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2019.07.18

第15回仲裁ADR法学会大会概要

2019年7月13日(土)に、首都大学東京晴海キャンパスで、第15回仲裁ADR法学会大会があり、参加して参りました。毎年、仲裁やADRを研究している研究者や実務家(弁護士にかぎりません)が集まり、その時々の重要なテーマについて議論する大会です。今回もいろいろ示唆を得ました。ただ、大会からすでに時間が経ち始めているので、簡単な感想を備忘録として残しておくことにします。

大会はお昼過ぎから。前半は個別報告2件が行われました。

第1報告は石原遥平会員(公益財団法人日本スポーツ仲裁機構仲裁調停専門員、弁護士)による 「スポーツ仲裁の現状と課題~仲裁機関として果たすべき役割~」でした(司会は早川吉尚会員)。本報告は、設立から16年が経ったスポーツ仲裁人機構のこれまでを振り返るとともに、現在の取り組みを紹介し、さらに、これから同機構がどこに向かっていくのかを紹介する報告でした。判断基準の不明確や判断結果のフィードバックをどのように実現していくかというのが、今後の利用拡大にとって不可欠とのこと。今後の発展に期待しています。

第2報告は、中西淑美会員(山形大学)による「コンフリクト・マネジメントとしての医療メディエーション」でした(司会は入江秀晃会員)。中西さんは早稲田大学の和田仁孝教授と組んでコミュニケーションを通じた医療紛争の予防と解決の研究・実践に取り組んでおられ、今回の報告はその研究・実践のエッセンスの紹介。コンフリクトの重層性についての検討やグリーフケアとしての事故対応といった視点の提示は圧巻でした。中西さんにはさらにこの研究・実践を深めて行ってほしいと思っています。

後半はシンポジウム。テーマは「交通事故ADRの現代的意義」(司会 中山幸二会員)。報告者は、古笛恵子会員(弁護士)、竹井直樹会員(公益財団法人損害保険事業総合研究所シニアフェロー)、八田卓也会員(神戸大学)。最初に、古笛会員が、(一財)自賠責保険・共催紛争処理機構、(公財)交通事故紛争処理センター、(公財)日弁連交通事故相談センター、弁護士会ADRセンターの交通事故紛争解決制度の概要を紹介。続いて、竹井会員がそんぽADRセンターの紛争解決制度の概要を紹介。これに八田会員が研究者の立場から理論的仮説の提示をするという興味深い構成のシンポジウムでした。

苦情処理手続、紛争解決手続とその基準についての実務上の問題提起もさることながら、八田会員の問題提起は秀逸でした。八田報告は、費用便益分析を用いて、裁判所とADRとの適正な役割分担を考察する報告でした。交通事故ADRの新受件数の減少と簡裁事件の増加は交通事故保険の弁護士特約の影響なのかという問いから出発して、安価、迅速、解決内容の妥当性という要素が満たされるのであればADRによる解決も評価できるが、他方、弁護士特約による簡裁事件の増加からはADRがそのような機能を十分に果たし切れていないことが窺われるとし、さらに、弁護士特約の結果として当事者による濫訴や弁護士による時間の引き延ばしというようなモラルハザードが生じていないかを問い、妥当な落としどころを模索する内容でした(私なりの要約なので間違いが含まれているかもしれません)。解決金額について「任意基準<裁判基準」という現実があるなかで、安価、迅速、相対的な妥当性という価値を求める当事者は多く、ADRの活性化はそのようなニーズに答えることで実現できるのではないか、その場合、ADRのデータ開示等をすることで、判断基準の適正化も図ることができるのではないか、という指摘には唸らせられました。

質疑応答の詳細は省略しますが、交通事故紛争の解決基準やデータ公開の可能性、争訟性の高い事案をどのように取り扱うかといったことについてフロアとのやり取りが行われました。

今年の仲裁ADR法学会でも大いに学ばせていただきました。来年が楽しみです。

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