2016年7月3日(日)日本法社会学会関西研究支部研究会概要
すでに1週間ほど経ちますが、2016年7月3日(日)午後に、大阪大学豊中キャンパス法学研究科大会議室(法経研究棟4階)にて、日本法社会学会関西研究支部研究会を開催しました。今回は、比較的に若手の研究者の報告1件と、私を含む共同での報告1件でした。古手の参加者はいつものメンバーでしたが、院生の参加が多く、活発な意見交換が行われ、充実した研究会となりました。以下は備忘録としての簡単な概要です。
第1報告は、京都大学大学院法学研究科ポスドクの朴艶紅氏による「争奪する地帯:国家と労工NGO―労働者を組織する空間をめぐる争い―」でした。
中国では、急速な経済成長のひずみから労働紛争が頻発しています。中国政府は、1995年以降労働法制を急ピッチで整備し、形の上ではかなり労働法制が整ってきているのですが、労働紛争の発生が紛争処理制度のキャパシティーを超えてしまっており、制度を通じて労働者の救済が十分に図れる状況にはないとのこと。そこで、数は少ないものの(全国で推計100団体程度)存在感を高めているのが、労働NGOだとのこと。労働NGOはSNS等を活用し、労働紛争が発生した場合に迅速に情報提供や法的助言を行うなどして、労働者を支援するそうです。労働者と労働弁護士との橋渡しをするなどの活動も行っているとのこと。
労働NGOのサポートのもと、公式の紛争解決制度に見切りをつけかけた労働者が、使えるものは使うというスタンスで訴訟等の法的手段を使うようになっているということは注目すべきところです。政府もこのような活動を放置できず、公式の制度に取り込もうと、公益団体の認定基準を変えるなどしてこれらの組織の体制への取り込みを図ろうとしているそうですが、依然としてその活動は制限を受けているとのこと。労働NGOが今後どのような方向に進んでいくかは未知数ですが、ある種の市民勢力が中国でもしだいに力を持ちつつあることは、見守っていくべきでしょう。
質疑応答では、これらの団体の位置づけや、実態についてより踏み込んだ確認が行われたほか、日本の場合との対比で、これが本格的な市民社会の形成に繋がりうるのかどうかなどの点について、意見交換が行われました。
第2報告は、関西学院大学非常勤講師(前大阪大学大学院法学研究科特任助教)の西本実苗氏および私による「社会保険労務士は企業にとってどのような役割を果たしているのか―2015年社会保険労務士アンケート調査分析結果からの一考察―」でした。
報告は、社会保険労務士総合研究機構研究プロジェクトの一環として2015年に実施したアンケート調査のデータを用い(全国社会保険労務士会連合会様、社会保険労務士総合研究機構様、調査データの学術目的での使用をお認めいただきありがとうございます)、回答を得た723名の社労士のうち、開業社労士524名をクラスタ分析の方法で「スタートアップ」、「発展中/兼業」、「イケイケ」、「中堅」、「ボス」、「ベテラン」、「セカンドライフ」、「セミリタイア」の8つのタイプに分け、それぞれのタイプの特徴を明らかにすると共に、日常業務や今後の業務課題の傾向、特に比較的に安定した経営を実現している社労士(「イケイケ」、「ボス」、「ベテラン」)の行う業務や社労士としての心がけ、姿勢について細かく見ていくという内容でした。
社労士は、顧客企業と顧問契約等を結んだあと、まず雇用保険・労災保険、健康保険等の手続業務で信頼関係を築き、就業規則作成やアップデートといった業務を軸に、より踏み込んだ経営問題に関わるようになること、成功している社労士は心がけや姿勢に関して企業に寄り添う平均値が高い傾向があるが、「ベテラン」は意外に値が低いこと(無理をして経営者に寄り添うことはしない)など社労士のタイプごとに興味深い傾向があることが紹介されました。
質疑応答では、「発展中/兼業」のタイプには純粋に修行中の者のほかに行政書士等との兼業や家庭とのワークライフバランスを志向する者など多様なタイプが含まれること、「ベテラン」は企業に寄り添う心がけや姿勢とは異なる要因で企業から信頼を得ている可能性があること、「セミリタイア」、「セカンドライフ」の社労士は無理しない代わりに、費用度外視でいい仕事をしている面もあるのではないかといった指摘など、いろいろな意見交換がありました。
今回はいずれの報告も労働問題、労働コンプライアンスに関わるもので、質疑応答も含め、いろいろな示唆を得ることができました。次回の研究会は秋の開催となります。次回の報告者をどうするかなど、これから根回しをして決めていきます。
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