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2020.08.02

日本法社会学会学術大会ミニシンポジウム②と③の概要

2020年5月に予定されていた2020年度日本法社会学会学術大会はオンラインで時期をずらして分割で実施されることになりましたが、昨日81日はミニシンポジウム/個別報告分科会の実施日でした。午前午後とオンラインで長丁場の議論が行われましたが、1つのセッションに40名以上の参加があり、充実していました。以下は備忘録を兼ねた概要です。

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1日午前には、ミニシンポジウム②「62期第3 回・67期第2WEB調査データの多変量解析」に参加しました。セッションのコーディネータは藤本亮会員(名古屋大学)で、宮澤節生会員(神戸大学・UCへースティングス)が組織した、司法修習期に基づく10年以上におよぶコーホート研究の報告およびディスカッションとなりました。

最初の報告は、宮澤節生会員による「2つのコーホートの準パネル調査による若手弁護士キャリア研究の意義と課題-チーム内コメンテーターとしての具体的検討-」でした。これは研究のこれまでの経緯と現時点での調査結果の概要を紹介するものだったのでコメントは省略。

次の報告は石田京子会員(早稲田大学)による「法曹養成課程に対する評価―62期および67期コーホートの継時的データ分析から」でした。弁護士キャリアが長い弁護士のほうが、キャリアの短い弁護士より法科大学院教育、とりわけ臨床法学教育を役に立つと評価しているという調査結果が印象に残りました。

3報告は、上石圭一会員(追手門学院大学)による「出産・育児経験ある62期女性弁護士の所得と満足度」でした。所得水準について男性弁護士の方が高いというのは想定された結果ですが、それでも男性女性いずれの弁護士も職業満足度に有意な差がないというのは意外な結果でした。女性弁護士は企業内弁護士になる等の形で出産・育児を経験してもキャリアを継続できることに満足を見出しているのではないかという指摘はなるほどと思いました。

4報告は、石田京子会員(大活躍です)による「若手弁護士のワーク・ライフバランス―62期・67期コーホートの継時的データ分析から」でした。弁護士のワーク・ライフバランスにはまだまだ課題が多いと思っていますが、女性弁護士の50%以上が弁護士を配偶者としていること、育児負担が女性弁護士に一方的にかかっていること、弁護士の意識改革が重要な課題であることなど、多くの示唆がありました。

5報告は、藤本亮会員による「若手弁護士の登録地と職場での地位-初期キャリアにおける事務所移動のパターン-」でした。大都市と地方都市間の移動の傾向として、62期は地方都市に分散してその後そこに定着した弁護士が多いのに対して、67期はいったん地方で登録したものの東京に移動した弁護士がかなりいるという調査結果には考えさせられました。東京の大手ないし準大手法律事務所が若手の採用を増やし、また地方に赴任していた組織内弁護士が東京に戻ったことが理由だと指摘されていましたが、これは私の実感とも合っています。

6報告は、武士俣敦会員(福岡大学)による「若手弁護士の業務内容と業務専門化の決定因」でした。弁護士の主要な業務内容については前回の調査と比べてそれほど大きな変化はないものの、ただ、今回行った調査では企業相手の業務が大きく増えていることが特徴的であるということについては、確かにそのような傾向があるだろうと思いました。

昼休みをはさんで、午後の部ではミニシンポジウム③「弁護士のキャリアはどのように変化してきたか―弁護士キャリアの変化とその影響―」に参加しました。セッションのコーディネータは村山眞維会員(明治大学)。村山会員が科研費研究で行ってきた研究成果の報告とディスカッションでした。

最初の報告は、村山眞維会員による概要の説明と、「調査の概要と修習期別に見た弁護士職務状況の変化」でした。村山報告では、法科大学院修了者と予備試験経由者との比較が興味深いものでした。まず、法科大学院修了者の所得分布が一つの山しか作らないのに対して、予備試験経由者の所得分布は普通の所得層の山と高所得層の山の二つの山が形成されているという点。これは若くして予備試験で合格した者を大手法律事務所が好んで採用していることによると思われます。企業内弁護士について、複数の弁護士を雇用する企業が増えているという調査結果も実感に合います。

2報告は、杉野勇会員(お茶の水大学)による「収入レベルの規定要因」でした。大規模事務所、企業対象の法律事務所所属弁護士の収入レベルが高いというのは、特に驚くべきことではありません。出身大学では東大と慶大出身であることは有意にプラス要因であり、留学もプラス要因とのこと。これは東大と慶大出身者が大手事務所に就職することが多く、また、大手事務所が留学プログラムを備えている場合が多いことの表れとみるべきでしょう。

3報告は、飯考行会員(専修大学)による「企業内弁護士のキャリア・パターンと満足度の理由」でした。企業内弁護士は2019年末現在で2500名を超えています。もっとも、最近増加率は漸減しており、ピークは66期だったとのこと。企業内弁護士の最初の就職先は法律事務所が多く、また企業内弁護士は女性弁護士の割合が高い。このことは、女性弁護士がワーク・ライフバランスを考慮して法律事務所から企業へと移ってくることが多いことの表れです。

4報告は、石田京子会員による「弁護士キャリアのジェンダー分析」でした。女性弁護士は男性弁護士の約半分しか所得を得ておらず、事務所内の地位も勤務弁護士が多いなどあまり高くないとのこと。重点分野として女性弁護士は家族法を挙げている者が多いとも。女性弁護士は企業内弁護士への移動も多く、その理由はワーク・ライフバランスを挙げる者が多いとのこと。女性弁護士をめぐる環境はまだまだ多くの課題を残しています。

5報告は、森大輔会員(熊本大学)による「学歴の弁護士キャリアに与える影響」でした。出身学部、出身大学院と収入との関係についての興味深い紹介でした。収入レベルについては、杉野報告にもあったように、東大と慶大が有意に高収入。収入レベルは全体として下がり傾向だが、東大と京大は上がっているとのこと。渉外業務などを手掛ける弁護士については、収入が上がる傾向があるということなのでしょう。

最後の報告は、ダニエル・フット「アメリカ合衆国における最近のキャリア・コース調査との比較」でした。同報告は、アメリカで行われたいくつかの弁護士キャリア・コースに関する調査研究(①ABFによるAfter the JD調査、②Harvard Law School調査など)を手掛かりに、アメリカの弁護士キャリアの傾向について紹介し、日本のそれとを比較するものです。印象に残ったのは、アメリカでも法律事務所に就職する弁護士が圧倒的に多いけれども、議会、官庁、地方政府、企業、公益団体、労働組合など幅広く弁護士がいること、企業内弁護士は1980年ごろから急増するが、大手法律事務所から企業の法務部門以外への移動が多いこと、法務部門以外というのは会社役員が多いこと、など。弁護士としてのキャリアがステイタスであることと、登録料が安価であることから、弁護士に戻ることはないポジションについても弁護士登録を維持するのがほとんどであるとの説明には、彼我の違いの大きさを感じました。

今日もミニシンポジウム/個別報告分科会は続きます。無理にならない範囲で参加します。

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