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2013.03.29

法テラス島根法律事務所/法テラス西郷法律事務所訪問調査概要

2013326日(火)から28日(木)まで、法テラス(日本司法支援センター)の行政との連携業務の実態調査をするために、島根県の松江市にある法テラス島根法律事務所、そして隠岐の島町にある法テラス西郷法律事務所を訪問しました。法テラスは、情報提供業務、民事法律扶助、司法過疎対策、犯罪被害者支援業務、国選弁護等関連業務を主たる業務としますが、多重債務者対策、高齢者対策、知的障がい者対策、ホームレス対策なども重要な業務となっており、その際に行政、特に自治体の福祉行政と連携して問題に対処するということが行われています。福祉行政と連携して地域の法的ニーズに応えていくというのは、法テラスやひまわり基金法律事務所が生み出した新しい弁護士業務のあり方です。島根県を調査先に選んだのは、全国でも特に高齢化が進んでいる地域であること、弁護士会が法テラスのこのような活動を積極的に後押ししていること、大阪大学法科大学院一期生(既修)の佐藤力弁護士が法テラス島根法律事務所のスタッフ弁護士をしていること、があったからです。スケジュールのびっしり詰まった充実した調査旅行でした。

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26日(火)の早朝便で伊丹空港から出雲空港に飛び、午前中のうちに法テラス島根法律事務所に到着。まず、日常的に行われる業務について話を伺いました。詳しい内容はプライバシーに関わるので紹介はできません。佐藤弁護士は、精神障がい者、知的障がい者等の面談を行い、法的アドバイスを与える仕事をよくされるそうです。この場合には、本人だけでは何を話しているのか理解することができないことも多いので、NPOや行政の職員の方が付き添って面談に来られるとのこと。佐藤弁護士によれば、付き添いで来られるNPOや行政の職員の方こそがキーパーソンであり、この方々とどれだけ密接な連係プレーができるかが仕事の成否を決めるそうです。弁護士だけでは細々とした日常生活上の判断をサポートすることはできません。日常生活上の細々とした判断は社会福祉士などに手助けしてもらってはじめて、弁護士は法的問題に専念することができるのです。

法テラス島根法律事務所で日常業務の話を伺ったあと、島根県弁護士会を訪問し、元島根県弁護士会長の熱田雅夫弁護士のお話を伺いました。熱田弁護士から、島根県の司法過疎の状況、ひまわり基金公設法律事務所として日本初の石見ひまわり基金法律事務所が浜田市にできた背景や、その後浜田市と益田市でひまわり基金法律事務所が拡大されていった経緯などについて話を伺いました。もっとも、途中から弁護士の職域の話になり、熱田弁護士が携わって来られた出雲市包括外部監査の結果報告書を手がかりに、地方でも弁護士が第三セクターなどで果たすべき役割は大きいこと、企業内弁護士に関心を持っている企業は地方でも少なからずあることなど、いろいろな話を伺いました。

昼食後、島根大学大学院法務研究科(山陰法科大学院)を訪問しました。同法科大学院は地域のニーズに応える法曹養成を目指し、社会人・法学未修者を広く受け容れてきた法科大学院です。地元の島根県弁護士会のサポートが充実していることも特徴です。訪問してすぐ「法律学習導入教育講座」の授業を拝見させていただきました。少人数のクラスで、実務家教員の方が入学予定者に条文の引き方から丁寧に教えているのが印象的でした。そのあと、同大学院の朝田良作教授ほか2名の教員と意見交換の機会をもち、地域密着型法科大学院の課題について話し合いました。政府による法科大学院制度見直しの議論が行われる中、率直に言って山陰法科大学院の置かれている状況は苦しいと言わざるを得ませんが、手厚い指導を行うことを売りにして、少しでも多くの学生を受け入れようとする努力には敬意を表します。

そのあと、島根県民会館で行われた第3回松江市民講座「市民生活と司法制度を考える会」シンポジウム「山陰・島根で法曹人が育つということ―山陰法科大学院設立10年とこれから―」に途中まで参加させていただきました。シンポジウム前半は山陰法科大学院出身の廣澤努弁護士による基調講演でした。廣澤弁護士ご自身が島根県庁職員から一念発起して法科大学院を目指し、地元だったからこそ山陰法科大学院に進学でき、熱心な個別指導のおかげで司法試験に合格し、弁護士になれたこと、家族があるなどの理由で地元から離れられない法曹志望者にとって法科大学院の地域適正配置は極めて重要であること、法科大学院の地域適正配置を実現するために日弁連や各地の弁護士会が様々な取り組みをしていることなどを詳細に紹介する講演でした。出身の弁護士からここまで愛される法科大学院は羨ましいと思いました。申し訳ないとは思ったのですが、廣澤弁護士の講演を伺っただけでシンポジウムを途中退出し、法テラス島根法律事務所の佐藤弁護士ほか1名とともに食事をしながら意見交換。法テラスの今後について熱く語り合いました。

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日(水)は、佐藤弁護士とともに早朝に松江市から七類港にバスで移動し、フェリーで隠岐の島・西郷へと出発。西郷に着いたのはお昼少し前でした。先に昼食を済ませてから、法テラス西郷法律事務所の本間由也弁護士を訪問しました。隠岐の島は、高齢化率全国第2位の島根県(2009年までは第1位)の中でも特に高齢化が進んでいる地域です。人口のほぼ35%が高齢者とのこと。隠岐の島町は4つの集落を中心に比較的に地域住民のネットワークがしっかりしていて、よそ者が変なことをするのは難しいそうですが、それでも悪徳商法の被害をはじめ、いろいろな法律問題があるそうです。若い人が大阪など都会に出ていってしまって親と疎遠になり、日常生活上の面倒を見てくれる人がいない高齢者が多くなっていることがその背景にあります。そのような高齢者に認知症等の症状が出てくると、成年後見を付ける必要が出てくるのですが、その引き受け手となる専門家(弁護士、司法書士、行政書士、社会福祉士等)がほとんどいないそうです。このような状況を変えるべく、本間弁護士は隠岐の島町に成年後見センターを立ち上げたいとのこと。社会福祉士や行政書士など人材の誘致が鍵になるので、そのためのルート作りが課題なのだそうです。成年後見センターの設立を是非とも実現してほしいと思います。

次に訪問したのは、隠岐の島町役場の福祉課でした。隠岐の島町は高齢人口が多い一方、介護保険施設がわずかしかなく、在宅介護がほとんどであり、さらに介護保険が広域連合となっているため全国2位の高額の介護保険料となっているとのこと。介護保険がかなりの経済的負担となっていることが窺われます。また、高齢者の親族による虐待、搾取の問題はそれほど多く報告を受けているわけではないけれども、暗数はそれなりにあるのではないかとのこと。したがって、第三者による成年後見の需要は高いことが窺われるのだけれども、専門家として成年後見人を引き受けてくれる担い手がほとんどおらず、潜在的ニーズに十分に対応できない状況だとのこと。松江市から専門家の応援を得たいけれども、これも交通の便が悪いために事実上難しいそうです。社会福祉協議会が積極的で高齢者権利擁護の主たる担い手となってくれてはいるようですが、高齢者が法的問題を抱えている場合には弁護士や司法書士のサポートを受けざるを得ず、限界があるとのことでした。

町役場に続いて社会福祉法人・隠岐の島町社会福祉協議会(社協)を訪問しました。隠岐の島社会福祉協議会では、平成20年から総合相談事業(ふくしなんでも相談)を実施しており、地域住民の日常生活上のあらゆる相談に応じ、適切な助言・援助を行うとともに、地域問題の早期発見と予防に取り組んでいるそうです。隠岐の島出身で長年大阪で活躍してこられた田中庸雄弁護士が平成20年に隠岐法律事務所(現在では閉所)を開設されるまでは、弁護士会の法律相談センターが月2回法律相談を実施していたそうです。もっとも、月2回の法律相談では法律問題への十分な対応はできていなかったとのこと。これに対して田中弁護士が来られてからは、行政は隠岐法律事務所にアドバイスを求めるようになり、社協もまた同法律事務所との協力関係のもとに総合相談事業を始めることになったとのこと。さらに平成23年に法テラス西郷法律事務所ができてからは、本間弁護士が出張説明会を実施するなど積極的にアウトリーチ活動をやっていることから、弁護士と地域住民との距離がさらに近くなったとのこと。印象的だったのは、隠岐法律事務所ができてから社協に離婚相談のような典型的な弁護士マターの相談は来なくなり、福祉や生活により関わりの深いものに相談内容が絞られるようになったということ。何が法律問題で何が行政に関わる問題なのか、はっきりとした区別意識が芽生えてきていることは、「法意識」との関係でも興味深いことです。隠岐の島町社協訪問のあとは同行の佐藤弁護士、本間弁護士とともに食事を交えた懇談。法テラスの若手スタッフ弁護士の本音をいろいろ伺うことができました。

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日(木)は早朝から高速船で七類港に戻り、佐藤弁護士と別れてバスで鳥取県境港市へ移動し、JR境線とJR山陰本線で米子経由で松江にもどりました。交通の不便さを痛感した次第です。いくつか調べ物をしてから最終の飛行機で帰阪。本当に充実した3日間でした。

今回の松江市と隠岐の島町の訪問調査は、法テラス島根法律事務所の佐藤力弁護士と、法テラス西郷法律事務所の本間由也弁護士のお二人のサポートがあってはじめて実現できたことです。貴重な多くの知見を得ることができました。この成果を理論的にまとめていくことが今後の課題です。佐藤弁護士と本間弁護士のお二人に心から感謝いたします。

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※最初にアップロードした内容には一部差し障りがあったので、訂正いたしました。謝してお詫び申し上げます。

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