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2018.12.02

ALSA 2018 Gold Coast大会概要(その2)

(「その1」からの続き)
2018
121日(土)はALSA2018の本大会2日目です。充実したセッションが続きました。

1
日朝9時からのDay 3 Session A ではLIA-Courtsのセッションに参加しました。アジア各国の裁判所の課題について議論するセッションです。3人の報告者による報告が行われました(1人欠席)。第1報告は、Vai Io Lo教授 (Bond University)による“Communication Technology and Judicial Transparency in China”でした。大陸中国の50の裁判所(民事)の公式ウェブサイトを調査し、情報技術を使った裁判所の情報開示について検証する報告。通常民事裁判についてウェブ上で日程等の確認ができるなど、情報技術の裁判所での活用は進んでいるけれども、個人情報保護など課題があることが明らかにされました。第2報告は、David Law教授 (University of Hong Kong & Washington University in St. Louis)による“Judicial Review of Constitutional Amendments: The Case of Taiwan”でした。各国の憲法改正に対する司法審査の事例を分析し、台湾の司法審査が特に厳格(積極主義)であることを指摘したうえで、「対話的」司法審査(Dialogic Judicial Review)の可能性について検討する報告でした。積極的な司法審査には世論の支持が必要という指摘には唸らされました。第3報告は、Hong Tram氏(Institute of Legal Science, Vietnam)による“Developing Case Law in Vietnam- Transplanting Common Law into a Socialist Context”でした。もともと社会主義法国であり、大陸法による法整備支援を受けたベトナムの裁判に判例法を移植する試みについて紹介する報告。社会主義法・大陸法の枠組のもとでは、判例はそのままでは法的拘束力はありません。しかし、実務上の解釈の積み上げを法に反映させることは実務家からは強く求められます。多くの場合には、法改正によって判例法の法制化が行われるとのこと。判例法によってベトナム法が変わるのか、どのように変わるのかは今後の発展にゆだねられるとのこと。法の移植についての興味深い報告でした。

11
時からのDay 3 Session B ではLIA-Judgesのセッションに参加しました。各国の裁判官の実際について議論するセッションです。3人の報告者による報告が行われました(1人欠席)。第1報告は、松中学准教授(名古屋大学)による“The Career Judge System and Court Decision Biases: Preliminary Evidence from Japan”でした。日本の裁判官のキャリアシステムを前提に、消費者法事件と会社法事件の判決を量的に分析して、事案処理の効率性が裁判官の判断に影響しているかどうかを実証的に明らかにする意欲的報告。調査対象が限られていることから分析に一定の限界はあるものの、興味深い内容でした。第2報告は、Huynh Nga Truong氏(National Chung Cheng University)による“The Good Faith Principle in Asian Civil Law Jurisdictions: A Comparative Analysis”でした。大陸中国、台湾、日本、韓国、ベトナムなどアジアの大陸法国を対象に裁判で信義則が果たす役割を分析する報告。主たる対象はベトナムでした。特に、ベトナムは日本の法整備支援を受けて民事法の整備をしていることから、法適用の修正原理としての信義則の役割は日本とあまり変わらないという印象をもちました。あくまで若手研究者の研究報告なので、実際にはどうなのか、ベトナムの裁判官の感想が聞きたいところです。第3報告は、柳瀬昇教授(日本大学)による“Judicial Integrity and Deviation in Japan: Judging from Judge Impeachment Cases”でした。日本の裁判官弾劾手続について、日本国憲法制定後これまでに行われた9件の事例を分析し、裁判官に期待される政治的中立性や品位の内容について明らかにするとともに、弾劾手続の政治的利用の危険性について指摘する報告でした。いろいろ勉強になりました。

2
時からのDay 3 Session Cでは、 PGov-Accountabilityのセッションに参加しました。2人の報告者による行政のアカウンタビリティーに関する報告が行われました(1人欠席)。第1報告は、Zejun Du氏(ボンド大学)による“Government Information Publicity in China: Development and Further Improvement”でした。報告は、大陸中国で進められている行政の情報公開についての実証的分析。中国でも行政の情報公開についての法整備は進んでいるのだそうですが、実際に調査を行ってみると、情報公開に非協力的であったり、そもそも情報公開の体制ができていなかったり、法整備が行われる以前とあまり変わっていない現状が明らかにされました。背景には社会主義法としての立て付けや、面子の文化があるようです。第2報告は、Stefan Gruber准教授(京都大学)による“Cultural Heritage, Rights and Access to Justice in Asia”でした。現在、アジア諸国ではどこでも文化財保護が進められていますが、国が進める文化財保護政策と個人の所有権、地域利益との対立は容易に回避することができず、時には伝統的な生活をしている現地住民の人権問題など深刻な問題も生じるとのこと。文化財保護政策に求められる行政のアカウンタビリティーとはどのようなものか、多角的な検討が必要であり、特に、UNESCOなどが進める欧米的な文化財保護政策がアジアに適しているかどうかについて、再検討が必要であるということを理解しました。

3
45分からのDay 3 Session Dでは、LIA-Litigation and Litigiousnessのセッションに参加しました。アジア諸国の訴訟利用とその背景にある法意識について議論するセッションです。4人の報告者が報告を行いました。第1報告は前田智彦教授(名城大学)による“Judicial Dispute Resolution in the Eye of Litigating Parties: Findings from a Survey of Japanese Litigants and their Attorneys”でした。訴訟当事者と代理人弁護士に対して行った訴訟上の和解に関するアンケートの調査結果の分析です。当事者が和解に応ずるのは代理人の説得や裁判官による和解勧試によるところが大きく、当事者が自分から和解を望むケースはそれほど多くないということを明らかにする、興味深い報告でした。日本人は訴訟よりも話し合いによる解決を望むという川島テーゼは必ずしも正しくないことが理解されました。第2報告は、Tu Nguyen氏(Griffith University)による“Coping with precariousness: How social insurance law shapes workers' survival strategies in Vietnam?”でした。ベトナムでは最近社会保険制度の大改革が行われており、それによって労働者の「生き残り戦略」が変わってきているとの報告。法と道徳は相互に影響し合うものであり、ある種の法改正は従来の道徳に大きな影響を与えるとのこと。社会保険制度改革によって20年の勤続年数で年金を受け取れるようになったベトナムの労働者は早期退職を望むようになり、労働に関する道徳意識が変わってきているという分析には、いろいろ考えさせられました。第3報告は、Hai Jin Park氏(Stanford Law School)による“Why Is Securities Class Action Seldom Used in Korea?: Understanding the Reluctance of Plaintiff’s Lawyers”でした。最近韓国で証券取引に関するクラスアクションが導入されたのですが、この利用が進まないのはなぜなのかを解明するために行われた調査の結果を分析する内容。結局のところ、この訴訟類型は、これを原告側で受任する弁護士に費用とリスクを押し付けるもので、成功報酬による実入りも少ないことから、弁護士がこの訴訟類型の利用を敬遠しているというのがその理由とのこと。制度設計をする際にはその利用者だけでなく、担い手の利便性をも考慮する必要があるということなのでしょう。第4報告は、Ummey Tahura判事(Bangladesh, Macquarie University)による“Will ADR be Able to Impact on Access to Justice and Litigation Costs?”でした。司法アクセスの拡充の重要な柱として世界各国で導入が進められている裁判外紛争解決(ADR)は本当に司法=正義へのアクセスを向上させるのかについての分析です。確かに、ADRの手続費用は訴訟費用に比べて大幅に安価であり、当事者にとってその利用のメリットは大きいものの、その利用の強制は司法=正義へのアクセスを求める当事者の利益を害するのであり、ADRの利用促進が司法=正義へのアクセスを向上させるとは言えないとの主張。やや論理の飛躍があったものの、訴訟制度には独自の意義があるということは確かであり、一つの問題提起として理解しました。

5
15分からはLynette Chua准教授(National University of Singapore)による閉会講演。内容は、アジアにおける権威主義(Authoritarianism)とその研究の必要性について。やや冗長な講演でしたが、ALSAの今後の検討課題の提示として受け取りました。それから、Best BookBest Graduate Student Articleの授賞式。中国の若手研究者たちの優れた研究に敬意。最後に、私のALSA 2019大阪大会のプロモーション講演。キャンパス紹介のスライドに「マチカネコ」(待兼山にある豊中キャンパスの猫)の写真を入れておいたので、つかみは良かったはずです。

今回のALSA大会も、アジア各国の様々な研究課題に触れることができ、研究上の視野が広がりました。来年は私がALSA年次大会の開催責任者です。1年間、準備のために頑張らなければなりません。

写真は筑波大学の辻雄一郎先生からの提供。

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