LSA Washington D.C. 2019大会概要その2
Law and Society Association(北米)の年次大会に参加するためにワシントンD.C.に来ています。昨日(5月31日)はその2日目でしたが、相変わらず体調は回復せず、また今回大会参加の最重要の目的であるAsian Law and Society Association (ALSA)第4回学術大会関係の打ち合わせやBusiness Meetingがあり、参加したのは朝の第1セッションだけでした。
参加したのはPaper Session: Current Legal Issues in Asia and Americas IIでした。報告は4件。以下の報告が行われました。
第1報告は、Ana Cristina Augusto Pinheiro氏(Univ. Estácio de Sá)による“Systemic Law as a Tool for Peaceful Conflicts”でした。同氏のいうSystemic Lawとは、医療に例えるとホーリスティック医療のようなもので、方法論としては対立関係を避ける調停方式を多用するといった法(実定法とは異なる)のようでした。現実の法の機能にはあまり関心はないようで、正直なところよく分かりませんでした。
第2報告は、まったく準備ができておらず、実務上の経験を語っただけで終わったので、論評するに値しません。紹介を割愛させていただきます。
第3報告は、私の友人であるLuis Pedriza氏(獨協大学)による “Human Dignity Under Modern Japanese Constitutional Law”でした。Pedrisa氏の報告は、日本国憲法の「個人の尊重」原理について、歴史を遡り、また憲法上どのような形でこの原理が具体的に表現されているかを紹介するもので、日本の法学者、法律家にとって新味はなかったのですが、スペイン出身の同氏が日本国憲法の「個人の尊重」原理をどのように見ているかが垣間見え、また欧米の研究者にとって分かりやすい紹介報告になっていたと思います。
第4報告は、Martin Gallié氏(Université du Québec à Montréal)による “Evicting the Elderly: Magistrates Face Unjust Procedural and Social Policies”でした。カナダ・ケベック州では、賃貸人による賃借人に対する退去請求訴訟の件数が増えており(背景には不動産価格の高騰がある)、しかもわずかな不払いであっても立退きが認められることから、高齢者が強制退去を受けるケースが目立ち、社会問題になっているとのこと。この問題に、執行に関わるMagistrate(この場合の訳は「執行裁判官」としておくのがよいでしょう)が抵抗し、執行を引き延ばすことで不正義を避けようとするような事例がしばしばみられるとのこと。社会政策の失敗を現場の裁判官が何とかしようとするのは、実際上結構あるのだと思いますが、このようなことは社会政策の改善でしか解決できないはずです。考えさせられる報告でした。
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