LSA Washington D.C. 2019大会概要その4
6月1日(土)の夕方のセッションの時間(4:45~6:30pm)には、Paper Session:Law, Business, Economy and Society in East Asia(CRN 33: East Asian Law and Society)に参加しました。私もここの報告者の1人です。司会はHiroshi Fukurai先生(UC Santa Cruz)。5人の報告者が報告をしました。
第1報告は、私の“Third-Party Committee for Corporate Misconduct - Focusing on the Committee for Rating Third Party Committee Report -”でした。「第三者委員会」の機能や再発防止策のエンフォースメントについてはLSAやALSAの学術大会で何度か報告をしているのですが、今回は「第三者委員会報告書格付け委員会」の役割に焦点を当てて報告をしました。「格付け委員会」では何が評価基準となっているか、その目安を明らかにしたうえで、比較的に高い評価を得ている第三者委員会報告書、きわめて低い評価しか得ていない報告書、優秀な報告書として表彰された報告書を挙げ、不祥事からの目隠しに第三者委員会報告書が使われないように「格付け委員会」が目を光らせることの意義とその危険性について指摘したつもりです(どこまで伝わったかは謎ですが)。
第2報告は、松中学先生(名古屋大学)による“Gender Diversity in Board of Japanese Firm”でした。日本の会社の独立役員(取締役/監査役)はなかなか数が増えないのみならず、多様性に欠けているという問題について、女性の独立役員を増やすことがその解決につながるのではないかと問題提起する挑戦的内容の報告でした。確かに、日本の会社役員の女性比率は極めて低く、先進諸国では最低の比率です。独立役員に女性を増やせば女性比率が上がるのみならず、役員のバックグラウンドの多様性も向上し、会社のガバナンスが強化されるのではないかという主張は、いまのように極端に悪い状態を少しましな状態に置き換えるうえでは効果があると私も思います。他方、独立役員に選ばれるような女性はほとんど専門家(弁護士やコンサルタントなど)であることが予想され、役員のバックグラウンドの多様性はかえって低くなる可能性も指摘されました。役員のバックグラウンドの多様性の問題は、女性の独立役員を増やすだけでは、簡単には解決しないようです。
第3報告は、Bruce Aronson先生(NYU)による“Is NISSAN a Japanese Company?”でした。日産/カルロス・ゴーン事件を手掛かりに日産のコーポレートガバナンスの不十分さを指摘し、そこから日本企業一般のコーポレートガバナンスの課題を明らかにするとともに、そのような課題の打開策を提示する報告でした。日本企業は、マネジメントモデルを採用するにせよ、はたまたモニタリング・モデルを採用するにせよ、日本化されたコーポレートガバナンス基盤の上でグローバルな企業活動を統制しなければならないという困難な課題に直面しているという指摘には唸らされました。
第4報告は、清水剛先生(東京大学)による“The Historical Development of “Japanese-style” Corporate Governance”でした。同報告は、日本のコーポレートガバナンスのあり方を戦前までさかのぼって検討し、実は戦前の日本企業のコーポレートガバナンスは、社外役員比率もそれなりに高く、現在のあり方にちかいものだったけれども、戦中戦後の混乱でそもそも会社数が減り、しかも富裕層がいなくなったことで社外役員のなり手がなくなって、内部出身者ばかりの役員によるコーポレートガバナンス体制が出来上がったという歴史的事実を紹介するものでした。日本的経営は法律が作り出したものではなく、社会経済的諸条件が作り出したものであり、法律はそれを補強してきたにすぎないということには納得できます。
第5報告は、Daniel Rosen先生(中央大学)による“Uso! Big Lies and Corporate Cover-ups in Japan”でした。粉飾決算やデータ不正、検査結果の改ざんなど、会社の組織が関わる「嘘」の問題は最近とくに注目を集めています。そのような不祥事のたびに会社の役員がマスメディアの前で謝罪をするという風景はもはや日常的なものです。Rosen先生の報告は、このような不祥事はなぜ起こるのか、それは日本特有な問題なのか、解決策はあるのかを問う報告でした。基本的に、日本企業では内部出身者が経営の中枢を担うのであり、コーポレートガバナンスの観点からは好ましくないあり方が続いています。独立役員の必置化など様々な施策が行われているけれど、そのようなあり方を変える見込みはあるのか。Rosen先生はこの点については悲観的なようです。
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4日目(6月2日午前まで)は諸般の事情で参加せず、夕方には帰国の途に就きます。帰りの旅も長いので、疲れをためないようにゆるゆると帰ります。
来年のLSA大会はデンバーで開催されるとのこと。これもまた楽しみです。
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