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2020.08.09

日本法社会学会関西研究支部研究会例会・樫村志郎先生停年退職記念祝賀懇親会概要

2020年88日(土)15時から、日本法社会学会関西研究支部研究会例会・樫村志郎先生停年退職記念祝賀懇親会をオンライン(Zoom)で開催しました。オンラインだからなのか、オンラインにも拘らずなのか、延べ30人以上の参加者を得て(本研究会としては)盛会でした。もちろん、祝賀行事だからということもあるでしょう。今回は私の基調報告と、これに対する樫村先生(神戸大学名誉教授)のリプライというシンプルな研究会と懇親会でした。にも拘わらず、めったに顔を出すことのない大御所の先生まで顔をだし、充実した議論ができました。以下はその備忘録としての概要です。

基調報告は、私の「ルーマンとパーソンズ:ルーマンはパーソンズをどのように理解したか」でした。この報告は、20191013日(日)の関西研究支部研究会(前回)に樫村先生が報告された「理解社会学の継承者としての Parsons Garfinkel — Parsons 1937年までの初期著作とGarfinkelによるParsons Primer(『パーソンズ入門』)の読解を通じて」を受けて、私もまたパーソンズと結びつく形でルーマンの理論を整理しなおすということでお引き受けしたものです。機能概念、ダブル・コンティンジェンシー、社会システムの要素の問題(相互行為なのかコミュニケーションなのか)、システムと環境の定義、相互浸透、といった(ある意味わかる人にしかわからない)論点について、ルーマンがパーソンズとどのように格闘して自分なりの解答を導き出したかを紹介しました(前回、樫村先生は同様のことをガーフィンケルの視点で行われたのです)。関心のない人には「そんなの面白くない」と言われそうですが、樫村先生はむしろこのような議論をしたい人なのです。樫村先生停年退職記念祝賀行事にふさわしい報告だったと自画自賛しておきます。

これに対する樫村先生のリプライは大変に鋭いものでした。パーソンズの社会システム理論は生物学モデルを一貫して用いていること、パーソンズのシステムのイメージは生物のホメオスタシスであること、機能とはホメオスタシスのプロセスのことであって、ある部分を切り出して論ずることはできないものであること、AGIL図式は小集団研究のなかで見出された経験的なもので、論理の飛躍などではないこと、行為の目的を理解することを通してしか機能は理解できないことなど、私の理解が不十分だった点をすべて明らかにされました。そのあとのディスカッションでも、ルーマンについて、「複雑性の縮減」というのがすべてのシステムに共通する基本的機能なのではないか、「ホッブス問題」というのは社会学にとって本当に必要な議論なのか、パーソンズは「ホッブズ問題」を功利主義批判の文脈で論じており、行為の成立可能性との関係では論じていないのではないか、パーソンズは生物学モデルを使っているけれども、だからと言ってダーウィニズムの立場には与してはいない、など多くの有益な指摘をいただきました。

研究会終了後は樫村先生停年退職記念祝賀懇親会(オンライン)でした。いま流行のオンライン飲み会の形で、各自食事や飲み物を持ち寄って、2時間近く盛り上がりました。樫村先生が神戸大学に赴任された1980年代の「法と社会懇話会」の時から今の関西研究支部研究会になるまでの歴史を振り返るなど、得難い話を聞くことができました。本当に充実したひと時でした。

日本法社会学会関西研究支部研究会を取り囲む状況は厳しいものですが、樫村先生、今後ともご指導ご鞭撻よろしくお願いいたします。先生のますますのご健勝を心から祈念いたします。

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2020.08.03

日本法社会学会学術大会個別報告分科会①と若手ワークショップの概要

(続き)昨日82日は、ミニシンポジウムと個別報告分科会、そして若手ワークショップがオンラインで行われました。同日午前の部では、個別報告分科会①に参加し、午後の部では若手ワークショップに参加しました。

最初の報告は、郭薇会員(静岡大学)による「法学理論の伝播における『社会的なもの』―2000年〜2018年中国国内文献の川島武宜著作の引用分析」でした。電子化されたジャーナルデータベースを用い、川島武宜の中国語版抄訳論文集である『現代化と法』の法学雑誌での引用件数を年代別(2000年以降)に調べ、中国の法学雑誌で時代ごとに川島がどのように引用されているか、他の同時期の著名な論者の引用と比較してどのような傾向があるかを紹介する興味深い報告でした。中国社会の変化に対応して川島の引用のされ方が変わっている(同じ文献であっても違うことの論拠として使われたりする)という指摘が印象的でした。

2報告は、佐伯昌彦会員(千葉大学)による「少年法制に対する国民の意識の検討」でした。佐伯報告は、少年法改正の論拠として「世論」が引き合いに出される(適用年齢引き下げ賛成派も反対派も「世論」を持ち出す)ことから、少年法に関わる「世論」がどのようなものであって、それがどのように法改正に影響すると考えられるか、ウェブアンケートを使って調査した結果についての興味深い報告でした。一般論として質問した場合には年齢引き下げに賛成する者(80.6%)も、個別具体の設例については処罰を否定する場合が多い(特に14歳の少年の設例について)という指摘については、いいところを突いているという印象を持ちました。

3報告は、馬場健一会員(神戸大学)による「行政不服審査における諮問機関の実態と問題点―各地の情報公開審査会を素材に」でした。ご自身が全国の都道府県と政令指定都市に対して行っている行政文書の情報公開請求(体罰情報の開示請求)に対して、裁判例に従って適切な開示が行われたかどうかを具体的にリストアップし、法令に適切に従って開示が行われているかどうかを分析する挑戦的報告。今回は諮問機関である情報公開審査会の答申に焦点をあて、審査会の人事構成や審議期間といった非法的要因が法令非順守の傾向を生み出していないか検証するものでした。実務家(弁護士)委員が多い審査会ほど法令と異なる答申を出しているというのは衝撃的な発見です。

午後の若手ワークショップも大変興味深いものでした(若手とはとうてい言えないメンバーが結構いました)。ワークショップの前半は「学会奨励賞受賞者との対話」(コーディネータ 波多野綾子会員・東京大学、飯考行・専修大学)でした。

最初の講話は、秋葉丈志会員(早稲田大学)による「『国籍法違憲判決と日本の司法』(信山社,2017)(2017年度学会奨励賞(著書部門)受賞作)をめぐって」でした。フィリピン人と未婚の日本人の間に生まれた子供に日本国籍を認めない国籍法の違憲判決までの経緯と、これに関わった裁判官の経歴について分析した好著。著作の構想と出版までの苦労話のみならず、生い立ちまでさかのぼっての話となり、興味深く拝聴しました。

2の講話は、藤田政博会員(関西大学)による「Japanese Society and Lay Participation in Criminal Justice: Social Attitudes, Trust, and Mass Media (Springer Verlag, 2018) 2018年度学会奨励賞(著書部門)受賞作)をめぐって」でした。裁判員裁判めぐる様々な問題、素人は裁判員としての役割を十分に果たせるのか、裁判員制度によって司法への信頼は高まるのか、マスメディアの裁判員への影響にはどのように対処すればよいのか、といった問題に、法心理学の手法で切り込んだ力作。英語での出版というのも素晴らしい。英語での出版はやはり大変だったようです。

3の講話は、齋藤宙治会員(東京大学)による「「交渉に関する米国の弁護士倫理とその教育効果:離婚事件における真実義務と子どもの福祉を題材に」(豊田愛祥他編『和解は未来を創る(草野芳郎先生古稀記念論集)』(信山社,2018207-236頁))(2018年度学会奨励賞(論文部門)受賞作)をめぐって」でした。同論文は、齋藤会員がハーバードロースクールに留学していた間に行ったウェブアンケートの調査結果を分析したもの。倫理的ジレンマ事例を設け、法曹倫理の既修者と未修者との間でその判断にどのような違いが出るかを明らかにする好論文。いろいろ考えて調査設計をしており、将来性のある研究者だと実感しました。

後半はブレイクアウトセッション。私は秋葉会員のブレイクアウトルームに参加。国際的なアウトプットの意義、研究費獲得の方法、学会で自分を売り込む方法、就職のための戦略など、いろいろなことについて意見交換をしました。もはや若手ではない私は黙っていようと思ったのですが、ご指名などもあり、結構喋る結果となりました。大変盛り上がりました。

今年度の学術大会はすべてオンラインとなり、どうなることかと最初は心配していましたが、結果からすると充実した大会だったと思います。今後の学会の在り方も変わっていくのでしょう。

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2020.08.02

日本法社会学会学術大会ミニシンポジウム②と③の概要

2020年5月に予定されていた2020年度日本法社会学会学術大会はオンラインで時期をずらして分割で実施されることになりましたが、昨日81日はミニシンポジウム/個別報告分科会の実施日でした。午前午後とオンラインで長丁場の議論が行われましたが、1つのセッションに40名以上の参加があり、充実していました。以下は備忘録を兼ねた概要です。

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1日午前には、ミニシンポジウム②「62期第3 回・67期第2WEB調査データの多変量解析」に参加しました。セッションのコーディネータは藤本亮会員(名古屋大学)で、宮澤節生会員(神戸大学・UCへースティングス)が組織した、司法修習期に基づく10年以上におよぶコーホート研究の報告およびディスカッションとなりました。

最初の報告は、宮澤節生会員による「2つのコーホートの準パネル調査による若手弁護士キャリア研究の意義と課題-チーム内コメンテーターとしての具体的検討-」でした。これは研究のこれまでの経緯と現時点での調査結果の概要を紹介するものだったのでコメントは省略。

次の報告は石田京子会員(早稲田大学)による「法曹養成課程に対する評価―62期および67期コーホートの継時的データ分析から」でした。弁護士キャリアが長い弁護士のほうが、キャリアの短い弁護士より法科大学院教育、とりわけ臨床法学教育を役に立つと評価しているという調査結果が印象に残りました。

3報告は、上石圭一会員(追手門学院大学)による「出産・育児経験ある62期女性弁護士の所得と満足度」でした。所得水準について男性弁護士の方が高いというのは想定された結果ですが、それでも男性女性いずれの弁護士も職業満足度に有意な差がないというのは意外な結果でした。女性弁護士は企業内弁護士になる等の形で出産・育児を経験してもキャリアを継続できることに満足を見出しているのではないかという指摘はなるほどと思いました。

4報告は、石田京子会員(大活躍です)による「若手弁護士のワーク・ライフバランス―62期・67期コーホートの継時的データ分析から」でした。弁護士のワーク・ライフバランスにはまだまだ課題が多いと思っていますが、女性弁護士の50%以上が弁護士を配偶者としていること、育児負担が女性弁護士に一方的にかかっていること、弁護士の意識改革が重要な課題であることなど、多くの示唆がありました。

5報告は、藤本亮会員による「若手弁護士の登録地と職場での地位-初期キャリアにおける事務所移動のパターン-」でした。大都市と地方都市間の移動の傾向として、62期は地方都市に分散してその後そこに定着した弁護士が多いのに対して、67期はいったん地方で登録したものの東京に移動した弁護士がかなりいるという調査結果には考えさせられました。東京の大手ないし準大手法律事務所が若手の採用を増やし、また地方に赴任していた組織内弁護士が東京に戻ったことが理由だと指摘されていましたが、これは私の実感とも合っています。

6報告は、武士俣敦会員(福岡大学)による「若手弁護士の業務内容と業務専門化の決定因」でした。弁護士の主要な業務内容については前回の調査と比べてそれほど大きな変化はないものの、ただ、今回行った調査では企業相手の業務が大きく増えていることが特徴的であるということについては、確かにそのような傾向があるだろうと思いました。

昼休みをはさんで、午後の部ではミニシンポジウム③「弁護士のキャリアはどのように変化してきたか―弁護士キャリアの変化とその影響―」に参加しました。セッションのコーディネータは村山眞維会員(明治大学)。村山会員が科研費研究で行ってきた研究成果の報告とディスカッションでした。

最初の報告は、村山眞維会員による概要の説明と、「調査の概要と修習期別に見た弁護士職務状況の変化」でした。村山報告では、法科大学院修了者と予備試験経由者との比較が興味深いものでした。まず、法科大学院修了者の所得分布が一つの山しか作らないのに対して、予備試験経由者の所得分布は普通の所得層の山と高所得層の山の二つの山が形成されているという点。これは若くして予備試験で合格した者を大手法律事務所が好んで採用していることによると思われます。企業内弁護士について、複数の弁護士を雇用する企業が増えているという調査結果も実感に合います。

2報告は、杉野勇会員(お茶の水大学)による「収入レベルの規定要因」でした。大規模事務所、企業対象の法律事務所所属弁護士の収入レベルが高いというのは、特に驚くべきことではありません。出身大学では東大と慶大出身であることは有意にプラス要因であり、留学もプラス要因とのこと。これは東大と慶大出身者が大手事務所に就職することが多く、また、大手事務所が留学プログラムを備えている場合が多いことの表れとみるべきでしょう。

3報告は、飯考行会員(専修大学)による「企業内弁護士のキャリア・パターンと満足度の理由」でした。企業内弁護士は2019年末現在で2500名を超えています。もっとも、最近増加率は漸減しており、ピークは66期だったとのこと。企業内弁護士の最初の就職先は法律事務所が多く、また企業内弁護士は女性弁護士の割合が高い。このことは、女性弁護士がワーク・ライフバランスを考慮して法律事務所から企業へと移ってくることが多いことの表れです。

4報告は、石田京子会員による「弁護士キャリアのジェンダー分析」でした。女性弁護士は男性弁護士の約半分しか所得を得ておらず、事務所内の地位も勤務弁護士が多いなどあまり高くないとのこと。重点分野として女性弁護士は家族法を挙げている者が多いとも。女性弁護士は企業内弁護士への移動も多く、その理由はワーク・ライフバランスを挙げる者が多いとのこと。女性弁護士をめぐる環境はまだまだ多くの課題を残しています。

5報告は、森大輔会員(熊本大学)による「学歴の弁護士キャリアに与える影響」でした。出身学部、出身大学院と収入との関係についての興味深い紹介でした。収入レベルについては、杉野報告にもあったように、東大と慶大が有意に高収入。収入レベルは全体として下がり傾向だが、東大と京大は上がっているとのこと。渉外業務などを手掛ける弁護士については、収入が上がる傾向があるということなのでしょう。

最後の報告は、ダニエル・フット「アメリカ合衆国における最近のキャリア・コース調査との比較」でした。同報告は、アメリカで行われたいくつかの弁護士キャリア・コースに関する調査研究(①ABFによるAfter the JD調査、②Harvard Law School調査など)を手掛かりに、アメリカの弁護士キャリアの傾向について紹介し、日本のそれとを比較するものです。印象に残ったのは、アメリカでも法律事務所に就職する弁護士が圧倒的に多いけれども、議会、官庁、地方政府、企業、公益団体、労働組合など幅広く弁護士がいること、企業内弁護士は1980年ごろから急増するが、大手法律事務所から企業の法務部門以外への移動が多いこと、法務部門以外というのは会社役員が多いこと、など。弁護士としてのキャリアがステイタスであることと、登録料が安価であることから、弁護士に戻ることはないポジションについても弁護士登録を維持するのがほとんどであるとの説明には、彼我の違いの大きさを感じました。

今日もミニシンポジウム/個別報告分科会は続きます。無理にならない範囲で参加します。

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