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2019.06.21

RCSL 2019 オニャーティー学術大会概要その2

RCSL (Research Committee of Sociology of Law) 2019年国際学術大会に参加するため、スペイン・バスク州のオニャーティーに来ています。大会2日目の620日(木)は、大会の中日で、中身の濃いセッションが多数ありました。以下は備忘録を兼ねた概要です。

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日の第1セッションでは、Disputing Endangered Rightsの部会に参加しました。この部会で私も報告(第3報告)をしています。この部会では、紛争解決方法や紛争解決行動に関する議論が行われました。具体的には、ポルトガルの再婚家族(Stepfamily)の子供の権利保護についての報告、中国の司法的環境救済手続の行政化についての報告、「超高齢社会における紛争経験と司法政策プロジェクト」の調査研究の一環として行われた「暮らしのなかの困りごとに関する全国調査」(2017.1112)の相談先満足度についての調査結果の紹介報告(私の報告)、ブラジルの労働仲裁についての立法動向の紹介が行われ、フロアを交えた議論が行われました。子供の権利保護のために再婚後の血縁のない親にも事実上の親としての義務を課するべきこと、環境訴訟で損害賠償による救済を図ることが困難な中国で救済を実効化するためには、救済手続の行政化を行うことは一歩前進ではあるのだけれど、予見可能性や正統性の点で問題があること、労働仲裁は私的な紛争解決方法であり、手続保障になお問題があり、経済的弱者に対して用いられる場合には一定の規制が必要であることなど、もっともな指摘が行われました。私の報告では、トラブルの相談先は単にしっかりと話を聞けばよいというだけではなく、適切な情報提供や交渉のサポートなどきちんとした対応を行わなければ、利用者のより高い満足を得ることができないことをデータに基づいて紹介しました。最近の調査では、しっかり話を聞くことが相談先のより高い満足度につながるという調査結果が多かったので、反応は上々でした。

2セッションはプレナリーセッション2だったのですが、IISL創立30周年の記念講演だったので紹介を割愛します。

3セッションでは、Judicial Professionals’ Working Conditionsの部会に参加しました。ここでは、裁判官、検察官、Magistrateなど司法職のワークライフバランスや仕事のストレスに関する議論が行われました。具体的には、オーストラリアの裁判官、Magistrateの仕事と家庭生活の両立の難しさについての調査報告、労働条件に関するパラダイムシフトを文献調査で明らかにする報告、仕事の重要性は仕事の満足度に関わる一方、ストレスの原因ともなるというジレンマについて検討する報告、司法の質(Quality of justice)の歴史的変遷についての報告、裁判官、検察官、Magistrateの労働条件に関する立法動向の紹介が行われました。最初のオーストラリアに関する報告を除くと、ポルトガルで行われた共同研究の成果を紹介する企画だったようで、議論が内輪向きであり、率直に言ってあまり興味を引くような内容ではありませんでした。

4セッションでは、Attitudes of Japanese Litigants and Their Lawyers toward the Civil Justice Systems: Preliminary Results of the National Surveyの部会に参加しました。この部会では、「超高齢社会における紛争経験と司法政策プロジェクト」の「訴訟利用調査」についての現時点での調査結果の紹介が行われました。最初に、今回の「訴訟利用調査」が行われるに至った経緯や調査目的の紹介が行われ(太田勝造)、これに続いて、弁護士増員にも拘わらずここ10年以上にわたって訴訟新受件数が増えていないのは何故なのかについての検討結果が紹介され(ダニエル・フット)、さらに、当事者が本人訴訟を選ぶ理由についての分析結果の紹介(長谷川貴陽史)、そして、訴訟利用満足度についての分析結果の紹介(齋藤宙治)が行われました。司法制度改革で大幅な弁護士増員が図られたのに訴訟利用が増えないのは何故なのかはずっと気になっている問題です。弁護士が訴訟をあまり受任したがらないという事情があるようですが、このあたりはさらに掘り下げた検討が必要でしょう。当事者が本人訴訟を行うかどうかの決定は、弁護士報酬が高いということとともに、自分でもできると思ったからという、ある意味身もふたもない結論には妙に納得しました。訴訟利用満足度が、勝ち負けに関わるのみならず、裁判官や弁護士に対する評価の高さが関係しているというのも理解できる結論です。これから行われるさらなる分析が期待されます。

5セッションでは、Lawyers in 21st-Century Societies – 2の部会に参加しました。ここでは、21世紀になってからの各国の弁護士のあり方の大きな変化が議論されました。具体的には、ドイツのリーガルエイドのあり方の変容の紹介、旧社会主義圏である東欧諸国の弁護士のあり方の変容についての各国比較、弁護士人口が急増しているブラジルの弁護士業務の多様化についての紹介、そしてクロアチアとセルビアでの司法の信頼失墜が弁護士のあり方にもたらしている危機についての報告が行われました。弁護士の置かれている状況が激変していることはいずこでも同じなのですが、その具体的な表れは各国それぞれです。ドイツのリーガルエイドが弁護士の訴訟支援から行政などによる当事者サポートに補助の重心を移しているというのは、弁護士費用が高額化している状況の下では避けられない傾向のように思います。旧社会主義圏で法曹増員が行われた結果、新自由主義的傾向が強まる一方、弁護士のギルド化がかえって進んでいるというのは意外でした。ブラジルの弁護士人口は単に多いだけでなく増加率も高く、その圧力で弁護士が様々な業務を新たに開拓していることは理解できます。もっとも、それが野放図であるという印象はぬぐえません。クロアチアとセルビアの弁護士の置かれている状況は、司法制度への信頼が大きく損なわれている中かなり困難なものとなっているようですが、それでもなお弁護士はある程度の信頼は維持しているという調査結果が紹介されました。しかしながらこれは本当に正しいのでしょうか。報告者の願望がかなり含まれているような印象を受けました。

大会2日目には、いろいろな議論を咀嚼しなければならず、消化不良の状態です。少し時間をかけて理解を深めていきたいと思います。


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