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2019.05.12

2019年度日本法社会学会学術大会概要その1

2019年511日(土)、12日(日)、千葉大学西千葉キャンパスにて、2019年度日本法社会学会学術大会が開催され、これに参加するために千葉に来ています。昨日、初日が終わりました。場所が便利だからか、関心のあるセッションにピンポイントで来て帰ってしまう人が多いようですが、同時並行で5つのセッションが走っているにも拘わらず、各セッション会場は人が多く、盛会です。今回も備忘録を兼ねて私自身が参加したセッションの印象を書き残しておきたいと思います。

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日午前の部では、個別報告分科会①(司会:米田憲市[鹿児島大学])に参加しました。個別報告分科会は、それぞれの報告者が役割による制約なしに自分の研究を発表する場であり、いろいろ発見が多いです。私は学会ではなるだけ個別報告を聞くようにしています。

最初の報告は、齋藤宙治(東京大学)「年齢による差別と平等原則の一試論」でした。アメリカ合衆国の議論を手掛かりに、年齢による差別、とりわけ選挙権等に関するこどもの権利制限の合憲性審査基準について、ウェブアンケートを用いて実証的に検証する意欲的報告でした。アメリカの差別の合憲性審査には社会科学的な基準が用いられており、実証的な検証になじみやすいとのこと。Childist Legal Studiesの構築を目指すとのことで、今後の展開が期待されます。

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番目の報告は、波多野綾子(東京大学)「不完全な国際法の内在化?―日本におけるヘイトスピーチ解消法制定とアンチ・レイシズム運動を事例として」でした。人種差別禁止条約を批准したにも拘わらずなかなかヘイトスピーチ規制に踏み込まなかった日本で、どのようにして「ヘイトスピーチ解消法」が立法されるに至ったかを紹介し、国際的法規範が国内化されるメカニズムについて明らかにする報告。これまでの研究成果をさらに深める内容の報告でした。

3報告は、馬場健一(神戸大学)「行政不服審査における行政機関の弁明の実態と問題点」でした。馬場報告は、ご自身で行った全国65自治体(45都道府県と20政令指定都市)に対して行った学校体罰事故報告書の公開請求で、氏名等を開示せず、行政不服審査をしてもなかなか開示を行わない事例を分析し、行政不服審査の構造的問題点を指摘する秀逸な報告でした。行政は確立された最高裁判決が出ても、それに容易に従おうとせず、しかも、行政不服審査の審査手続がいくつもの過程に別れていていくらでも時間的な引き延ばしが可能な構造になっているために、実際に意図的な引き延ばしが行われていることが窺われるとの指摘には唸らせられました。

4報告は、馬場淳(和光大学)「法人類学と存在論―法文書をめぐるエージェンシーとコミュニケーション」でした。ご自身がフィールドとしているマヌス島の事例を手掛かりに、モノとしての法文書が関係する当事者にどのようなコミュニケーションをもたらすのかを記述的に紹介し、テクストとしての法文書とは異なる法文書の側面について明らかにする報告でした。文書にはそれ自体として権威のようなものが備わっており、その側面にも光を当てる必要があるという問題提起として受け止めました。

お昼休み、会員総会を間に挟んで、午後の部となりました。私は午後も個別報告分科会②(司会:飯田 高[東京大学])に参加しました。指導する博士課程院生の報告があるからです。

最初の報告は、安藤泰子(青山学院大学)「国家と刑罰、国際社会と刑罰」でした。第二次世界大戦以降に構築されてきた国際刑事裁判における新たな犯罪類型(戦争犯罪、ジェノサイド、人道に対する罪、侵略犯罪など)をどのような法理論で正当化するかをめぐる報告でした。やや概念法学的な手法の報告で、法社会学の手法とは合わないのではという気がしましたが、国際的法規範の形成プロセスに関する問題提起を行う報告として受け止めました。

2報告は、片野洋平(明治大学)「所有者不明の土地問題の解消とその課題―特に現場の困難と工夫に着目して」でした。鳥取大学在職中にご自身が取り組んできた自治体による所有者不明土地の寄付採納事業の現状と課題について紹介する、経験的・体験的研究の報告でした。自治体が土地の寄付をうけるといっても、所有者確定に手間がかかるうえ、利益よりもむしろリスクを負うことになるために、全国的に注目されているにも拘らず事業がなかなか進まない実態が明らかにされました。

3報告は、楠本敏之(東京大学)「社会保険の被保険者資格の中立化に係る法政策と非正規雇用者の社会的包摂」でした。厚生年金等社会保険の労働時間、契約期間による被保険者資格制限が企業による労働コスト抑制に利用され、労働者の非正規化がもたらされている現状を前提として、この受給資格制限を取り払った場合に企業と労働者がとりうる行動について郵送アンケートとウェブアンケートで調べた結果をまとめた意欲的報告でした。社会保険の受給資格制限をなくした場合に非正規の正規化という政策効果は認められる一方、健康保険との関係ではそのような政策効果は働かないとのこと(私の理解が間違っていたら申し訳ありません)で、健康保険は任意の選択にゆだねてもよいという結果は意外でした。

4報告は、花村俊広(大阪大学)「労働局あっせんは、どのようにして合意を調達しているのか?―インタビュー調査によるあっせん業務プロセスの解明」でした。ご自身が社会保険労務士で、労働局のあっせん委員をされている経験をベースに、7名のあっせん委員を対象とした聞き取り調査に基づいて、労働局によるあっせん業務のプロセスを明らかにし、より満足度の高いあっせん手続の可能性を模索する、実務的かつ理論的な研究の報告でした。私の指導院生の研究ですが、これからの課題はなお残るものの、力作であると理解しました。

初日の個別報告はいずれも意欲的で、示唆に富むものばかりでした。2日目にはどのような報告と出会うことができるでしょうか。


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