« October 2019 | Main | February 2020 »

2019.12.22

ALSA(アジア「法と社会」学会)第4回学術大会(大阪大会)概要(その4)

15日午前中には、ホテル阪急エキスポパークで、Closing Plenary Closing Ceremonyが行われました。Closing Plenaryでは、最初に、KIM Joongi先生 (Yonsei Law School)が“Access to Economic Justice in Asia: From an International and Comparative Perspective”とのタイトルのもとに、経済的手法による国境を超越した当事者救済の可能性についていくつかの例を示して検討され、これに続いて、Valerie HANS先生 (Cornell Law School)が、“Asian Experiments with Lay Participation within a Global Context“とのタイトルの下に、アジア諸国の司法への市民参加の多様なあり方を概観したうえで、その改革が何故に起こったのか、司法のあり方にどのようなインパクトをもたらしているかを紹介されました。最後に、Bruce ARONSON先生 (NYU School of Law)が、”Utilizing Research on Asian Law to Contribute to General Theory”とのタイトルのもとに、アジア諸国のコーポレートガバナンスの比較研究はコーポレートガバナンスの一般理論に何をもたらすことができるのかについて理論的問題を提起されました。アジア諸国には様々なタイプのコーポレートガバナンス制度があり、それぞれの制度の実効性を比較分析することで、子細な機能分析が可能になるという指摘は、他の制度比較分析にも当てはまる重要な指摘です。

以上、ALSA大阪大会で行われた講演とパネルセッションでの報告の内容を一通り概観しました。今大会についてまず特筆すべきことは、本大会のパネルセッションでの報告数が多く、そこで扱われているテーマも多様であったことです。ALSA発足以来、若干の波はあるとはいえ、一貫して参加者数および参加国数は増えています。今回は、南アジアや中央アジア諸国からグループでの参加が行われるようになり、学術交流のフォーラムとしてALSAの存在意義がさらに大きくなっていることが窺われました。加えて、その質が高かったと多くの常連参加者から指摘されていることも付記しておきたいと思います。今回の大会が弾みになって、ALSAがさらに発展していくことを期待しています。

次回2020年大会はタイ・バンコクのチュラロンコン大学で開催されます。次回の大会が楽しみです。(以上、その4)

| | Comments (0)

ALSA(アジア「法と社会」学会)第4回学術大会(大阪大会)概要(その3)

14日Ⅰ限には、“Asian Judiciary and Legal Education 1: Gender in the Legal Process and Profession”、“Global Conflict Management”、“Human rights and access to justice for linguistic minorities in Asia”、“Current Issues on Afghanistan”、“Competition Law Reforms in Asian Emerging Economies”、“Constitution & Human Rights”、“Issues on Legal Education”8つのパネルセッションが行われました。ここで注目されるのはアジア諸国の司法と法学教育に関するセッションです。司法に関わる専門家のジェンダー比率に関するアジア諸国の比較研究は様々な広がりを持つものであり、より広い範囲での共同研究につなげていくべき課題です。アジアの言語的少数者に対する司法アクセスの保障の問題も発展性のあるテーマです。さらに、アフガニスタンのパネルセッションが行われたことも注目されます。

14
日Ⅱ限には、“Asian Judiciary and Legal Education 2: Lay Participation in the Justice System”、“Social Change and the Role of Courts in East Asia”、“The Hong Kong Extradition Bill Saga: Social Movements at the Local Level and Beyond”、“Sex Crime on Trial- A Comparative Study between Japan and Australia”、“Issues of Intellectual Property Law in Asian Emerging Economies”、“Issues on Disaster and Law”、“New Trend of Human Rights”、“Legal Issues on Religion & Culture”ALSA Distinguished Book Award Panel, “The Politics of Love in Myanmar: LGBT Mobilization and Human Rights as A Way of Life” (Stanford 2019)9つのパネルセッションが行われました。ここで注目されるのは、司法への市民参加のセッションと、香港における強制連行法案をめぐる闘争史のセッションです。後者はいま香港が直面している政治問題を正面から取り扱うものであり、特に関心を引きます。ALSA Distinguished Book Awardのパネルも今年の受賞作についての講評であり、重要なセッションとして位置づけられます。

14
日Ⅲ限には、JASL Session: Ghosn Scandal and Japanese “Hostage Justice”Osaka Bar Association Session: “Current situation and future prospects of ADR in Japan”、“The problem of "Inclusive" legal education for foreigners Society”、“Corporate Governance in East Asia: A Comparative Approach”、“Constitutional & Administrative Litigations in the Contexts of Constitutionalism in Asia”、“Global Pact for the Environment and Polluter-pays-principle”、 “Medical ADR & Dispute Resolution”、“Legal Issues on Child & Juvenile”8つのパネルセッションが行われました。ここで注目されるのは、日本法社会学会(JASL)セッションとして行われた人質司法に関するパネルセッション、そして、大阪弁護士会の行った日本のADRの将来に関するパネルセッションです。言うまでもなく、日本の「人質司法」は国際的に非難されているものであり、カルロス・ゴーン事件に引きよせてアジア諸国の研究者とこの問題に関する理解を共有することには大きな意味があります。大阪弁護士会は民事紛争についてADRによる紛争解決を積極的に推進していますが、2018年に日本国際紛争解決センター(JIDRC)が開設されたことを受け、国際民事紛争解決におけるADR活用について実務的観点から紹介するパネルセッションを設け、アジアの実務家等と意見交換を行いました。国際環境条約と汚染者責任原則のセッションもタイムリーな問題を扱っており、注目に値するパネルセッションでした。

14
日Ⅳ限には、“Asian Judiciary and Legal Education 3: The Judiciary”The ALSA Presidential Session, Part II: “The Anthropocene and the Law in Asia”、“Massive Inclusion in Japanese Society”、“Issues on Company and Property”、“Land Law Reforms in Asian Emerging Economies: Toward Balanced Development”、“Legal Approaches to Environmental Management”、“Legal and Social issues on Labor”、“New Trends of Criminal Law-1”8つのパネルセッションが行われました。ここでもまたALSA Presidential SessionPart 2 の環境問題に関するパネルに参加者が集まっていました。アジアの土地問題に関するパネルセッションも、新興のアジア諸国では土地問題が様々な形で社会問題化していることから、注目を集めました。刑事司法の新潮流のパネルセッションも関心を引いていました。

14
日Ⅴ限には、“Asian Judiciary and Legal Education 4: Legal Education”、“ALSA Book Introduction Session”、“Discrimination Issues”、“Business and Human Rights”、“Medical Conflict Management”、“Environmental Issues”、“Current Issues on Hong Kong and Taiwan”New Trends of Criminal Law-2”8つのパネルセッションが行われました。ここでは、法学教育、医療紛争、そして香港と台湾の問題を扱ったセッションが注目されていました。

14
日夕刻のConference Dinner中に行われた、樫村志郎先生によるDinner Speechも学術的な内容であり、報告の一つとしてカウントしてよい。樫村先生の講演は、「法現象の分析」に関わるもので、行動は規範によって直接に規律されるのではなく、規範が特定の内容として維持し管理されることによってはじめて規律されることを指摘するものでした。このような分析が大会のパネルセッションには見られなかっただけに、樫村講演は貴重でした。(以上、その3)

| | Comments (0)

ALSA(アジア「法と社会」学会)第4回学術大会(大阪大会)概要(その2)

13日金曜日Ⅰ限には、オープニングセレモニーとキーノート/プレナリースピーチが行われました。キーノート/プレナリースピーチでは、まず、Brian Z. TAMANAHA先生(University of Washington in St. Luis School of Law)が、“Law across Human History in Twelve Key Aspect”とのタイトルで、増大する社会の複雑性と権力の影響力という二つのテーマに引き寄せて、リアリスト的法理論の立場から、法の特徴的側面を概観する基調講演を行われました。これに続いて、Tom GINSBURG先生(University of Chicago Law School)が、“Social Upheaval and the State of Democracy in Asia”とのタイトルで、アジア諸国の民主主義の現状と課題について批判的に検討。さらに、Daw Than New女史(Myanmar Academy of Arts and Science)が、"Reality of law reform in Myanmar in the involvement of various development partner's"とのタイトルでミャンマーの法改革の実際について紹介。最後に、阿部昌樹先生(大阪市立大学、日本法社会学会)が“Law as a Reason”とのタイトルでアジア各国における理由としての法の捉え方の違いとその違いが生ずる要因にまで遡って検討する報告をされました。

13
日Ⅱ限には、"Early Findings from Survey on General Public over their Disputing Experience”、“The Legal Professions in Asia: Reform, Challenges and Other Issues”ALSA Presidential Session, Part I: “The Anthropocene and the Law in Asia”、“New Trend of Consumer Law”、“Remaining Issues of Disaster Law”5つのパネルセッションが行われました。ここで注目すべきなのは、ALSA Presidential Session, Part 1The Anthropocene and the Law in Asia”です。人類の活動が自然環境に直接間接の影響を与えるようになったいま、人類はこの問題にどのように取り組めばよいのか、その際に法はどのような役割を果たしうるのか議論するセッションです。30名を超える参加者があり、このテーマへの関心の高さが窺われました。

13
日Ⅲ限には、“Legalization, Moralization, and Disciplination in Modern Japanese Education System”、“AI-assisted Court System: How AI Can Help Judges, Lawyers, and Litigants”、“Legal Transplant (1)”、“South Asia Session”、“Author Meet Readers (AMR) Jury Trials “Revolutionize” Japan: Lessons from the Experience of Civil Jury Trials in Okinawa (Research Group on Jury Trial (RGJT), Nippon-Hyoron-Sha, 2019)”、“Comparative Disaster Management Law and System in Asia”、“Judicial Review & Litigation”、“Aging Society and Law”8つのパネルセッションが行われました。ここでは、AIを用いた司法制度の可能性や災害法制、高齢社会をテーマとするパネルに注目が集まりました。沖縄の民事陪審に関する著書のブックレビューが行われたこと、南アジアの近代化に関するセッションが行われたことも注目に値します。

13
日Ⅳ限には、“Sovereignty, Human Rights and Historical Memory”、“New Trend of Trade Law”、“Legal Transplant (2)”“Good governance in economic development: National and international perspectives on transparency and accountability”、“Land Expropriation in 4 East Asian Jurisdictions (Japan, Korea, Taiwan, and China) in an Era of Population Decline”、“Goals of Disaster Recovery Law: Variation of Build Back Better I”、“Current and Future issues of Judiciary & Litigation”、“Judicial Reform and Dispute Resolutions in Asian Emerging Economies”8つのパネルセッションが行われました。ここでは、歴史的記憶、法の移植、経済発展のグッドガバナンス、人口減少時代における土地収用問題、災害復興、紛争解決制度改革といったテーマについて議論が行われました。

13
日Ⅴ限には、“Early Career of Japanese Attorneys from the 62nd and 67th Cohort Web Survey Results”、“The First 10 Years of Japan’s Reformed Prosecution Review Commissions”、“Issues on Legal Theory”“Constitutional Politics in Central Asia”“Commons, Boundaries and Legal Personality: Comparative Study in East Asia toward Inclusive Property”“Goals of Disaster Recovery Law― Variation of Build Back Better II”、“Current issues on Administrative Reform”、“Issues on Gender and Law”8つのパネルセッションが行われました。ここでは日本の若手弁護士の初期キャリアについての調査結果の紹介(科研費共同研究の紹介)が行われたほか、法の理論、憲法問題、土地利用についての比較研究、災害復興法の課題、行政改革、ジェンダーと法といったテーマが議論されました。(以上、その2)

| | Comments (0)

ALSA(アジア「法と社会」学会)第4回学術大会(大阪大会)概要(その1)

  2019年1212日から15日までの4日間、大阪大学豊中キャンパス(最終日はホテル阪急エキスポパーク)にて、Asian Law and Society AssociationALSA)第4回学術大会(大阪大会)が開催されました。大会テーマは「拡張するアジア:変わりゆく法と社会的正義」です。私は本大会の開催責任者(Chair)を務めさせていただきました。本当に貴重な経験でした。

本大会には、東アジア、東南アジア、オセアニア、南アジア、中央アジア、北米、欧州の26か国から300名を超える参加者を得、質の高い活発な議論が行われました。本大会の大会テーマは「拡張するアジア:変わりゆく法と社会的正義」です。パネルセッション数は若手ワークショップ、プレナリーセッション、クロージングプレナリーセッションを含めて72パネルあり、1213日から14日にかけて、午前から午後まで(Ⅰ限~Ⅴ限 各105分)同時並行で8から9パネルのペーパー/グループセッションが行われました。これまでにない盛会で、パラレルセッションの割り振りには大変苦労しました。(以上、その1)

79875860_2408742045901813_86709821238191 Img_20191215_101641


| | Comments (0)

« October 2019 | Main | February 2020 »