第2回法科大学院協会・日韓交流会 共同シンポジウム「法学専門大学院の現状と発展方向」概要
2013年8月19日(月)から21日(水)まで、第2回 法科大学院協会・日韓交流会のために韓国に滞在し、歓迎行事やシンポジウムに参加しています。韓国の法科大学院(法学専門大学院)制度は、日本の法科大学院制度と同様の改革理念のもとに、日本の法曹養成制度改革の前例に学びながら、2009年に導入されました。韓国は、新制度のもとで司法研修院を廃止し、法学専門大学院設置大学は法学部を廃止させるなど、ある部分ではより徹底した改革を進めています。このような関係があることから、日本の法科大学院協会は韓国の法学専門大学院協会と1年から2年に1回、相互に交流の機会を設けるという取り決めをし、今回がその交流会の2回目なのだそうです。本来は法科大学院長や法科大学院協会理事など、より責任のある立場の人が参加する交流会なのですが、私は谷口勢津夫・大阪大学大学院高等司法研究科長の代役として参加させて頂きました。法科大学院協会理事長で早大総長の鎌田薫先生など錚々たるメンバーに囲まれて緊張しましたが、本気で法科大学院制度の問題について取り組んでいる著名な先生方といろいろ意見交換をすることができ、大変意義のある機会となりました。交流行事など様々な場で意見交換を行わせていただいているのですが、それらについては差し障りがあるので、20日午後に韓国・慶北大学行われた共同シンポジウム「法学専門大学院の現状と発展方向」の概要のみ紹介したいと思います。
共同シンポジウム「法学専門大学院の現状と発展方向」は、慶北大学グローバルプラザ・カンファレンスホールで開催されました。シンポジウムでは、日韓の法科大学院協会・法学専門大学院協会理事、法科大学院・法学専門大学院の院長・副院長、教授のほか法務省や文科省の関係者が参加するなか、3人の基調報告と5人のパネリストのコメント、そしてフロアとの質疑応答が行われました。最初に韓国・法学専門大学院協会の申鉉允理事長と日本・法科大学院協会の鎌田薫理事長が挨拶をされ、これに続いて、ソウル市立大学法学専門大学院の朴泳珪院長、韓国外国語大学法学専門大学院の金浩楨院長、東京大学法科大学院の松下淳一院長が基調報告をされ、それにコメントする形で慶北大学法学専門大学院の辛奉起院長、漢陽大学法学専門大学院の朴鍾普院長、中央大学法科大学院の大貫裕之教授、慶應義塾大学法科大学院の片山直也院長、京都大学法学院の酒巻匡院長が問題提起をされ、パネリスト間で意見交換が行われたあと、フロアとの質疑応答が行われました。いろいろなことが議論されたのですが、以下記憶に残った範囲で要点を紹介しておきます。
朴泳珪報告「法学専門大学院における法学部/非法学部出身の差異分析」は、ソウル市立大学法学専門大学院を事例として、法学部(2017年までの“残留法学部”)を卒業し法学専門大学院に入学した学生と非法学部出身者の成績分布を比較分析するもので、非法学部出身者と法学部出身者の成績の差は民法や刑法、民訴法など必須科目で顕著であること、2年次以降両者の成績の差異はほとんどなくなるものの、法学部科目の単位組み入れなどの結果、学修面で法学部出身者の方が非法学部出身者よりも実質的に有利であることを明らかにする好報告でした。金浩楨報告「ロースクール出身の弁護士の社会進出と弁護士数に対する想定」は、法学専門大学院出身弁護士は旧司法試験制度による弁護士よりも多様な職域に進出しており、中央官庁や地方自治体、民間企業、公共団体、国際機関など様々なところに就職していることを紹介。一部に、法律事務所等伝統的な就職先が十分でないために仕方なくそのような職域に進出しているという評価もあるそうですが、そのような就職先に進んだ卒業生の意識は高く、積極的で、職場での評価も高いとのこと。これとあわせて、法学専門大学院出身弁護士が通算6ヶ月以上法律事務従事機関で法律事務を務め、研修を受けなければ法律事務の受任等ができないとする「受任制限」の問題や、地方の法学専門大学院出身者の「ソウル登録猶予」(地方法学専門大学院出身者のソウル登録が広く行われると地域適正配置の意味がなくなるため)の議論、予備試験導入についての議論、法務部が法曹試験の合格枠を法科大学院定員の75%(1500人)と設定したことの問題(不合格者が累積し、最終的に合格者が40%台まで落ちる)なども紹介。示唆に富む報告でした。松下淳一報告「日本の法科大学院の現状と発展方向」は、法学既修者と未修者の成績格差や新人弁護士の就職難の問題、法科大学院の定員割れ、予備試験が法科大学院制度に及ぼしている影響などについて紹介し、最後に2012年に組織され、今年6月に取りまとめを公表した「法曹養成制度検討会議」の提言概要を紹介するもの。日本の現状については、大部分は聞き慣れた話でしたが、整理した話を聞くと、改めて法科大学院を取り巻く問題の深さを確認することになりました。
これらの基調報告に対して、慶北大学法学専門大学院の辛奉起院長、漢陽大学法学専門大学院の朴鍾普院長、中央大学法科大学院の大貫裕之教授、慶應義塾大学法科大学院の片山直也院長、京都大学法学院の酒巻匡院長がコメント。詳細は省略しますが、日本と韓国のロースクールの異同、既修者と未修者の成績の違いは何故生じるのか、未修者が特に負担感を持つ科目はどの科目か、法曹養成改革後法曹の職域は本当に拡大していると言えるのか、といったことについて問題提起が行われ、パネリスト間で意見交換が行われました。意見交換では、必須科目に求められる知識量はそれ以外の科目に比べて圧倒的に多く、それが未修者に大きな負担となっていること、司法試験の問題が難問化してどうしても未修者は苦戦を強いられていること、日本では司法試験不合格者の就職先の問題もあるが、意外にも「三振不合格者」に対する一定のニーズは存在していること、などの指摘が印象に残りました。フロアとの質疑応答では、韓国側から日本側への質問が中心で、不合格者の就職先や司法試験の実施方法、法科大学院の認証評価についていくつか質疑がありましたが、割愛します。
今回の日韓交流会、特に共同シンポジウムでは、日本国内の議論では見落とされがちになっているいくつかの重要な問題に気付かされました。このような貴重な機会を設けて頂いた韓国法学専門大学院協会、会場を提供し運営に携わられた慶北大学校法学専門大学院の先生方、スタッフのみなさま、本当にありがとうございました。
歓迎晩餐会での記念写真
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Comments
長谷川様
ブログ記事に関心を持っていただき、ありがとうございます。韓国のロースクールはそろって反対なのですが、政治圧力で韓国でも予備試験が導入され兼ねない状況になってきています(今のままでは導入されるのではと思います)。記事のリンクは了承いたします。
Posted by: 福井康太 | 2013.08.22 12:46 PM
福井 康太先生
はじめまして。
私は、司法書士の長谷川清といいます。事務所は滋賀県大津市です。
「アジア法制度研究会」では韓国の法務士の方との年1回の学術交流を含めての交流をしています。同Webサイトでは、私が関心ある韓国のニュースを紹介させていただいていますが、本日UPしました「【韓国】”日本ロースクール、予備試験のために崩れた”」に関連しまして、日本側のレポートとして先生のこの記事をリンクさせていただきました。事後になりましたがご承認賜れば幸いです。
(余談)
タイトルからそうですが、韓国側は予備試験に相当関心がありそうに思いました。なお、韓国の法務士は日本の私たち司法書士以上に苦境に立たされており、弁護士への統合論も議論されていると聞いています。来年1月の第3回日韓学術交流では主要なテーマを、法務士と司法書士の原状と課題として、原状打開の道を考えたいと企画しています。
今後ともよろしくお願いいたします。
Posted by: 長谷川清 | 2013.08.22 11:16 AM