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2018.12.09

2018年12月8日(土)司法アクセス学会第12回学術大会概要

201812 8() 午後1時から午後5時すぎまで、東京・霞が関の弁護士会館2階講堂にて、司法アクセス学会第12回学術大会が開催され、参加してまいりました。テーマは 「市民の法的ニーズと法律専門職の倫理」。市民、企業の法的ニーズはどこにあるのか、各法律専門職は利用者の期待に応えられるような専門職倫理のもとに法的サービスを提供していると言えるのか、議論しました。以下は、当日のシンポジウムの概要です。

大会前半の第1部ミニシンポジウム①「法的ニーズについて」では、20154月に公表された「法曹人口調査データの二次分析―弁護士需要はどこにあるのか―」(日弁連法務研究財団・財団研究)に基づいて市民と企業の法的ニーズについて検討し、利用者の視点から、どこに法専門職サービスへのニーズが存在し、何がアクセス障害を発生させているのかを実証的に検討しました。企画責任者は、石田京子氏(早稲田大学)、報告者は、山口絢氏(日本学術振興会)、斎藤宙治氏(東京大学)、森大輔氏(熊本大学)、佐伯昌彦氏(千葉大学)、コメンテーターは、片桐武氏(弁護士)と安藤知史氏(弁護士)。

山口報告「法律相談利用前のためらいとの関連要因」は、「ためらい」を「当事者が法的ニーズを有し、法律相談利用の動機が存在しているにも拘わらず、その動機が相談を利用するという明確な意図の繋がっていない状態」と定義し、「ためらい」の有無、理由と当事者の属性、問題類型をクロス分析し、「ためらい」の関連要因、「ためらい」の理由と属性の関係を明らかにする好報告でした。「ためらい」をより強く感じるのが女性や若者層であり、その理由が弁護士の敷居の高さや問題深刻化の懸念であるというのは実感にも合っています。

斎藤報告「大企業の法務と弁護士利用」は、企業の事業規模に関わる変数(資本金、従業員数)と法務に関する変数(法務担当者数、社外弁護士予算、社内弁護士数)のそれぞれの影響関係を仮説モデルを用いて分析し、大企業の弁護士利用が増える要因とその因果の流れを明らかにする力技の報告でした。企業の事業規模が大きくなると、法務の基盤が安定化し、その結果法務担当者数が増え、それが前提となって社内弁護士も増え、同時並行で社外弁護士の予算も増えるという関係があるというのも、納得できます。企業の弁護士利用はある程度の事業規模がないとなかなか進みにくいのは確かです。

森報告「横断的な回答比較」は、「法曹人口調査」の複数のアンケートの間で、「異なる主体間での同じ質問の比較」(弁護士の利用機会・法曹有資格者の将来の利用、弁護士を探す方法、弁護士を選ぶ際の考慮事項、依頼しやすくするための必要事項、弁護士に期待する能力)と、「同じ主体の間での異なる質問の比較」(弁護士を選ぶ際の考慮事項、依頼しやすくするための必要事項、弁護士に期待する能力)を行い、回答された要因を回答者が選んだ率の高い順に並べて、何がよりその質問でより重要な(それほど重要でない)要因なのかを明らかにする報告でした。弁護士を選ぶ際の考慮事項として大企業は「実務経験」「専門分野」を重視し、相談者は「話しやすさ」、一般人は「安い費用」を求めていること(異なる主体間での同じ質問の比較)、弁護士に期待する能力としては、一般人は「交渉力」、大・中小企業は「法律知識」を最も求めている(同じ主体の間での異なる質問の比較)との調査結果は特に印象に残りました。

佐伯報告「弁護士費用の支払い意欲に関する二次分析」は、「法曹人口調査」で行われたシナリオ調査に着目し、そこで用いられた「相場法」(弁護士費用の相場を示し、いくらまでなら払う意欲があるかを尋ねる)の結果を、着手金重視の解答者と報酬金重視の回答者を区別し、さらに相場未満しか払わないとの回答者と相場以上を払うとの回答者を分け、4通りの回答者グループの割合を比較する分析でした。概ね着手金の支払いを相場未満に抑えようと考える人は報酬金の支払いも相場未満に抑えようとする傾向があること、着手金を相場以上支払うとする人は、報酬金も相場以上支払う用意があること、先端ビジネス能力を期待し、若手弁護士の熱心さを評価している依頼者は、弁護士費用の支払いに積極的であることなど、興味深い知見が得られました。

以上の報告に対して、実務家からのコメントとして、片桐弁護士は、「ためらい」克服のための弁護士会の努力を紹介し、また横断分析について一般人が「交渉力」を「法的知識」より重視している点は興味深く、弁護士を選ぶ際の考慮事項として一般人が「安い費用」を重視している点は重く受け止める必要があるとし、安藤弁護士は、企業法務に関わってきた立場から、法務の基盤が事業規模によって決せられることは実感に合うとしたうえで、この調査結果からは中小企業の弁護士利用を進めることは非常に難しいということになるが、ベンチャー企業などは弁護士利用に積極的であり、期待できると指摘しました。パネルディスカッション・質疑応答では、弁護士ニーズはどのように分布しており、そのニーズはどのようにしたら弁護士利用につながるのか議論するものでしたが、都合上省略します。

大会後半の第2部ミニシンポジウム②「職業倫理について」では、法専門職側に焦点をあてて、弁護士のみならず、司法書士、行政書士などの法的サービスの提供者側がどのような倫理研修を行い、団体としてサービスの質の標準化に取り組んでいるのか紹介されました。企画責任者は齋藤隆夫氏(桜美林大学)。報告は、斎藤隆雄氏「市民の法的ニーズと法律専門職の倫理―司法書士の専門職倫理をめぐる研修―」(司法書士の立場から)、山田美之氏「行政書士のコンプライアンス―倫理研修の現状と課題―」(行政書士の立場から)、馬橋隆紀氏「弁護士会における倫理の習得」の3報告でした。

齋藤報告は、司法書士とはどのような専門職なのか、懲戒の傾向はどうか、専門職倫理に関する規定はどうなっているかを明らかにしたうえで、専門職倫理研修の内容と参加率等から司法書士の専門職倫理研修の課題について明らかにする報告でした。法令に根拠をもつ司法書士の専門職倫理と一般的に司法書士に期待される倫理との区別が不明確で、司法書士の間で誤解が生じていること、中立性が求められる登記業務を行う上での倫理と、党派性が求められる簡裁代理を行う上での倫理の性格の違いが司法書士の専門職倫理を混乱させていること、など考えさせられました。

山田報告は、行政書士倫理綱領について紹介するとともに、行政書士に対する処分の構造(都道府県知事による懲戒と単位会による処分の二層構造になっていること)とそれぞれの動向について紹介。近年重い処分を受けている行政書士が増えていること、そのような重い処分には戸籍謄本等の職務上請求の不正が少なくないことなどが明らかにされました。

馬橋報告は、弁護士会の倫理研修に長年携わってきた立場から、弁護士会研修制度の沿革、平成元年のアメリカ視察による転機、義務研修の導入、弁護士会倫理研修の課題について紹介するものでした。弁護士職務基本規程をさらに具体化する試みが進んでいること、それによって若手の弁護士が弁護士倫理をより明確に意識するようになることが期待されること、社会一般の弁護士に対する信頼も、弁護士倫理をより具体的に社会一般に示していくことで高まっていくと考えられることなど、さらに議論を深めていくべき点が明らかになりました。

質疑応答はあまり時間がなかったのでほとんど省略しますが、私もこの質疑応答で、弁護士会が倫理研修や懲戒に力を入れているにも拘らず、弁護士懲戒の手続が内輪のかばい合いに見えてしまっている現状について指摘し、他方で、他士業の場合には士業の不正に関して監督庁(司法書士につき法務局長、地方法務局長、行政書士につき都道府県知事)が最終的懲戒権をもっているために、専門職倫理を自分たちで構築していくという意識に乏しくなっているのではないかと質問しました。弁護士会は職務基本規程を具体化することで一般の理解が得やすくなると考えていること、他士業については、監督庁による懲戒にあたって、単位会が審議して意見を述べることから、間接的には単位会の意見が処分に反映されることなど、教えていただきました。

あまりに盛りだくさんで議論や質疑応答の時間が足りない大会でしたが、今回もいろいろ勉強になりました。来年の企画も楽しみにしています。

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