先立ち、まず簡単な自己紹介が行われ、続いて大阪大学側出席者から「企業における弁護士ニーズに関する調査」の概要報告と経営者団体等のヒアリングの結果などが報告され、その報告に基づいてディスカッションが行われました。
ディスカッションの詳細は、大阪弁護士会との関係もあり明らかにはできませんが、議論された論点のいくつかを紹介することはできます。例えば、税理士が税務会計の範囲を超えて、法務コンサルタント的な仕事を行っていることを問題視する議論や、中間報告書にあった「費用対効果が見えにくい」という点についての議論、社内弁護士の初任給の現状、社内弁護士を雇用しにくい理由、新人弁護士の研修の場をこんごどのようにして確保していくかという議論、現在増えている弁護士業務に関する議論などが行われました。
そのほか、平成20年度に大阪大学と大阪弁護士会で何らかの企画を実現したいという要望が大阪大学側から伝えられ、今後の検討課題ということになりました。大阪大学と大阪弁護士会とが今後とも協力して法曹の新しい職域についての研究を進めていくということができるよう、願っております。
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2007.09.06
2007年9月5日(水)15時30分から、東京芝浦の大阪大学東京オフィスにて交渉教育研究会が開催されました。今年度中にビデオを用いた交渉教育教材を完成させるということで、今回もまた交渉実演の映像資料の検討でした。
検討の対象となった映像は、弁護士の大澤恒夫先生(桐蔭横浜大学法科大学院教授)が8月18日(土)に大阪大学で行われた交渉についての授業の際の、学生による実演部分の映像でした。交渉事例は、OSIPP大学ダンス部100名の合宿のために、学生代表が温泉旅館の予約をするという設定です。学生側としては宿泊代金割引と、コンパのためにお酒とおつまみを持ち込みについて、旅館側と交渉しなければなりません。実演は、学生を4人ずつの小グループに分け、事前に簡単なスクリプトを読ませて、1幕から5幕まで、学生自身による検討を挟みながら、少しずつ条件を変えて行われていました。少ない材料しか与えられていなかったにもかかわらず、学生がいろいろな設定を組み込みながら、充実した実演を行っていたことが印象的でした。
大澤先生の授業では実演について学生自身による振り返りの機会が設けられており、それについても大澤先生による解説がありました。最初の1幕、2幕では「感情に流され、けんか腰になってしまった」、「条件を小出しにして交渉の決め手を欠いてしまった」というような反省をしていた学生も、3幕以降になると、交渉の流れに応じて、適宜他の選択肢を提示しながら交渉を進めることができるようになり、さらに、相手に好意的な印象を与えられるように感情のコントロールをすることもできるようになったとのことで、教育効果は非常に大きかったことが伺われます。大澤先生としては、交渉のポイントを学生自身が自分で発見することを重視されたとのこと。あえて簡単なスクリプトしか示さずに実演をさせることが大きな教育効果を生むというのが大澤先生のお考えです。
大澤先生の解説の後、参加者によるディスカッションとなりました。ディスカッションでは、まず、旅館側がドタキャンで損することがないようにキャンセル料前納といった条件を交渉に載せてこないのは不自然ではないか、お酒やおつまみの持ち込みはそもそも交渉しなければならないような事柄か、といった事例設定に関する指摘がありました。そこから議論が発展し、こうした素材をもとにビデオ教材を製作するときには事前のスクリプトでどの程度まで条件設定を学生に示すべきか、さらに、何を交渉の対象とし、何を交渉の対象にしてはならないかをどのように学生に理解させるか、交渉の切り札として一般人が争わないような「客観的基準」を適切に提示するというような交渉をどのようにして学生に学ばせるかといったことが議論されました。結局のところ、学生の理解の段階に応じて、まず「こんなことまで交渉の対象になるのか」ということを学ばせ、ある程度理解が進んだところで「こういうことを交渉の俎上に載せても通らない」ということを学ばせ、さらに応用事例を通じて「こういう場合には決め手となる基準として○○基準を用いるべきだ」ということを学ばせるという段階的方法をとるのが妥当なのではないかというところで議論が落ち着きました。
次回には教材の具体的な目次のようなものを作成する予定です。
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2007.09.03
2007年9月1日(土)13時30分から、大阪大学中之島センターにて、「医療と法・関西フォーラム第2回シンポジウム:医療関連死第三者機関検証システムについて」が開催されました。医療と法・関西フォーラムは、大阪大学大学院医学系研究科の的場梁次教授(法医学)が世話人をされ、定期的に研究会を開いておられる会で、医師、弁護士、法学者などが会員です。私は、2005年にスタートした「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」の今後の動向に関心があったので、一般参加者として参加させていただいたしだいです。「医療関連死第三者機関検証システム」とは、同モデル事業終了後の2010年を目標に立ち上げが進められている医療関連死の検証制度のことです。この制度は、医療事故等が発生した場合に、法医、病理医、弁護士などからなる第三者機関が早い段階で原因究明を行い、再発防止のための施策を行うことを目標とするものです。医療関係紛争の早期処理にも重要な役割を果たすことが期待されています。
本シンポジウムは、第一線の外科医、法医学者、モデル事業の委員をしている弁護士、警察庁の担当官、市民の立場からモデル事業に参加しているNPO関係者、法学者がそれぞれの立場から第三者機関検証システムの目指すべき方向や問題点を指摘し、これを受けてパネラーとフロアの参加者がフリーディスカッションを行うという形式で進められました。詳細は割愛しますが、第三者機関に期待される役割やその判断の法的性格、第三者機関への届出と医師法21条の異常死届出義務の免除をリンクさせることの可否、第三者機関検証システムの財源や人的リソースの問題などが議論されました。
私は、この「検証システム」が医療関係紛争の早期解決のためのADR機関としての役割を果たすことに期待を持っています。もっとも、人員や財源のことを考えると、「検証システム」をそのような制度として運用することはかなり難しいようです。まずは2010年に立ち上がるであろう「検証システム」がある程度実績を積み上げるのを待たなければならないと思っております。
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2007.07.08
2007年7月7日(土)13時から、神戸大学大学院法学研究科にて、LP(Legal Profession)研究会が開催されました。LP研究会は、関西の法社会学の若手研究者が作った研究会で、自由な雰囲気で議論が行われます。今回の報告は大阪大学大学院法学研究科博士前期課程をこの3月に修了された早崎元彦さんでした。早崎さんは社会人大学院生で、学校教育の現場を知る立場から教師の体罰の問題について研究を進めてこられました。今回の報告は、早崎さんの修士論文の本人自身による紹介報告でした。
若手(?)の報告なので、詳細は掲載できません。教師の体罰に対する懲戒処分がどのようなやり取りのなかで構成され、そこにどのような問題が含まれているか、どのようにすれば懲戒処分に適正手続を組み込んで行くことができるかといったことが議論されました。
学校教育固有の論理と適正手続の論理をどのように調和させていくかという問題は、簡単に結論の出る問題ではありませんが、ある程度の方向のようなものは明らかになってきているように思います。早崎さんの研究のさらなる発展に期待を膨らませているところです。
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2007.07.06
2007年7月5日(木)16時30分から、大阪大学大学院法学研究科セミナー室Cにて、韓国嶺南大学法科大学の朴洪圭教授を囲んで、大阪大学法学会スタッフセミナーを開催しました。朴先生は労働法がご専門で、3月20日から7月末まで本学に滞在中です。学部と大学院とで韓国法の授業を受け持っておられます。
もっとも、今回のスタッフセミナーは韓国労働法ではなく、朴先生が韓国で翻訳されたエドワード・サイードの研究に関するものでした。朴先生はハーバード大学留学中にサイードに出会い、是非ともサイードの研究を韓国に紹介しなければということで、『オリエンタリズム』を翻訳されたそうです。基調報告タイトルは「韓国におけるポストコロニアル研究の最新動向:韓国におけるサイード『オリエンタリズム』受容」でした。
韓国では、研究者の間で翻訳があまり好まれないこともあり、サイードの文献の翻訳紹介はあまり進んでおらず、朴先生の翻訳がベストセラーとのこと。朴先生のお話は、単なる研究動向の紹介に留まらず、むしろ韓国における法学研究者や文学研究者の研究姿勢にまで及びました。日本でも同様ですが、欧米の研究ばかりを評価し、権威主義的な態度をとる研究者こそが、実はねじれたオリエンタリズムを身につけてしまっているということを痛烈に批判するお話しでした。
朴先生の話題は豊富で、議論が尽きることはなく、懇親会まで議論が続きました。本当に楽しい知的交流のひとときでした。朴先生、ありがとうございました。
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2007.05.03
2007年5月2日(水)14時半から、大阪・北浜法律事務所会議室にて、司法アクセス研究会(仮称)の立ち上げ会合が開かれました。この研究会は、司法アクセス学会の関西地区研究会として不定期に開かれるものです。研究会の当面の課題は、今年12月に開催される司法アクセス学会シンポジウムの準備です。シンポジウムの方針等が話し合われたほか、シンポジウムで議論する予定の法テラスの活動の現状と課題について、法テラス大阪地方事務所副所長の前田春樹弁護士のお話を伺いました。法テラスが行っている民事法律扶助、国選弁護関連業務、司法過疎対策、犯罪被害者支援業務、情報提供業務について、大阪地方事務所の活動を中心にお話しを伺うことができました。前田副所長のお話しで特に興味深かったことは、電話による情報提供業務の利用の現状紹介でした。法テラスの情報提供業務は、本来相談先の振り分けしか行わない建前になっており、法律相談は紹介された相談先で行うことになっています(弁護士資格のないコールセンター・スタッフが法的助言をするのは不適切であるため)。しかし、実際には、電話をかけてくる人のほとんどが、簡単ではあっても法律的回答を求めて電話をかけてくるそうです。このため、当初年間120万件の電話がかかってくることが見込まれていたのが、しだいに利用数が減り、現状のままでは当初予想の3~4分の1ほどの件数しか利用が見込まれない状況になっているとのことでした。この現状を改善するために、コールセンターのスタッフに5分程度で答えられる範囲(法律の条文を伝える程度)で法律的回答を行うことを認めているそうですが、なし崩し的に電話での法律相談を認めることはできないというお話しでした。情報提供に当たっているのは、司法書士や元裁判所事務官、消費生活アドバイザーなど一応の法律的バックグラウンドのある人たちなのだそうで、ある程度の法律相談は容認しても問題なさそうには思えましたが、他の相談窓口の仕事を奪うことにもなり、さらには非弁活動の容認にも繋がるということもあるので、慎重にならざるを得ないということも理解できました。
司法アクセス向上は、司法制度改革の理念を実質化し、また法曹の職域を拡大していく上でも重要な課題です。司法アクセス研究会(仮称)の今後の活動が注目されます。ちなみに、次回の報告者の1人は私です。
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2007.05.01
2007年4月29日(日・祝)13時から16時過ぎまで、神戸大学六高台キャンパス第4学舎5F共同研究室にて、Legal Profession研究会(LP研)例会が開催されました。幹事は神戸大学の高橋裕さん。報告者は京都大学大学院法学研究科博士課程院生の朴艶紅さん。報告タイトルは「ローカルな秩序における紛争と法―中国の建築業における農民工賃金不払いをめぐって―」でした。できあがったばかりの修士論文に基づく報告で、内容的に大変充実していました。
「農民工」とは、中国の都市部への出稼ぎ農民のことだそうで、北京や上海などの都市部の建設ラッシュで急増しているそうです。農民工の雇用契約は曖昧な上、雇用主が無資格の請負人であることも多く、賃金不払いをめぐるトラブルが頻発しているとのこと。賃金不払いトラブルが発生した場合、農民工たちは、相対的に多くの交渉資源を有している「有能人」のもとにまとまり、発注者、元請け会社、下請け親方と交渉して賃金を払ってもらおうと試みます。交渉はデモをはじめとするあらゆる手段をもちいて行われます。訴訟も用いられますが、判決には実効性がなく、それもまた交渉の道具として動員されることになります。雇用に関わる多くのことが、契約ではなく、その場ごとの交渉に委ねられ、その際に「有能人」が重要な役割を果たすというのが、中国農民工の雇用関係の実態だというのです。雇用関係がつねに交渉の連続であるということがダイナミズムを生み出しているということなのでしょう。
ディスカッションでは、川島武宜の問題意識との共通性や法化論との関連性などが議論されました。このような不安定な中国の末端労働者の状況を改めるべく、雇用契約をより明確化していこうとする動きもあるようですが、なかなか実際には進んでいないということも確認されました。
いずれにしても、大変に興味深い、示唆的な報告でした。
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2007.04.22
2007年4月21日(土)、同志社大学光塩館第2共同研究室にて、法理学研究会4月例会が開催されました。研究会の第1報告は豊田工業大学の浅野幸治氏、第2報告は私でした。浅野氏は哲学の研究者で、ジョン・ロックの財産権についての研究を進めておられます。報告タイトルは「ジョン・ロックの遺産相続論」。氏は、リバータリアンに近い立場から、ロックの遺産相続論は果たして理論的に成り立つのか検討する内容の報告をされました。詳細は省略しますが、「自己所有」の理論から相続権を導き出すロック相続論の理論的問題点について理解することができました。
私の報告は「法曹の新しい職域と法的思考」でした。法曹の職域は近年急速に拡大し、法曹に期待される役割も多様化しています。予防法務やリスク・マネジメント、政治的ロビー活動や制度設計といった、これまで法的思考論が射程に含めていなかった業務の広がりを前にして、法的思考は変わるべきなのか、変わるべきだとしてどこまで変わってよいのか、守られるべき核心は何かについて議論させて頂きました。私のスタンスとしては、法曹にはリスク・マネジメント型の将来志向の思考法がますます求められるようになってきているが、そういう思考法を法的思考に組み込むという方向ではなく、むしろ普遍的ルール志向の法的思考は(かなり緩やかになるとはいえ)基本的に維持しつつ、あわせてリスク・マネジメントを含む新しい思考法を柔軟に使い分けられる、複合的思考を法曹は身につけなければならないという方向で議論しました。明確で予見可能なルールを宣言するという司法の機能は損なわれてはならないと考えるからです。ディスカッションでは、田中成明教授のいう「普遍型法」が損なわれるような方向での法的思考のなし崩し的拡大を危惧する意見がいくつも出されましたが、私自身はあくまで普遍型法を志向する従来的な「法的思考」の核心を損なわない範囲で、新しい思考法になじむ法曹を増やすことを提言しようとしていたので、概ね共通了解が確認できたと思っております。
法曹の職域拡大と法的思考、法曹のあり方との関係に関する議論は、きちんとした整理が必要だと思っています。機会を改めてさらに議論を深めていきたいところです。
Presentation_at_DOUSHISHA_Univ_on_21_April_2007.pdf
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2007.03.04
2007年3月3日(土)14時から18時まで、京都大学法経本館11号教室にて、日本法社会学会関西研究支部主催の「棚瀬孝雄先生京都大学退職記念企画」が開催されました。日本法社会学会関西研究支部の創設者の一人である棚瀬孝雄先生が、この3月で京都大学を停年退職されることを受けての記念企画です。最初に棚瀬先生の記念講演が行われ、これに続いて4人の研究者と棚瀬先生とによるパネル・ディスカッションが行われました。多忙な年度末にも拘わらず、参加者多数の大盛会でした。
最初に行われた棚瀬先生のご講演「法における批判理論の可能性」では、棚瀬先生が長年研究してこられたアメリカの批判法学(CLS)の魅力とともに、その固有の限界と、日本の法社会学への示唆について、熱意のこもったお話しを伺うことができました。「法の真理性は自明なものではなく、権力によって構成されたもの」と批判し、法の権力性、政治性を鋭く暴き出す批判法学から棚瀬法社会学が受けた影響の大きさが窺われました。他方で、棚瀬先生がどのようにして批判法学から離脱し、独自の棚瀬法社会学を作り上げようとしているかについても、窺い知ることができました。法批判はこれまで日本法の状況を変えてきたし、これからも変えていく力があるという指摘には、研究者の一人として励まされました。いずれにしても感銘力のある、すばらしいご講演でした。
後半のパネル・ディスカッション「法社会学の発展を目指して―棚瀬法社会学の再検討―」は、まず早稲田大学の和田仁孝先生、つぎに神戸大学の樫村志郎先生、続いて同じく神戸大学の高橋裕先生、そして大阪市立大学の阿部昌樹先生が、それぞれの立場から棚瀬法社会学についてコメントをされ、それに棚瀬先生ご自身がリプライするという形で進められました。パネル・ディスカッションでは、パネラーのそれぞれがかなり違った棚瀬法社会学像をもっていることが分かり、棚瀬法社会学の多面性と奥行きの深さを知ることができました。個人的には、棚瀬法社会学の連続と断絶についての議論、とりわけ「個人」主義と「共同体」主義とが棚瀬法社会学のなかでどのように関連しているかについての議論は大変興味深いものでした。棚瀬先生のリプライから、「個人の自立を可能にするためには他者との協調ないし共同性が不可欠である」という意味で、個人主義と共同体主義とが関連しているということは理解できましたが、個人の自立を可能にする条件という意味での機能主義的な「共同性」と、日本の「現実の共同体」との間には、なおかなりの距離があるように思われました。両者の距離が実際にはそれほどないのだと明らかにする実証的法社会学が今後の棚瀬法社会学の課題ということになるのでしょうか。
棚瀬先生、今後ともご指導ご鞭撻、よろしくお願いします。
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2007.02.24
2007年2月23日(金)13時から17時まで、中央大学後楽園キャンパス5号館にて、仲裁ADR法学会第2回研究会「消費者紛争ADRの国際規格化:現状と展望」が開催されました。この研究会は、ISO10003(企業の組織外苦情処理フレームワークに関する国際標準化)についての検討会議が東京で開催されるこの機会に、作業部会の各国代表者に消費者紛争ADRの規格標準化に関する各国状況を話してもらい、学会での議論を深めるために開かれました。私は、同学会の会員として、向学のために参加させて頂きました。
ISOは、本来工業規格の国際標準化に関わる国際組織ですが、最近では環境マネジメント・システムや情報セキュリティマネジメント・システム、リスクマネジメント・システムといった、企業活動のクオリティ・マネジメントに関する規格の国際標準化を進めています。今回の研究会で議論された「企業の組織外苦情処理フレームワークに関する国際標準化」もまたその一環です。ISOは、2003年からすでに3年間にわたって、組織外苦情処理フレームワークの標準化について議論してきたとのことです。ISO10003は、最終的検討を経た上、2007年中に公表されるそうです。
企業と消費者とでトラブルが発生した場合に裁判が役に立つ場面は限られています。そこで、そうしたトラブルに効率的、実効的、適正、公平、迅速、安価に対処するための手段として、企業と消費者の自主努力を基本とする柔軟かつ多様なトラブル処理枠組が求められることになります。まず、企業自身がトラブルを発生させないようにあらかじめ行動規範(Code of Conduct)を定め、また、企業組織内で苦情を処理するための枠組をつくり、さらに、第三者に苦情処理を委ねる場合には、そのための手続や基準の適正化を図る必要があります。そこで、ISOは、組織内の紛争予防のための行動規範の標準規格としてISO10001を公表し、また、企業組織内の苦情処理の標準規格としてISO10002を公表し、そして今回、第三者機関に苦情処理を委ねる場合の手続や基準に関する標準規格としてISO10003を検討することになったのです。研究会では、ISO10003をめぐる各国の状況が紹介され、それに基づいてディスカッションが行われました。
研究会の詳細については、なお未確定な内容が含まれており、紹介は大要のみに留めさせて頂きます。パネリストはカナダ、英国、オーストラリア、そして日本の作業部会委員でした。自動車消費者紛争ADR、家電消費者紛争ADR、インターネット消費者紛争ADR、金融消費者紛争ADRなどに関する各国の状況が報告され、そうした消費者紛争ADRの手続や基準の効率化・適正化にISO10003が果たしうる役割について議論されました。検討の際にベンチマークとされた各国の消費者紛争ADRは、業界主導で作られ、業界が費用を負担し、消費者側の負担を伴わないものが多いようでした。それらは、迅速に手続が行われ、比較的に消費者の満足度が高いという印象でしたが、他方、中立的第三者(オンブズマン)をどのようにして任用するのか、費用を業界に依存していて組織の独立性をどのようにして維持するのかについて、もう少し踏み込んで明らかにしてほしいところが残りました。ISO10003については、夏に開催される仲裁ADR法学会学術大会で再度議論されるそうです。
(ISO10003の詳細は、JCAジャーナルの1月号と2月号に京都大学の山田文教授が紹介しておられます)。
ADRJapanによる研究会案内
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2007.02.12
2007年2月11日(日)17時30分から19時30分すぎまで、上智大学法学部にて、交渉教育研究会が開催されました。12月10日(日)の研究会に引き続いて、今回もまた設例の実演・録画でした。前回交渉実演が行われたマンション上下階の住民同士の騒音トラブル設例について、今回は架空のADRセンター(日本住宅紛争解決センター)に申立があったという設定での調停実演でした。当事者役の2人は民事訴訟法を担当する大学教員と弁護士で、調停人も弁護士(役柄としては「弁護士ではない民間調停人」という設定)で、実際にもこのようなやり取りが行われるだろうというような迫真の調停実演でした。調停実演は同席方式で行われました(当事者同席での意見聴取が終わったあと、さらに交互・個別面接を行うという設定でしたが、時間の関係で後半までたどり着かなかったのです)。申立人と相手方とのやり取りもさることながら、公平な立場を保ちながら当事者同士の協調可能な利害をできるだけ引きだそうとする調停人役の弁護士さんの技量が光っていました。調停人が公平さを保ち、ソフトな語りを維持していたので、当事者役も途中で椅子を蹴って退出するという雰囲気にはならなかったのでしょう。当事者役の弁護士さんが時々揺さぶりをかけていましたが、落ち着いた話し合いの雰囲気は最後まで崩れませんでした。
ディスカッションでは、まず、メンバーの弁護士さんが、このような調停の場合には最初に現場検証をやるという方向で話を持っていくのではないかという指摘をされ、これに対して、当事者にいろいろ話をさせ、思いの丈をはき出させるということも重要で、検証はそれから提案すればよいのではという意見もありました。有無を言わせない客観的事実を前提として調停を行うのがよいのか、当事者の思いをはき出させてしこりの残らない解決を目指すのがよいのか、この点についてはいろいろな考え方がありそうです。また、メンバーの大学教員から、調停が合意を促進するということには「調停人が様々な斬新なアイディアの提案を行って合意形成を進める」という側面と、「争点について合理的な判断を示すことで合意形成を促進する」という側面とがあり、実際には両者を様々な形で組み合わせて合意を促していくのではないかという指摘がありました。私は、争点について判断を示すというやり方にも、自分の考えを押しつける強面型(頑固親父型)と、当事者のやり取りで明らかになった争点について適切な判断を示す合理的判断型とは異なっており、弊害が大きいのは強面型であるという指摘をしているところで、強面型にも事案によっては一定の役割がありうるということに気がつき、そのように指摘しました。そこからディスカッションは方向転換し、弁護士である複数のメンバーから、当事者が一つの考え方に固執し、まったく通らない理不尽な要求を相手方に突きつけようとしているときや、常識的に見て許されない事柄を取引材料に使おうとしているときなどには、「それは通らない」と断固として突っぱねるのでないと、まとまる話もまとまらなくなるという意見が出されました。なるほど調停人は、単に当事者に自由に主張をさせて合意を勧めればよいというものではなく、常識に照らして理不尽な要求などには原則に基づいてきちんと対処しなければなりません。ただ、そこに一定の価値判断が入る以上、そのような強面型の対応を法律家でない民間調停人がどこまで行ってよいかというところには、なお問題が残るという指摘もありました。
今回の研究会でも、実演を手がかりとしたディスカッションは盛り上がり、多くのことを学ぶことができました。本研究会では、来年度までに教材のプロトタイプとなるモデル教材を作ることを目標にしています。来年度が楽しみになってきました。
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2006.12.11
2006年12月10日(日)17時30分から20時頃まで、上智大学法学部にて交渉教育研究会が開催されました。今回は、メンバーの1人が作成してきた交渉設例の実演・録画でした。マンションの上下階の住民同士の騒音をめぐるトラブルについて、交渉による解決を模索するという設例です。古くからの住民と新参の住民のあいだの騒音をめぐるトラブルという設定で、年齢的にそれに近いメンバーが当事者役になって交渉の実演をしました。
実演は、2組のペアで行われることになりました。意識的に演じられているにも拘わらず、交渉実演には実演者の個性が出ます(当然、実際の交渉はさらに個性的なはずです)。最初のペアは、申し入れ側当事者役が交渉の最初からソフトに応対し、相手方当事者役も理性的に受け答えする交渉実演でした。実演者の理性的かつ紳士的な人柄が垣間見られました。理想的交渉のモデル演技というところでしょうか。2番目のペアは、研究会メンバーの弁護士さんと民事手続法研究者とによる交渉実演でした。こちらのペアは、対立的交渉を実演するということで、意識的に激しいやり取りを演じ、騒音に怒る階下住民と物わかりのよくない階上住民との交渉の迫真の実演となりました。マンション住民の騒音トラブル交渉の現実に近いのは、こちらの交渉実演の方でしょう。
ディスカッションでは、2つの実演が好対照となっていたこともあり、メンバーからいろいろな意見が出されました。交渉教育を行う際に、この2つの実演録画をどのように用いるか、例えば、単に両方を比較させてブレーンストーミングに用いるのか、解説を通して受講者にはっきりしたメッセージを伝えた上で実演を見せるのか、さらに、そうしたメッセージを伝えるためにどのような解説や交渉実演を付け加えていく必要があるかについての議論はなかなか尽きません。また、設例のような日常の交渉はしばしば、怒りにまかせてはじめられることが多く、なかなか収拾がつかなくなってしまうのですが、そのような事態を避けるためには、やはり十分な交渉準備が行われる必要があるというメンバーの弁護士さんの指摘には唸らせられました。交渉の相手方の性格や家族構成を確認すること、騒音被害についての記録や録音の準備、こちらの要求の伝え方、とりわけ話の切り出し方や要求を出す時期などについてのシミュレーションを十分に行って交渉に臨むことが必要だという指摘です。
マンションの騒音紛争は、恨み辛みの長い歴史をともなう場合が多く、十分な交渉準備をしても、埒があかない場合がしばしば見られます。また、当事者の一方に他方に対する心理的な蔑視や劣等コンプレックスがあるような場合には、理性的な交渉の余地がないということもあります。深刻なマンション騒音トラブルでは、住民の一方(多くは階下住民)が余所に移っていくという形でしか解決が図れないというのが実態だそうで、本当に難しい問題だと痛感させられました。
いずれにしても、短時間の交渉実演の比較検討からこれだけのことが議論できるのですから、教育面でも大きな効果が期待できると思っています。
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2006.12.07
2006年12月4日(月)15時から18時まで、オーストラリア連邦ヴィクトリア州メルボルン大学法学部の上級講師でブレーク・ドーソン・ウォルドロン法律事務所弁護士のステイシー・スティール先生と、同校卒業生であさひ・狛法律事務所にリーガルアシスタントとして勤務しているキミ・ニシムラさんをお招きして講演会を開催しました。本講演会は、科学研究費補助金基盤研究(A)「法曹の新職域グランドデザイン構築」の研究活動の一環として行われました。参加者は少数ながら、自由闊達に意見の飛び交う、楽しい講演会となりました。
講演タイトルは「オーストラリアにおけるロースクール卒業生の職業選択に関する規則:転職及び職業選択における決定要因」でした。内容は、オーストラリア、とりわけヴィクトリア州の法曹資格取得要件と、法曹の就職事情、そして、法曹のその後のキャリアパスについてのお話でした。
ヴィクトリア州では、LL.B(法学士)もしくはJD(法務博士)取得後12ヶ月間法律事務所で実務修習(Articles of Clerkship)を経ることで、弁護士としてのCertificateを得ることができます(例外として、LL.BもしくはJD取得後、レオ=カッセン研修所での30週の法実務教育プログラム[PLT]履修、もしくは、モナシュ大学法律実務・技能・倫理課程履修6ヶ月+法務雇用6ヶ月)。オーストラリアでは、どの州でも日本の司法試験のような資格試験はありません。もっとも、有力な法律事務所で一定の経験年数のある指導弁護士が修習を担当しなければならないことから実務修習の枠は厳しく、また評価も厳しいために、法曹資格にたどり着くことは容易ではありません。加えて、一定レベル以上の法律事務所に就職できるためには、法学部(もしくは法科大学院)でのGPAポイントが高くなければならず、実務修習の評価も相当に高くなければなりません。このように、オーストラリアの法曹養成制度は、司法試験を経ないとはいえ、適性のない者が競争の中で淘汰されてしまう仕組みになっており、日本の法曹養成制度と比べて決して楽なわけではなさそうです。
さらに、法曹資格を得て法律事務所に職を得ても、アソシエイト間の生き残り競争が激しく、パートナーに昇格する前に別のキャリアパスを選ぶ者も多いそうです。ケーススタディーとして、独立の法律事務所で活動できるFull Certificateを返上して投資銀行に移籍し組織内法曹となった人、政府機関に職を得て公務員となった人、一流の弁護士事務所を離れて人権擁護組織に勤務するようになった人、弁護士から法律事務所における人材開発コンサルタントへと職を変えた人の事例が紹介されました。キャリアパスの変更にあたっては、一流事務所の激務を離れ、ワーク・ライフ・バランスを重視することが、主要な理由に挙げられていました。
ディスカッションでは、メルボルン大学での法曹養成教育の話や、スティール先生やニシムラさんの実際の経験などにも話題が及びました。メルボルン大学では、JDプログラムに特化した法科大学院を設置し、法学部を廃止する計画が進められているそうです。法学部4年間を経て実務修習を受ければ法曹資格が得られるのに、メルボルン大学が大学院レベルに特化したJDコースを設けるのは、同校がコモン・ロー圏、とりわけシンガポールや香港の学生を集めてグローバル展開することをめざしているからだそうです。その他、アソシエイトからパートナーになるには平均どれぐらい年数がかかるのか、組織内法曹と事務所所属のパートナー弁護士でどの程度所得に差があるか、コモン・ロー圏と大陸法圏でとくに異質さを感じさせるポイントはどこかといった質問が出されました。
いずれにしても大変有意義な講演会でした。参加された教員、学生のみなさん、休暇を取得して東京の法律事務所から駆けつけてくれたニシムラさん、そしてとりわけ、多忙中にも拘わらず本講演のために時間を作って来日してくださったスティール先生、本当にありがとうございました。
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2006.11.28
2006年11月25日(土)、26日(日)の2日間、青山学院大学(青山キャンパス)総研ビルにて、今年度の日本法哲学会学術大会が開催されました。統一テーマは「法哲学と法学教育―ロースクール時代の中で―」。少し以前に日本学術会議シンポジウムなどで議論されていたテーマと重なりますが、法科大学院がある程度動き出してからの議論ということでいろいろ気付かされることも多い大会でした。
大会の詳細は膨大なので概要のみ紹介します。25日午前中は個別テーマ報告でした。2つの分解があり、私は大学院時代の後輩の報告があるA分科会に参加しました。A分科会では、ホーフェルドの法的諸概念の現代的意義に関する報告に始まり、ドゥオーキンの中絶に関する議論を検討する報告、少子社会におけるリプロダクティブ・ライツを考察する報告、そしてアルトゥール・カウフマンの「関係的人格」「小銭の抵抗」「寛容原理」に関する報告が行われました。若手法哲学研究者による重厚な研究報告で、多くの示唆を受けました。法哲学の醍醐味は、重厚な理論に裏付けられた現代的議論です。こういう研究が廃れることがないように支援していかなければなりません。
25日午後の部から26日にかけては、統一テーマ報告とシンポジウムでした。新司法試験の合格実績によって否応なく方向付けられてしまうロースクール時代の法学教育において、法哲学がいかなる存在意義を示すことができるかという、法哲学のレゾンデートルに関わるディスカッションが展開されました。まず、法科大学院における法哲学関連科目の実施状況に関する報告、日本型法科大学院における法学教育と学部教育の現状を批判的に検討する報告、隣接他分野出身の法哲学教員による法学教育の「特異性」を指摘する報告、非法律家にとっての法学教育の意義に関する報告、法科大学院で民法と法哲学を担当している教員による「企業家法曹」を念頭におく法哲学教育に関する報告、アメリカのロースクールにおける法哲学教育に関する報告、法哲学教育の標準化に関する報告が行われ、また弁護士や民法教員によるコメントが行われました。個人的に興味深かったのは、専門家教育ばかりでなく、クライアント教育を充実させることも重要ではないかという指摘、GATS(サービス貿易に関する一般協定)が自由職業サービスの国際的規制緩和を進め、弁護士をはじめとする専門士業に破壊的影響をおよぼすおそれがあるという指摘、「法の支配」とADRの対立・相克関係について十分な教育が必要であるという指摘、そして、あらゆる専門士業によるワンストップ・サービスを受けることができる総合的法律事務処理センターの構想を大規模法律事務所がすでに持っており、その実現に向けて動き出しているという指摘でした。刻一刻と変化する法曹を取り巻く状況に敏感に対応しつつ法学教育の内容を充実させていく必要を痛感させられるディスカッションでした。
今日の法哲学をめぐる状況は決して楽観できるものではありません。もちろん、法社会学を含む他の基礎法学すべてが同様な状況にあります。重厚な学問の内実を失うことなく、時代の動きに機敏に応えていくという困難な任務を果たすことでしか、この状況を乗り切ることはできません。基礎法学研究者の悩みは深いです。
日本法哲学会のHPhttp://wwwsoc.nii.ac.jp/jalp
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2006.11.18
2006年12月16日(土)10時から17時まで、グランキューブ大阪(大阪国際会議場)12階1202会議室にて、大阪大学大学院高等司法研究科先端的法曹養成センター主催・同センター完成記念国際シンポジウム「科学技術倫理と法曹教育~新しいあり方の模索~」を開催します。法科大学院の最先端の法曹養成教育で教えるのは、法的知識ばかりではありません。本シンポジウムでは、アメリカのモデルをふまえて、科学技術専門家と倫理問題を対等に語り合うことができる法曹を養成する教育のあり方について議論します。関心のある方に広く参加を呼びかけたいと思います。
日時: 2006年12月16日(土) 10:00~17:00
場所: グランキューブ大阪(大阪国際会議場) 12階 1202会議室
主催: 大阪大学大学院高等司法研究科先端的法曹養成センター
タイトル: 科学技術倫理と法曹教育 ~新しいあり方の模索~
問い合わせ先:
Tel: 06-6850-6944 Fax: 06-6850-6945
メール: ls-coe-office@lawschool.osaka-u.ac.jp
シンポジウム・プログラム
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(9:30~10:00 受付)
10:00~10:05 開会の辞: 松川 正毅
(大阪大学大学院高等司法研究科長)
10:05~10:15 挨拶:
第1部: 専門法曹養成における科学技術倫理教育の役割
(2つのモデル)
10:20~11:00 講演: パトリシア・キャスラー
(ワシントン州立大学ロースクール教授)
11:00~11:30 講演: スザンヌ・リー
(ウィスコンシン州立大学・医師)
11:30~11:45 コメント: 岩田 太
(上智大学法学部助教授)
11:45~12:00 コメント: 瀬戸山 晃一
(大阪大学大学院法学研究科講師)
(12:00~13:00 昼食)
第2部: 先端科学研究者が法曹養成教育に求めるもの
13:00~13:30 講演: 谷 憲三朗
(九州大学生体防御医学研究所教授)
13:30~14:00 講演: 土岐 博
(大阪大学核物理センター教授・センター長)
14:00~14:15 コメント: 小林 傳司
(大阪大学コミュニケーションデザイン・
センター教授)
14:15~14:30 コメント: 福井 康太
(大阪大学大学院法学研究科助教授)
14:30~14:45 ディスカッション
(14:45~15:00 休憩・コーヒーブレイク)
第3部: 先端法曹が科学技術倫理教育に求めるもの
15:00~15:30 講演: 阿部 隆徳
(弁護士)
15:30~16:00 講演: ショーン・オコーナー
(ワシントン州立大学ロースクール准教授)
16:00~16:15 コメント: 霜田 求
(大阪大学大学院医学系研究科助教授)
16:15~16:30 コメント: 藤本 利一
(大阪大学大学院高等司法研究科助教授)
16:30~16:45 ディスカッション
***
16:45~16:55 総括: 野村 美明
(大阪大学大学院国際公共政策研究科・
高等司法研究科併任教授)
16:55~17:00 閉会の辞: 三成 賢次
(大阪大学大学院法学研究科長)
※ レセプション:17:30~19:30
(会場10階 1004・1005会議室)
Symposium.pdf
http://www.lawschool.osaka-u.ac.jp/update/2006/sympo_061216.html
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2006.11.09
オーストラリア連邦・ヴィクトリア州・メルボルン大学法学部からステイシー・スティール先生と同校卒業生のキミ・ニシムラさんをお招きし、オーストラリアにおける法曹職域の新展開に関する講演会を開催します。本講演会は、科学研究費補助金基盤研究(A)「法曹の新職域グランドデザイン構築」の主催ですが、大阪大学の教員ばかりでなく、広く学生の参加を期待しています。
日 時 : 2006年 12月4日(月)15:00~18:00
場 所 : 大会議室(法・経総合研究棟4階)
講 演 者 : ステイシー・スティール(メルボルン大学法学部上級講師)
キミ・ニシムラ(メルボルン大学法学部卒業生)
スティール先生は、東京大学大学院法学政治学研究科に留学し、日本の倒産法を研究した経験がおありです。メルボルン大学法学部では日本法を担当しておられます。流暢に日本語を話し、大変親しみやすい先生です。参加者との交流は大いに盛り上がると期待しています。一応参加は自由ですが、会場設営の関係上、福井までご一報頂ければ幸いです。
ポスター:lecture_by_stacy_steele.pdf
福井連絡先 (Tel: 06-6850-5168, E-Mail: ktfukui@law.osaka-u.ac.jp)
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2006.11.04
2006年11月3日(金・祝)13時から17時過ぎまで、大阪大学大学院法学研究科大会議室(法・経総合研究棟4F)にて、日本法社会学会関西研究支部例会&Legal Profession研究会合同研究会が開催されました。すでにお知らせしたように、報告内容は、箕面市で実施した職場トラブル対処に関するアンケート調査結果の分析および評価ということで、「人は職場トラブルに遭ったときどのように行動するのか―職場トラブル対処方法に関する箕面市アンケート調査の結果から分かること―」というタイトルで、福井祐介(西日本短期大学)、渡邊太(大阪大学)、そして私の3人で共同報告させて頂きました。
報告は、最初に私が「共同研究の趣旨説明」を行い、続いて渡邊太さんが「回答者の基本属性」(回収率・バイアス)、「単純集計」(とくに問1)、「クロス集計」(問1の傾向、問2の傾向、問3の傾向)、さらに、福井祐介さんが「職場トラブル相談先ニーズ・スコア主成分分析」、「職場トラブル相談先ニーズ・スコア相関分析」、「相談先別相関ニーズと職場帰属意識の相関分析」について説明、最後に私が「制度設計への示唆」ということで、ファインディングスのまとめ、相談窓口等の望ましい連携のあり方などについて、私なりの見解を述べさせていただきました。ファインディングスの主要なものは、①男性は上司、女性は家族・親族を相談先として第一に選好している。②フォーマルな上司/部下関係を男性は重視し、インフォーマルな関係を女性は重視している。③職場帰属意識が高いと、上司に相談する傾向がある(職場帰属意識が低いと、上司には相談しない傾向がある)が、職場帰属意識が低いと、友人・知人に相談する傾向がある(職場帰属意識が高いと、友人・知人には相談しない傾向がある)、④相関図から、ある相談先に行く人は別の相談先にも行く、という連携化の傾向が見出されるばかりでなく、ある相談先に行かない人は別の相談先にも行かないという傾向が見出される。⑤非制度的・職場外の相談先(家族・親族、友人知人)と制度的・職場外(裁判所、行政の相談窓口、専門家)には相関がなく、なかなか家族・親族等に相談できない層(男性・高齢)も行政等に相談に行くということに特段の支障は見出されない、などです。
ディスカッションでは、矢原隆行(広島国際大学)さんと、花野裕康(宇部フロンティア大学)さんが最初にコメントされ、このコメントに続いて参加者からいろいろな質問や意見が出されました。相談先の選定に法学的バイアスがかかっていて、心理カウンセラー等の相談先が質問票にないことや、箕面市でのランダムサンプリングによるデータが日本全体の職場トラブル対処行動について代表性を有するかどうかは疑問なしとしないということ、本調査では職場トラブルがどのようにしてトラブルとして認知され、構成されるかといった紛争生成プロセスについての分析がなく、それが今後の検討課題となることなどが指摘され、さらに、紛争解決の個人化傾向、心理学化傾向の問題性などについて議論が盛り上がりました。
連休初日で参加者はそれほど多くはありませんでしたが、充実したディスカッションでした。ここでのディスカッションを反映させることで、完成度の高い科研費成果報告書を仕上げることができそうです。ご参加のみなさん、本当にありがとうございました。
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2006.10.29
2006年10月28日(土)16時30分から18時30分すぎまで、上智大学法学部にて、交渉教育研究会が開催されました。今回の研究会は、ひとつの調停人養成教材DVD(平成17年度経済産業省委託事業・[社]日本商事仲裁協会、[社]日本仲裁人協会・調停人養成教材作成委員会)を手がかりにして、本研究会で作成するDVD教材の内容を検討するものでした。
上映されたDVD教材は、日本でまだ普及していないファシリテーティブ・メディエーション(自主交渉支援型調停)を普及させることを目的とし、非法律家が調停人になることを念頭に置く調停人養成教材でした。調停人との対面から、様々な調停の段階、さらには当事者が怒って帰ろうとする場面、法律的知識を求められる場面、そしてクロージングの複数のバリエーションについて、それぞれプロの役者を用いたスキットが設けられていて、大変よくできた教材でした。それぞれのスキットでは、模範解答が示されることはなく、受講者がディスカッションを通じて自主的に問題発見できるように工夫されていました。教材作成には相当に費用がかかっているようですが、ファシリテーティブ・メディエーションの普及を目指すということで、DVDは実費だけで購入できるとも伺いました。上演されたDVD教材は中級編であり、ほかに初級編もあるとのこと。この教材のメリットは、調停人養成講座の講師がその都度メディエーション実演をする必要がなくなり、大幅な労力の節減になることだそうです。教育実践上のニーズにあった編集になっており、使いやすいだろうという印象でした。個人的に興味深かったのは、調停人が法律的知識について質問を受けたときの対応の場面でした。この場合には、他の専門知識について質問された場合も同様ですが、法律的知識については答えることなく、あくまで当事者同士が自主的に交渉を続けていくことができるように仕向けていくことが重要だとのことでした。
DVD上映後のディスカッションでも、いろいろな意見が出されました。まず、決められたコンセプトでストーリーを作成し、役者がそれを忠実に実演するのがよいのか、それとも、大まかなコンセプトと状況設定だけで、複数のグループに自由に交渉の実演をさせ、それを教材にして受講者に問題を発見してもらうような方法がよいのかという議論はかなり白熱しました。本研究会が作成する教材は、両者の中間ぐらいを目指すことになりそうです。また、研究会メンバーの一人から、交渉を学生に教えるというのなら、①交渉には徹底した準備が必要だということ、②相手の本音を探ることの大切さ、そして、③ほとんど交渉決裂という状況のもとで交渉を決裂させずに合意案を提示できるクリエイティブネスの必要性を教えなければならないという指摘があり、この3点を教材で学ばせるにはどうしたらよいのかということが議論されました。①②③を教材を通じて学ばせるのはなかなか難しそうですが、例えば、十分な準備をして交渉に臨んだグループとそうではないグループの交渉実演を対比させてみたり、あるいは、あるところでスキットを止め、受講者にロルプレイをさせ、交渉人役に相手の本音を探らせて、打開策を発見させるというような方法で、部分的には実現できるように思われました。
交渉教育研究会の教材作成の議論も大詰めとなって参りました。次回以降はショートストーリーの試験的な実演に入ります。面白い教材ができそうです。
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2006.10.15
2006年10月14日(土)14時から17時まで、東京・渋谷のハロー会議室渋谷701オフィスにて、第11回スポーツ仲裁法研究会が開催されました。私も日本スポーツ仲裁機構の仲裁人候補者・調停人候補者を引き受けている関係上、研修の一環としてして参加して参りました。
詳細は紹介できません。報告は2件で、国際テニス選手のドーピング禁止違反の事例紹介と、国際水泳連盟のドーピングパネルの手続および判断についての紹介でした。ドーピング禁止違反の判断基準、手続は形式的かつ厳格なのですが、情状判断のところで様々な要素を総合的に考慮して妥当な結論を出すということで、それはそれでうまく動いているという印象でした。
実際にスポーツ仲裁人、調停人に指名されたことはありませんが、今後少しでもこの領域で貢献できればと思っています。
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2006.10.04
2006年10月3日(火)18時15分から20時15分まで、大阪大学大学院法学研究科中会議室(法・経総合研究棟4F)にて、科研費基盤研究(B)「紛争回避と法化の法理論的・実証的検討」研究会を開催しました。というのも、本科研費で実施した箕面市での職場トラブル対処方法に関するアンケート調査のデータ検討がある程度進んできたので、その成果を科研費の研究分担者と共有し、今年度末までに執筆しなければならない科研費成果報告書の執筆分担を決めたかったからです。
報告は、私が調査の概要について説明し、続いて渡邊太(本学特任研究員)さんが調査データの単純集計、クロス分析、相関分析、ニード・スコア分析、主成分分析について解説し、最後に私が分析成果に基づいて、研究分担者の報告書執筆分担を提案しました(調査概要およびニード・スコア分析以降の資料は福井祐介氏[西日本短期大学非常勤講師]の作成によるものでした)。興味深い分析結果は、女性は男性に比べて家族・親族、友人・知人、職場の同僚に相談することが多く、それはいじめや険悪な人間関係のような「人間関係型」の職場トラブルの場合に顕著であること、逆に、男性は上司や組織外の専門家に相談するものの、家族・親族、友人・知人、職場の同僚などには相談しにくいということ、険悪な人間関係に巻き込まれている人は、いじめや労働条件切り下げ、適性を無視した仕事割り当てといった別のトラブルに巻き込まれていることが多いこと、相談先についてのニード・スコアは上司、家族・親族、友人が顕著に高いが、男女を分けてみると、男性の場合には上司の数値が最高だけれど、女性の場合には家族・親族、友人・知人が上司の上位に来るということなどです。成分分析についても、おおむね常識にかなう相談先が同一性格の相談先としてまとまりを示していましたが、トラブルの種類に応じて直属の上司、職場の同僚の位置づけが微妙に動くところは面白いところでした。
ディスカッションでは、本調査が「実際の経験」ではなく、「職場トラブルに遭遇したらどうするか」という仮定形の質問をベースにしていることに注意すべきだということ、家族・親族、友人・知人へのニード・スコアが比較的に高く、裁判所や外部の専門家などのニード・スコアが低いといっても、それは回答者の想像にすぎず、実際にトラブルに遭遇したときにそのように行動するかどうか分からないということ、制度的-非制度的、組織内-組織外という座標軸に基づいて相談行動を分析しているが、それらはすべて相関するのであり、それぞれを区切って説明を求めるのはいかがなものかといったことが指摘され、有意義でした。こうした議論は報告書の執筆に当然反映されるものと期待しています。
なお、11月3日(金・祝)の13時から、大阪大学大学院法学研究科大会議室(法・経総合研究棟4F)にて、LP(Legal Profession)研究会および日本法社会学会関西支部研究会との共催の研究会で、本調査についての報告を行います。
報告:「人は職場トラブルに遭ったときどのように行動するのか―職場トラブル対処方法に関する箕面市アンケート調査の結果から分かること―」
① 福井康太(大阪大学)「共同研究の趣旨説明」
② 渡邊太(大阪大学)「単純集計 ・ クロス集計」
③ 福井祐介(西日本短期大学)「ニード・スコア分析 ・ 成分分析」
④ 福井康太(大阪大学)「制度設計への示唆」
*コメント:矢原隆行(広島国際大学)、花野裕康(宇部フロンティア大学)
今回の研究会の成果を生かして、11月3日の研究会の議論を盛り上げていきたいと考えております。
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2006.10.01
2006年9月30日(土)13時から17時過ぎまで、同志社大学光塩館地下会議室にて、本年度2回目の日本法社会学会関西支部研究会が開催されました。今回の研究会は、金沢大学医学部付属病院における無断臨床試験訴訟に関する報告で、同病院医師の打出喜義氏、金沢大学法学部の仲正昌樹氏、大阪大学大学院法学研究科の仁木恒夫氏の三人が報告者でした。2年前の日本法社会学会大会での報告にその後の新たな展開と分析とを付け加えての報告でした。
打出報告は、医学臨床研究と大学付属病院医局の関係についてということで、金沢大学医学部付属病院でインフォームド・コンセント(IC)を取ることなく実施された臨床試験に関わる訴訟に引き寄せて、医学臨床試験のもたらす問題を批判的に検討するものでした。同報告では、医局組織が中心となって行う臨床試験でどのようにして問題が隠蔽されるかという問題、裁判所が医療活動に付随してICなしに臨床試験を行うことに寛容であることの問題、そして、病院側が明らかに証拠を捏造して提出しているにもかかわらず、それに対する裁判所による制裁がないということなど、様々な問題点が指摘されました。
仲正報告は、臨床試験についてのICと一般治療についてのICを区別した上で、日本では一般治療についてのICの議論ばかりが先行していて、臨床試験についてのICはあまり議論されてこなかったという問題が指摘され、さらに大学病院における医療が不可避的に実験性を含んでしまう以上、臨床試験の公的管理は不可欠なのではないかといった問題提起されました。
仁木報告は、金沢大学医学部付属病院における無断臨床試験訴訟の訴訟外における当事者の活動に着目し、訴訟をきっかけとして様々な関係者が紛争に巻き込まれていく動態を明らかにするとともに、当事者間の紛争は、同訴訟を通じて、「比較臨床試験におけるIC違反」という対立に関連しながらも、臨床試験の中心となった教授に対する私怨という独特の関係配置へと再編成されていったと指摘するものでした。
ディスカッションでは、最初に神戸大学大学院法学研究科の手嶋豊氏がコメントをされ、それに関連して様々な質問が出されました。そうした質問に触発される形で、ICにおいてどこまで情報が提供されるべきか、とりわけ臨床試験におけるICにおいては、一般治療の場合より多くの情報が提供されるべきなのではないか、被告国はどうしてここまで徹底的に争ったのか、この訴訟で被告側代理人はどのような役割を果たしたのか、そもそも医療の発展に寄与する「よき市民」としての貢献にICは必要なのか、当事者はこの訴訟でいったい何を得たというのかといったことが議論されました。
今回もなかなか議論が尽きず、かなり時間を延長してディスカッションが続けられました。次回は11月3日(金・祝)に、共同研究者と私とで、6月に箕面市で実施した職場トラブル対処に関するアンケート調査の集計結果について報告をさせて頂きます。次回もまたこの研究会が盛会であることを祈っています。
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2006.09.30
2006年9月29日(金)18時30分から20時まで、東京・芝浦のキャンバス・イノベーションセンター6階にある、大阪大学・東京オフィスにて、交渉教育研究会が開催されました。今回は伊藤忠商事コーポレートカウンセルでカリフォルニア州弁護士の茅野みつるさんによる交渉教育教材の紹介でした。
茅野さんが紹介されたのは、ハーバード大学の交渉プロジェクトの責任者であるロジャー・フィッシャーとダニエル・シャピロの最近の著書 Beyond Reason: Using Emotions As You Negotiate, Viking Pr, 2005/10(印南一路訳『新ハーバード流交渉術』講談社)でした。茅野さんが今年6月にバンクーバーで開催された世界経済フォーラムに参加した折、同書の執筆者の一人であるシャピロ氏が、若手向けの講演として、この本の内容についてお話しされたそうです。茅野さんは、そのときのエピソードを交えながら、同書のエッセンスについて紹介されました。
本書Beyond Reasonは、感情を十分に知り尽くした上で交渉に臨むことの重要性を豊富な設例を通じて明らかにしようと試みる書です。同書は、交渉において「感情的にならない、感情を無視する、感情に直接対処する」というのはいずれも非現実的だと言います。交渉においては、むしろつぎの5つの欲求(Concern)に注目し、それを活用することが重要なのだそうです。すなわち、①相手を認める(Express Appreciation)、②相手との関係(つながり)を見つける(Build Affiliation)、③相手の自主性を尊重する(Respect Autonomy)、④相手の地位・身分を認知する(Appreciate Status)、⑤満足な役割を選ぶ(Choose a Fulfilling Role)です。これらの欲求を知り尽くした上で交渉を進めれば、交渉がうまく行く可能性が高いというのです。①については、人質犯との交渉を例に、交渉相手の考えや感情に一定のメリットを認めながら交渉を進めることが重要だと指摘されます。②については、相手とつながりを見出すことで協調的に交渉を進めることができ、交渉を成功に導くことができるということが指摘されます(シャピロ氏はこれを理解させるために、講演参加者に目隠しをして「腕相撲」のようなことをさせ、競争ではなく協調することがいかに成果を生み出すかを分からせようとしたそうです)。③については、自らの自律性を拡大する一方、相手の自律性を侵害しないことで、交渉において大きな成果を得ることができるということが指摘されます。④については、新任のエクアドル大統領と古株のアルベルト・フジモリペルー大統領の国境紛争をめぐる交渉を例に、相手の立場を受け入れ、相手を立てて交渉することの重要性が指摘されます。⑤については、「聞き手」や「ブレーンストーミング役」など、交渉のなかでの一時的な役割を賢く選び、また相手の役割を理解することによって交渉が成功に導かれるということが指摘されます。前著『ハーバード流交渉術』に比べると、相手の感情や立場に配慮する本書の主張は、日本人にも受け入れやすいものになっているようです。
ディスカッションでは、感情を交渉で用いるというより、感情的になる状況を理論的に整理し、事前に感情に備えることで交渉を有利に進めることが重要であるということ、また、EmotionalになるということとPersonalになるということは分けて考えなければならないということ、交渉のなかでの「役割Role」は「地位」など継続的なものではなく、交渉中のそれぞれの場面での「役」というような意味で理解されなければならないということ、人質犯との交渉も含め、刑事司法で感情を利用する場面は想像以上に多いこと、「つながり」を見出すことで、交渉を有利に進めることができるというのは、交渉上のポジションが不利な場合について言えることで、逆に、ポジション的に有利な位置にある場合には、下手に「つながり」を発見されて交渉から抜けられなくなると不利益になることもあるということなどが指摘され、活発な議論が交わされました。
交渉教育研究会も、そろそろ教材の形で成果を出さなければならない段階になってきています。これまでの議論をふまえてどのような教材を作り上げていくか、急ピッチで検討を進めなければなりません。
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2006.09.02
2006年8月30日(水)15時から18時まで、法学研究科大会議室(法経総合研究棟4F)にて、日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(A)「法曹の新職域グランドデザイン構築」講演会「新時代の裁判官、検察官、企業弁護士の役割-韓国の場合-」を開催しました。何度もお知らせしたとおり、本講演会は、韓国・嶺南大学校法科大学の実務家出身教員(法科大学院教授就任予定者)3人による講演会でした。法学研究科、高等司法研究科の教員のほか、法科大学院生などの参加もあり、関心の高さが伺われました。
まず最初に講演されたのは、裁判官出身の鄭吉龍教授でした。鄭教授は「韓国国民の司法府不信とその解消策の模索」という題目でお話しされました。韓国では、とりわけ刑事裁判に対する不信感が強く、また法曹ブローカーの存在、司法と政治の癒着などが問題視されています。実際に不正がそこまで多いわけではないにしても、一つ不祥事が起こると、司法に対する信頼は大きく損なわれます。韓国で最近裁判官が収賄で逮捕されましたが、そういうことがあると、司法府全体が不信の目で見られることになります。韓国では、そのような不信感を払拭するために、国民に対する啓蒙活動を進めるとともに、国民の司法参加を図るべく陪審制と参審制の中間形態の司法参加制度を設け、さらに、法官倫理綱領の具体化および監察強化、不祥事裁判官の弁護士開業制限などの施策が図られているということが紹介されました。
次に講演されたのは検事出身の梁宗模教授でした。梁教授は「新時代の検事の役割 」 という題目でお話しされました。捜査指揮権をめぐる検察と警察の権限争い、政治権力と検察との関係、マスコミと検察との関係、検察の不祥事など興味深い話題を豊富に盛り込んだ講演でした。興味深かったのは、検察と警察の権限争いの話でした。韓国では、憲法上捜査指揮権は検察にあり、警察は検察の指揮の下にのみ犯罪捜査を行うことができるのですが、実際には警察権力は絶大で、警察はあの手この手で検察の捜査指揮権を排除しようとしているそうです。法的には絶大な捜査権限を有する検察も、実際にはその権限の多くを警察に侵され、危機の状態にあるというのです。韓国では刑事事件に対する関心が高く、刑事事件で少しでも有利に取りはからってもらおうと、政界、財界、一般市民が様々な形で検察に近づこうとするそうです。それをマスコミがあらゆる手段を使ってリークする。それが検察の不祥事として問題化する。そうすると世論は一斉に検察批判を始める。いまの韓国では検察は四面楚歌の状態にあり、これを払拭するのが重要な課題だというのが梁教授の講演のまとめでした。
最後に講演されたのは、企業法務出身の權鍾杰教授でした。權教授は、「韓国企業法務の新領域」という題目で、三星物産法務室にニューヨーク州弁護士として12年間勤務された経験に基づいて講演されました。韓国では、IMF危機を経て、ここ10年で、劇的に企業法務が拡大してきたとのこと。IMF危機以前には、高度経済成長のもと、そもそも法的リスク管理という観念そのものがなかったそうです。大きな経済危機を経験し、法的リスクの重要性を認識した韓国企業は、弁護士の雇用を急ピッチで進めるようになりました。三星物産には現在4人の韓国弁護士と3人のアメリカ弁護士、そしてその他20名の法務職員が務めているそうです。1994年には三星物産法務室5人のスタッフに韓国弁護士は1人もおらず、權教授がアメリカ弁護士としてはじめて入社したことに鑑みれば、この人的拡大には目を見張るものがあります。今後は韓国企業でますます法務部門の強化が図られていくに違いありません。
それぞれの立場もあり、必ずしもざっくばらんに議論ができたわけではありませんが、韓国の実務法曹の話を直接に聞く機会は滅多にありません。今後も同様の機会が持てるよう、様々な企画を立ち上げたいと思います。いずれにしても、今回講演頂いた、鄭教授、梁教授、權教授、そして通訳を務められた法学研究科博士後期課程院生の金明珉さんに心から感謝致します。
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2006.08.08
2006年8月30日(水)15時から、大阪大学大学院法学研究科大会議室(法・経総合研究棟4階)にて、韓国・嶺南大学校法科大学・法学部から3人の実務家教員をお招きして、講演会「新時代の裁判官、検察官、企業弁護士の役割~韓国の場合~」を開催します。
本講演会は、日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(A)「法曹の新職域グランドデザイン構築」(研究代表者・三成賢次)の補助のもとに行われます。講演者は、嶺南大学校法科大学院教授就任予定者で、鄭吉龍 Chung, Kil Yong 教授(前・大邱地方法院判事・支院長)、梁 宗模 Yang, Jong Mo 教授(前・ソウル地検北部支庁・部長検事)、權 錘杰 Kwon, Jong Kul 教授(前・三星物産上級法務顧問・ ニューヨーク州弁護士)の3人です。
嶺南大学校法科大学の実務家教員の今回の訪問は、今年3月に私が同校を訪問したおり、嶺南・阪大両校の法学教員の学術交流を促進するためにぜひとも相互訪問を進めようという話となり、それがこのような形で実現したものです。本講演会を通じて、韓国の判事、検事、企業法務の最新の動向を窺うことができると期待しているところです。盛会になることを願っております。
講演会ポスター:lecture_of_3_professors_at_yeungnam_univ.pdf
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2006.07.31
2006年7月29日(土)および30日(日)の2日間、岩手県立大学にて東北社会学会大会(第53回)が開催され、参加して参りました。山形大学時代にお世話になった方々、そして、ルーマン研究で交流を持ち続けている方々に久しぶりにお会いし、公私にわたり様々な情報交換することができ、楽しいひとときでした。
学術大会の部会としては、私は、第1日目午前の部はB部会「医療」に参加し、午後の部は課題報告「交流の社会学/定住の社会学」に参加しました。第2日目の午前の部はD部会「学説Ⅱ」に参加し、午後の部はG部会「現代社会」に参加しました。部会の内容については、修士課程院生など最若手研究者の報告が多かったので、言及を差し控えます。概括的な印象ですが、理論研究が軽視される全国的傾向に抗して、なお東北社会学会では若手が熱心に理論研究を行っており、各部会とも活発な議論が交わされていたのが印象的でした。理論研究重視は東北社会学会のすばらしい伝統であると思います。今後もこのような学会であり続けてほしいと願っております。
しばらく社会学系の学会に参加することがなく、久しぶりに社会学研究者の最新の議論に触れました。紛争マネジメントや裁判外紛争解決、自主的紛争解決支援についての私の最近の研究成果を彼らにぶつけてみて、様々な展開可能性があることに気付かされました。今回の議論の成果を私の今後の研究に生かしていければと思っています。
東北社会学会HPhttp://marx.sp.is.tohoku.ac.jp/tss/
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2006.06.19
2006年6月18日(日)午後13時から17時30分まで、同志社大学寒梅館6F会議室にて、日本法社会学会関西支部研究会が開催されました。今回の報告者は京都大学大学院博士後期課程の岡村暢一郎さんと神戸大学大学院法学研究科COE研究員の内野耕太郎さんの2人でした。
岡村さんの報告は、「市場の進化と自制的マネジメント」というタイトルで、真珠産業のフィールドワークに基づく興味深い内容の報告でした。岡村さんの報告では、真珠産業の業者が、ステークホルダーの目を意識するなかで、市場における競争を通じて、自省的にワシントン条約やISO規格といった規制を受け入れていくプロセスが、豊富な聞き取りデータの裏付けのもとに明らかにされました。理論と実証を両立したすばらしい報告でした。内野さんの報告は、「景気循環と倒産法の動態」というタイトルの報告で、生態学の捕食者・被食者の均衡モデルを応用して、倒産による債務免除の適切なタイミングについて理論的に明らかにするものでした。法と経済学の議論はしばしば私の理解力を超えてしまうのですが、内野さんは相当にかみ砕いて説明をしてくださったので、大体の趣旨は理解できました。負債の増大と資本の増大を捕食者・被食者関係のアナロジーで捉えるというのは卓見です。いろいろ勉強させて頂きました。
今回の研究会でもまた、一方的に新しい知見を学ばせて頂くばかりでした。そろそろ私も日頃の研究活動の成果を本研究会に還元しなければいけません。
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2006.06.10
2006年6月8日(木)、9日(金)に、東京大学駒場キャンパス18号館ホールにて、東京大学大学院情報学環(駒場)主催シンポジウム「地域環境学の構想-楽しい環境保全を目指す学問-」が開催されました。最近しばしば共同で研究活動を行っている安富歩さん(東京大学大学院情報学環助教授)の企画するシンポジウムで、私はコメンテーターとしての参加です。
「地域環境学」なる学問のアカデミックな議論が行われるのかと思って身構えて参加したのですが(企画者の日頃の言動を考えればそのようなことはありえない?)、実際の議論は常識的なアカデミズムの枠をはるかに超え、本当に「楽しい」議論が展開されました。また議論の合間には、大阪外国語大学助教授で弾き語り歌手の千葉泉氏、実験生物学者でトゥバ民族音楽演奏家である等々力政彦氏による音楽演奏が行われ、大変な盛り上がりでした。
8日(13時半開始)は、長野大学教授の佐藤哲氏、アサザ基金代表理事の飯島博氏、北海道農業研究センター上席研究員の横山和成氏の報告、および総合討論でした。佐藤氏は、ご自身が関わってこられたマラウィー湖の魚類の保全活動について、飯島氏は霞ヶ浦周辺地域の小学校の協力を得ての水域環境の保全活動について、横山氏は、ご自身が北海道と中国で実践されている農地の土壌保全活動について報告されました。報告者3氏とも、周辺住民や行政等のアクターを環境保全に巻き込んでいくうえでの問題、中心をもたないネットワーク型組織をいかに活用するかといった問題を中心にお話しをされました。総合討論では、そのような活動に熱意を持って取り組める動機や人生観、周囲の人間とのコンフリクトの問題などにまで議論が及びました。普通では聞くことのできない、活動の動機などを伺うことができ、大変興味深い議論でした。
9日(11時開始)は、大阪外国語大学助教授の深尾葉子氏による、中国黄土高原での環境保全実践に関する報告と、九州大学理学研究院教授の矢原徹一氏による、九州大学伊都キャンパス生物多様性保全事業の実践に関する報告、および総合討論でした。深尾氏は、黄土高原における黄砂発生には現地の農業が密接に関わっていること、つまり、農民が日々表土に生える雑草等をはぎ取り、土地を酷使することで、土壌貧困化がすすみ、黄砂の大量発生に繋がっていることを指摘しました。まさに農耕文化が環境劣化を生じさせているという問題です。黄土高原の環境劣化を防止し、環境保全を行うためには現地の農業のあり方にメスを入れるほかないという指摘には唸らせられました。矢原氏は、ご自身が中心となって関わってこられた九州大学移転先の福岡市西区元岡丘陵地区の環境保全事業のお話しをされました。矢原氏は、現地の希少種保全のために、キャンパス地区中央部の谷を埋めることを中止させ、土地の起伏を生かしたキャンパス設計に変更させるとともに、森林面積をむしろ以前より増やす方向で造成を進めさせ、さらに、学内NPOや地域住民との協力のもとに、保全エリアで多様な希少生物を保全している実践を紹介されました。九州大学もかなり変わったなと実感しました。深尾報告、矢原報告のいずれにおいても、文化的・社会的資源をどのような形で動員するか、地域や組織に根付いている常識や固定観念を変えるためにはどうしたらよいのかという問題が議論されました。環境保全は常識や固定観念をどのように変えるかという問題なのだと痛感させられました。
余録ですが、同日4時からは同じ場所(18号館ホール)で引き続き「対話による複雑系研究会(4)」が開催されました。シンポジウムに音楽家として登場した等々力政彦氏が今度は基調報告者です。等々力氏は、本来捕食関係にある大腸菌と粘菌の共生という興味深い現象について紹介され、それに数理生物学の金子邦彦東京大学教授がコメントされました。大変興味深い応酬があったのですが、詳細は紹介できません。
いずれにしても、私の固定観念が大きく揺さぶられる2日間でした。安富さん、ご招待ありがとうございました。
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2006.05.29
2006年5月28日(日)16時から18時まで、東京・虎ノ門の坂井三村法律事務所会議室にて交渉教育研究会が開催されました。研究会もしだいに大詰めを迎え、交渉教育教材作成の具体的内容が議論の中心になって参りました。Trade Secretに関わることも出てきているので、あまり詳細には紹介できません。
研究会では、東京大学のダニエル・フット先生と、上智大学の森下哲朗先生が報告されました。フット先生はアメリカ弁護士の継続研修用のビデオ教材を紹介されました。この教材から、同一事例を協調的な交渉から敵対的、戦略的交渉までいろいろなパターンで上演してみせることを通じて、交渉の奥行きの深さを学ばせることが重要だと理解できました。森下先生は上智大学の法科大学院形成支援経費で作成しているビデオ等を紹介され、字幕や画像の工夫やそれにかかる費用などについてお話しされました。費用面の話は耳の痛いところです。
いずれにしても、興味深い教材が期待できそうです。教材の利用の仕方も含めていろいろ準備を進めなければなりません。また忙しくなりそうです。
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2006.05.15
2006年5月13日(土)、14日(日)、関西学院大学西宮上ヶ原キャンパスにて、今年度の日本法社会学会学術大会が開催されました。今回の大会は、企画委員会の単年度化後の最初の大会で、「現代における私法・公法の<協働>」「会社をめぐる法と社会規範」という二つのテーマを軸に企画が立てられていました。セッションとしては、企画委員会シンポジウムや全体シンポジウムのほかにも興味深い個別報告やミニシンポジウムが満載されていたのですが、体は一つなので、参加できるセッションは限られ、欲求不満が募りました。
まず13日(土)午前中には、ミニシンポジウム①「『e-サポート裁判所』の創造的構想-民事訴訟を中心として」に参加しました。「e-サポート裁判所」とは、ITによる訴訟の高質化を目指す試みであり、各種申立、訴訟管理、争点整理、口頭弁論、判決の作成、記録の保存といったすべてのプロセスを統合的にIT化し、電子メディアを通じた口頭主義の充実強化、資料管理の一括化、時間と空間の節約、情報の網羅を実現しようとする試みです。すでに裁判所に個別的に導入されているITを統合化し、効率化を図っていくための具体的施策を研究する試みとして理解しました。もっぱら裁判所のあり方を中心に議論が進められていたのですが、e-サポート裁判所の試みは、e-コマースなどの領域で急速に発展し充実してきているOnline Dispute Resolution (ODR)と裁判所の間の垣根を低くし、相互の乗り入れを可能にする、かなり大きな変化に繋がる試みであると思われます。ODRとe-サポート裁判所の相互乗り入れに関する議論は、裁判所の固有業務として何が残るかという問題を新たに突きつけてくるはずです。
同日午後には、ミニシンポジウム④「市民と法専門教育-ロースクールにおける実技教育の課題」に参加しました。Simulated Client(SC)を通じた模擬相談や模擬調停をビデオに撮り、それをSCと学生、教員とで検討し、教育的にフィードバックしていく名古屋大学法学研究科での実践型授業の試みには、大変多くのことを学ばせて頂きました。また、医学教育においてSimulated Patient(SP)を用いて実践教育をする場合と法専門教育でSPを使って実践教育をする場合の異同にもいろいろ気付かされました。法曹と一般市民とのコミュニケーションがいかに難しいかを学生(教員自身も)に気付かせ、改善を試みていく教育方法の必要性は常々感じているところですが、なかなか実践にはこぎ着けられないものです。
14日(日)午前中にはミニシンポジウム⑦「『司法過疎』とは何か」に参加しました。司法過疎対策には、法曹への「空間的/時間的近接性」のみならず、「恒常性/随時性」という側面からのアプローチが必要であるという指摘、法律相談センターが設けられると、弁護士への親近感は高まるものの、なぜか法的紛争解決意欲は低下するというデータの提示、公設事務所など常駐の機関を設けたからといってすぐに人々の法意識や紛争処理行動に変化は生じないが、その地域で法律相談等を利用する人々の相談行動パターン等に変化が生じ、その累積的結果として徐々に当該地域の人々の法や法制度についての意識が変化し、紛争処理行動も変化するという仮説の検証、司法過疎地で活動している司法書士さんによる、弁護士や司法書士の高齢化や裁判所支所での開廷日の少なさゆえに生じる深刻な問題の紹介、そして、司法過疎の本質には、単に弁護士等の不足ばかりでなく、むしろ弁護士利用や事務所開設に必要な情報が決定的に欠けていることがあるという指摘にはうならされました。
同日午後の全体シンポジウム「現代における私法・公法の<協働>」もまた非常に示唆に富むセッションでした。行政法の立場からの公私の協働のあり方についての問題提起、私法の立場からの問題提起、市民活動から捉えた公私協働についての問題提起、そして司法の機能の観点からの公法・私法協働の問題提起があり、それぞれ興味深く伺いました。ディスカッションでは、国立市景観訴訟判決の評価を中心に、様々な議論が提示されました。もっとも、何が公共的に保護すべき景観法益で、何が私的な眺望利益に留まるかの線引き論にかなり時間を食われてしまい、行政による公的コントロールが撤退する中で、私的自治を通じて公的利益の実現をどのように図っていくのかといった、より本質的議論に時間を割くことができなかったことには、やや欲求不満を感じました。私自身、先だって脱稿した論文で、行財政改革、司法制度改革以降の「公私協働による私的自治の質の確保」の問題について論じているので、さらに別の機会にこうした議論を深めていく必要性を強く感じました。
来年度の大会企画委員の一人として、今年度の大会で残された課題をどのように整理し、次回の大会に反映させていくべきか、いろいろ考えをめぐらせているところです。
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2006.04.28
2006年4月28日(金)13時から17時過ぎまで、大阪大学コンベンションセンター会議室3(2F)にて、大阪大学サスティナビリティ・サイエンス研究機構(RISS)第1回デザインハウスワークショップが開催されました。大阪大学サスティナビリティ・サイエンス研究機構とは、持続可能社会を実現するために、社会制度、エネルギーシステム、製品循環の仕組み、ライフスタイル、コミュニケーションのあり方をどのように組み合わせていくことが望ましいかといったことを実践的に研究するバーチャル研究機構です。東京大学を中心とするサスティナビリティ学連携研究機構の一支部の位置づけです。4月からこの研究機構の兼任教員を担当することになったので、理解を深める目的で参加して参りました。
第1回ワークショップのテーマは「持続可能社会へ向けたエコデザイン」。環境に優しい製品設計、循環システム構築といった、すでに聞き飽きた話だろうと思って参加したのですが、そうした「初歩的エコデザイン」の話ではなく、様々な具体的未来像に合わせたテクノロジーの可能性について議論が行われるなど、エキサイティングなワークショップでした。また、リコーと松下電器の成功事例の紹介も興味深いものでした。
なるほど、線形的な未来像を念頭に置いた初歩的エコデザインの議論はすでに尽きているような気がします。しかし、ある程度タイムスパンを長くとれば、様々な可能的未来を考えることができ、それに合わせて様々なエコデザインを構想することは可能です。なお検討可能な未来が開かれていることに気付かされました。
翻って考えてみるに、司法制度改革論議のように、私たち法学系研究者が制度構想を議論するとき、未来像が抽象的かつ線形的で面白くない気がしてきました。もっと具体的に様々な未来のありようを想像しながら、それに合わせた制度設計や運用デザインを構想することが必要なのではないか。私自身、法曹の新しい職域についてこれからいろいろ議論していこうと思っているところですが、そこでの法曹の未来のありようは、なお抽象的なものに留まっています。未来の法曹のありようをどれだけ具体的に構想できるかで、面白い研究成果が出せるかどうかが決まるような気がします。いろいろ反省させられるワークショップでした。
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2006.03.18
2006年3月17日(金)15時から、大阪大学大学院法学研究科大会議室(法経総合研究棟4F)にて、労働ジャーナリストの金子雅臣先生をお招きして、研究会「職場トラブルの実態と対策上の課題―パワハラ、セクハラ、職場いじめ―」を開催致しました。本研究会は、すでに紹介しているように、科学研究費補助金基盤研究(B)「紛争回避と法化の法理論的・実証的検討」(研究代表者・福井康太)の研究活動の一環として実施されました。
金子先生は、東京都の労政事務所で長年労働相談員を務めてこられた方で、職場トラブルについては日本の第一人者とも言うべき人です。東京都では、毎年45000件もの労働相談が寄せられます。そうした相談には時代を先取りする問題も多々見出されるようで、先生はそうした問題についても、いろいろ指摘しながらお話しされました。金子先生は、東京都の労働相談のここ30年(先生のご在任中)の変遷からお話をはじめられ、つぎに、最近増大している個別的労使紛争解決のための東京都の制度(「あっせん」システム)の概要を紹介され、これに続けて、パワー・ハラスメントとセクシャル・ハラスメントの今日的トピックスについて紹介され、最後に、個別労使紛争が今後どうなっていくかについて、私見を交えながらお話しされました。
私にとって興味深かったのは、まず、東京都の「あっせん」システムのお話しでした。東京都の「あっせん」システムは、2001年の「個別労働関係紛争解決制度」導入のずっと以前から、都が独自に導入していたシステムなのだそうです。東京都では、45000件の相談事件のうち、1200件ぐらいが「あっせん」手続に持ち込まれるそうです。「あっせん」では、相談員はもっぱら行司役を務めるだけで、「介入せず、裁定せず、強制力なし」に手続が進められます。それでいて、役所の中立性と専門性への信頼をバックに、サポート型の利用しやすい手続として、最近まで比較的に高い解決力を誇ってきたとのことでした。最高時には約9割の事件が解決(労使の合意)に至っていたそうですが、今日では6割ぐらいまで下がってきているとのことです。理由としては、労働事件の多様化と法令の複雑化のために専門的アドバイスが難しくなってきたことや、都の一般職員を相談員とする人事制度の問題などが挙げられました。また、セクハラ・パワハラに関する今日的トピックスについて、金子先生は、具体的事例の紹介を通じて、成果主義による過酷な競争と雇用関係の不安定化・不明確化のもとで職場モラルを維持することがいかに難しくなってきているかを明らかにされました。職場モラル低下のメカニズムについてはずっと気になっていたのですが、重要な示唆を得たという気がいたしました。さらに、個別労使紛争の今後について、先生は、雇用関係の非正規化、時間法制の流動化、雇用契約内容の不明確化が進み、また、単に利益についてのみ争う利益紛争よりも会社の誠意などを争う人格紛争に近い難事件が増え、さらに、労働法制の埒外で働く、法的保護を与えることの困難な労働者たちが急増している現状のもとで、新たに導入される労働審判制度が十分機能しうるのかどうか疑問を呈しておられました。この点については、私も同様の感想を抱いております。
ディスカッションでは、コンプライアンスの強化など、企業モラル向上が盛んに議論されるようになってきている一方で、ハラスメントが問題になる場面ではなにゆえに職場のモラルダウンばかりが目につくのかといった問題が提起され、また、ますます労働事件が難事件化するなかで十分な能力を備えた労働相談員の人材育成をどのようにして実現するのか、すなわち、相談員をスペシャリストとして養成した方がよいのか、それともジェネラリストのキャリア・コースの一環としての相談員体制を維持していった方がよいのかといった問題、さらには行政ではなくNPO等の民間の機関によって労働相談を行う方が望ましいのではないかといったことが議論されました。議論はいつまでも尽きそうにありませんでしたが、金子先生のスケジュールの都合もあり、17時半にはディスカッションを打ち切らざるを得なかったのは残念でした。
金子先生とは今後も研究上の交流を維持していきたいと考えております。今後ともよろしくお願いします。
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2006.03.07
2006年3月17日(金)15時から、大阪大学大学院法学研究科大会議室(法経総合研究棟4F)にて、労働ジャーナリストの金子雅臣先生をお招きしての研究会「職場トラブルの実態と対策上の課題-パワハラ、セクハラ、職場いじめ-」を開催いたします。本研究会は、科学研究費補助金基盤研究(B)「紛争回避と法化の法理論的・実証的検討」(研究代表者・福井康太)の研究活動の一環として開催されます。今回は、東京都労政事務所で長年相談員を務められ、職場トラブルについてのわが国の第一人者である金子雅臣先生に、職場トラブルの実態を踏まえた上で、職場トラブルにどのような対策を立てていけばよいのか、そのための相談窓口のあり方はどのようなものであるべきかについてお伺いし、ディスカッションする予定です。会場にはまだ余裕があるので、関心のある方は、福井(ktfukui@law.osaka-u.ac.jp)までご一報ください。
案内ポスター「Kaneko_Lecture.ppt」をダウンロード
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2006.03.04
2006年3月3日(金)午前10時30分から、本学法経総合研究棟4F大会議室にて「法曹の新しい職域」研究会が開催されました。今回は水島郁子助教授による報告で、タイトルは「企業弁護士の企業との関わり―労働法的視点から―」でした。ドイツ・ハンブルグの弁護士と日本の企業弁護士にインタビューしてきた内容の報告でしたが、いろいろ示唆に富む、エキサイティングな報告でした。
水島報告の前半は、ドイツの専門法曹と企業法曹についてのインタビュー内容の紹介でした。みなさんご承知のとおり、ドイツでは近年司法試験の合格者が増え、毎年1万人ほどが司法試験(第二回試験)に合格し、法曹有資格者(Volljurist)になります。法曹の資格を有する者が10万人以上いて、彼らの間での競争には熾烈なものがあります。彼らが、弁護士、裁判官のほか、公証人、税務弁護士、会計弁護士、公務員、研究者、企業法曹などの職を争うわけです。果たしてどうやって生計を立てているのか。まずドイツには「専門弁護士」という制度があります。そこで、専門化戦略によりそれぞれが生計を立てていることが考えられます。専門弁護士は、専門弁護士法1条により、その分野が行政法、税法、労働法、社会法、家族法、刑法などに限定され、認定を得るためには一定の知識(論文などを出している必要がある)と実務経験が必要とされます。2004年現在で15%の弁護士が専門弁護士として働いているそうです。こういう差別化によって弁護士が生き残りを図ろうとしていることはたしかですが、それは単に肩書きに過ぎず、法廷では役に立たない無意味な制度とする意見もあり、これが生き残りの決め手ということではなさそうです。
そうだとすると、民間企業などで法曹有資格者が働いて生計を立てているということにならなければ、つじつまが合いません。実際、統計的には法曹の約15%が民間企業で働いていることになっています(統計に表れない形でもっといるのではないでしょうか)。企業弁護士(企業内弁護士、組織内弁護士)は、企業と雇用契約を締結して、一種の従業員として働いています。彼らの平均年収は、ものの本によれば平均10万ユーロとのことで、ドイツの給与水準からすれば比較的に高給取りのようです。主として、法務部を統括するという役割が期待されるようです。企業にとって、外部の弁護士に依頼するよりコストが安いことや、手近に法的アドバイスが得られること、組織固有の問題に対処でき、早期対応や損害回避に使えるといったメリットがあります。もっとも、ドイツ連邦弁護士法46条1項は常時雇用関係にある弁護士が雇用主の訴訟代理人になることを禁じています(オランダと異なり、組織内法廷弁護士は認められないということです)。弁護士に必要な職務の独立性が確保できないというのが理由です。訴訟代理ができないのであれば、果たして彼らを組織内で法曹有資格者として特別扱いする意味はどこにあるのか。この問題の検討は今後の課題です。
水島報告の後半は、日本の企業弁護士のインタビュー内容の紹介でした。インハウスロイヤーズネットワークのHPによれば、2006年2月現在で、企業に属する弁護士が約160人、行政庁に所属する弁護士が約40人だそうです(企業弁護士の定義をどうするかによってこの数は増減します)。企業に所属する場合の所属構成は、外資系企業と日系企業とでほぼ半々とのこと。証券会社にその3割程度が所属し、ほとんどが大企業で働いているそうです。最近では保険会社が大量に弁護士を採用しているという話もあります。企業弁護士は、(日本の場合も)企業との間で労働契約を締結して、従業員として働くことになります。賃金の形態には、①年俸制、②通常賃金+弁護士手当、③通常賃金+早期昇進、④特別の賃金体系といった場合があるようですが、他の従業員との関係もあり、個別の契約で賃金体系が決まるというより、既存の就業規則や賃金体系を運用して賃金を決める場合が多いようです。勤務形態は他の従業員と基本的に同じで、土日に休むことができたり、有給休暇を取得できたりするなど、待遇面は悪くないとのこと。優秀な企業弁護士はすぐによそに引き抜かれるので、引き留めのために苦慮して、彼らによい待遇を保障しているということのようです。労働契約に基づいて企業に対する誠実義務が発生しますが、これは法曹倫理上の問題を生じます。そこで、企業弁護士は、企業のために働くということと、弁護士に期待される公益性とが矛盾しない範囲でその業務を行うことになります。ただし、地方弁護士会などの所属で公益活動に頻繁に出て行かなければならない場合には、この矛盾は深刻になります。企業にとっての企業弁護士のメリットは、必要に応じていつでも法的アドバイスが得られること、組織固有の問題に対処でき、早期対応や損害回避に使えることなど、ドイツの場合と変わりません。企業弁護士は単に問題解決に取り組むばかりでなく、アフターケアや問題発見といった役割も期待されます。とりわけ、仕事の割り振りと調整といった業務が重要だとのことです。
ディスカッションでも様々な意見が出されましたが、とくに企業弁護士の誠実義務と公益性の間の矛盾をどうするかといった問題や、法曹に期待される能力は法的事務処理に留まるのか、それとも総合的マネジメントまでも含むのかといった問題は議論が尽きない状況でした。水島さんは、継続してインタビュー調査を続けていくそうなので、今後のさらなる発見が期待されます。
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2006.02.23
2006年2月22日(水)17時30分から、札幌弁護士会館にて、札幌医療実務共同研究会が開催されました。この研究会は本来大阪大学スタッフの先端医療訴訟に関する研究グループの研究会ですが、今回は札幌地裁や札幌弁護士会との合同の研究会となりました。研究会は、大阪大学の研究グループが、医療関係訴訟についての全国レベルの取り組みをふまえた上で、医療関係訴訟の効率的な争点整理のあり方、鑑定のあり方、和解のあり方などについて報告をし、それを前提に札幌地裁や札幌弁護士会の先生方とディスカッションするという形で進められました。
実務家との合同の研究会なのであまり詳細をお知らせすることはできませんが、印象に残った議論をいくつか挙げておきます。①専門委員は争点整理を補佐するというレベルの一般的医学知識を補充するために用いられており、高度の専門知識は期待されていない。そのような専門知識は鑑定人に対して期待される(この点は他の地方裁判所と変わらない)。②鑑定は、複数鑑定化が一つの流れのようになっているが、これが行き過ぎると鑑定の価値が下がってしまうので、鑑定制度全体にとってプラスとは言えない。むしろ、鑑定を専門家の業績として社会的に承認していくなど、鑑定の価値を上げていく方法を考えることで、鑑定制度を充実化する方がよい。③医療関係訴訟に特有の実効的な和解技術というものはとくにない。専門訴訟特有の変容はあるが、和解一般に共通する技術が用いられる。④和解の時期については、統計的には争点整理後が多いようであるが、その時点がとくに望ましいというわけではない。より重要なことは裁判官が心証を固められるかどうかである。⑤鑑定終了後であっても和解が必要ないということにはならず、一審判決を出しても控訴審まで事件の解決が先延ばしされることを考えると、判決を出すよりも和解によって事件を終結させる方が望ましい場合もある。
札幌地裁、札幌弁護士会の先生方は、非常に親切かつ丁寧な方ばかりで、懇親会でもいろいろお話しすることができました。このような貴重な情報交換の機会をお与え頂き、本当にありがとうございました。
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2006.02.19
2006年2月18日(土)13時から、京都大学・芝蘭会館別館にて、日本法社会学会関西支部研究会が開催されました。今回の研究会では、大阪大学の仁木恒夫さんとオーストラリアNSW州シドニー市マッコーリー大学の陳紀華(Chan Kay-Wah)さんの報告およびディスカッションが行われました。仁木さんが、比較的に小規模な個人法律事務所の法的サービス提供のあり方について議論を展開されたのに対して、陳さんは日本の法律事務所の大規模化に焦点をあて、グローバルなレベルでの法的サービス提供のあり方の変容について議論されました。両者の議論の比較対象から多くのことを学ばせて頂きました。
仁木さんの報告は、「法的サービス提供と法律事務員の活動―弁護士と法律事務員との協働関係のために―」と題するもので、主として地方の個人法律事務所のサービス提供のあり方を手がかりにして、法律事務所のサービス提供は、単に事実確定と法的情報提供といった狭い意味での法的サービス提供に留まるものではなく、クライアントの話をきちんと受け止め、それによってクライアントの自立を支援し、フェアな法的サービスを実現する、といったことまでをも含むものであり、そのような法的サービス提供のためには弁護士と法律事務員との協働が果たす役割が大きいとするものでした。仁木さんは、弁護士だけが事務所のあらゆる業務を取り仕切る(事務職員はもっぱら下働き)というあり方よりも、事務職員をも含めた事務所全体のチームワークを通して法的サービスを提供する事務所のあり方の方が望ましいとする立場から、これからの法律事務所のあり方について一つの指針を示そうと試みておられるようでした。ディスカッションのなかでは、仁木さんの示した法律事務所のあり方が実際のものとはやや異なるという指摘もありましたが、クライアントのニーズが必ずしも事実確定・法的情報提供に限定されるものではない以上、仁木さんの示した事務所のあり方も、今後の法律事務所の一つのあり方として十分にあり得るものとの印象を持ちました。
陳さんの報告は、”Foreign and Large Law Firm in Japan: Emergence and Implication”と題する報告で、パワーポイントを用いて英語で行われました。陳さんは、日本の法律事務所の近年の急速な大規模化と、外国法事務弁護士数の増大をデータで示した上で、なにゆえに法律事務所が大規模化し、外国法事務弁護士数が増大しているかについての理由を分析し、さらに、そうした傾向が日本の法律事務所のあり方に対してもたらす影響について検討されました。1000人以上の弁護士を擁する大規模外国ローファームの脅威や外国法事務の急増、そして企業のアジアへの関心の高まりなどを背景として、さらに、複雑事件に対応できる法的サービス体制へのニーズの高まりを受けて、法律事務所(とくにトップ10)の大規模化が加速していることは指摘される通りです。その結果、大規模法律事務所と中小法律事務所(地方はそのような法律事務所ばかり)とに日本の法律事務所のあり方が二極化し、優秀な若手法曹のリクルート合戦が過熱化し、大規模事務所の組織文化やエリート主義の蔓延(個人事務所と年収ベースで10倍近い格差が生じつつある)という弊害までもたらされているという指摘には考え込まされました。ディスカッションでは、近時の企業内弁護士数の増大も同様の背景のもとで生じているのではという指摘や、こうした大規模化によってプロボノ活動などが阻害されるのではという問題提起や、大規模事務所の拡大現象はほとんど東京地区に限られており、その他の多くの地方で増大しているのは1~10人規模の中小の法律事務所だという指摘がなされ、議論は際限なく広がっていく雲行きになりましたが、時間の関係で打ち切られてしまいました。
今回の報告は、いずれも法曹の今後のあり方について重要な示唆をもたらすものでした。大阪大学の共同研究プロジェクト「法曹の新職域グランドデザイン構築」でもこうした議論を深めていきたいと考えているところです。
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2006.02.14
2006年2月13日(月)13時から、東京・神保町の学士会館にて、大阪大学・上智大学特色GPシンポジウム「大学対抗交渉コンペティションと交渉教育」が開催されました。2002年以来4回にわたって開催されてきた大学対抗交渉コンペティションが交渉教育にどのような効果をもたらしているか、社会に求められる有為な人材の育成にどのように貢献できているかをアピールするシンポジウムでした。シンポジウムには、弁護士、外国弁護士、企業法務担当者、大学教員(含むオーストラリア国立大学からの参加者)、学生、コンペOBといった多くの参加者が集まりました。
シンポジウムでは、まず運営委員会メンバーによる交渉コンペティションの趣旨や目的、特徴についての紹介、調停の部についてのDVD映像による説明などがあった後、上智大学チームによる「仲裁の部」の実演がありました。おそらく、この実演が今回のシンポジウムの目玉だったのだと思います。この実演は、実際の仲裁リーグに比べると大幅に時間が短く、一つの論点に絞っての攻撃防御に留まるものでしたが、本番のイメージは十分に伝わるものでした(設例については、本ブログの12月5日版をご覧下さい)。一度やったリーグの再演ということで、レッド社、ブルー社いずれの主張もよく整理されたものでしたが、争点の絞り込みが不十分で議論がかみ合わないところがあったこと、法的主張というよりも情に訴える主張が多く見られたこと、主張の正当化のために法的根拠をきちんと挙げるというスタイルができていなかったことなど、気になる点も見られました。こうした問題点については、審査員講評ですべて指摘されていました。
シンポジウムの後半戦は、後援者等による交渉コンペティションによせるスピーチでした。スピーチは、第一回コンペから後援を頂いている住友グループ広報委員会の井場満事務局長、日弁連法務研究財団研究部会長の大村扶美枝弁護士、今年度から後援頂くことになったWhite & Case法律事務所所長のロバート・グロンディン弁護士、ICC国際仲裁裁判所副所長の澤田壽夫・上智大学名誉教授、デュポン株式会社の小林昭生社長によって行われました。いずれも、交渉コンペの人材育成効果を高く評価し、今後もこのような活動を、さらにグローバルなレベルで続けて行ってほしいとするものでした。これらのゲストスピーチに続いて、東京大学の太田勝造教授が、交渉コンペの教育効果について講演されました。そこでは、交渉コンペが、論理的思考力を身につけるのみならず、さらに自主性とチームワーク、そしてリーダーシップを身につける絶好の機会であることが明らかにされました。
最後に、参加大学教員、参加学生とフロア参加者とのディスカッションがありました。まず参加学生が交渉コンペで何を学んだかを一言ずつ述べ、そのあと、出題の背景やシンポの今後の展開、コンペと実際の交渉の違いといったことについて様々な意見交換が行われました。学生は夢のある交渉を行いたいと考える者が多いのに対し、ある実務家から法律家は代理人として交渉を行うのだから、自分の夢を押しつけるようなことはしてはいけないと指摘されるなど、エキサイティングなディスカッションが展開されました。交渉コンペが今後ますます発展することを予感させるディスカッションでした。
シンポ終了後の懇親会で、私が審査員として関わった学生と再会し、いろいろ情報交換することができたこともまた嬉しいことでした。交渉コンペ参加学生のみなさん、今後の活躍を期待しています。私も審査員等として今後も交渉コンペに協力していきたいと思います。
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2006.02.13
2006年2月12日(日)16時から、東京・赤坂の光和総合法律事務所会議室にて、交渉教育研究会が開かれました。今回は、大澤恒夫弁護士による事例報告およびディスカッションでした。大澤先生は、昨年夏に大阪大学で担当されたネゴシエーション講座で得られた経験から興味深い事例を拾い上げ、紹介されました。非常に示唆に富む事例で、ディスカッションが終わらないのではないかと思われるほどでした。
大澤先生の経験とは、ネゴシエーションのロルプレイ中に、参加学生が感情的になってプラスティック製のネームプレートを投げたところ、相手も感情的になってネームプレートを投げ返し、それが割れ、破片が飛び散り、お互いにいがみ合って収拾がつかない状態になったものを調停したというものでした(ロルプレイ中に現実のトラブルが発生してそれを調停するというのは珍しいケースです)。これは「感情的なトラブルのメディエーションはどのようにして行われるべきか」を考える上での好事例となりました。
大澤先生は、実際に行われた調停をとりあえず伏せ、設例を会社の会議での従業員同士のトラブルというようにアレンジ(従業員のA男が会議中に感情的になりプラスティック製の試作品を投げ、B子が試作品を投げ返して応戦して喧嘩になり、そこに部長が調停のために喚ばれたという設例)したうえで、3種類の解決のシナリオを示されました(私を含む数名の若手がA男役、B子役、部長役を務める形で実演しました)。1つ目は事実関係を確認し、責任の所在を明らかにするという「法律家型」の調停のやり方でした。2つ目は、とくに事実関係を調べることなく「(被害も発生していないのに)がたがた言っていて会議ができないとは何事だ」とB子を叱責すると同時に、A男をも「会議中に物を投げるなんてとんでもない」と叱責し始末書を書かせる(喧嘩両成敗?)というような調停のやり方で、「会社上司型」(私の印象です)とも言えるような調停のやり方でした。3つ目は、喧嘩の当事者の主張をリフレイミング等の手法を用いながら時間をかけて聞く「アクティブリスニング型」の調停のやり方でした。実際に大澤先生がとられた方法は3つ目だったそうです。大澤先生は、日頃からアクティブリスニングに心がけておられるとのことで、無意識のうちにそのような調停手法を用いられたとのことでした。
ディスカッションでは、まず、アクティブリスニング型の調停は法律家の調停というよりも、むしろ一種のサイコ・セラピーであり、心理臨床家のアプローチに近いのではないかという指摘には共鳴しました。合意を目指すファシリテーティブなメディエーションと、合意を目指さず本人の変容を促すことを旨とするトランスフォーマティブなメディエーションとは大きく異なり、後者の方法はサイコ・セラピー的であるという指摘はその通りだと思います。また、現場に居合わせた者ではなく、外部から第三者が登場することではじめて調停が可能になるという指摘、調停者がある程度社会的地位のある者であることも重要だという指摘、紛争の心理的なしこりを取るというのが調停成功の鍵なのではないかという指摘も当を得たものでした。
大澤設例でジェンダー配置が異なればどのような展開となったか(加害者が女性の場合や、調停者が女性である場合など)、個人を相手とするメディエーションではなく、組織や集団を相手とするメディエーションであったらこのような方法は有効だったか(組織や集団は一枚岩ではなく、適切な相手と交渉するのでなければ解決には繋がらない)、謝罪のタイミングの問題(ある程度話が煮詰まった段階でないと謝罪しても火に油を注ぐことになる)、調停者の年齢はメディエーションの展開にどのように影響するかといった問題(ルール志向型の調停であれば年齢はあまり関係がないが、感情志向型の調停であればある程度人生経験のある人でないと調停できない)については、さらに議論が続くという印象でした。
ディスカッションの終盤で、法曹はいかなる意味で優れたメディエーターたり得るかという議論になりました。法曹は感情的紛争のメディエーションにはあまり適しないのではという指摘もありましたが、他方、ある弁護士の先生は、法曹はたくさんの紛争事例を経験しており、解決のシナリオについてたくさんの引き出しをもっているから、そこから解決案を引き出してくることで紛争をうまく解決できると指摘されました。企業経験の長い大学教授の先生は、契約は「これなら妥協できる」という企業間の妥協の集積物なので、これをたくさんストックしている法務担当者は、そこから相手の受け入れ可能な収拾案を導き出し、適切な解決を実現できると指摘されました。さらに、集積された紛争事例のストックは、単に紛争の事後的解決のみならず、紛争の予防・早期対応にも有用であるという指摘がなされ、私自身も我が意を得たりと感じました(最近私は、紛争の予防・早期対応に関心を持っているので)。
交渉教育研究会では、いつも大変多くの示唆を得ることができます。今後とも交渉教育研究会に継続して参加し続けたいと考えております。
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2006.02.03
2006年2月2日(木)15時から、本学法経総合研究棟4F大会議室にて、嶺南大学校・法科大学 法学部の朴洪圭教授の講演会(大阪大学法学会主催)が開催されました。朴先生は韓国労働法がご専門です。先生は、1983年から85年まで大阪市立大学に留学した経験があり、日本語でご講演頂くことができました。今回は韓国法曹の職域に関する講演をお願いしておりましたが、テーマをより広く捉えて「韓国の準法律家に関する研究」というタイトルでお話し頂きました。韓国の法曹についての紹介はしばしば見られるのですが、韓国の準法曹についての紹介はほとんどなく、貴重な講演となりました。朴先生は、韓国の公証人(これは法曹職)、法務士(日本の司法書士に相当)、会計士(日本の公認会計士に相当)、税務士(日本の税理士に相当)、弁理士、鑑定評価士(日本の不動産鑑定士に相当)、労務士(日本の社会保険労務士に近いが、社会保険業務は行わず、もっぱら労務文書の作成を行う)、行政書士、会社法務部、行政機関の法務部などについて紹介されました。
朴先生のご講演は内容的に大変幅の広いもので、先生ご自身の経験を交えて、韓国の法曹と準法曹の階級格差がいかに大きいか、刑事訴訟に及ぼされる法曹の権威主義の影響がいかに深刻か、司法試験人気の過熱によって大学の学部教育がいかに荒廃しているか(法学部のみならず、文系学部全体に及んでいる)といったことにまで話題が及びました。最近韓国でも司法試験合格者が年間1000人(9割が弁護士になる)にまで増やされたとはいえ、いまだに法曹が大変に権威をもっており(1998年現在で裁判官1490人、検事が1120人、弁護士が3360人:人口10万人あたり、弁護士7.1人)、こうした問題はなかなか解消されそうにありません。
私にとって興味深かったことは、韓国はアメリカと違う意味で訴訟社会であるということ、すなわち、些細な問題でも刑事告発、告訴を頻繁に行い、民事事件であっても名誉毀損等刑事事件類似のものが非常に多いというご指摘でした。訴訟についてのアジア的共通傾向などというものは、とてもここには見いだせません。韓国の法務士は法曹に比して社会的地位が低く、独立の事務所で働くよりも、弁護士事務所に所属して業務を行うことが多いということ、また、法曹の都市部集中のために、司法過疎が深刻であるにも拘わらず、法務士に簡裁代理権を付与するといったような議論は韓国では見られないこと、さらに、労務士については訴訟代理権を認めて欲しいという議論もあるが、なお実現していないことなども興味深く伺いました。
朴先生は、日本と韓国との法学界の学術交流に大変な熱意を持っておられます。このような交流の機会を継続することで、大阪大学大学院法学研究科と嶺南大学校・法科大学との学術交流がさらに発展すると確信しています。
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2006.01.31
2006年1月30日(月)14時から、本学法経総合研究棟4F大会議室にて、オランダ・グローニンゲン大学法学部のブローリング教授による講演会(大阪大学法学会主催・EUIJ関西後援)が開催されました。ブローリング先生は行政法、環境法がご専門の方ですが、今回は「EU諸国における法曹の新しい職域:オランダの場合」という題目でご講演頂きました。グローニンゲン大学法学研究所長として、オランダの法曹職域の現状や発展領域、法曹の将来像といったことについてお話し頂きました。司会および通訳は私が担当させて頂きました。
ブローリング先生は、オランダの法曹の職域分布や変動に関する統計に基づいて講演されました。大要はつぎの通り。今日オランダには1,600万人の人口があり、そこには40,000人の法曹(法曹三者だけでなく、公証人、法学研究者、公共部門で働く法実務家を含む)がいる。9大学の法学部に25,000人の法学部生(グローニンゲン大学には3,500人)がおり(全学生数の13%が法学部生)、その40%が法廷弁護士(Barrister)・公証人・裁判官に、24%が公共サービス部門に、3%が法学教育に、6%が銀行・保険業に、そして27%がその他の職に就く(特許弁護士などとして産業界に就職)。学生には法廷弁護士になりたいという希望が多く、また、意外なことに大規模事務所よりも小規模事務所に就職したいと考えている学生が多い(大規模事務所は契約業務や顧問業務が中心で訴訟を担当する機会が少ないことが原因とのこと)。より具体的には、裁判官は現在2,200人で、手続の迅速化・効率化を強く求められるようになり、手続マネージャーとしてより多くの事件を処理することが求められるようになっている。EU法や国際法、そして調停・あっせん等のADRが裁判官の新しい職務になっている。法廷弁護士は12,500人おり、ICJ等国際的司法機関で働く法曹、企業内法廷弁護士(In-house Barrister)、そしてADRが彼らの新しい職域である。公証人は1,250人いるが、営利性と競争を求められるようになり、数の増大は止まっている。さらに、法曹のうちの9,600人が政府、行政庁、公共サービス部門で働いている。ここでは「法的管理」が法曹に期待される新しい職務である、等々。
さらに、ブローリング先生は、オランダの統計に表れた深刻な紛争(18歳以上の者が最近5年間に経験した深刻な紛争)を引き合いに出し、このうち4%しか判決に至らないという事実を挙げ、オランダは決して訴訟大国ではないこと、オランダでもADR等の方法が広く用いられるようになっていること、ADR化の現象は本来潜在的にあった傾向が前面に出ているに過ぎないことなどについて言及され、最後に、人口100,000人につき弁護士15.7人という日本の弁護士数は、アメリカの353.4人、イギリスの140.7人、ドイツの134.1人、オランダの250人と比較してあまりに少なく(2003年統計に基づく)、日本の法曹にとって必要なことは、さらに多くの者が法廷弁護士になることだと強調されました。
ディスカッションでは、法廷弁護士の資格認定の方法や、組織内法廷弁護士がいかなる意味で新しいと言えるのか、オランダが訴訟爆発の状態にあると言えるのか、ADRと訴訟のいずれが望ましいと考えられるのか、そもそもLawyerという用語でどのような職務がカバーされているのか、といったことが議論されました。少ない参加者だったにも拘わらず、充実した議論となりました。
大阪大学はグローニンゲン大学と交流協定を締結しており、今後も同大学との交流は続いていきます。今回のブローリング先生の講演もまた、今後の交流のための布石となるものです。両校の交流がますます発展することを願っております。
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2006.01.29
2006年1月28日(土)10時から17時まで、グランキューブ大阪(大阪国際会議場10階会議室1004)にて、大阪大学大学院高等司法研究科先端的法曹養成センター設立1周年記念シンポジウム「紛争予防マネジメント-『もめごと』がこじれる前にできること-」が開催されました。今後法曹にますます求められるようになる、紛争の予防や早期対応、紛争解決交渉といった職務について、医療紛争、建設・立地紛争、企業活動における紛争を手がかりにして、様々な角度から活発な議論が展開されました。本シンポジウムには、こちらが期待していた以上に多くの方々にご参加いただき、盛況でした。
本シンポジウムは3つのセッションに分けて進められました。
第1部では、医療紛争の予防と紛争対応に関する議論が展開されました。最初の講演者の永井厚志先生は、東京女子医科大学副院長で、同病院医師による心臓外科手術に関して発生したトラブル事例の処理において、内部調査委員会の委員などを務められ、同病院において、患者家族や第三者をも交えた医療事故調査検討委員会の設置に尽力された先生です。永井先生は、医師・病院が患者家族とコミュニケーションを確保し、信頼を得るためにどのような工夫が必要か、組織体質を改める上でどのような困難があるか、医療紛争を深刻化させないためにはどのような制度が必要であるかといったことについてお話しされました。つぎの講演者はNECソリューションズ・アメリカのリンダ・フーパー先生でした。フーパー先生は現在、NECアメリカでヘルスケア・ソリューション事業(医療問題解決支援事業)に携わっておられる方で、14年間にわたりペイシャント・セーフティー・コンサルタントとして病院に勤務され、ヘルスケア・マネジメント業務に携わってこられた方です。フーパー先生のお話は、医療組織の中で医療者間・対患者で効果的なコミュニケーションを確保するための方策、とりわけSBAR(状況把握/背景理解/評価/提案)枠組の重要性、トラブル発生時に調停や仲裁を通じて早期の紛争解決を図るための工夫、そして組織内の医療紛争オンブズマンの重要性などについてのお話しでした。以上について、本学法学研究科の仁木恒夫助教授がコメントされました。仁木コメントは、いずれの講演者も、紛争の予防、早期対応にはコミュニケーションが重要だとしていることを指摘し、患者や家族の気持ちをくみ取るような対話を確保するためにどのような工夫がなされているか等を、より具体的に講演者に質問するものでした。フロアを交えたディスカッションでも、医師や歯科医師、弁護士の方から、過誤を犯した医師の処分や再教育、医療過誤保険のあり方などについて質疑が寄せられました。医療活動においてはあらゆる場面で適切なコミュニケーションが必要です。コミュニケーションこそが医療事故を減らし、また事故が発生した場合でも紛争の深刻化を防止します。医療活動におけるコミュニケーションの重要性を再認識させられました。
第2部では、建設・立地紛争の予防と紛争対応に関する議論が展開されました。このセッションの最初の講演は、盛岡通・大阪大学大学院工学研究科教授でした。盛岡先生は環境工学のご専門で、日本リスク研究学会会長などを歴任され、環境リスクマネジメントの第一人者です。盛岡先生は、①市街地における遊技場等迷惑施設建設をめぐるトラブル、②OAPの土壌汚染事例のトラブル、そして③環境政策強化にともなう「既存不適格」建物をめぐるトラブルを例に挙げ、これらすべての事案について、「将来どのような問題が起こりうるか」の評価のズレ、つまり不確実なリスクの評価をめぐる埋められないキャップこそが、紛争の主要な原因をなすというご議論を展開されました。本セッションの第2講演は、廣田尚久弁護士のご講演でした。廣田先生は、いわゆる「ADR法」の制定準備のための「ADR検討会」のメンバーだった方です。長年、交渉を通じた和解による紛争解決に取り組んで来られました。廣田先生は、今後増えていくことが予想される建設・立地紛争等の「リスク社会型紛争」に対処するためには、将来志向の伸びやかな解決こそが求められるのであり、紛争を予防するためのコミュニケーション確保を核とする予防的コンフリクトマネジメント、そして、当事者の不安や心理的ダメージに対する手当てとしてのケア的コンフリクトマネジメントが重要だという指摘をされ、ADRはそうしたコンフリクトマネジメントの中核を担うことができると指摘されました。廣田先生は、建築紛争のように、いろいろなトラブルが潜在している領域では、東京都建築紛争調停委員会に見られるような調停・あっせん制度をあらかじめ用意しておくことが必要であり、さらに、国土交通省が目下推進中の「社会資本整備の合意形成円滑化のためのメディエーション導入」といった方法が重要な役割を果たしうるということを指摘されました。続いて、両講演について私がコメントさせて頂きました。私は、盛岡先生に対しては、不確実なリスクの評価が紛争の核心となるような「リスク社会型紛争」の処理については、まずもってコミュニケーションを通じた問題の共有が不可欠の前提となり、そうした問題共有をアシストすることができる人材の養成が重要であることを確認し、そのような人材育成に関するプログラムについて質問させて頂きました。また廣田先生に対しては「リスク社会型紛争」に対応できるADRの可能性について、先生が考えておられる具体的な構想について質問させて頂きました。フロアとのディスカッションは、ADR化と法の近代化との関係や、社会的リスクの保険化の可能性といったことをめぐって展開されました。非常に示唆に富むディスカッションでした。
第3部では、企業法務における紛争予防、早期対応に関する議論が展開されました。最初の報告者は諸石光煕弁護士でした。諸石先生は、司法試験合格後住友化学株式会社に入社され、長らく同社の法務、知財分野で活躍された企業法務のスペシャリストであり、企業リスクマネジメントの第一人者です。諸石先生は、ご自身の企業法務の経験に基づいて、今日企業法務で求められる業務として臨床法務、予防法務、企画法務、内部統制といった業務があると指摘され、つぎに、あらゆる企業活動が法務の担当たり得るということを指摘され、さらに、ビジネス紛争の予防、コンプライアンスの確保のために何が必要か、予防のための契約書作成業務において必要な事柄、そして紛争解決手段の適切な選択のあり方などについて講演されました。つぎの講演は、内田知男・銀泉保険コンサルティング社長のものでした。内田社長は、ご自身の金融業務、保険業務の経験に基づいて、コーポレート・リスクとしての企業紛争、とりわけ企業不祥事としてしばしば問題化されるトラブルに焦点を合わせ、予防のための内部統制の重要性、そのための会社に求められる組織体制のあり方、そして、新会社法における内部統制のあり方などについて講演されました。両講演にコメントされたのは佐藤良治・日立キャピタル株式会社業務役員社長室長でした。佐藤さんは、企業弁護士を使う立場から、企業法曹に求められる資質、企業活動において弁護士を適切に使う方法などについて質問されました。フロアとのディスカッションでも、企業法曹に求められる能力や、社長に法令を遵守させるための方法などについて質疑がなされました。
本シンポジウムでは、タイムスケジュールの関係上総括ディスカッションに十分な時間がとれず、このため、本学法学研究科の中山竜一教授にパネラー(各セッションの講演者・コメンテーター)に対する意見や質問を出してもらい、それにパネラーが応答するという形で総括ディスカッションが行われました。中山教授は、今日の社会がリスク社会であるということを指摘された上で、リスクマネージャー等の役割と法曹の役割はどのように分担されるのか、予防原則について環境リスクマネジメントの専門家はどのようなスタンスをとるのか、そして、今日の激変する法状況のなかで法曹にはどのような資質が求められているのかといった質問をされました。回答はそれぞれコンパクトに行われました。詳細は割愛しますが、私の印象に残ったのは、金融法務の領域では、法令のない領域に新たにルールを作っていく創造的能力がもとめられるということ、企業法曹には法曹資格が重要なのではなく、人格温厚でバランス感覚のある「能力のある」法曹こそが求められるという回答でした。司法試験合格3000人時代の法曹は、単に資格を持っているだけでは不十分です。それに加え、高い能力を備え、尊敬に値する人格であってはじめて、一人前の法曹として認められるはずです。
今回のシンポジウムには、私自身シンポWGの企画担当として構想段階から関与し、また、第2部のコメントを担当させていただいたこともあり、本シンポが盛会に終わったことを大変嬉しく思っております。講演者、コメンテーターの先生方、司会やモデレーターとしてシンポジウムの進行を支えて下さった先生方、講演者との調整や会場設営で走り回って下さったスタッフのみなさん、本当にありがとうございました。
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2006.01.06
2006年1月24日から2月1日まで、「法曹の新しい職域」科研でオランダのグローニンゲン大学のヘルマン・ブローリング教授をお招きし、また、2月1日から7日まで韓国・嶺南大学の朴洪圭教授をお招きします。いずれの先生にも法曹の職域に関する講演をお願いしています。講演はつぎの日程・場所で行われます。
①グローニンゲン大学のヘルマン・ブローリング先生の講演会
日 時:1月30日(月)14:00~
場 所:大会議室
題 目:EUにおける法曹の新しい職域について
~オランダの場合~
②嶺南大学の朴洪圭先生の講演会
日 時:2月2日(木)15:00~
場 所:大会議室
題 目:韓国における法曹の新しい職域について
これらの講演会は大阪大学のスタッフおよび学生を対象とするものですが、関心のある方は福井(ktfukui@law.osaka-u.ac.jp)までお知らせ頂ければ、個別に対応いたします。
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2005.12.16
2005年12月15日(木)11時から、大阪大学大学院法学研究科新棟4F中会議室にて、学内共同研究「市民生活基盤から見たEU法政」第3ユニット(リスク社会)研究会が開催されました。母体となっている科研費の最終年度ということで、第3ユニット研究会はこれで最終回です。
報告者は同僚の中山竜一さんと私の2人でした。第1報告は私で、「リスク社会型紛争とその解決のあり方-法は将来の危機をどのように扱うのか-」というタイトルで報告させて頂きました。阪大法学54巻6号掲載の「リスク社会の紛争と法-紛争解決の構造転換をめぐって-」を報告用にアレンジしたものです。第2報告の中山報告は「リスク社会と責任概念の再編成-予防原則をめぐって-」もまた「リスク社会における法と自己決定」所収田中成明編『現代法の展望』(有斐閣・2004年)を報告用にアレンジしたものでした。ディスカッションは両報告についてまとめて行われました。そこでは、リスク社会における「予測不可能」なリスクのもとで、責任帰属を中核とする近代司法はどうなっていくのか、とりわけ刑事司法はどうなっていくのか、現状のままでいいのか否かといった議論が展開されました。またリスク評価のタイムスパンの長さと利害交渉のタイムスパンの極端な短さの問題性なども指摘されました。
我田引水で私の報告に関するディスカッションについてのみコメントをしておきます。私は、本報告で、過去志向の責任帰属ではなく、将来に対する不安や事業者等に対する不信感が争いの核となる「リスク社会型紛争」にどのように対処すればよいのかという問題について論じました。そのような問題に対する対応策として、あってはならない事態の「予防」と、影響を受ける周囲者たちへの「ケア」との協働を中心に議論を展開しました。「ケア」におけるコミュニケーションの意義を強調したので、私のモデルは端的に「リスクマネジメント=コミュニケーション」モデルと受け取られたようで、ディスカッションではそのような指摘を受けました。たしかに私はリスクマネジメントにおけるコミュニケーションの意義はきわめて大きいと考えていますが、単純なリスクコミュニケーションモデルに対するような指摘を受けることには抵抗があります。私のモデルでは、主として法を「交渉メディア」としてコミュニケーションが行われると想定しています。法の「交渉メディア」機能が司法を通じた法の「基準提示機能」によって支えられ、また交渉の場で基準が参照されることで法の「基準提示機能」が支えられる関係にある以上、二つの機能は相互補完関係にあります。相互に抵触する契機を含みながらも相互に依存しているということです。だとすれば、重要なことは、この二つの機能の調和です。この調和のあり方についてなお明らかにできていないという批判はあり得ると思いますが、この点については今後の研究の中で明らかにしていきたいと思います。
リスク社会研究班での成果は近いうちに共著にまとめて出版される予定です。関心のある方は是非ともご購入のうえ、ご一読ください。
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2005.11.14
2005年11月12日(土)、13日(日)の2日間、南山大学にて日本法哲学会学術大会が開催されました。今年度は統一テーマが「現代日本社会における法の支配―理念・現実・展望―」というタイトルだったこともあり、憲法関係の研究者の参加も多く、学際的な学術大会という印象でした。参加者も多く盛会でした。
第1日目の午前の部は個別テーマ報告で比較的若手の会員による研究成果の報告が行われました。私はB分科会に参加していたのですが、ドイツの哲学者カント、そしてイェリネック、ケルゼンといったオーソドックスな法理論家の研究紹介が行われるなど、必ずしも時流に流されない、質の高い報告が行われていました。
第1日目の午後の部、そして第2日目は統一テーマ報告およびシンポジウムでした。第1日目午後の部では、最初に深田三徳氏(同志社大)による統一テーマ企画の趣旨および論点整理のための報告が行われ、つぎに長谷川晃氏(北海道大学)による英米を中心とした「法の支配」についての規範伝統の紹介、これに続いて憲法学者の土井真一氏(京都大学)による法の支配および法治国原理の関係についての検討、行政法学者の中川丈久氏(神戸大学)による、行政法学上なにゆえに法の支配原理がほとんど語られないか、行政事件訴訟法改正によってどのような展望が開けるのかについての検討、そして井上達夫氏(東京大学)による法の支配と法の正統性に関する報告が行われました。第2日目午前の部では、服部高宏氏(京都大学)によるドイツにおける法治国原理の展開に関する詳細な紹介および検討、石前禎幸氏(明治大学)によるCLSの「法の不確実性論」と法の支配の関係に関する報告、そして憲法学者である高橋和之氏(東京大学)による法の支配の分析視座に関する検討、そして田中成明氏(関西学院大学)による総括コメントが行われました。(第2日目午後のシンポジウムは所用で退席したので議論の紹介はできません)。
印象に残った統一テーマ報告についてコメントしておくと、まず、憲法学者の土井真一氏の主張される「法治国原理に裏付けられた行政法型秩序形成モデル」と「法の支配に裏付けられた司法型秩序形成モデル」の緊張をはらんだ融合(その一つのあり方が付随的違憲審査制)という視点からは大きな示唆を受けました。しばしば見られる二つのモデルの二者択一(それも前者を否定的に見る二者択一)が不適切であることはその通りであると考えます。
つぎに、行政法学者の中川丈久氏による、なにゆえに行政法学においては「法の支配」が語られないかという問題についての分析、すなわち、行政法学が法の執行局面にのみもっぱら関心を示し、規範の定立のあり方にほとんど関心を示してこなかったことが、行政法学における「法の支配」論議の低調を招いたという分析は圧巻でした。また、氏が、今般の行政事件訴訟法の改正で「当事者訴訟」(公法上の法律関係についての給付・確認訴訟)が存置されたことを評価され、公法上の法律関係に関する確認訴訟にその活用の余地が見いだされると主張される点は、行政法における「法の支配」原理浸透の可能性との関連で大いに共感できると考えます(その場合、当事者訴訟の「原告適格」「確認の利益」をどのように限定するかという問題は残りますが)。
井上達夫氏の「二階(セカンド・オーダー)の公共性としての法」という主張、すなわち、ファースト・オーダー・レベルで正義をめぐる泥沼の闘争が行われるからこそ、それを秩序だった闘争ならしめるための、ファースト・オーダー・レベルを超越した、「二階の公共性=法」が必要だという主張には、一面で共感を覚えつつも、他面、単に泥沼の闘争を超える「二階の公共性」が必要だというだけなら、そこに「法」が来なければならない理由はなく、「神」でも「理性」でも何でもよくはないのか、また、それぞれのアクターがそれぞれ「二階の公共性=法」を主張して争うことになれば何の解決にもならないという疑問を覚えました。少なくとも「二階の公共性=法」であるのはなにゆえかについての論証は必要だと考えます。
いずれにしても、日本法哲学会が今後もこのような学際的テーマで大会企画を立ててくれることに期待しております。
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2005.11.06
2005年11月5日(土)18時30分から、上智大学法学部2号館13階大会議室にて、交渉教育研究会が開催されました。今回の交渉教育研究会は、本学法学研究科の仁木恒夫助教授および長田真里助教授による、教材「塩サバ事件」を用いた授業についての報告とディスカッションでした。
「塩サバ事件」は大阪大学大学院で行われた3研究科(OSIPP、法学研究科、高等司法研究科)合同の授業「ネゴシエーション=裁判外紛争処理法」で用いられた教材です。百貨店で「近海物」として購入した塩サバに疑問を抱いた主婦が、百貨店の食品担当の責任者にその疑問をぶつけたところ、素っ気ない扱いを受け、主婦歴30年以上の経験に裏付けられたプライドを傷つけられ、それで調停の申立をしたという事案です。百貨店の方は主婦の申立をクレーマーによる嫌がらせのように理解しているという設定になっています。この教材は、仁木さんがある地方の消費生活センターに持ち込まれた事案を加工して調停用の教材にしたとのこと。仁木さんと長田さんは、「ネゴシエーション=裁判外紛争処理法」の10月の集中講義の1日をまるまる使って、調停のロルプレイを実施したとのことです。いろいろな読み込みが可能な設定になっていたので、調停のやり方も同席/別席と多様に分かれ、また同意の内容も様々だったとのことでした。
ディスカッションではいろいろなコメントが出されました。仁木さんの設題意図は「調停のなかで当事者の感情的なわだかまりをどのように取り扱うか」を考えさせるということにあったようですが、研究会の参加者の方々はどちらかといえばビジネスに関わる側面に関心があったようです。例えば、法科大学院の学生の教育に用いるのだったら、申立事項をもっと詳細化し、より実務的な観点(例えば「今後のコンプライアンス体制の徹底化を約束させる」など)が付け加えられていた方がよかったのではというコメントには唸らされました。また、経験上日本の商事取引では調停が用いられることはほとんどないという元商社出身の先生のコメントには目から鱗が落ちる思いでした。これは川島テーゼと全く相反する話だからです。他方、参加している弁護士さんからは、かなり大きなビジネス紛争が調停や仲裁で解決されている実例が挙げられました。
今回は私はもっぱら学ばせてもらうばかりでしたが、今後はこのような質の高い教材研究を自分でも行わなければならないと反省させられました。
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2005.10.18
2005年10月18日(火)16時20分から、法・経総合研究棟4Fセミナー室Dにて、フィレンツェ大学法学部のミケーレ・パーパ教授(刑法)を講演者として、大阪大学法学会講演会が開催されました。テーマは「予防原則とヨーロッパ諸国の刑法について」で、講演はイタリア語、通訳は本学の松田岳士助教授。刑法と予防・事前配慮原則という、きわめて相性の悪いテーマについて、明快に整理する講演でした。
講演内容は、予防・事前配慮原則が刑事法に入り込んでくる場合に生じる処罰拡大の問題について、罪刑法定主義や過失責任原理、因果関係と関連づけて、具体的事例を挙げながら論じていくというものでした。ディスカッションでは、いくつもの質問が出され、活発に意見交換が行われました。私は、刑事法に予防・事前配慮原則が入り込んでくることによる処罰化傾向に関しては、罪刑法定主義や厳格な過失責任の貫徹、因果関係の厳格解釈といった刑法内在的な制約原理による代わりに、平等取り扱い原則や比例原則といった公法上の制約原理を用いることで、無制限に処罰が拡大するという弊害を防止できるのではないかと質問しましたが、パーパ教授はそうした考え方には賛成できないとのことでした。あくまで刑法上の制約原理を厳格に貫くことで処罰拡大に対抗することが重要だというわけです。パーパ教授は、予防・事前配慮の問題にはできるかぎり刑事罰ではなく行政罰で対応する方がよいという意見でした。
私には腑に落ちない点も残りましたが、ディスカッションそのものは大変興味深いものでした。これからも、このような領域横断的な研究交流の機会が頻繁にもたれることを期待しています。
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2005.10.03
2005年10月3日(水)午前10時30分から12時まで、本学法経総合研究棟4F中会議室にて、第2回「法曹の新しい職域」科研・研究会が開催されました。すでに案内しておりますように、報告担当は私で、8月末から9月はじめにかけて行った、オーストラリア・ヴィクトリア州の成年後見制度・財産管理制度調査出張で得られた成果を報告させて頂きました。
報告タイトルは「成年後見・財産管理はビジネスたりうるか-オーストラリア・ヴィクトリア州のState Trustees社の調査報告-」。報告では、まずヴィクトリア州の成年後見・財産管理制度の概要を紹介し、続いてState Trustees社による財産管理業務の内容について紹介し、最後に、以上を前提として、日本ではたして成年後見・財産管理がビジネスたり得るかという問題についての私なりの見解を述べさせて頂きました。
「はたして日本で成年後見・財産管理がビジネスたり得るか」という問いについて結論的なことを述べれば、やはり、わが国のように「信託思想」の基盤がない社会で、成年後見や財産管理を信託銀行や信託会社のビジネスとして認めることは、ややリスキーかなと思います。収益性に重点を置いた財産運用が行われる場合に、「被後見人・被財産管理人の最大利益の実現」が本当に可能かどうかは難しい問題です。また、富裕者層に対象を絞った財産管理ビジネスが広く行われるようになった場合には、多くの一般高齢者の受ける公的サービスの切り下げに繋がらないかという危惧もあります。さらに、財産管理の場合には、信託の場合と異なり、被財産管理人のもとに財産権が留まるわけですが、そうだとすれば被財産管理人の権利を行使するに当たって、弁護士法72条(非弁行為禁止)との抵触が問題にならないかどうかも気になるところです。
いずれにしても課題が山積しているテーマですが、信託法の改正は財産管理ビジネスを許容する方向に向かいつつあります。今後の動きから目が離せません。
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2005.10.01
2005年9月29日(木)30日(金)に、2005/2006年「日本におけるドイツ年」の関連行事として、ドイツ学術交流会(DAAD)およびフンボルト財団主催・日本学術振興会共催の法学研究集会「グローバル化と法:今世紀の国際的な法秩序に対する日独両国の寄与を考える」が開催されました。会場は東京赤坂のドイツ文化会館でした(なお10月1日[土]にも若手研究者フォーラムが開かれています)。
私は、フランクフルト大学で在外研究時代にお世話になったグンター・トイプナー教授が基調講演をされるということではせ参じました。会場では、知り合いのドイツ人法学研究者も何人か出席していて、楽しいひとときを過ごすことができました。
トイプナー教授は、「グローバル化時代における法の役割変化:各種のグローバルな法レジームの分立化・民間憲法化・ネット化」なるタイトルで講演されました。教授は、ニクラス・ルーマンの「世界社会」なる概念を引き合いに出し、グローバルな法秩序は多数の民間レジームからなる多中心的で「ヘテラキッシュ」(横の連携による秩序のあり方)な秩序であり、政治的な領域区分に基づく国家法とそれぞれの諸民間レジームとが拮抗しながら併存するという法秩序イメージを提示されました。もはや「世界社会」のレベルでは法の統一性はなく、法の機能は諸民間レジーム間の共存を可能にする条件を提供するに留まるというのです。
この基調講演を受けて、民法部会/公法部会、経済法部会/国際法部会、刑法部会/法曹養成部会(/は同一時間帯の部会)が開かれ、さらにこれを受けて全体討論が行われました。私の印象に特に強く残ったのは、経済法部会のlex Mercatoriaについての議論でした。そこでは、lex mercatoriaはそもそも法なのか、法だとすればどのような法なのか、どのようにして法としての実効性が確保されるのか等をめぐる議論が活発に展開されました。壇上の議論ではlex mercatoriaが商事慣習ないし慣習法として裁判規範となるかどうかという議論が中心でしたが、フロアからはそれに疑問を呈する意見がたくさん出され、しかもそれぞれが説得的で、いろいろ考えさせられました。
私自身は、lex mercatoriaは限られた取引関係者(企業)間の行動規範たるに留まるのであり、それは基準というより主として交渉メディアとして用いられる規範だというように考えています。従って、その裁判規範性を認める実益は乏しいと考えます。かりにそれが判断基準として用いられるとしても、商事仲裁や調停の場で用いられるに留まります。同部会での議論はlex mercatoriaの重要な機能を見落としているのではないかと、ずっと引っかかっていました。
その他の部会についてもいろいろコメントはありますが、長くなるので省略します。本研究集会は、日独の若手の法曹・法学研究者が多数集まり、充実した交流の機会となりました。「日本におけるドイツ年」の記念行事に留まることなく、さらに同様の日独法曹・法学研究者交流の機会を繰り返し持つことができればと願っております。
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2005.09.24
2005年9月24日(土)午後13時から17時すぎまで、京都大学法経本館4F大会議室にて、日本法社会学会関西研究支部・定例研究会が開催されました。報告者は京都大学大学院法学研究科助手の久保秀雄氏と同大学院博士課程の松尾陽氏。いずれの報告も大変興味深く、M.フーコーの権力分析をM.ヴェーバーの支配の社会学理論を手がかりに発展させて法文化分析に用いたり、L.レッシクの権力分析論的憲法解釈方法論を斬新な切り口で紹介したりと、すばらしいものでした。権力分析をベースにした法理論も若手研究者の努力で大きく進展しつつあります。こちらも後れをとらないように努力しなければなりません。
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2005.09.23
第2回「法曹の新しい職域」科研・研究会を下記の要領で開催致します。報告は私が担当します。関心のあるみなさんの積極的なご参加を期待しています。
記
日 時 : 2005年10月3日(月) 10時30分~12時
場 所 : 法学研究科・法経総合研究棟・中会議室(4F)
報告者 : 福井康太
題 目 : 「成年後見・財産管理はビジネスたりうるか:
オーストラリア・ヴィクトリア州のState Trustees社の調査報告」
*共同で調査を行った、岡山大学法学部の中川忠晃助教授も、コメンテーターとして参加されます。
ブログをご覧の方で参加をご希望の場合は福井のメールアドレスまで
ktfukui@law.osaka-u.ac.jp
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2005.09.14
2005年9月13日(火)13時30分から、同志社大学寒梅館1Fハーディー・ホールにて、IVR日本支部・日本法哲学会主催の第8回神戸レクチャー京都講演が開催されました。IVR神戸レクチャーとは、IVR(法哲学・社会哲学国際学会連合)が2~3年に1回開催している記念行事です。今回はフランクフルト大学法学部のウルフリート・ノイマン教授をお招きしての講演会および関連セミナーです。ノイマン教授はフランクフルト大学で法哲学、法社会学、刑事法学を担当しておられる先生です。邦訳書としては『法的議論の理論』(法律文化社・1997年)があります。私は、フランクフルトでの在外研究時代にお世話になった関係で(かどうかは分かりませんが)コメンテーターの一人を務めさせて頂きました。ちなみに、もう一人のコメンテーターは京都大学の亀本洋教授でした。
講演のタイトルは「民主主義国家における憲法裁判権の法哲学・国家哲学的諸問題」。タイトルからすると大上段に構えた国家哲学や法理念の話なのかという印象なのですが、実際には司法の機能やドゥオーキンの「正解テーゼ」についての議論を憲法裁判権に引きつけて議論するもので、決して抽象論に留まるものではなく、大変に示唆に富むご講演でした。
この点、私のような法社会学者がこれにコメントするのは場違いな感じもしたのですが、ドゥオーキンの「正解テーゼ」に関する議論に興味があったので、そのことを中心にコメントをさせて頂きました。ノイマン教授は、裁判所は、唯一の正しい決定があり得ないようなハードケースの場合であっても、なお「あたかもそれが存在するかのように」振る舞い、判断を下さなければならないと主張されました。「唯一の正解」は抗事実的な「規制理念」として妥当しなければならないというわけです。私もこの主張そのものには賛成ですが、その正当化の仕方が実用主義的・外在的正当化のように思えたので、そのことについて質問しました。これに対する教授の回答は「私の正当化の仕方は『超越論的正当化』であり、それは原理による内在的正当化とは異なるが、なお内的観点にもとづく正当化である。『超越論的正当化』とは、まさに『超越論的』な視点から、つまり現実のあり方を成り立たせている連関について考察する視点から実用主義的に正当化を行うことで、それはまさに当為についての論証であり、当為を事実から導き出すという批判は当たらない」というものでした。
こうした議論がかみ合っていたかどうかはやや疑問なところがありますが、それでもいろいろな示唆を受けることができました。これからさらにノイマン教授による関連セミナーが名古屋(南山大学)、東京(法政大学)、仙台(東北大学)で開かれることになっています。ノイマン先生、貴重なご講演をありがとうございました。これから開催される関連セミナーの成功をお祈り致します。それから、IVR神戸レクチャー講演会および関連セミナーのオーガナイズを一手に引き受けてこられた京都大学の服部高宏先生に厚く御礼申し上げます。
詳細は日本法哲学会のHPをご覧下さい
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jalp/
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2005.09.08
2005年9月7日(水)14時から15時30分まで、大阪大学大学院法学研究科新棟4F大会議室にて、フランクフルト大学法学部助教授のグラーフ=ペーター・カリエス氏の講演会が行われました。同講演会は大阪大学法学会の主催で、EU科研研究会と「法曹の新しい職域」科研研究会との共催で開催されました。
講演のタイトルは「Online Dispute Resolution:国際電子商取引における消費者救済」でした。まず、ODRの紛争解決制度としての位置づけが明らかにされ、つぎに、オンライン上で生じる紛争、ここではドメイン・ネーム紛争とネット・オークションなどから発生する売主対買主紛争とについて、オンライン上の紛争解決メカニズムがどのように用いられ、どれだけの成果を上げているかが、WIPO仲裁・調停センターおよびSquare Tradeという2つの成功例を通じて明らかにされ、最後にグローバルな消費者電子商取引を支える制度的インフラとしてのODRネットワークの構想が明らかにされました。ODRの成功例は、いずれの場合にも、単にアクセスしやすい迅速かつ実効的な低コストの紛争解決サービスが提供されるだけでなく、紛争解決サービス自体がドメイン登録システムや電子商取引市場を支えるメカニズムにうまく組み込まれているというカリエス氏の指摘は、もっともであると思いました。
ディスカッションでは、トラストマークがどのようにして信用を付与するのか、そもそもマークの付与で消費者保護を図ることは可能なのか、ネット・オークションのようにトリックがまかり通る場で消費者保護を図ることは果たして可能なのかといったことが議論されました。
ODRは恐ろしい勢いで発展しています。多くの研究者はこの展開をフォローするだけで手一杯な状況ですが、それでもなお、この展開を理論的に整理し、ODRの位置づけを明らかにすることは重要です。カリエス氏の研究はまさにこれを試みるものです。氏の研究の今後の展開に期待しています。
カリエス氏のHP
http://www.jura.uni-frankfurt.de/ifawz1/teubner/Mitarb/GC.html
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2005.08.25
2005年8月2日から9月9日まで大阪大学大学院法学研究科法政実務連携センターに外国人客員研究員として滞在しておられるグラーフ=ペーター・カリエス氏(フランクフルト大学法学部助教授)に、帰国を前に氏の研究について講演して頂くことになりました。演題は「Online Dispute Resolution:国際電子商取引における消費者救済」です。開催日時は9月7日(水)14時~15時30分で、場所は法・経総合研究棟4F大会議室です。本講演会の主催は大阪大学法学会で、学内の科研費共同研究である「EU科研」および「法曹の新しい職域」科研が共催します。講演は英語で行われますが、原稿に基づき福井が要約的な通訳をいたします。
講演会の案内は法学会主催ということもあり、大阪大学大学院法学研究科スタッフ、院生などに対して行っておりますが、関心のある方はメールにて福井までご一報下さい。
メールアドレス:ktfukui@law.osaka-u.ac.jp
案内ポスター「ODR_Lecture.ppt」
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2005.08.15
2005年8月14日18時30分より、上智大学法学部13F会議室にて、ハーバード大学から Robert C. Bordone氏と Florrie Darwin氏をお招きして交渉教育研究会が開催されました。最初にBordone氏によりハーバード大学で行われている交渉教育について簡単なスピーチが行われて後、20時頃までディスカッションが行われました。参加者は少ないながら密度の濃いディスカッションが行われました。
ハーバードでの交渉教育ですが、交渉教育ワークショップを例にすると、冬学期と春学期の二つのワークショップが行われるとのこと。冬学期には、1月に3週間の集中的な交渉教育ワークショップが行われ、春学期には3ヶ月間のワークショップが行われ、ADRや交渉についての教育が実施されるとのこと。授業はskill baseで進められ、ビデオを使って教育を行っているそうです。
いずれにしても交渉はロースクール教育の中で最も成功に結びつく専攻と考えられるようになっているとのことでした。日本の法科大学院での交渉教育はまだまだ十分に普及しているとは言えません。アメリカでの先進的な試みから示唆を受けながら、日本独自の交渉教育のあり方を実現していくことが必要であろうと思います。
これからやらなければならないことが山積していますね。
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2005.08.03
2005年8月2日(火)12時30分から14時30分まで、大阪大学大学院法学研究科中会議室(法・経総合研究棟4F)にて、「法曹の新しい職域」科研・第1回研究会を開催させていただきました。本研究会は、平成17-20年度科学研究費補助金基盤研究(A)「法曹の新しい職域グランドデザイン構築」(研究代表者・三成賢次)の研究活動の一環です。行きがかり上、私が第1回研究会の報告を担当させて頂きました。
来年度からの新司法試験の実施以降、法科大学院出身の法曹が大量に輩出されることになります。訟務を中心とする、法律問題の「よろず屋」的な従来型法曹の職域に新たに輩出される法曹が群がることになれば、法曹の多くは仕事にあぶれることになります。したがって、新たに輩出される法曹たちには、新しい職域を開拓し、そこで成果を上げることが期待されることになります。
本研究会は、潜在的な法曹需要を見いだし、また拡大の可能性のある職域に適した法曹のあり方を明らかにしていくことで、法曹の近未来のあり方のグランドデザインを示すことを目標にしています。予防的紛争管理法務、マネジメント法務、開発管理法務、金融保険法務、戦略的人事管理法務、環境・資源エネルギー法務、社会福祉事業コーディネート法務、裁判外紛争処理といった領域で活躍する、紛争について高度の専門性を備え、法的交渉、紛争への予防対応、紛争管理といった職務をこなす法曹、また科学技術等への高いリテラシーを有し、いろいろな専門分野でコーディネーター的な役割を果たしうる法曹というような新しい時代の法曹のあり方を具体的に描き出していく作業をこれから行っていきます。
まだまだ何が出てくるか分からない段階ですが、これからの研究の進展が楽しみです。
「new_fields.ppt」
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2005.07.24
2005年7月24日(日)10時から18時まで、京都大学時計台記念館2F会議室Ⅳにて、米国カリフォルニア州ロサンゼルス市のフォレスト・モステン弁護士による調停人トレーニングが実施され、参加させて頂きました。このトレーニングは日本司法書士会連合会主催で、京都大学法科大学院助教授の山田文先生のご尽力によって実現されたものです。モステン先生はアメリカのミディエーションの第一人者で、調停人トレーニングも数多くこなしてきておられる方です。トレーニングの内容ばかりでなく、教え方も含めて、大変に多くのことを学ばせて頂きました。参加者は司法書士、弁護士、家裁調査官、調停委員、大学教員などで、実務経験を前提としたレベルの高いトレーニングでした。
トレーニングはパワーポイントを用いたプレゼンテーションと、ロルプレイを組み合わせたやり方で行われました。モステン先生はあまり多くのことを説明せず、必要に応じて問いを発し、もって参加者自身が問題を発見し、そこから議論を広げていくように促しました(これ自体、ミディエーションのメソッドです)。氏はまず、プレゼンテーションを通じて、調停人にとっては依頼人から信頼関係を取り付けることが不可欠であること、また、調停人が自らの偏見についてあらかじめ理解しコントロールできるようになることが重要であること、依頼人が自分自身で問題に気付いていくように促していくスキルなどについて説明されました。昼食を挟んで、参加者有志によるロルプレイが行われ、参加者全員でそれを観察・評価しながら、当事者の感情と利害とを切り離していくための技法、アクティブリスニングのやり方、調停人の役割、交互面談(コーカス)の用い方などについて議論しました。
「交互面談を用いるのは当事者のSelf-Soothingのために限られるのであり、調停の原則的なあり方は合同面接方式であるべきだ」というような指摘は、日本の調停実務になじみがないこともあり、活発な議論を喚起しました。
私自身は今のところ調停の実践の場を持っていません。とはいえ、モステン先生の調停技法はそれ自体として教育実践の方法としての意味をも有し、すぐにでも用いることができます。本当によい勉強の機会を得ることができました。モステン先生、そして山田先生に心から感謝いたします。
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2005.07.13
2005年7月12日(火)18時から、大阪大学大学院法経大学院総合講義棟4F・大会議室にて、第8回・法科大学院形成支援プログラム・ユニットA研究会が開催されました。報告者は本学医学系研究科教授で法医学を担当しておられる的場梁次先生。テーマは「医療関連死第三者機関モデル事業」でした。
「医療関連死第三者機関モデル事業」とは、厚生労働科研に基づく全国規模のプロジェクト事業で、医療行為に関連して発生した死亡についての調査分析を中立的な第三者機関に行わせるモデル事業です。大阪地域の場合には、大阪大学医学部法医学教室が同モデル事業の事務局となり、大阪府監察医事務所が「第三者機関」としての役割を担うことになります。実施は今年9月からです。
同モデル事業が試みられるに至った背景には、医師法21条の定める「異常死」届出義務の問題があります。医師法21条によれば「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異常があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」とされ、また日本法医学会の「『異常死』ガイドライン」によれば「診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの」も届出義務があるものとされています。この結果、医師や病院は、診療中に発生した「異常死」を所轄警察署に届け出なければならないことになり、医師や病院が問題のある死亡例をかえって隠蔽してしまうというという問題が指摘されてきました。また、医師法21条については、これが「司法警察」への届出を義務づけているかぎりで、憲法38条1項の「不利益供述の強要禁止」に違反しないかについても議論されてきました。
医師や病院が、犯罪捜査を受ける可能性のある司法警察への「異常死」届出をためらうのは、ある意味仕方のないことです。だからといって、問題のあるケースや限界事例について、すべて医師や病院の自己判断に委ねるというのでは、被害を訴えている患者や家族が納得することはありえません。苦肉の策として出てきたのが中立的第三者機関による検証です。医師や病院も、司法警察への「異常死」届出は躊躇するとしても、中立的第三者機関による検証であれば、なお抵抗が少ないというわけです。同モデル事業では、監察医制度のある都道府県では監察医、監察医制度のない都道府県では保険医など、司法警察とは異なる機関が医療関連死の検証を行うことが念頭に置かれています。
同モデル事業は、医療事故によるトラブルに関する一種のADRとしての役割をも果たしうるものです。これを早期中立的評価型のADRと見ることもできます。同モデル事業はADRの役割を果たすことをとくに想定していないとのことですが、事案の蓄積によって、しだいにそのような役割を大きくしていくのではないかと考えます。同モデル事業が今後大きく発展していくよう願っています。
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2005.07.09
2005年7月7日(木)18時30分から21時まで、大阪大学中之島センター7F講義室3にて、大阪大学大学院法学研究科/関西経済同友会「交流研究会」ミニ・シンポジウムが開催されました。全体テーマは「激動する職場のマネジメント-いま何が求められるのか-」。まず私の開会挨拶に続いて、元・労働省女性局長で現・大阪大学大学院法学研究科法政実務連携センター招へい教授の藤井龍子先生の基調講演、休憩を挟んで、大丸本社人事部長の平山誠一郎氏と私とによるコメント、そして藤井先生からのリプライ、最後にフロアを交えてのディスカッションが行われました。
基調講演は「職場トラブル増加の背景と対策―職場のいじめ、メンタルヘルスなどをめぐって―」でした。藤井先生は、まず、厚生労働省等の統計資料に照らして、セクハラ、パワハラ、いじめ、メンタルヘルス問題といった職場トラブルが近年いずれも急増している現状を明らかにされ、つぎにトラブル増加の背景には競争激化に伴うストレスフルな職場環境があり、それとともに現場従業員のコミュニケーション能力の低下、そしてとりわけ管理職の管理能力低下があることなどを指摘され、さらにそのような問題への対応策として、管理組織の見直しや管理職の管理能力向上策、外部資源の活用の指針などを明らかにされ、最後に行政の対応と今後の課題といった話をすることで、ご講演をまとめられました。個人的には、トラブル問題が急速に顕在化してきているのが「30歳代の男性」であるという指摘(いわゆる「30歳代問題」)がとくに印象に残りました。
つぎに、休憩を挟んで、私が論点整理を兼ねたコメントを行いました。私が指摘したことは、現状のように極端にストレスフルな職場は、従業員が相手を信頼してコミュニケーションを持てるような環境にはなく、そのなかで起こっているのが今日の職場トラブルであるということ、管理職の管理能力の低下といった問題も、もはや信頼関係をベースに置いたコミュニケーションが著しく困難となっている中で、管理職に求められる管理能力が「ふつうの上司」の能力をはるかに上回ってしまっているという観点から理解すべきことなどです。さらに、そのような現場従業員・管理職のコミュニケーション能力の低下を補うための方策として、企業内外の機関、とりわけ第三者機関に偏在して蓄積されている「紛争対応ノウハウ」を、(報告書・リーフレット等の「死んだ情報」としてではなく)、必要な時に必要な人が容易にアクセスできる「Q&A」等に加工し、管理職研修等で周知するとともに、情報ネットワーク等でも使えるようにし、現場でのトラブル予防と対応とに生かしてもらうようにはできないのかというような提言をいたしました。
私のコメントに続けて、平山誠一郎氏が、人事担当者としての実体験を交えて藤井先生が挙げられた諸点についてコメントをされました。そこで指摘されたことは、まず、いじめ・メンタルヘルス問題とセクハラ問題とは原因が異なり、前者は職場の意識変革が実際の変化に追いついていないために起こっている問題であるのに対し、後者はリストラによってもたらされた過度にストレスフルな職場に起因する問題だということ、「30歳代問題」は実感からすればバブル期に大量に採用された現在の30歳代が組織の激変に耐えられずに直面することになった問題だと思えるということ、企業は職場トラブルが発生した後の対応よりも、その予防と早期対応のための制度整備を進めており、コンプライアンス・ホットラインといった多様な受け皿を設けているのはその一環であるということ、企業がこうした職場問題に対応するには、信用喪失リスクを回避するといった「マイナス回避の視点」ばかりではなく、むしろそうしたトラブルを制度設計レベルで克服することによって活力ある収益性の高い職場を作り上げるという「プラスの視点」をも併せ持たなければならないのであり、そのために、アメリカの企業で試みられている「ダイバーシティー・マネジメント」から示唆を得ることができ、そこではとくに「オーバーコミュニケーション」が重要だと言われている、といったことでした。
ディスカッションでは、統計上トラブルが激増しているとしても、実はそれが新しい制度導入等によってもたらされた「掘り起こし効果」によって生じているということが考えられないかという指摘、平成9-10年の自殺件数に極端に大きな変化があるが、それはこの時期に自殺が労災認定に含まれるようになったということを受けているのではないかというような指摘、30歳代問題はバブル期に採用された中堅社員に特有の問題などではなく、30歳代一般に見られる過度にストレスの多い職務構造が生じさせる問題なのではないかといった指摘、20歳代の自殺も決して少なくはないが、これについては「折れやすい若者」問題が反映していないかというような指摘とそれに対する応答とが行われました。
いずれにしても今回のミニ・シンポジウムの議論は活況で、職場トラブル問題に対する関心の高さが窺われました。藤井先生、平山さん、そして、ご参加頂いたみなさんに心から感謝致します。関西経済同友会との「交流研究会」の成果も少しずつ大きくなってきております。さらに成果を積み上げ、法学部門における産学連携の新しいモデルとなるような活動にできればと考えております。
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2005.07.03
2005年7月2日(土)13時から17時30分まで、明治大学駿河台キャンパス(リバティータワー)にて、第1回仲裁ADR法学会大会が開催されました。昨年度設立された学会の記念すべき第1回大会です。
大会の前半は個別報告2人でした。最初に報告を担当されたのは立教大学の早川吉尚氏。氏は、「ADRを巡る日本の言説空間」というタイトルの報告で、ADRをめぐる日本の議論のすれ違いを、7つのポイントに照らして議論されました。議論状況の中立的な整理ということでしたが、それでも、氏の持論である「仲裁手続と調停手続を連続的に捉えることは問題である」という主張に力点が置かれているなど、熱い議論が展開されました。次に報告を担当されたのは、九州大学のレビン小林久子氏。氏の報告は「ウィン-ウィン・リゾリューションとトランスフォーマティブ―調停技法を支える二つの概念に関する基本的考察―」なる報告でした。「ウィン-ウィン・リゾリューションとは交換による解決である」という指摘や、トランスフォーマティブ・リゾリューションを支える「紛争の当事者を承認しエンパワーする」という考え方の理論的背景についての整理は、興味深く伺わせて頂きました。
大会の後半は「ADR法の評価と課題」というシンポジウムで、昨年11月に可決成立した「ADR法」をどのように評価するかということに関するパネルディスカッションでした。「ADR法」については、裁判外紛争解決「推進派」からも、「懐疑派」からも批判が多いと予想していたのですが、あまり激しい議論とはならず、予想された範囲で問題点の指摘が行われるに留まりました。私も日本法社会学会で裁判外紛争解決「推進派」の見地から「ADR法」の問題点について報告させて頂いた立場です。まだまだ同法施行までに詰めておかないと行けない議論はあります。「喉元過ぎれば」ということではいけないと痛感しているところです。
来年度の大会では私も個別報告者の一人として報告させて頂きます。ADRの利用をさらに促進していくためにはADRの機能を限定的に理解すべきではなく、むしろ苦情相談に対する情報提供的関与の充実等、紛争予防、紛争拡大防止に対する人々のニーズにも応えていく(実際、国民生活センター、消費生活センターの利用の大半は苦情相談です)ことが重要であると考えています。レビン小林氏の報告にあったトランスフォーマティブ・リゾリューションは紛争の事後的解決よりも、まだ当事者が単に不安を抱えているに留まっている段階でのエンパワーに適する方法のようにも思えます。すでに報告すべき方向は見えているような気がしますが、具体的にどのような議論を展開するかは、1年後のことなのでゆっくり考えていきたいと思います。
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2005.06.22
2005年7月7日(木)18時30分から、大阪大学中之島センター講義室3(7F)にて、大阪大学大学院法学研究科・関西経済同友会「交流研究会」ミニ・シンポジウムを開催致します。
全体テーマは「激動する職場のマネジメント-いま何が求められるのか-」です。基調講演は元・労働省女性局長で現・大阪大学大学院法学研究科法政実務連携センター招へい教授の藤井龍子先生にお願いしております。基調講演のタイトルは「職場のトラブル増加の背景と対応策」です。コメンテーターは、関西経済同友会から大丸グループ本社の平山誠一郎氏、そして大阪大学大学院法学研究科から私が担当します。
この機会に、グローバル化、IT化、従業員の職種・勤務形態の多様化、就業意識の変化などを背景として増大している職場のトラブルに組織はどのように対処すればよいのかについてディスカッションしたいと考えております。
参加を呼びかけさせていただいているのは、原則として、大阪大学大学院法学研究科・高等司法研究科の教員、学生、同大法学部の学生、そして関西経済同友会加盟企業の方々ですが、一般の方でも特に希望があれば個別に相談に応じます。関心のある方は、下のファイル(ポスター)記載の連絡先まで、ご連絡頂ければ幸いです。
mamagement_of_workplace.wmf
場所については、大阪大学中之島センターのHPアクセスマップ(最上列)をご覧下さい。
http://www.onc.osaka-u.ac.jp/
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2005.06.19
2005年6月19日(日)13時から、京都大学法・経本館4F大会議室にて、京都大学COE研究会と日本法社会学会関西支部研究会が連続で開催されました。私も関心を持って参加させて頂きました。
まず行われたのは京都大学COE研究会で、報告はニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)法学部上級講師のLeon Thomas Wolff氏で、報告タイトルはThe Relational Litigant: The Sexual Harassment Story in Japan. セクシャルハラスメント訴訟を手がかりとして、日本の訴訟を分析するためのモデルとしては、「文化」を持ち込むモデルではなく、より特定性の高い「社会関係」を用いるモデルの方が適切であるということで、「関係的訴訟当事者モデル」なる分析モデルを明らかにされました。いろいろな社会的資源が運動に利用されるわけですが、訴訟もまたそのような資源として、関係的文脈の中で用いられたり、用いられなかったりするということなのだと拝察致します。
後半は、日本法社会学会関西研究支部研究会で、報告はワーキング・ウィメンズ・ネットワーク代表の正路怜子氏による「世界に訴えた住友賃金差別裁判とWWNの10年」という報告でした。正路氏のご報告は、住友賃金裁判を支援してきたWWNの運動の紹介が中心で、日本の「コース別賃金格差」を是正させるための、ILO等を巻き込んだグローバルな運動の成果が詳細に報告されました。運動の先端で活躍されてこられた方の話と、研究者のディスカッションはしばしばかみ合わないこともありますが、正路氏の経験に裏付けられたお話には説得力があり、引きつけられました。訴訟を通じて社会に問題提起をするという運動形態は、これまで大きな成果をもたらしてきたと思います。ただ、成果がある程度定着してしまうと、訴訟は社会運動を牽引する力を失い始めます。従って、「これまでの運動」と「これからさらに成果を拡大していくための運動」は戦術が違ってくるのではないかと考えます。経営側の視点をも考慮して、企業の存続戦略にこの問題を関連づけていくことはやはり必要なのではないかと思うのですが、いかがなものでしょうか。
いずれにしても考えさせられるご報告でした。
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2005.06.18
2005年6月18日(土)13時から、大阪大学大学院国際公共政策研究科マルチメディア演習室(OSIPP棟3F)にて、同研究科特色GP公開講座の一環として、弁護士で桐蔭横浜大学法科大学院教授の大澤恒夫先生(私の尊敬する弁護士さんの一人です)のご講演「法律家と交渉技術」が行われ、お話を伺わせて頂きました。大澤先生のご著書『法的対話論』からは大変多くのことを学ばせて頂いておりますが、今回も多くの示唆を得させて頂きました。
大澤先生は、まず、自ら関わって来られたいくつかの事件の「交渉による解決」の例を紹介され、もって法律実務家の活動がいかに「話し合い」を通じて行われているのかを明らかにされ、これに続けて、法律家の思考パターンと「交渉による紛争解決」とのギャップおよび両者の相互補完関係について明らかにされ、さらに「私的自治を支えるものとしての対話」の意義を明らかにされ、その際とくに、人々の自律性の回復を支援するための対話の意義を強調されました。そして最後に、「対話=交渉の専門家としての弁護士」という新しい法曹像を明らかにすることで、ご講演を結ばれました。
私は、大澤先生の『法的対話論』の原点にある思想は、「そもそも対話とはきわめて困難なことである」ということだろうと理解しております。対話がきわめて困難なことであるからこそ、対話を基礎とする「私的自治」を充実させるためには、対話の困難を克服し、人々が自律的に活動することができるように、専門家の支援が必要になってくるというわけです。察するに、これは「私的自治の質の確保」に関わる問題です。「私的自治の質の確保」に関わる議論は、社会の複雑化に伴って、今後ますます重要になってくると思います。
さらに、一人一人の活動主体が自律的に対話し、自らの責任で関係を作っていくことができなくなると、仮にどんな大きな組織であっても内部規律を失い、変化にも対応できなくなり、ついにはモラルが崩壊し、自滅してしまうという大澤先生のご指摘は、「私的自治の質の確保」にとって、「対話の専門家としての法曹」の役割がいかに大きなものたり得るかを明らかにしています。
大澤先生の打ち出しておられる「対話の専門家としての法曹」像は、私が最近力を入れている「法曹の新しい職域」研究に大きな示唆を与えてくれています。大澤先生、今後ともご指導ご鞭撻よろしくお願いします。
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2005.06.15
2005年6月14日18時から、大阪大学大学院法学研究科大会議室(法・経総合研究棟4F)にて、第7回・法科大学院形成支援プログラム・ユニットA研究会が開催されました。今回は、4月に大阪大学に新設されたコミュニケーションデザインセンター(CSCD)教授に着任された小林傳司先生による報告「科学技術リテラシーと法学をめぐって」およびディスカッションでした。
小林先生のご報告は、科学哲学上の「科学的合理性」批判に依拠しながら、科学技術裁判(とくに「もんじゅ事件」)における司法の態度を批判的に検討するものでした。小林先生は、まずご自身が執筆を担当された科学教科書の検定を例にして、教育の世界でいまだに根強い「科学技術」に対する楽観的イメージを批判するところから話を始められ、続いて、20世紀以降のトランス・サイエンス的状況のもとではもはや「科学的合理性」は限界に達していること、そのような状況のもとではむしろPublic Discussionに基づく「社会的合理性」の役割が大きくなるということ、他方、法学もまた科学技術に対する楽観的イメージから抜け出すことが出来ていない結果、司法判断に際して「科学的合理性」を聖域化することになってしまい、とくに行政事件訴訟の領域では専門家を巻き込んだ諮問委員会の裁量的判断を無条件に尊重する結果になってしまっているということ、「科学的合理性」の有限性を前提とする観点からは司法には「科学的合理性」とは異なる「社会的合理性」に基づく実体判断が期待されるものの、実際には司法にはそのような能力はないため、司法はその先に進むことが出来ず踏みとどまっているように見えることなどについて報告されました。
ディスカッションでは、同僚の松本和彦さんから、「科学的合理性」とは異なる「社会的合理性」を担保するためにPublic Discussionの役割を強調する場合、そもそも誰がPublicな決定をするのか、どうやってその「正当性」を確保するのかといった問題が提起され、その議論の流れで、行政計画等の事前評価にPublic Discussionの要素を導入することの重要性が指摘され、その方法として「戦略的環境アセスメント」といった方法はあるが、なかなかそれも実施していくことが困難であるといったことが指摘されました。
私自身は、ディスカッションの中で、トランス・サイエンス的状況のもとでの科学技術をめぐる社会的紛争(リスク社会型紛争)は、基本的に周辺住民等が抱えている将来についての不安ないし活動主体の提示する将来評価に対する不信感に関わる紛争であって、それに対処するにあたっては、例えば科学的権威を招いて「公正中立」な環境影響評価を行う等の方法はあまり効果的ではなく(なぜなら、周辺住民等は「科学的評価による説得」という方法自体に不安や不信感を抱いているから)、むしろ、事故を防ぐための万全の措置を当然の前提として、それでもなお事故が起こる場合の事故処理体制や責任体制を、周辺住民等のステークホルダーと対話しながら事前にきちんと整備するといった方法で、周辺住民等の不安や不信感にケアを施すことこそが重要ではないのかという指摘をしました。
私にとって大きな示唆となったのは、ディスカッションに参加されていた中山竜一さんの指摘でした。中山さんは、リスク社会型紛争に対処するにあたっては、問題の発生を防止するというPrevention(予防)よりも、問題の発生に対してあらかじめ十分な配慮を行うというPrecaution(事前配慮)こそが重要であり、今の議論は予防に偏りすぎているのではないかという指摘をされ、さらに、私の議論もまた「事前配慮」ではなく「予防」にカテゴライズされるのではないかと指摘されました。私は自分の議論は「事前配慮」に属すると考えていたのですが、確かに、よく考えてみると、私の議論は「リスク社会型紛争」の予防とケアに向けられています。ただ、「事故そのものの予防」を問題にしているわけではなく、むしろ事故の予防は当然の前提として、それでも避けられない事故の場合に深刻な紛争を招来させてしまう背景をなす、周辺住民等のいだく不安や不信感に対する事前のケアこそが重要だと主張している限りで、私の議論はPrecautionの考え方と一致していると考えているのですが、この点については中山さんと今後さらに議論を進めていきたいと考えています。
そのほか、法学の議論がどうしても「責任帰属」にしか向けられない構造になっているために、各ステークホルダーが萎縮してしまって、法的フィールドでは社会的合理性を十分に担保できるような議論ができないという指摘をしましたが、これについては、松本さんが、「そのような社会的拘束を切り離して議論できるようにするためにこそ代表制による議会があり、また行政の諮問委員会があるのであって、この意義を軽視してはならない」という補足をしてくれて、議論の締めくくりとなりました。
私もまたコミュニケーションデザインセンターに兼任教員として関わっている立場です。小林傳司先生とは今後さらに興味深い議論が出来るのではないかと期待しています。
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2005.06.07
2005年6月6日(月)18時30分から、阪急ターミナルスクエア17(阪急ターミナルビル17F)会議室にて、第5回先端系法領域研究会が開催されました。今回の研究会のテーマは「医療におけるコミュニケーション:医療紛争の発生拡大とコミュニケーションの意義」というもので、大阪大学付属病院中央クオリティーマネジメント部副部長の中島和江先生と私とで、合同で報告者を務めさせていただきました。中島先生には事例紹介を中心にご報告いただき(医療現場のコミュニケーション:事例紹介を中心に)、私は理論的分析を中心に報告させていただきました(医療現場のコミュニケーションのもたらすもの:理論的分析)。
中島先生のご報告は、実際に阪大病院で取り組むことになった4件の事例(まだ継続中の案件もあり、この場で具体的には紹介できません)を紹介され、価値評価を交えずに分析を加えるというものでした。事例分析では、医療上のアクシデントが発生した際には早い段階からのこまめで迅速な事実の開示が重要であること、患者や家族の「心のケア」が必要となる場合が多いことなどが明らかにされ、さらに、家族を調査委員会に参加させることの是非、説明が医学的質疑応答に終始することの弊害、調査と説明が長引く場合の病院側の負担の重さ、無過失補償制度の導入の可否といったことが検討されました。
私の報告は、まず、医療紛争が深刻なものとなる背景として、医療の場面では患者とその家族が構造的に「不安と不信感」を抱かざるを得ないということを明らかにし、そうであるからこそ、医療紛争の発生を可及的に少なくし、またその深刻化を防ぐために、この「不安と不信感」に対する対処が必要不可欠であることを論じ、次に、そうした「不安と不信感」への対処には「予防」の努力がまずもって重要であること、不幸にしてアクシデントが発生してしまった場合にも、患者やその家族の「不安と不信感」が爆発することがないように、ケア的な対応が不可欠であることなどを明らかにし、さらにそのような対応に際して法がいかなる役割を果たしうるかという点について、「法は一種のコミュニケーション・ツールとしての役割を果たしうる」ということを述べておきました。
医療紛争についての研究は、これから検討を進めていかなければならない課題が山積しています。さらにいろいろな機会にディスカッションを重ねていくことで、考えを深めていきたいと思います。
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2005.06.03
2005年6月2日(木)18時30分から、坂井三村法律事務所にて交渉教育研究会が開催されました。今回は野村美明・太田勝造編著「交渉ケースブック」(商事法務)が出版されたということで、その出版記念会でした。本書は、交渉教育研究会の母体となった、共同研究「実践的交渉教育普及のための戦略研究」の成果であり、同共同研究のメンバーの先生方から、本書が完成するまでのいろいろなエピソードを伺うことができました。
会合の挨拶の一環として、ADRの研究で著名な京都大学大学院法学研究科の山田文先生が口頭にて本書の書評を行われました。山田先生は、本書が理論と技法と教育とをきちんと区別したうえで結びあわせていること、理論においてはゲーム理論やハーバード流交渉術をバックボーンとして明確な基本理論を打ち出していること、インパクトのあるケースを豊富に盛り込んでいることなどを本書の特色として挙げ、本書について概ね高い評価を与えておられました。また、クロスリファレンスが欠けているといった指摘もありましたが、これは今後の改訂版の課題ということになるのだと思います。山田先生の書評に続けて行われた、山田書評に対する太田勝造先生の反論、そして上智大学名誉教授で弁護士の澤田壽夫先生の挨拶も示唆に富んでおり、いろいろ勉強させていただきました。

交渉教育に対する社会の需要は大きくなる一方です。本書のような優れた交渉教科書がさらに多く世に送り出されることを期待してやみません。
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2005.05.29
2005年5月28日(土)14時から、同志社大学法学部(光塩館)にて法理学研究会が開催され、報告の機会を与えていただきました。今回は、IVR神戸レクチャー準備のための企画で、同レクチャーのため今年9月お招きする、ドイツ・フランクフルト大学のウルフリート・ノイマン教授の特集でした。私の担当は、ノイマン教授の「ラルフ・ドライアーのラートブルッフ論」という論文の紹介・批評でした。正直なところ、私の最近の研究関心は法社会学に特化されており、本当に久しぶりに法哲学らしい議論に取り組んだという状態でした。それでも、参加いただいたみなさんのおかげで、比較的に充実した議論になり、多くのことを学ばせていただきました。
同論文の主たる関心は「正義に反する法は妥当しない」とするラートブルッフ定式のアクチュアリティーに向けられていたということができます。ノイマン教授は、旧東ドイツ国境警備兵を裁いた「壁の射手」事件を手がかりに、同定式の適用に批判的な論陣を張っておられます。もちろん「壁の射手」事件へのラートブルッフ定式適用の適否を論じた論文は別に珍しくありません。もっとも、「正義に反する法は妥当しない」というラートブルッフ定式の適用を議論する場合には、そうした法的議論を共有できる「内的視点」の存在が不可欠であり、そのような「内的視点」を共有できない相手に対して自らの視点に基づく法的結論を一方的に押しつけることがいかに大きな問題をはらむかを論じているところに、ノイマン教授の問題分析の独自性を読み取りました。
私のような法社会学者がドイツ法哲学のコアな議論について紹介させていただけるのは、今の若手法哲学研究者の急速なドイツ離れによるのかもしれません。時代の趨勢には抗えないものがありますが、そうした傾向には一抹の不安を覚えます。
側面支援の域を超えることはありませんが、ドイツ法哲学の研究に関心を持つ若手を応援していきたいと考えております。
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2005.05.17
2005年5月16日18時30分から、法・経総合研究棟4F大会議室にて、第4回先端系法領域研究会が開催されました。今回は新年度体制になって初回ということで、研究会の代表である池田辰夫教授の報告と、下村眞美教授の報告でした。池田教授は「先端訴訟概論-先端訴訟をどう学ぶか-」という報告で、先端訴訟の特色や特有の困難などについて概説されました。下村教授は、「効率的な争点及び証拠の整理」という報告で、裁判所による医療関係訴訟の審理合理化の試みを手がかりとして、先端訴訟への対処のあり方についてかいつまんで紹介されました。いずれも今後の議論の大枠を明らかにする報告と理解しました。次回以降はより具体的なテーマで報告が行われます。次回は大阪大学医学部付属病院クオリティーマネージャー中島和江助教授(医学系研究科)と私とで、「医療におけるコミュニケーション:医療紛争の発生拡大とコミュニケーションの意義」という共通テーマで合同報告をさせていただきます。
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2005.05.16
2005年5月14日(土)15日(日)、専修大学にて日本法社会学会大会が開催されました。予告していたとおり、私もミニシンポ⑤「ADRの方向性と基本法の位置」で報告させて頂きました。私のセッションは14日の午後だったのですが、同日午前中は報告の「心の準備」で気が気ではなく、また報告後の15日には放心状態になっていたので、責任を持って概要をご紹介できるのは、私が報告させて頂いたセッションだけです。
ミニシンポ⑤「ADRの方向性と基本法の位置」で最初に報告されたのは、國學院大学の西川佳代氏でした。西川氏は、「アメリカにおけるADRの位置-Mediationを中心に-」というタイトルのもとに、アメリカのADRにおけるSettlement-Orientation(紛争解決志向)とTransformative-Orientation(当事者変容志向)という二つのあり方を紹介され、後者のあり方が最近とくに注目されつつあるということを述べられました。解決という結果のみを重視し、合意の押しつけにつながりがちなSettlement-Orientationとに対して、当事者が自らの認識を変容させながら問題を引き受けていくことを支援するTransformative-Orientationが独自の意義を持ちうるという指摘は傾聴に値します。
二番目の報告は、イリノイ大学大学院の三枝麻由美氏でした。三枝氏は、日本の法科大学院のシラバスを手がかりとして、法科大学院の上位校、中位校、下位校でADR教育がどの程度熱心に行われているかを実証的に分析され、ADR教育の普及の現状について報告されました。そこでは上位校ほど熱心にADR教育を行っている反面、中位校ではADR関連科目が減る傾向がみられ、他方、意外なことに下位校では比較的に熱心にADR教育が行われているということが紹介されました。ADR教育は中位校で手薄なようです。
三番目の報告は弁護士で法政大学法科大学院教授の廣田尚久氏でした。廣田氏は、みずからがADR検討会のメンバーとして「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」の立案過程に関わった経験から、同法がいかに大きな問題をはらんでおり、ADRの今後にとって望ましくない影響をおよぼすかについて、詳細に報告されました。議論は「認証制度」の問題性から、私的自治との関係での問題、秘密保持の問題、弁護士の助言と弁護士法72条の問題、「法的な解決」の問題、法務大臣への報告等の問題などにおよび、枚挙にいとまがないほどでした。
最後が私の報告でした。私は、現代社会における紛争はあまりにも多様で、「狭義の司法」が念頭に置く、権利義務に基礎を置く法的紛争解決では紛争解決ニーズに十分に応えることはできず、だからこそADRの重要性が増してきているということ、とりわけ「互譲」を要件とするような「ゼロ・サム」的和解では、むしろ将来に向けての関係構築に重きを置くような現代型の紛争解決に対処できないということ、さらに、予防的対処や紛争の拡大防止といった新たなADRの機能にも十分に配慮すべきことなどを述べ、そのような観点から、柔軟で多様なADRのあり方に十分な配慮をしていない「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」には問題が多く、5年後の見直しの機会までにさらに議論を進めるべきことなどを主張させていただきました。
フロアからも活発な質問が寄せられ、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」に対する関心の高さが伺われました。このような議論の機会はさらに一般に開かれた形で繰り返し行われなければならないと考えております。またの機会があれば、馳せ参じようと思っているところです。
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2005.04.23
2005年4月22日19時から、大阪大学中之島センター9F特別会議室にて、第5回 大阪大学大学院法学研究科/関西経済同友会「交流研究会」を開催いたしました。今回は、本学高等司法研究科の松本和彦教授に基調報告を行っていただき、それを前提にディスカッションを行わせていただきました。松本教授は、大阪大学で「セクシュアル・ハラスメント相談室」を設置するにあたって、制度設計上どのような工夫があり、またそれによってどのようなプラスの効果とマイナスの効果が生じたかということを中心に報告されました。
そのあとのディスカッションですが、こちらが想定していたのは、苦情相談に関する組織ごとの制度設計上の違いがどのようなところから生じてくるのか、また、そのような苦情処理体制でトラブル対応が十分に行えるのかといった議論でした。しかし、実際には全く異なる議論が展開され、私たちがいろいろ学ばせていただくことになりました。とくに興味深かったのは、企業から見れば、大学は必要以上に多くの苦情を組織の問題として引き受けているように見えるという指摘でした。企業経営的視点からすれば、組織のリスクとして引き受けるべき「ハラスメント」をある程度限定することが必要なはずだけれども、大学は何でも抱え込んでしまったあげく、必要以上に精緻な処理手続を設けざるを得なくなっているのではないかという指摘には、正直なところ意表を突かれました。このような議論を詰めることなく、精緻な手続構築を行ったとしても、組織にとって実りの多い苦情処理体制は実現できません。経営的視点の欠如を指摘され、あらためてじっくり考えなければならない課題を突きつけられたと痛感しているところです。
大学の外部との研究交流からはいろいろ得ることが多いです。今後もこのような研究交流をますます活性化していきたいと考えています。
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2005.04.06
4月5日火曜日15時から、法経大学院総合研究棟4階・中会議室 にて、ドイツ・ハンブルク大学のヨアヒム・ザンデン教授をお迎えして、大阪大学法学会講演会が開催されました。講演のタイトルは 「ドイツ及びヨーロッパ環境法における事前配慮」でした。 新学期がはじまって忙しい時期ながら、たくさんの関係者が集まって、活発なディスカッションが行われました。
ザンデン教授の講演は、「予防原則」の沿革からはじまり、EU法的に確立された「予防原則」の内容、そして、ドイツ国内法として独自に発展してきた「予防原則」の内容の紹介という形で進められました。私たちは、明確な区別なく「予防」と「事前配慮」について議論してきたのですが、言葉の違いには各国ごとの背景があり、ドイツの場合には、Vorbeugungsprinzipの方がより具体的で、実際に侵害がある場合に適用される原理であるのに対し、Vorsorgeprinzipはより抽象的かつ一般的な原理として用いられる原理で、適用される場面が異なっているというようなお話を興味深く伺いました。
大阪大学法学会では、「予防原則」に関して、さらにフランスの研究者による講演が検討されています。
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2005.03.25
2005年3月24日(木)19時から、大阪大学中之島センターにて、第4回大阪大学大学院法学研究科/関西経済同友会「交流研究会」が開催されました。今回も、設例を挙げてのブレーンストーミング的なディスカッションの形で会を進めさせて頂きました。
今回は、私の方で、「過労のメカニズムについて考える-職分に応じた公平な職務負担は可能か-」という課題を設けさせていただきました。議論のたたき台となる設例としては、2件の過労死(自殺)事件(いわゆる「電通事件」と「ジェー・シー・エム事件」)を挙げ、ディスカッションに入りました。
ディスカッションでは、この2設例に話を限定せず、少し幅を広げて議論することになりました。そこでは、まず、積極的な「仕事の押しつけ」よりも、不作為による小さな無責任の積み重なりの結果として生ずる「不作為による押しつけ」が問題であること、従業員の自己コントロールが難しくなるような構造がなかなか改善されないこと、とりわけ、スリム化され、また直接的なコミュニケーションがとりにくくなった職場で、働き過ぎに陥っている従業員のシグナルを発見するのが難しくなってきていることなど、興味深い指摘がいくつもなされました。こうした問題についていずれの組織も真剣に考え、対策を立てているものの、それでもなお問題がなくならない状況に苦悩していることが伺われました。
「トラブルの少ない効率的な職場」を実現するためには、現場の「声なき声」「見落とされがちな危険なシグナル」を適切に吸い上げ、対応していくことが必要になります。そのためには、そのような声、シグナルに気づいた者すべてが、「自分には関係ない」などと無視することなく、それにきちんと対応するようにしていくことが重要になります。そのための仕組みをどのように作っていくか、とりわけ、そうした仕組みを実効的に機能させるにはどうしたらよいのか、さらに検討しなければなりません。
次回の研究会では、大阪大学大学院高等司法研究科の松本和彦教授に、阪大で実際にそのような制度設計と運営に携わった経験を交えてお話ししていただき、「苦情処理の実効的な仕組み」について議論していきたいと考えています。
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2005.03.18
3月17日(木)15時から、大阪大学大学院法学研究科大会議室(新棟4F)にて、科学研究費補助金・基盤研究(A)「市民生活基盤の法および行政に関する日米欧間の比較検証」(通称EU科研)第3ユニットの主催により、「貿易と環境の相克」というテーマで研究会が開催されました。
今回の企画は、国際経済法と国際環境法、そして国内経済法と国内環境法の4つの観点から「自由貿易体制と環境保護規制をどのように両立させていくか」について比較検討するというものでした。まず大阪市立大の平覚先生が国際経済法の立場から、本学法学研究科D3の遠井朗子さんが国際環境法の立場から基調報告をされ、これに続いて、本学社会経済研究所の荒井弘毅先生が国内経済法の立場から、最後に甲南大学の大久保規子先生が国内環境法の立場からコメントされました。
「環境価値と貿易価値の対立」は南北問題とも関連するきわめて根の深い問題です。もっとも、大きな価値対立が背後に控えているとしても、実際に抵触問題が発生する「実施レベル」では、調整のための糸口を発見することはそれなりに可能なようです。国際経済法は国際条約の「進化的な解釈」を通じて、また国際環境法は異なる国際制度間の「政策的調整」を通じて、貿易と環境のあいだで調和の糸口を見いだし続けているということが確認されました。
「貿易と環境の相克」なる問題の旬は過ぎつつあるというようなことが言われていますが、いまだ「環境価値と貿易価値の対立」それ自体がなくなっているわけではありません。この問題は形を変えて繰り返し議論されることになるはずです。今回のテーマは、少し長いスパンで考えるべきテーマでした。
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2005.03.12
2005年3月11日の15時から、法科大学院形成支援プログラム・ユニットA研究会メンバーを中心として、大阪大学医学部付属病院を訪問させて頂きました。法科大学院の学生も数名参加です。ご尽力頂いた関係の先生方に心から感謝いたします。
見学させて頂いたのは、手術部と産婦人科です。詳細は守秘事項にわたるのでお知らせできません。手術部に関しては、感染予防のための最新の設備と、人的ミスを最少化するための様々の工夫に感銘を受けました。産婦人科については、最先端の高度生殖医療の現場というものがどのようなものか直接目で見ることができたことは、大きな成果でした。
病院訪問の最後に、現場の若いお医者さんとディスカッションする機会を設けていただきました。みなさん遠慮がちで、教授、助教授の先生方の発言がほとんどだったのですが、それでも、医療の現場で研修医や博士課程院生といった若い人材が「マンパワー」として酷使され、幅広い研究を行う時間がないという現状を確認させて頂きました。医療の現場が忙しすぎるというのは大問題だと思います。というのも、診療ミスの危険が増大し、また、必要なところに人的資源を投入できないということに、どうしてもなってしまうからです。この「過剰な忙しさ」は、往々にして非効率な資源配分の結果です。
ユニットA研究会の活動は、いまだに手探り状態を抜け出せていません。もっとも、少しずつ何をやればよいのか見えてきています。来年度には具体的な研究成果を出し始めなければなりません。そろそろ論文の執筆や教材の作成に取りかかろうと考えているところです。
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2005.03.09
2005年3月9日18時30分から、東京・虎ノ門の坂井・三村法律事務所にて、第4回交渉教育研究会が開催されました。今回はリンガフォン総研(株)会長・篠澤達男氏に、ダイレクトセールスのセールスマン研修に関する講演をしていただき、それをたたき台としてディスカッションさせて頂きました。
篠澤氏は、フル・コミッションのセールスマンがワンタイムクロージングで契約を取れるようになるためにどのようなことが必要なのかということを中心にお話をされました。とくに印象深かったことは、「セールスマンは商品を売るのではない。セールスマンが売るのは、プライドであり、ステータスであり満足なんだ。たとえば、道に迷っている外国人に道を教える満足感や、英語を話しているかっこいい自分、そして、バリバリ英語で仕事をするステータスを売る。これが大事なことなんだ」ということでした。なるほど、そのようなことを明るく元気に、率直に、機転を利かせて言われれば、私も「この英語教材を買いたい」と思うような気がしました。
法律家が紛争を解決するために交渉する場合に、これと全く同様のことが言えるかどうかは疑問です。「ものを売る」ということと、「もめごとを解決する」ということは多かれ少なかれ異なっているように思います。しかしながら、クライアントの話をきちんと聞き、そこから彼らの潜在的なニーズを引き出し、それを明確なウォンツに転化し、心から「そのようにしたい」とクライアントに思ってもらうことは、紛争解決の大前提です。また、法曹養成にとっても、学生の潜在的ニーズを引き出し、それをやる気につなげ、彼らの「なりたい自分」にふさわしい教育を提供していくということが重要なことを痛感いたしました。
いずれにしても、いろいろなことを考えさせられる講演でした。興味深いお話を聞かせて頂いた篠澤会長に心から感謝いたします。
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2005年3月7日、8日に、東京・丸ノ内ホテルにて第3回先端系法領域研究会が開催されました。7日(18時30分から20時30分)には東京地裁医療集中部の判事さんによる講演「東京地裁における医事訴訟の現状と課題-裁判所の立場から-」とディスカッション、8日(10時から13時)には医療訴訟を専門として担当しておられる弁護士さんによる講演「東京地裁における医事訴訟の現状と課題-弁護士の立場から-」とディスカッションが行われ、活発な意見交換が交わされました。私は7日には所用があり、8日のみの参加です。
8日の研究会について若干述べておきましょう。そこでは、医療集中部ができることで、弁護士さんの目から見て何が変わったかということが議論されたのですが、やはり気になったことは裁判官が「専門化」することで、一種の「職権主義化」が進んでいるということです。ますます専門化が進む医療に対応するべく、集中部の裁判官は大変に勉強され、実際にかなりの専門知識を備えておられるようなのですが、そうした知識が当事者を圧倒してしまい、「職権主義化」が進んでしまうという問題は、「弁論主義」という民事訴訟法の建前からすれば放置できないでしょう。また、裁判官が個人的努力で専門知識をつけることは、裁判官の「私知」の利用という問題もはらんでいます。「私知」の利用は裁判所の利用者間に不平等を生じます。場合によっては、裁判所の判断がまちまちということになってしまい、司法への信頼にも影響を及ぼしかねません。生半可な知識による誤認の危険も排除できないでしょう。さらに、医療集中部が至れり尽くせりの手続を行うようになったことで、従来なら弁護士さんが「裁判では謝罪を求められない」「時間がかかる」と言って示談に誘導していた案件も、示談に持って行きにくくなったというようなことも話されていました。
議論は医師会を中心とした医療専門ADRの可能性や、医師の医療損害保険の困難性といったことにもおよび、現場の悩みの深さをかいま見るよい機会となりました。来年度にはこのテーマで論文を書かなければなりません。さらにいろいろな問題を学んでいきたいと思っています。
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2005.03.06
2005年3月5日(土)に、大阪国際会議場(グランキューブ大阪)にて、大阪大学大学院高等司法研究科先端的法曹養成センターの設立と、同高等司法研究科設置一周年記念の事業として、シンポジウム「法科大学院における先端的専門訴訟教育の導入に向けて-知的財産訴訟及び医事訴訟を中心として-」が開催されました。大阪大学法科大学院の記念事業ということで、会場は予備の椅子を並べなければならないほどの盛況でした。
シンポジウム第一部「特別講演」では、大阪大学大学院高等司法研究科長の挨拶、大阪大学総長の挨拶、大阪弁護士会副会長の挨拶を経て、カリフォルニア大学バークレー校教授のペーター・メネル氏の講演「アメリカにおける知的財産訴訟の最近の動向とバークレーロー&テクノロジーセンター(BCLT)における知財教育」が行われ、第二部「知的財産訴訟」では片山英二弁護士による講演「知財訴訟とその人材の育成」が行われ、その後昼食を挟んで、パネルディスカッションが行われました。おおむね、要件事実等についての基本を押さえつつも、専門科学について知的好奇心を持っており、技術側が安心して仕事を任せることができるような法曹を養成していくことが必要であることが確認されました。さらに、第三部「医事訴訟」では、国立循環器病センター名誉総長の川島康生氏が講演「医者の立場から見た医療事故」を行われ、これに続けて、大阪地裁判事の中本敏嗣氏が講演「医療紛争の現状と課題」を行われ、これに引き続いてパネルディスカッションが行われました。ここでは、医療訴訟の特殊性が繰り返し確認され、医療訴訟には判決に適しない「人格訴訟」が多々含まれ、これに対する和解等を含む柔軟な対処が必要であるとともに、医療紛争専門ADRが整備されることも重要であると確認されました。法曹養成に関しては、ここでも要件事実等の基本的知識を備えていることを前提として、医療紛争の特殊性に理解を示すことができる法曹を養成することが必要であると確認されました。
今回のシンポジウムは、新しい時代の法曹養成に向けての第一歩に過ぎません。法曹養成の試行錯誤を行う中で、ある程度長い時間的スパンのなかで、いまの時代に望まれる専門法曹を育てていくことが求められているのだと痛感しております。
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2005.02.22
2005年2月21日の18時から、大阪大学大学院法学研究科大会議室(法・経総合研究棟4F)にて、今年度5回目の法科大学院形成支援プログラム・ユニットA研究会が開催されました。前回に引き続いて、今回もまた、大阪大学大学院医学系研究科助教授で医学部付属病院中央クオリティマネジメント部副部長の中島和江先生にお話をいただき、ディスカッションさせていただきました。前回の研究会だけでは、議論したいことがあまりにたくさん残ってしまったので、参加者の要望に応えてディスカッションの続きを行なったというわけです。
中島先生の基調報告は、「医療安全と関係法に関する現状と課題」ということで、報告のなかでいくつも重要な問題提起が行われました。内容的には、前回の確認にとどまるところも多かったのですが、まず、インシデントレポートの証拠保全や情報公開の問題、とりわけ4月以降全面施行される個人情報保護法への対応の問題、また、医師/病院賠償責任保険に関する自家保険の問題、そして、医事紛争解決のための無過失責任制度の可能性や裁判外紛争処理制度の可能性などについて、法学系の専門家にいろいろ教えてほしいという要望が中心でした。今回は、私たちが「教えを請う」立場ではなく、むしろ「質問に答えていく」立場に置かれたわけです。
ディスカッションのなかで個人的にとくに興味深かったのは、病院の個人情報保護法への対応の議論でした。病院では、一見些末な(ただし現場にとっては非常に重要な)「待合室などで患者さんの氏名を呼ぶのが個人情報保護法違反にあたるのか」というような議論が紛糾し、より本質的な情報管理の問題、とりわけ若い医師の教育や疫学研究などに診療に関する個人データを用いる際の問題や、パソコン内の情報管理の問題などが、なお十分に議論されていない現状が明らかになりました。また、医薬品の計量単位や医療機器の使い方など、基本的な事柄に関する「標準化」が、その必要性は十分に認識されているにもかかわらず、いっこうに進んでいないという現状も明らかにされました。前者については、「個人の氏名自体は保護情報にはあたらない」ということが確認され、後者については、容易に「標準化」が進まない理由として、大学と製薬会社、そして厚生労働省もからむポリティクスの問題が大きいことが確認されました。やはり「標準化」は容易には進まないようです。
いずれにしても、このような研究会を続けていくことは、法学系スタッフにとっても、医学系スタッフにとっても重要なことです。来年度もこのような研究会をさらに充実させていきたいと考えております。
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2005.02.21
2月20日(日)13時から17時まで、京都大学法学部北館1F会議室にて、日本法社会学会関西支部の定例研究会が開催されました。報告者は京都大学大学院文学研究科のCOE研究員の神崎宣次さんと、名古屋大学の大屋雄裕さんでした。
神崎さんは「失敗のコミュニケーション」というタイトルで報告され、「帰責」ということは問題にならないが、なお「非難」を含むような「失敗」のコミュニケーションが存在しており、そうしたコミュニケーションの独自性を認めていく必要があるというような議論をされました。大家さんは、「自由と責任-監視社会における『主体』の意味-」というタイトルで報告され、「法的権力」と「アーキテクチャーの権力」とを対比的に検討し、監視社会の強化も、目に見える形で監視が行われ、集積された情報が事後の責任追及のためにのみ用いられるのであれば、なお「自由と責任」という(近代法的)枠組と両立しうるというような趣旨の議論をされました(私の独断と偏見にもとづく要約なので、問題があればご指摘ください)。
いずれも、いまの時代における責任論の構造転換に真摯に取り組む興味深い報告でした。責任論について、私は詰めて考えてみたことはありませんが、今後の課題がひとつ増えたと思っているところです。
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2005.02.18
2005年2月17日(木)の19時から、大阪大学中之島センター9F会議室1にて、第3回大阪大学大学院法学研究科/関西経済同友会「交流研究会」を開催いたしました。今回は、私たちの研究グループが用意した素材にもとづいて、ブレーンストーミング的なディスカッションを行わせていただきました。
私たちがディスカッションを通じて追求しようとしていたことは「いかにトラブルを少なくして効率的な職場を実現するか」という課題でした。最初に、研究グループの水島郁子助教授(労働法・社会保障法)に、日本郵便逓送(下車勤務等)事件(京都地裁平成16年7月15日判決)をアレンジして作った仮設的ケースを提示していただきました。それは、職務怠慢によって取引先ならびに勤務先であるB社に迷惑をかけた従業員AにB社が始末書の提出を求めたところ、Aに反省の色が見られないためB社はAに会議室勤務を命じ、とくに就労をさせないままその状態が3ヶ月にも及んだ結果、Aが心身症を発症するに至ったというようなケースでした(少し内容を省略してあります)。
一見極端なケースと思われるこうした「内々の処分」ないし「人事罰」も、古いタイプの会社では「極端な仕打ち」と見なされないこともありうること、そうした処分であっても、きちんとした就業規則に基づき適正手続のもとに処置をしておけば問題にはなりにくかったであろうこと、従来ならば給与を保障したうえで組織内部のルールに基づいて「内々の処分」が行われてもそれが問題になる余地は少なかったが、最近の社会の変動は激しく、「就労の機会を与えないこと」それ自体で従業員の人格権を侵害していると見なされる場合が増えていることなど、興味深い指摘がなされました。
次回には、私がケースを用意します。周囲の従業員の悪気のない不作為の積み重ねの結果、人のよい優秀な従業員に仕事が集中し、その従業員が加重労働に陥る結果、心身症を発症したり、過労死に至ったりする仮設的なケースを提示し、それにもとづいてディスカッションすることができればと考えています。次回も充実したディスカッションになることを期待しています。
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2005.02.16
2月16日(水)14時から、東京大学大学院総合文化研究科助教授の安富歩さんを再度お招きして研究会を開きました。「調査・計画・実行・評価」なる開発援助フレームの不可能性について議論するという予定で、具体的には安富さんが最近書いた論文をたたき台にディスカッションするというはずでした。
実際には、開発援助評価システムのはらむ問題性を議論するに留まっていたわけではなく、議論はさらに「因果的・線型的情報処理」それ自体の限界性に及び、また、私の方から話を振った「帰責による紛争解決の不可能性」というテーマについても、「なにゆえ近代において因果的紛争解決モデルが優越的とならざるをえなかったのか」という、ひじょうに根本的な問題にまで遡って議論することになりました。そもそも紛争解決にとっては、「帰責する」ことではなく、むしろ、一見場当たり的に立ち上げられる「解決の場」の設定こそが重要であり、その設定のためには、別に近代的な法システムが必要なわけではない。一見場当たり的な「場の設定」もanything goesに行えるわけではなく、「身体性」による制約を受けており、自ずとある程度のパターンへと限定が可能である。そのようなパターンを明らかにすることで、紛争解決の本当のコアなところについて、ある程度具体的なイメージを明らかにできるのではないかというようなことが議論されました(かなり難しいと思うのですが)。
いずれにしても、安富さんと議論していると、自分が日頃とらわれている「法的思考枠組」をいとも簡単に突き崩され、本質論にたどり着いてしまいます。そのような議論を法学研究者や学生に分かる言葉で伝えるという無理難題を突きつけられ、悩みはますます深まります。
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2005.02.04
2月3日午後6時30分から、梅田新阪急ホテル菫の間にて、第2回先端系法領域研究会(旧・法科大学院形成支援プログラム ユニットC・D合同研究会)が開催されました。今回もまた、医事訴訟をテーマとする報告で、大阪地裁の医事集中部のお話を伺うことができるとのことで、とくに参加させていただきました。
詳細は紹介できませんが、基調報告では、まず、従来の医事訴訟審理の問題点が挙げられ、なぜ時間がかかったのか、また、なぜ裁判所と当事者とのすれ違いが生じがちだったのか、そして、大阪地裁ではどのようにしてその問題に取り組み、一定の成果を上げたのかといった話があり、さらに、後半では医事訴訟についての感想的コメントがあり、医事事件に取り組んでこられた報告者の担当者としての率直な意見を伺うことができました。医事紛争においては、医師の能力が問題なのか、また医療者同士/医療者と患者のコミュニケーションの欠如が問題なのか、はたまた医療の体制が問題なのかといった点について、具体例を交えながら説明しておられたところなどは、実際に医事紛争処理を担当してきた者しかできない話で、感銘をもって伺わせていただきました。法科大学院に対する希望としては、ともかくも専門家の養成、被告(医療)側の弁護士の専門性を高めていくことが必要だと言うことを強調しておられたことが印象的でした。
もちろん、そうは言いながらも、法科大学院ではまずもって民法・民事訴訟法をきっちりやって、要件事実の基礎的能力をつけることが重要で、あまり幅を広げてもらっても、それで肝心なところが手薄になるのでは困るというようなことも言われ、やらなければならない課題が増えたと悩みを深めているところです。私のような法社会学者は要件事実の基礎的能力の涵養にどのように関わっていけばよいのでしょうか。
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2005.01.31
年が明けてからひと月があっという間に過ぎようとしておりますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
さて、第三回・大阪大学大学院法学研究科/関西経済同友会の「交流研究会」を下記の要領で開催することになりました。研究会メンバーのみなさまにおかれましては、大変お忙しいところと存じますが、万障お繰り合わせの上ご参加いただきますようよろしくお願いいたします。
記
日時)2005年2月17日(木)19時から21時まで
場所)大阪大学中之島センター9F 会議室 1
報告)水島郁子「職場における人的環境整備に伴う問題点について―セクハラ、パワハラを手がかりに―」
言うまでもないことですが、効率的な職場を実現するためには、就業の現場の人的環境が整っていることが重要です。そのためには、様々の職種・待遇の従業員のあいだで生じる苦情やトラブルに的確に対処し、効率的な組織を維持していくことが必要です。今回の研究会では、現場の苦情やトラブルに対する効率的・効果的な対処方法、ひいては効率的な制度運営を考えるために、いくつかのモデル・ケースを挙げて、あくまで一般論としてですが、問題となりそうな要因について、ブレーンストーミングしてみたいと考えています。やや重大なトラブルを検討対象例として挙げていますが、実際の議論では、より日常的な人間関係トラブルを含めてブレーンストーミングすることになると思います。
こうした議論は、上司による部下管理のあり方から、人事制度の大枠まで及ぶ、幅広い議論になるのではないかと思います。今回はあくまでブレーンストーミングですので、最初から論点を限定することはせず、ざっくばらんにディスカッションしたいと考えています。
研究会メンバーのみなさま、よろしくお願いいたします。
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一年で最も寒い季節を迎えておりますが、みなさまにおかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。さて、ご好評に応えて、東京大学の安富歩先生を再度お招きして、下記の要領で研究会を開催致します。関係者のみなさまよろしくご参加ください。
記
日時)2005年2月16日(水)14時から17時まで
場所)大阪大学大学院法学研究科中会議室(新棟4F)予定
報告者)安富歩(東京大学大学院総合文化研究科)
報告タイトル)「調査・計画・実行・評価」の不可能性をめぐって
コメント)福井康太(大阪大学大学院法学研究科)
タイトル)「帰責モデル」による問題解決の限界性
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2005.01.28
1月27日(木)午後6時30分から、梅田新阪急ホテル菫の間にて、法科大学院形成支援プログラム・ユニットC・D合同研究会が開催されました。私は同プログラム・ユニットA研究会のメンバーなので、飛び入りでの参加です。テーマが「高裁から見た医事関係訴訟」とのことだったので、関心を持って参加させて頂きました。高裁レベルでも専門訴訟化の検討が具体的に進められているという話を伺い、複雑化したいまの時代、訴訟はさらに大きく変化を遂げつつあるということを実感いたしました。あわせて、報告者は法科大学院に対する期待という話もされたのですが、その際、要件事実をきちんと把握し、争点を的確かつ明確に整理する能力を備えた法曹を育てるのは当然のこととして、さらに、「コミュニケーション能力を備えた法曹を養成してほしいという」要望が出されたことは、わが意を得たりというところでした。専門分化がすすめば進むほど、組織のなかの同種の専門の者とばかりではなく、他の専門、他の職種の人々とのコミュニケーションが重要になってきます。これは裁判官にとっても変わらないことです。私たちは、組織内部でのコミュニケーション、当事者とのコミュニケーション、さらに社会一般とのコミュニケーションというように、レベルを異にする様々のコミュニケーションにきちんと対応できる法曹を育てていかなければなりません。重大な課題を突きつけられて、身の引き締まる思いです。
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2005.01.24
1月24日(月)18時から、大阪大学大学院法学研究科の総合研究棟大会議室にて、第4回法科大学院形成支援プログラム・ユニットA研究会が開催されました。以前本ブログで予告しておいたように、大阪大学医学系研究科助教授で、医学部付属病院中央クオリティーマネジメント部副部長の中島和江先生が基調報告をされました。
中島先生は、アメリカの病院と比べていまの日本の病院の医療スタッフ・医療インフラがいかに貧弱であるかというところから話を切り出し、これに続けて、避けることの困難なヒューマンエラーをいかにして少なくしていくか、とりわけ、そのための組織的対応をどのようにしていくかといった問題を中心に、主として阪大病院を例として報告されました。私にとって興味深かったことは、ヒューマンエラー防止の取り組みもさることながら、医師法21条にもとづいて「疑い例」を警察に報告しなければならないかどうかといった問題、あるいは、トラブル発生時におけるプレス対応など情報の公表に関する問題、インシデント・レポートが証拠開示の対象にされる場合に生じる「萎縮医療」の問題、そして、トラブル処理の蓄積情報を医療の現場にフィードバックすることがいかに大変であるかといった話でした。中島先生が報告の最後でざっと話された、医事紛争の予防・拡大阻止のためのコミュニケーションの重要性について、そして保険制度整備の問題についてもまた、時間をとってさらにお話を伺いたいところです。
今回の研究会には高等司法研究科(法科大学院)の学生にも参加してもらっていたのですが、彼らのなかには社会人としてその道のプロのキャリアを歩んできた人も混じっており、本質的な問題について鋭い切り込みがあるなど、ディスカッションも大変興味深いものでした。今後とも、折を見て法科大学院の学生にもディスカッションに参加してもらう機会を作っていきたいと思っています。
いずれにしても、基調報告をされた中島和江先生、また期末試験前にもかかわらず時間を割いて参加してくれた法科大学院の学生に、心から感謝いたします。
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2005.01.22
1月21日(金)の夕方18時30分から、東京・虎ノ門の坂井・三村法律事務所会議室にて、第3回交渉教育研究会が開催されました。今回は、昨年11月20日(土)・21日(日)に上智大学で開催された「第3回インターカレッジ・ネゴシエーション・コンペティション」を振り返っての検討会でした。
最初に、上智大学の森下哲朗先生が報告され、同コンペの概要について、実施責任者の立場から説明が行われました。続いて、早稲田大学の久保田隆先生が、当日のビデオを映写しながら、早稲田大学チームおよび他の参加大学チームの特徴や問題点を分析する報告をされました。さらに続けて、東京大学の太田勝造先生が、東京大学チームの準備および当日の様子などを編集したビデオを映写しながら、今年度コンペ優勝の要因について分析する報告をされました。
フリーディスカッションでは、チームを引っ張っていくリーダーシップが重要であることや、直前に集中的な準備を行ったかどうかが勝敗を分けたといったことが確認されたほか、とりわけ、審査票を学生に開示できる程度に客観化する際の困難について活発に意見交換が行われました。最後の点については、審査員の社会的バックグラウンドは多様であり、評価が大きく割れてしまうことは避けることができないが、そもそも評価が割れることをもっぱら否定的にのみ捉える必要もないというところに議論は落ち着きました。このほか、東京大学の圧倒的な強さの要因についても議論があり、基本的能力が高いこと、リーダーシップを発揮できる人材がたくさんいること、準備に集中する時間が長かったこと、なによりも目的達成に向けての執念が半端ではないことなどが要因として挙げられましたが、他方、ほかの参加大学がそうした要因に関して劇的に劣るともいいがたいことから、準備体制の底上げが重要なのではないかといった意見も出されました。
インターカレッジ・ネゴシエーション・コンペティションは、参加したほとんどの学生が、「参加してよかった」と言ってくれるすばらしい企画です。学生が、目標達成に向けて集中的に努力する態度とチームワークとを身につける場として、これほどすばらしい企画はあまりないのではないかと思います。同コンペを「教育の場」として生かすのは当然として、さらに交渉教材を開発するための「発見の場」として積極的に利用していきたいところです。
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2005.01.21
1月20日(木)の19時から、ダイキン工業本社にて、第2回・関西経済同友会/大阪大学大学院法学研究科「交流研究会」が開催されました。研究会は、まず、交流の趣旨で、お弁当を食べながらの歓談からはじまり、参加者全員の自己紹介と新年の抱負が交わされ、それから、ダイキン工業の中川雅之人事部長のプレゼンテーションが30分ぐらい、その後はフリーディスカッションという順序で進められました。プレゼンテーションは、人を重視するダイキン工業独特の人事制度のお話で、大変興味深く伺わせて頂きました。
ディスカッションは給与制度から非正規社員の独自の人事管理まで、ひじょうに多岐にわたるものでした。とりわけ印象深かったのは、「透明な人事評価」など現実的ではなく、むしろ「薄いヴェール」がかかっているぐらいの人事制度の方が従業員のインセンティブを引き出すことができるという議論でした。この議論は、多くの有名企業で「透明な人事評価」の必要性が強調されているのと好対照をなしています。
もしかすると、「透明な人事評価」があれば納得性が得られ、組織の活力が向上するという考え方は人事制度上の建前論であるかもしれません。また、いまでも現場では、「情」も含めた「信頼」といったことが組織運営上重要なのかもしれません。今回の研究会では、そのような「企業の本音」にまで議論が及びました。私は、「人を大事にする」という理念を、ダイキン工業独自の企業理念としてグローバルに広げていこうという努力は評価すべきものであると思っています。90年代には日本型人事制度の失敗ばかりが語られ、アメリカ型の人事評価制度が圧倒的な影響力を持つようになってきていますが、果たしてそれは正しいあり方なのでしょうか。ダイキン工業さんのあり方は、実は時代を先取りしているのではないか、そのような感慨を抱かずにはいられませんでした。
いずれにしても、「交流研究会」のために会場を用意してくださり、また興味深い話をいろいろお聞かせ頂いたダイキン工業さんにこころからお礼を申し上げます。
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2005.01.19
1月18日(火)14時から17時すぎまで、大阪大学大学院法学研究科に東京大学大学院総合文化研究科の安富歩先生をお招きして、研究会を開催しました。少人数での研究会でしたが、安富さんの最近の研究を実質的なレベルで伺うことができ、得るところの多い研究会でした。というのも、安富さんの最近執筆中の論文「市場/共同体の二項対立を超えて-中国農村社会論の再検討-」の内容について、口頭で補足して頂きながら時間をかけてディスカッションを行うことができたからです。
安富さんの主張はつぎのとおり。多くの学者が自覚無自覚に拘わらず当然の前提としている「市場/共同体の二項対立」観、つまり、「近代市場経済は、資本の原始的蓄積によって伝統的共同体が浸食され、破壊されることによって成立したものであり、共同体と対立するものだ」という観念は、少なくとも普遍的に当てはまるものではない。むしろ、「伝統的共同体」などというものは近代が自らを正当化するための「たたき台」として作り出した虚像であって、それはなんら普遍的なものではなく、中国やインド社会の研究が明らかにしているとおり、そのようなものが存在しなかった社会はいくらでもある。また、近代特有のものだとされる「市場」(いちば)は、実際には、売り手、買い手ばかりでなく、傍観者、おしゃべりする人たち、宗教者といった様々の人々が関わり合う交渉の場であり、決して、「取引所」のようなものではない。さらに、市場で交わされる一見無意味と思われがちな「噂」や「おしゃべり」「風評」は、社会の構造(=「関係」)に様々な情報を書き込んでいく重要な役割を担っている。つまり、市場は商品の需給や価格を最適化するための場などではなく、むしろ「関係」(個別のインターフェースの集積体)に情報を書き込んでいくための場としてこそ重要なのであり、そこには「市場/共同体」の二項対立などというものはまったく見いだされない、というものでした(安富様、整理が誤っていたら、ご訂正ください)。
「合理化」、「透明化」が大合唱される時代です。そうした方向が誤っているのではないか、経済学理論が作り出した「虚構の理想」に突き進んでいく愚挙なのではないかということは、ここで立ち止まって考えてよいことだと思います。
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2004.12.30
12月29日(水)15時から、東京・虎ノ門の坂井・三村法律事務所会議室にて、交渉教育研究会が開かれました。形式的には第2回研究会ですが、内容に踏み込んだ研究会としては初会合でした。
基調報告の報告者は、早稲田大学文学部教授で心理学者として論証教育を実践しておられる福澤一吉氏でした。福澤氏は、学部1年生向けの講義で実際に行っている論証教育の授業内容をダイジェストする形で報告を進められました。トゥールミンの議論モデルを手がかりに、「根拠(Data)」と「主張(Claim)」、そして両者を結びつけるものとして「論拠(Warrant)」という論証の要素を明らかにし、それらの要素を学生に抽出させ、構成し直すというような演習型の授業を行っているということが克明に明らかにされました。個人的には「論証を再構成する」という単元で、「隠された論拠をあぶり出す」というところについて興味深くお話を伺いました。
ディスカッションでは、まず「隠された論拠」に関する質疑が集中しました。隠された論拠を明らかにするとともに、その論拠の裏付けまで遡って論拠を覆すという動的プロセスについて、数名の参加者から質問が繰り返されました。これに対する福澤氏の応答は、「論拠が覆されるというのは論証の心理過程の問題であって、自分もそうした研究に関心はあるが、なかなか立ち入ることができない」というものでした。私などは、論証の心理学にまで遡らなくても、根拠と論拠/反証、そしてその裏づけの階層構造を相関関係として捉え、動的にモデル化することは可能であり、それを交渉教育に生かす方法もありうると考えるのですが、なかなかそのような議論にはなりませんでした。
福澤氏の関心は、論証の最も基本的な形式を、主として理系(ないし心理学)の学部1年生に身につけてもらうことに向けられており、法的交渉教育よりもずっとベーシックな論証教育に関わる問題を重視しておられるようでした。
法科大学院入試の適性試験でも論理問題が重視されており、司法研修所の要件事実教育も形式論理的トレーニングを重視しています。なるほど、法的な交渉教育の基礎も、形式的な論証のフォームをまず身につけさせるところにあるというのはたしかなことです。ただ正直なところ、交渉によって契約を締結したり、紛争を解決したりすることを内容とする、より発展的な交渉教育を行ううえでは、福澤氏の教育実践はややベーシックすぎると思えるところがありました。ベーシックな論証教育の成果をふまえ、その上で学生にどのような交渉スキルを身につけさせていくかということは、私たちの課題です。やらなければならないことは大変多いと、あらためて痛感させられている次第です。
今年も残すところあと2日。みなさまよいお年をお迎えください。
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2004.12.15
今年も残すところ少なくなりました。私自身、やり残したことがたくさんあり、かなり焦りを感じているところです。みなさんはいかがでしょうか。
さて、年明け後の2005年1月24日月曜(18時から20時まで)に、大阪大学医学部付属病院のクオリティー・マネージャーである医学系研究科の中島和江助教授をお招きして、第4回法科大学院形成支援プログラム・ユニットA研究会を開催します(法・経総合研究棟4F大会議室)。
中島先生は、ヒューマンエラーの可及的防止、医療トラブルの発生・拡大の予防・管理、医療紛争が発生してしまった場合の対応といったことについて、現場を熟知した医師の立場でご研究されています。次回の研究会は、法学研究者にとっては、医療現場にかぎらず、広く紛争の予防、管理、解決一般について示唆に富む、興味深い報告・ディスカッションになるはずです。
報告者プロフィール
中島和江:大阪大学大学院医学系研究科助教授
大阪大学医学部付属病院中央クオリティーマネジメント部副部長
編著書『クリニカルリスクマネジメント ナーシングプラクティス』文光堂、2003年
『ヘルスケアリスクマネジメント』医学書院、2000年
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2004.12.13
12月13日(火曜)の夕方18時から20時まで、大阪大学大学院法学研究科新棟4F中会議室にて、第3回法科大学院形成支援プログラム・ユニットA研究会が開催されました。
先だってのメールでお知らせしたように、私も話題提供者として報告を担当させて頂きました。報告タイトルは「医療におけるリスク・マネジメントと対話」です。医療過誤とその後のトラブルの問題は、かなりの部分が医療スタッフ間のコミュニケーションの欠如の問題、あるいは患者(および家族)と医療スタッフとのコミュニケーションの欠如の問題なのではないかということでお話しさせて頂きました。参加者には医学部スタッフの方にも入っていただいているのですが、病院でのインシデント・アクシデントは往々にして組織におけるコミュニケーションの欠如によってもたらされるということが確認できたことは、私自身にとって大きな成果でした。他方、医師にはだれでも未熟な時代はあるわけで、未熟な医師が高度医療に挑戦することがいけないのではなく、その際に適切なバックアップ体制ができていない(あっても機能していない)ことが問題なのであるという指摘もありました。医療のスキルは、個々の医師だけに帰される問題ではなく、組織として担われています。だとすれば、ますます医療スキルの問題はコミュニケーションの問題だということになります。
実のところ、いずれの現場でもコミュニケーション・スキルの欠如が問題にされています。ものづくりの現場でも、病院でも、会社でも、学校でも、もちろん大学でもです。コミュニケーション・スキルの向上を図ることこそが、ミスを防ぎ、またトラブルを拡大させないために不可欠であるという問題設定は、いまや時代の問いといってよいものとなりつつあります。もっとも、コミュニケーションだけですべての問題が解消されるわけではありません。学校教育や企業内教育の現場で、かつてはひじょうに大切にされていた、体で身につける「暗黙知」をはじめとして、まだ多くのものが見落とされているような気がします。あまりに検討する対象が広がりすぎると整理がつかなくなるので、さしあたりコミュニケーションを問題にしていきたいところです。まだ入り口にも達してはいませんが。
いずれにしろ、興味深いテーマは山ほど転がっていますね。
それではまた。
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2004.12.10
第3回法科大学院形成支援プログラム・ユニットA研究会が下記の要領で開催されます。関係者のみなさま。どうぞご参集いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
記
日時:2004年12月13日(月) 18:00~20:00
場所:中会議室(新棟4F)
議題:
(1) 報告:「医療におけるリスクマネジメントと対話」
福井康太氏(大阪大学大学院法学研究科助教授)
(2)各自の研究課題について
(3)その他、連絡・打合せ(施設見学実施日など)
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2004.12.08
12月7日(火)に、大阪梅田の新阪急ホテル2F紫の間④で、本年度第1回目の大阪大学基礎法学研究会を開催しました。参加者は、大阪大学大学院法学研究科スタッフ、および同研究科博士課程の院生・出身者で16名。報告者は「言い出しっぺ」の私で、阪大法学54巻3号に掲載した「ADRの『共通的な制度基盤』整備の問題点-裁判外紛争解決の柔軟で多様なあり方をめぐって-」の内容を報告用にアレンジしてお話しさせていただきました。
折しも、11月19日に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(いわゆるADR法)が成立し、12月1日に公布された直後です。参加者の関心も高く、時間内にはとうてい終われないほどに議論が盛り上がりました。私は、社会のなかの多様な紛争解決ニーズに応えていくためには、多様なADRが許容されるべきであり、そのための制度基盤として、今回成立したADR法の「認証制度」にはかなり問題があるという観点から議論を展開させていただきました。多様なADRのあり方を許容するという主張にやや躊躇を覚える参加者も、こちらの主張の本質的なところについては理解してくれたと思います。
「当事者の「権利」の保障はボトムラインである。紛争解決にあたっては、必ずしもゼロサム的な解決がなされるとはかぎらず、柔軟な取引をおこなうことでパイが増えるような解決のあり方も可能だ」という主張は、今のところ多数派とは言えません。とはいえ、そのような可能性をさらに伸ばしていく方向でADRが活性化されていくことの意義は否定できないだろうと考えています。今後ともこのような議論をする機会をさらに持つ必要があると感じているところです。
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2004.12.03
昨日、関西経済同友会参加企業の方々と、大阪大学大学院法学研究科・高等司法研究科の研究グループとの「交流研究会」の初顔合わせが行われました。この「交流研究会」は、私が研究代表者として受けている平成16-18年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))の研究グループが、関西に本社を置いている企業の現場を学ばなければならないということで、関西経済同友会にお願いし、その希望がかなって実現したものです。
法学研究者も、現場に学び、学んだことを理論化し、それを現場に還元していかなければなりません。法科大学院時代になって、ますますそのような必要が増してきています。つねに現場の常識を持ちながら、改革の時代に求められる制度整備の提言を行い、またバランス感覚を備えた法曹を養成していくことが、いま法学研究・教育に携わっている者に期待されていることのはずです。この「交流研究会」が、今後「産・学交流」の場としてさらに発展していくことを期待してやみません。
本「交流研究会」の発足にいたるまでいろいろご尽力いただいた関西経済同友会事務局様、大丸グループ本社様、そして、とりわけ萩尾千里 関西経済同友会常任幹事・事務局長に心から御礼申し上げます。
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2004.11.23
みなさま
11月22日(月)の18時から、大阪大学大学院高等司法研究科の形成支援プログラム「科学技術リテラシーを備えた先端的法曹養成」ユニットA(リスク分析・構成能力に関わる教育研究プログラム)研究会が開催され、参加して参りました。報告、ディスカッションともに大変興味深い研究会でした。
まず、大阪大学大学院医学系研究科の木村正先生が高度生殖医療について基調講演をされ、それに続いて法学系から松川正毅先生が生殖補助医療に関する私法上の法動向について、主としてフランス法を手がかりに報告され、そして島岡まな先生が刑事法上の立法動向などについて報告されました。
木村先生は、「生殖医療については、すでにパンドラの箱は開けられている」という問題提起から話を切り出され、「だれの卵、だれの精子、いつ、だれの子宮へ」の組み合わせにもとづいて、生殖医療の最先端でどのようなことが可能になっているのかということについて、ひじょうにわかりやすく説明してくださいました。松川先生は、フランスにおける生殖補助医療に関する規制立法の基本原理(無償性、匿名性、人間の尊厳)を紹介されるとともに、それらの中核となるのが「人間の尊厳」であり、この基本原理から「凍結精子を用いること」「治療希望者が生殖可能な年齢であること」「男女のカップルであること」という具体的基準が導き出されるという話をされ、興味深く伺わせて頂きました。松川報告では、フランス特有の問題をご紹介頂いたことで、日本法上の問題を考える上での重要な参照点が明らかにされたと考えています。島岡先生は、フランスで設けられている刑罰規定を紹介する一方、高度生殖医療をめぐる刑法上の規制の難しさを、道徳と刑法の関係と、保護法益特定の難しさという観点から説明されました。
木村先生のご議論でとくに興味深かったのは、現場の医師はひどくアンビバレントな立場におかれており、彼らは「縛り」としての法的規制を鬱陶しいと感じる一方、患者に対して「これ以上のことはできません」と説得するための「論拠」として規制立法を欲してもいるということです。このアンビバレンスに、高度生殖医療の現場の悩みの深さを垣間見ました。
私個人としては、中長期的なリスク・マネジメントの観点から、いったいどの程度まで踏み込んだ先端医療を施すことが好ましいのか、そうした医療を施すにあたって、どのようなコンセンサスが医師と患者、そして社会とのあいだで共有される必要があるのか、さらにそうしたコンセンサスを構築していくためにはどのような戦略が重要になるのかといったことに興味があります。こうしたリスク・マネジメント的観点と、患者の権利確保という観点はどこかで交錯するはずです。今後の同研究会の発展に期待しているところです。
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2004.11.18
みなさま
年末も迫ってきたところで、大阪大学大学院法学研究科の基礎法スタッフを中心として、大阪大学基礎法学研究会を開催することになりました。関係する先生方、院生の方々は、よろしくご参加ください(一般の方には非公開です。どうかご容赦ください)。
場所)梅田・新阪急ホテル「紫の間④」(「紫の間」の一角を会議室として使わせて頂きます)
日時)12月7日(火)17時30分から19時まで
報告者)福井康太
題目:ADRの将来-新ADR法との関連で-
本報告は、先だって「阪大法学」54巻3号に掲載させて頂いた「ADRの「共通的な制度基盤」整備の問題点-裁判外紛争解決の柔軟で多様なあり方をめぐって-」を発展させる形で行います。すでにADR法の法案も上程されており、状況は急展開しつつあるので、現段階での検討は重要です。本報告は、2005年5月14-5日に開催される日本法社会学会大会ミニシンポでの報告の準備も兼ねています。
報告とディスカッションの内容については、追ってお知らせ致します。
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2004.11.15
みなさま
さきの11月13日(土)14日(日)に広島大学法科大学院で開催された2004年度日本法哲学会大会に参加して参りました。今回のテーマは「リバタリアニズムと法理論」なるテーマで、私の問題関心とはややずれるところもありましたが、ほとんど年に1回、学会の折にしかお会いできないような多くの先輩後輩、その他先生方の多くにお会いできるとあって、勢い込んで参加して参りました。個別報告では、先だってのドイツ滞在のおりにお世話になった若林さんのご報告をはじめとして、若手の報告を興味深く聞くことができました。全体会については、すでにかなり論じられているテーマとあって、目から鱗が落ちるというような新たな発見はありませんでしたが、名古屋大学の愛敬浩二先生をはじめ、法哲学と実定法学の対話に熱心な報告者からの挑戦的な問題提起からは得るところ大でした。大会の参加者は地方での開催にも拘わらず、法政大学で開催された昨年度と変わらない盛況ぶり。来年度の大会は南山大学で開催され、「法の支配」が統一テーマになるとのこと。今年度同様、盛会であることを心から願っているところです。
せっかく広島に行ったにも拘わらず、ほとんど市内観光の時間などありませんでした。当然、安芸の宮島も訪ねることはできませんでした。次回には観光のための時間も確保したいものです。忙しいので難しいかもしれませんが。
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2004.11.04
みなさま
先の10月30日(土)に、元労働省女性局長で大阪大学大学院法学研究科法政実務連携センター招へい教授の藤井龍子先生をお招きしての研究会を開催させて頂きました。藤井先生のご報告は、詳細なデータに裏付けられた大変に密度の濃いもので、私どもの小さな研究会には過分な示唆をいただけたと、大変感謝しているところです。
藤井先生の基調報告は、企業内外の個別労働紛争処理の現状から、平成13年10月の個別労働紛争解決促進法施行以降における都道府県労働局の個別労働紛争処理制度の状況(とりわけ大阪労働局の特殊な状況)、都道府県の労政・労働事務所の個別労働紛争処理制度の状況、地方労働委員会におけるそれ、さらに司法機関におけるそれ、加えて、セクシャル・ハラスメントの法制化の経緯からその概要、紛争処理制度との関わりといったところ、たいへん多岐にわたり、しかもそのそれぞれについて最新のデータが付されていて大変に説得的で示唆を得るところ大でした。
私にとって特に得るところが大きかったことは、まず、職場における苦情のうち、人間関係に関わること、とりわけメンタルヘルスに関わりをもつ問題について、国が「労働安全衛生」のスキームで検討を始めているということが確認できたことです。この科研費のプロジェクトが、労働安全衛生法第3条にいう「快適な職場環境」に、「良好な人間関係」といった、物的環境とは異なる要素を含めて考えようという方向で検討を進めているのが、あながち間違いではないことが確認でき、大変に力づけられました。今後、「新しい職場リスク」といわれるメンタルヘルスに関するトラブルやいじめ・嫌がらせといったトラブルが職場の安全衛生の圏域で議論されるとすれば、本研究がそれに対する一貢献となりうるという確信を深めています。
そのほか、それぞれの苦情処理機関の情報の共有をはかり、それを個々の企業や他の紛争処理機関に還元し、社会全体で、苦情処理キャパシティーを高めていこうとする方向についても示唆を得ました。私自身がそのような方向でADRの役割の活性化を理論付けていこうとしていたところだったので、ここでも大いに力づけられているしだいです。
藤井先生の基調報告のあと、お弁当を食べながらのランチセミナーも楽しく、さらに、松本和彦教授(憲法・環境法)による、大阪大学セクシャル・ハラスメント相談体制についての報告も、藤井先生のご報告をさらに具体的に掘り下げることになり、大変興味深くうかがわせていただきました。さらにご報告いただいた弟の福井祐介さん、いろいろ発言し、ディスカッションを大いに盛り上げてくれた参加者のみなさん、本当にありがとうございました。
最後に、すばらしい示唆に富む報告をいただいた藤井龍子先生に、重ねて心から感謝をささげたいと思います。今後とも、なにとぞご指導・ご鞭撻よろしくお願いいたします。
(追伸)ここ数日個人的にいろいろ忙しく、また体調のすぐれない日が続いたので、ブログの更新が遅れました。この点、申し訳ございません。

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2004.10.25
みなさま
10月23日、24日の土日に、東京大学統計数理研究所で開かれた「動的システムの情報論4-シグナル伝達とコミュニケーション-」なる研究会に招かれ、参加させて頂きました。神戸大学のCOE研究会の折りに知り合った、東大の安富歩先生(複雑系経済学・経済史)のお招きでした。同研究会は、複雑系の生物学や経済学の研究者たちがいろいろなテーマを持ち寄ってディスカッションし、新しい着想を得て研究を深めていく場であるというように理解致しました。生物系で参加しておられた研究者の方のほとんどが、「複雑系生命」の研究で有名な金子邦彦先生(東京大学大学院総合文化研究科)の研究室のそうそうたる面々であることがしだいに分かってきて、身の引き締まる思いでした(当の金子先生にご挨拶できたのは帰る直前で、申し訳ありませんでした)。
23日には安富先生と、歴史学の黒田明伸先生の合同報告。24日は複雑系生物学の理論のオムニバス報告という感じでした。私自身、ルーマン研究をかじっていたとはいえ、法社会学というかなり限定された専門の思考様式にかなり毒されており、議論について行くためにはかなりの集中力を必要としました。とくに2日目については、正直なところ、ついて行けていない場面の方が多かったように思います。とはいえ、秩序形成のメカニズムについていろいろ示唆を得ることができたので、自分の研究に反映させることができるのではないかと考えているところです。
目下、法科大学院の法社会学の授業で「法曹の新しい職域」についてディスカッション型の授業をはじめています。「法曹の新しい職域」を開拓していくためには、法曹の科学技術リテラシーの向上が必要不可欠であるというのが持論なのですが、それを実践していくためにも今回のような学際的・文理越境的な研究会に積極的に参加していきたいと考えているところです。
それでは。
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2004.10.05
10月を迎えておりますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
さて、すでに掲示させていただきましたとおり、大阪大学大学院法学研究科・法政実務連携センター招へい教授で元労働省女性局長の藤井龍子先生に、本科研費共同研究(基盤研究(B)(2)「紛争回避と法化の法理論的・実証的検討」)の研究会に参加のうえ、ご報告いただきます。研究会は下記の要領で開催いたします。
記
日時:10月30日(土) 10時30分~17時
場所:大阪大学大学院法学研究科
法・経大学院総合研究棟 4F 大会議室
報告等:
1.はじめに(福井) 30分程度
2.藤井先生のご講演 1時間~1時間30分
講演題目:個別労働紛争解決制度における紛争処理
(昼食)
3.ディスカッション 質疑応答を含めて
1時間~1時間30分(15時ぐらいまで)
(15分休憩)
4.予備調査の経過報告等 (17時まで)
参加予定者は科研費共同研究の研究分担者および研究協力者、研究会メンバーのみなさんです。それ以外の方でご関心のおありの方は福井の方までご連絡ください。検討させていただきます。
よろしくご参加いただければ幸いです。
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2004.07.12
みなさま
第一回研究会に参加された方にはすでにお知らせしているとおりですが、元労働省女性局長の藤井龍子先生をお招きして、第二回科研費研究会(基盤研究(B)(2)「紛争回避と法化の法理論的・実証的検討」)を下記の要領で開催したいと思います。もっとも、開催自体かなり先のことなので、現時点では演題等は未定です。追ってお知らせいたします。
記
日時)10月30日(土) 10時30分~17時
場所)大阪大学大学院法学研究科
法・経大学院総合研究棟 4F 大会議室(予定)
報告等)
1.はじめに(福井) 30分程度
2.藤井先生のご講演 1時間~1時間30分
(昼食)
3.ディスカッション 質疑応答を含めて
1時間~1時間30分 (15時ぐらいまで)
(15分休憩)
4.予備調査の経過報告等 (17時まで)
*今後しばらくこのBlogでは、本科研費研究の予備調査の経過報告の記事が続くと思います。
それでは。
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2004.07.04
去る7月3日(土)に、大阪大学大学院法学研究科・法経大学院総合研究棟4F中会議室にて、15時から18時半まで、法学研究者、社会学研究者からなる11名+書面参加1名の参加を得て、科研費共同研究プロジェクト「紛争回避と法化の法理論的・実証的検討」の第一回研究会が開催されました。
【報告題目】
①福井康太「組織における紛争回避傾向がもたらすもの」について考える
②水島郁子「職場における安全配慮・環境整備-労働法の立場から」
③ディスカッション「調査の進め方等について」
Ⅰ 福井報告
福井構想の基本的な考え方は、企業等の組織で見られる、使用者・組織管理者による紛争回避を目的とする「組織いじり」がその受け手である従業員等によってどのように受け取られるのかということについて、「決定者Entscheider」と「被影響者Betroffene」というルーマンのリスク論で用いられている区別を用いて分析するということです。すなわち、それぞれの立場の思惑のあいだの溝の大きさを浮き彫りにする一方、その両者が対抗しつつもある種の均衡に達することがあり得るのかどうか検討するということです。
これに対する質疑応答の詳細は省略致しますが、「使用者・組織管理者の観点/従業員の観点」という2アクターの対抗関係を設定した理論モデルは単純にすぎ、これに加えて「行政主体」「外部者」のようなさらなるアクターを組み込む工夫が必要であるというご指摘や、「使用者・組織管理者」「従業員」というように、ある単位を一括りにできるアクターを措定することはできないので、作業仮説をたてるにしろ、調査がある程度進むまでモデル設定はオープンにしておいた方がよいといったご指摘は重要であると受けとめています。
Ⅱ 水島報告
水島報告は、詳細な判例整理のレジュメを用いて行われ、(1)職場におけるハラスメント(その定義について)、(2)労働裁判例に見られる安全配慮・環境整備(10件に上る詳細な裁判例紹介)、(3)救済アプローチ(被侵害利益に着目したアプローチと救済機関別アプローチの区別を指摘)、(4)ヨーロッパの動向(ヨーロッパ諸国ですでに職場のいじめに対する立法措置を講じている国があることを指摘)という順序で検討が進められました。
水島報告についての質疑応答は、主として安全配慮義務の法的性質を中心として展開され、不法行為構成と債務不履行構成とでどのような点に違いが生じるか(消滅時効と利息債権の発生時期)といったこと、裁判所はなぜ債務不履行構成よりも、不法行為構成を好んでいるのか(信義則のような「伝家の宝刀」を抜くのはできるかぎり回避されなければならないし、契約上の義務は不用意に拡張されてはならない)といったことについて踏み込んだ議論がなされました。他方、社会学サイドからは「内包的定義」と「外延的定義」の使い分け方についてコメントが加えられ、また、参考に挙げられたサンプル事例は典型事例であるかどうかという質問に対して、それらは典型事例であると考えられ、裁判上の事例数は少ないものの労働相談の窓口等で相談データが蓄積されている可能性があるといった回答がなされました。この点に関して、いじめ相談等の制度が整備されることでかえって報告事例数が増えるというパラドックスがあるので、報告事例数だけで問題の動向を判断することについては注意を要するという指摘がなされました。
Ⅲ 調査の進め方等について
「調査の進め方について」は仁木恒夫氏(書面参加)の作成したレジュメにもとづいて検討が行われました。
詳細は省略しますが、つぎのようなことが確認されました:まず、この調査は従業員数の多い大企業にとくに見られる問題を対象とするので、中小企業は検討対象から外し、たとえば従業員数1000人以上といった基準を用いて、関西経済同友会名簿などからサンプル抽出するのがよいとの意見が出されました(場合によっては関西経営者協会や労働組合のルートも用いる)。また、調査設計上は、事業主と従業員の調査について、それぞれ別立てに質的調査と量的調査を行う必要があり、それを前提として予備調査をすすめ、2種類の調査票を作成し、配布回収。その際、事業主調査については郵送法による調査、従業員調査については若干のサンプル企業を選定し、組合等に依頼して従業員にアンケートを配布してもらい調査を行う提案がなされました。そのほか、回収率の向上のために、たとえば府知事等の著名人の「添え書き」などがあった方がよいというようなことが議論されました。(なおこれは議論されなかったことですが、回収方法については、事業主調査については料金別納の封筒を同封し回収を図るとともに、従業員調査については職場単位に出向いて、集約してもらったものを受取るといった方法で回収を図るのがよいだろう)。

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2004.06.07
みなさま
科研費共同研究プロジェクト「紛争回避と法化の法理論的・実証的検討」の研究打ち合わせを兼ねて、下記の要領で第一回研究会を開催することになりました。参加を予定しているのは、同科研費の研究分担者、研究協力者のほか、研究会のメンバーとしてディスカッションに参加いただければと思って福井の方で声をかけた方々です。
記
日時) 7月3日(土)15時~18時まで
場所) 大阪大学大学院法学研究科
法・経大学院総合研究棟4F 中会議室
報告)
①福井康太「本研究プロジェクトの趣旨について」
②水島郁子「安全配慮・環境整備に関する労働法、
社会保障法上の最近の動向について」
③ディスカッション「予備調査の進め方について」
第一回研究会は、今後の研究方針を決める重要な研究会になると考えています。参加者のみなさん。活発なご議論をよろしくお願い致します。
研究会の終了後には、ささやかな懇親会の開催を予定しております。こちらの方もよろしくお願い致します。
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2004.06.05
みなさま
昨日の6月4日(金)に、知人のドイツ人法曹で東京大学にて滞在研究中のNixdorfさんを招いての大阪大学法学会講演会を終えました。「Daily Mail事件、Centros事件、Ueberseering事件、Inspire Art事件:欧州司法裁判所の4つの判決を比較して-ヨーロッパ会社法に対するECJアプローチの再構成-」というタイトル(翻訳作業を通じてタイトルもより洗練されたものにあらためました)で講演をいただき、そのあとの時間でディスカッションをするというような形でどうにか会を終えることができました。テーマがタイムリーだったことから、国際取引法や会社法、国際私法の先生においでいただくことになり、参加者は大変に充実していました。講演をいただいたNixdorfさん、そして、コメントをいただいた森田果先生(東北大学の先生です)、そのほかお集まりいただいた方々に心から感謝致します。もっとも、まったく専門外の私が通訳だったこともあり、質問等のやり取りを正確に通訳することができず、よりテクニカルな議論を期待しておられた先生方には申し訳なく思っています。もっとも、こういう機会があったからこそ、慣れないテーマを勉強することができ、得るものは多かったと思っています。専門分野の垣根を超えた議論ができる機会は今後も持ち続けたいと思っています。なお、Nixdorfさん本人から、このような機会を設けていただいた大阪大学法学会および平田先生の科研費研究グループに心から感謝しているとの言葉をいただきました。それでは。
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2004.05.09
みなさま
大阪大学大学院法学研究科の科研費プロジェクト「市民生活基盤の法および行政に関する日米欧間の比較検証」の研究会の一環として、知人のBenjamin Nixdorfさんに講演をお願いしました。なお、同研究会でのNixdorfさんの講演は、大阪大学法学会主催の講演会として行われることになりました。
日時) 2004年 6月 4日(金) 15時から17時まで
場所) 法・経大学院総合研究棟(4F)大会議室
演題) Daily Mail事件、Centros事件, Ueberseering事件,
Inspire Art事件: 4つのケースを比較して
--ヨーロッパ会社法に対する司法的アプローチの
再構成の試み
(Daily Mail, Centros, Ueberseering, Inspire Art
--Trying to Reconstruct the Courts Approach
on European Company Law)
Nixdorfさんはフランクフルト大学のZuleeg教授のもとでEU経済法を学んだのち法曹資格を取得、今年の4月からは日本の文部科学省奨学金を得て東京大学社会科学研究所の中村民雄先生のもとで3年間の予定で滞在研究をしている、ドイツ人の若手法学研究者です。彼は、日本では、日欧比較法的なスタンスにたって経済法の研究を進めていくつもりのようです。
彼は、私がフランクフルト大学滞在中に知り合ったなかでとくに優秀な若手研究者だったというばかりでなく、私の拙いドイツ語原稿の手直しに音を上げることなくつきあってくれた恩人でもあります。彼は、まだ若いので、今後どのような方向に進んでいくのか、なおはっきりしないところもあります。とはいえ、彼が大変に力量のある若手法曹であることは保証できます(彼のように、法曹資格試験で最上位合格しているような、ドイツのトップレベルの若手法曹は、なかなか日本には研究に来てくれないのです)。私は、彼がすぐに研究面で頭角を現してくることを確信しています。いずれにしろ、Nixdorfさんは、今後、日欧比較法研究の分野で役に立ってくれることが大いに期待される、重要な若手です。私は、彼の将来を、熱いまなざしをもって見守っていきたいと思っているところです。
研究会のペーパー通訳は私が担当します。専門がかなり異なるので悪戦苦闘が十分予想されますが、Nixdorfさんはすでにいろいろ配慮してくださっており、ほとんど通訳なしでもかまわないぐらいにわかりやすい報告になると思っています。スタッフ+αによる、こぢんまりとした研究会を考えているので、多くの方の参加を呼びかけるというようなことはできませんが、もし関心がおありの方は、私の方にご一報いただければと思います。
大学のHPにも掲載されました。
http://www.law.osaka-u.ac.jp/info/hougakukai_05_12.html
http://koho.jim.osaka-u.ac.jp/pub/00001004/00000348.html
それでは。
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2004.03.28
みなさま
最近研究会の記事ばかりです。さて、3月27日(土)に、同志社
大学法学部で毎月行われている法理学研究会(幹事、桜井徹、
濱真一郎)の例会で、拙著『法理論のルーマン』の合評会が行わ
れました。昨年まで山形大学の同僚で、現在は関西大学におら
れる小泉良幸さん、そして、九州大学大学院時代からずっと私の
議論の相手をしてくれている、中川忠晃(山形大学)さんに講評を
いただき、それに私がリプライするというものでした。小泉さん、
中川さん、そして幹事の濱さん、参加者のみなさん、いろいろご
意見をいただきありがとうございました。
法理学の根本問題に関わるのか、「法の内的視点/外的視点」
ということが議論の中心となりました。『法理論のルーマン』は、
法学の内的視点に立つものなのか、外的視点に立つものなのか
ということです。法解釈学の研究に携わる、小泉さんも中川さん
も、私のスタンスは法の「内的視点」に立つものではないが、にも
かかわらず法解釈学者の問題意識とおしてみても無視し得ない
ことを議論しているように思われるのはなぜなのかというような
(一見お褒めなのかなんなのか分からない)問題提起をされ、そ
の理由が「紛争処理」という、法解釈学者もまた避けて通ること
のできない課題について、彼ら自身と同じレベルで悩んでいると
いうようなことがあるだろうというようなことを指摘されました。
法解釈学は、諸々の実定法規、法的原理、判例法理といった現
実の法素材を整合的で一貫した内容を持つものとして描き出し、
それにもとづいて適切な決定を導き出すということを課題にします。
その際、「紛争処理」は前面に出されることはなく、「隠された課
題」として背後におかれることになります。とはいえ、法解釈学も
また、法実務を前提にした実践である以上、「紛争処理」という課
題に目をつぶることはできません。法解釈を行う「お約束事」に縛
られながら、なおかつ現実の紛争をいかに解決していくかを考え
なければならない彼らにとって、違う観点からとはいえ、指針のよ
うなものが示されるということには一定の意義があるのでしょう。
「紛争処理」についての議論が、しばしば議論に乖離のある法解
釈学者と法社会学者、法哲学者のあいだを仲介し、両者のあいだ
での対話の可能性を開くものだとすれば、そういう議論をさらに活
性化して法解釈学を豊穣化するとともに、法の基礎研究の充実を
図っていくことは、法科大学院時代に臨んでいく私たちの、時代の
使命であるようにも思います。私自身微力ながら、そういうことに
貢献できればと考えているところです。
参考までに:
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/3875/past2004.htm
2004年3月28日
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2004.03.15
みなさま
先の3月14日(土)に、東洋大学法学部(白山キャンパス)で開
かれた東京法哲学研究会2004年3月例会で報告させていた
だきました。年度末の忙しい時期であったにもかかわらず、20名
以上の参加者があり、かなりの盛況でした。当日に参加いただ
いた方々には心から感謝いたします。
報告の内容は、神戸大学でお話しした内容を、法哲学研究者向
けにアレンジしたもので、「紛争の秩序性をめぐって」というタイト
ルでお話しさせていただきました。相方の報告者ともテーマがか
なり重なっていたこともあり議論は活発で、「秩序とはどのような
ことを言うのか」という根本的な問いについて多くの方々といくつか
の議論前提を共有することができるにいたったことは、本当にすば
らしいことです。同時にまた、自我と他我という区別を登場させた
折りに、「そもそも他我なるものを何の理由もなく登場させてよい
のか」といった、より根元的な質問も飛び出してきて、一瞬どう答
えたものかと迷ったりもしたのですが、その場限りの答えでお許し
いただいたような格好です。社会学的出発点と哲学的出発点の
根本的な異なりのようなものを感じざるを得ませんでした。
それから、少し個人的なことになるのですが、メーリング・リストの
ルーマン・フォーラムで長らくお世話になっておりながら、これまで
直接お会いする機会を持つことができなかった酒井泰斗さんとお
話しすることができ、本当にうれしいことでした。懇親会の折、酒
井さんには、メーリング・リスト運営上の苦労の多さなどについて
伺うことができ、また、今後どのようにルーマン・フォーラムを活性
化していくかといったことについて、意見を交わすことができました。
3月ももう半ばです。まもなく桜も咲きます。美しい季節のエネル
ギーを吸収して、新年度以降の忙しい生活に備えましょう。
参考までに:
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jalp/j/tokyo.html
それでは。
2004年3月15日(月) 福井康太
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2004.03.08
みなさま
先の3月7日(日)に、京都大学法学部で開催された日本法社会
学会関西研究支部研究会にて、ルーマン『社会の法』の書評報
告を行いました。福井康太の解釈を語るのではなく、内容紹介を
中心にした報告を期待するということだったので、そのような報告
にしたつもりですが、質疑になると、ルーマンに対する質問なのか
私の法理論のスタンスについての質問なのか、両者の境界が曖
昧な質問がやや多かったようにも思います。私自身は、法の自己
記述を中心とした法理論ではなく、むしろ「紛争処理」を中心に置
いた「総合的救済システム」の観察に立っているつもりなので、
もし、私に対する質問としてそのような質問がなされたということ
だとすると、かなり誤解があると言わねばなりません。
それにしても、『社会の法』に限った話をすると、どうしても、やや
狭い、旧来の「硬い」ドグマティクを念頭に置いた法システムの自
己観察・記述を延々と語り続けることになってしまうところがあり
(やはりルーマンはドイツの法ドグマティクを念頭に置いて議論し
ているところもあり仕方がないかもしれないのですが)、アメリカ流
の法社会学の洗礼を受けた多くの参加者からすれば、そういうと
らえ方に対する抵抗が非常に強く、「なんでキミはそういう研究を
おもしろがっているの?」と聞きたくなるのも分かる気がします。
ただ、ルーマンの議論を弁護しておかなければならないと思うの
は、ルーマンはあえて、裁判官や法解釈学者が採用するような
硬い「法理論」(法システムの反省理論)を引き合いに出しつつも、
それが本来無根拠であり、背後にパラドックスを隠し持っている
にもかかわらず、一見確固たる「法理論」としてとして十分にアク
チュアリティーを備えているのはなぜなのかということを問題にし
ていると思われることです。そうした戦略は、ほかの『社会の○○』
でも採られているところです。外部観察者である社会学者がなぜ
内部観察者の(彼らの自己満足と言ってもよいような)反省理論を
問題にするかということにはそのような理由があると言わざるを得
ません。
ルーマンの法理論を過度に「閉じられたもの」として読まないため
には、他の『社会の○○』をもあわせ読む必要があります。ルーマ
ンは法だけを対象に研究をしている社会学者ではありません。
社会のなかのあらゆる事態が、システムごとの固有の観察観点
ごとに、どのように観察され、またどのような盲点を生じるのかと
いう議論をしているのですから、固有の観察上の盲点をもつ「法社
会学的観察」の枠に強引にそれを押し込むのは適切ではないはず
です。
ドイツの法理論のひとつの流れとして、ルーマン流のシステム理
論の系譜は定着しつつあります。ルーマンの社会理論・法理論を
強引に「すでに過去のもの」ということにしてしまおうとする(これ自
体が、「日本における法社会学的観察」の盲点です)のではなく、
むしろ、その創造的なところをさらに拾い上げていく努力を続ける
べきなのではないでしょうか。
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2004.01.27
昨日(2004年1月26日月曜日)、神戸大学大学院法学研究科
のCOE「『市場化社会の法動態学』研究教育拠点」(CDAMS)
の基礎法研究分野研究会で講演させていただきました。タイトル
は「『秩序』としての紛争」。しばしば看過されがちだけれども、紛
争もまた一つの「やり取り」であり、そうしたやり取りを整序し、存
続させる「整序原理」のようなものが存在していることは疑えませ
ん。紛争もまた単なる混乱やカオスではないのです。
問題は、そういう「整序原理」のようなものをどのように表現してい
くかということですが、私は、それをあえてポレミカルに「秩序」とい
う言葉で表現し、「望ましい整序原理=秩序」「望ましくない整序
原理=反秩序」というような区別は、価値中立をものとする社会科
学の観点からはとることができないという立場をとることにしました。
研究会ではいろいろなご意見、ご批判をいただき、目下それを今
後の研究に生かそうと構想を練っているところです。参加者の皆さ
んありがとうございました。本来、本報告では「市場と紛争」という
タイトルで競争と紛争との比較を行いたいと考えていたのですが、
競争のとらえ方があまりに多様で、手に負えませんでした。この点
については今後の課題とさせていただきます。それではまた。
(2004年1月27日火曜日) 福井康太
*http://www.cdams.kobe-u.ac.jp/archive/20040126.htm
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