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2012.05.15

2012年度日本法社会学会学術大会概要(その2)

2012年度日本法社会学会学術大会概要の続きです)

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12日(土)の午前の部では、個別報告分科会Aに参加しました。個別報告分科会では比較的に若手が報告することが多く、その結果、会場に少人数しか集まらないことが多いので、私はできる限り個別報告分科会に参加するようにしています。もっとも、今回はそのような心配は不要でした。大入り満員というわけではないですが、たくさんの参加者が集まり、充実したセッションになりました。

個別報告分科会Aの報告者は3人でした。最初の報告は、日本学術振興会特別研究員PD(明治学院大学)の小宮友根氏による「評議における参加者のアイデンティティー」でした。小宮報告は、模擬裁判の録音記録の会話分析を用いて、守秘義務の壁に阻まれてブラックボックスとなっている裁判員裁判の評議の場でどのようなやり取りが行われているかを擬似的に明らかにし、それに基づいて評議における裁判員の発言の活性化条件を解明する好報告でした。評議の場で裁判員の発言を促すためには、「みなさん、ご意見はありませんか」と全員に向けて意見を求めるのではなく、「福井さん、いかがですか」というように個人に宛てて意見を求める必要があるというのは、その通りだと思います。

第二報告は、お茶の水女子大学研究員の山本千晶氏による「関係的権利論と中絶の権利」でした。山本報告は、女性の「中絶の権利」について議論する際には、「胎児の生命」や「生命の本質的価値」のような抽象的理念を持ち出して議論するのではなく、女性が子育てというケアの役割を一手に担わなければならないという現実に基づいて議論するべきであり、かりに胎児の生命の尊重というのなら、家族や社会も含む周囲がケアの役割を分かち持つという視点が不可欠であるとする、問題提起的な報告でした。「中絶の権利」をめぐる議論は、しばしば反証不可能な抽象的理念をめぐる争いとなりがちで、不毛な議論に陥ってしまうことが多いのですが、子育てで女性が置かれることになるケアの現実をもっと議論の中心に置いてもよいのではという主張はよく理解できます。もっとも、「中絶の権利」に関係的要素を持ち込むと、女性の自己決定権として確立されてきた「中絶の権利」を弱めることになる可能性は否定できず、さらなる検討が求められると感じました。

第三報告は、京都大学大学院法学研究科助教の小泉明子氏による「家族の価値(family values)とは何か:合衆国の家族政策を規定するもの」でした。小泉報告は、「家族の価値」というイデオロギータームを手がかりとして、同性婚問題をめぐってアメリカの家族政策がどのように変遷してきたか、その背景にはなにがあるのかを明らかにしようとする、意欲的な報告でした。アメリカ合衆国には、コミュニティーに基づく文化規範を重視する価値観と、個人の自己実現を重視する本質的に矛盾する価値観が、いずれも社会の理想として掲げられており、もともと価値観の対立が生じやすい傾向があります。極端なまでに進んだ家族形態の多様化を前にして、保守派が「家族の価値」を掲げ、同性婚を叩くことで危機感を煽り、それがアメリカの家族政策に影響を及ぼしているというのはその通りだろうと思います。日本の場合にも同様な価値対立は存在するように思いますが、これからどうなっていくのでしょうか。アメリカと同じような深刻な価値対立が起こってくるのでしょうか。私はこれについては何とも言えません。


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