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2012.01.09

2012年1月8日(日)日本法社会学会関西研究支部研究会例会概要

201218日(日)13時から18時頃まで、京都・同志社大学室町キャンパス寒梅館にて、日本法社会学会関西研究支部研究会例会が開催され、参加して参りました。本研究会は、関西地区を本拠とする法社会学研究者のほか、社会学や心理学などの研究者が参加する学際的な研究会です。今回も、社会学の若手研究者二人が基調報告者で、異なる着眼点からいろいろなことを学ばせていただきました。

第一報告者は大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程の佐藤貴宣(さとう たかのり)氏。佐藤氏は全盲の研究者で、視覚障害者の立場から障害者差別などの問題について研究を進めておられる方です。佐藤氏の報告タイトルは「盲学校における日常性の産出と進路配分の画一性―理想化された教育の意図せざる帰結―」。一般的にその実態がよく知られていない盲学校(特別支援学校)の教育が抱える問題について鋭く切り込む好報告でした。佐藤報告は、最初に日本の盲学校の概況を紹介した上で、氏が実施した盲学校教員に対するインタビューの言語分析を紹介し、盲学校では「それぞれの個性に合わせた個別指導」が試みられているが、その際に行われる教員による生徒のカテゴライズによって、生徒の進路が制限されてしまっているという実態を浮き彫りにするものでした。氏によれば、盲学校教員になるのは、他の普通学校で行われている画一的な教育に限界を感じて、個性に合わせた個別指導に魅力を感じるような理想主義的な教員がほとんどなのだそうです。にもかかわらず、この教員たちは、盲学校の生徒を、精神的に不安定でコミュニケーションの苦手な「弱者」と規定し、民間企業に就職しようとしたり、一般の大学などに進学しようとしたりする意欲のある生徒を「そんなことはどうせ無理なのだからあきらめなさい」と指導し、盲学校の専攻科(鍼・灸・あんまに関する専門教育を行う)に進学するよう誘導するのだそうです。教員が「個別指導を必要とする弱者」としてのみ生徒を扱い、自ら進んで未来を切り開いていこうとする意欲的な生徒をつぶしてしまっているとすれば、大問題です。以上の研究は盲学校で大学への進学を希望した佐藤氏自身の実体験にも裏付けられているのだそうで、重い内容と受け止めました。質疑応答では、どのようなプロセスを通じて教員が生徒を「弱者」としてラベリングするようになるのか、そのようなラベリングと「盲学校の理想」とはどのような関係にあるのか、教員同士のあいだで生徒を「弱者」とみる見方が増幅されていないか、生徒を「弱者」と位置づけて教員が自らを優位な位置に置こうとするのは学校一般の問題なのではないのか、といった議論が交わされました。視覚障害者には(特に後発障害の場合には)知的レベルに問題のない人が多数だと思います(複合障害がなければ)。これらの人は、コンピューターを利用した点字翻訳機などに習熟すれば、十分に高度な仕事に就くことができるはずです。現に視覚障害者の世界的な音楽家などもいるわけです。障害者教育のあり方について考えさせられました。

第二報告者は、日本学術振興会特別研究員(明治学院大学)の小宮友根(こみや ともね)氏。小宮氏はエスノメソドロジーの研究者で、ジェンダー論などにも詳しい方です。氏の報告タイトルは「法社会学における「社会生活の科学」の可能性」。法的実践のなかで用いられる常識的カテゴリーがどのように構成され、その結果どのような帰結がもたらされるのかについて、言語分析の手法を用いて記述し分析する、意欲的な報告でした。小宮報告は、冒頭でエスノメソドロジーの草創期の研究者サックスの問題提起を紹介し、常識的カテゴリーがどのように構築されるのかについての科学的研究が重要であることを強調したうえで、二つの事例分析を紹介しました。第一の事例は、強姦事件の被害者のパーソナリティーが裁判官の判決でどのように構成されるのかを記述・分析するものでした。すなわち、性交が同意によるものかどうかに関する被害者による出来事の中立的な記述が、判決中では被害者が「女性として社会的常識に欠ける」というように構成されている事例を挙げ、裁判官の常識が判断形成にどのように働いているかを明らかにするものでした。第二の事例は、裁判員模擬裁判における裁判官役と裁判員役のやり取りを記述・分析して、裁判員の発言を促すためには裁判官が「水を向ける」ということの意義は看過できないのではないかという問題提起をするものでした。質疑応答では、裁判官が「一夜の出来事」から被害者女性のパーソナリティーを判断できるというのは常識に反するのではないか、裁判官が「水を向ける」というやり方で裁判員の発言を促すのは果たしてよいことなのか、それは誘導なのではないか、特に、「子育ての経験のある方に聞きたいんですけど」という形で特定の人に発言を求めるのは、その人の発言に「権威」を付与する一方、他の裁判員の意見を抑圧することになるのではないか、法的三段論法といった方法はこの分析ではどこに位置づけられることになるのか、といったことについて意見交換が行われました。エスノメソドロジーは、社会学方法論の中でも(私にとっては)今ひとつわかりにくい方法論です。その方法論の「科学性」についてもいろいろな意見があります。また、エスノメソドロジーの方法論のストライクゾーンは必ずしも広くないという印象です。とはいえ、そのストライクゾーンにうまく填まるとき、エスノメソドロジーはきわめて鋭い日常性分析を行うことができます。エスノメソドロジーの凄さを実感させられるディスカッションでした。

今回の研究会でも、いろいろな学際的知見を得ることができ、大変勉強になりました。次回の研究会が本当に楽しみです。

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