2011年10月27日(木)法学教育科研第2回研究会概要
2011年10月27日(木)12時30分から15時頃まで、大阪大学豊中キャンパス・法学研究科中会議室(法経総合研究棟4F)にて、法学教育科研第2回研究会が開催されました。本科研費は同僚の林智良教授が研究代表者で、学部法学教育課程の意義について各国の歴史と制度比較を通じて研究するプロジェクトです。私も研究分担者の一人としてこの研究プロジェクトに関わっています。今回の研究会では韓国・慶煕大学法科大学院の崔光濬教授と林教授が英語で報告をされ、ディスカッションも英語でした。かなりハードな研究会だったのですが、 日韓の学部法学教育の事情が対比され、興味深い議論が行われました。
第一報告は崔教授の”Undergraduate Legal Education after the Introduction of New Professional Law School in Korea”でした。崔報告は、韓国の法科大学院制度導入によってもたらされた学部法学教育の危機について詳細に検討し、法学部の生き残りのための方途を明らかにする好報告でした。韓国では2009年に法科大学院制度が導入されましたが、法科大学院設置が認められたのは、法学部をもつ80大学のうちの25校だけでした。定員枠は全体で2000人。来年1月に予定されている新司法試験では70%程度の合格率を出すことが予定されています。韓国では、法科大学院を設置した大学では法学部が廃止されます。有名校の多くが法科大学院を設置し、法学部を廃止するのですから、実際にかなり混乱が生じています。法科大学院設置校では、法学部を廃止するに当たって定員枠の奪い合いの問題が起こったり、法学部がそのまま「自由専攻学部」と看板を代えた結果、入学する学生の質が大きく下がったりというような状態が生じています。法科大学院が実務家養成というはっきりした目標を持つのに対して、学部法学教育の目的ははっきりしていません。特色を打ち出せないままでは、(必ずしも一流ではない)法学部は没落するばかりです。他方、アメリカ法教育を行うという独自教育で特色を出したある大学の法学部は韓国全国で注目を集め、優秀な学生が集まっているのだそうです。国際化教育をはじめとする特色作りが重要だというのは日本の法学部の場合も同じであると思います。報告後のディスカッションでは、70%の合格率で合格できなかった「落伍者」の将来や、研究者養成をどうするかといった日本と共通する問題が議論されました。
第二報告は林教授の「司法改革関連資料にみられる学部課程法学教育の理念」(タイトルは日本語ですが報告は英語)でした。林報告は、首相官邸のHPに掲載されている司法制度改革関連資料(数千頁ある)に目を通し、そこから法科大学院教育と学部教育に関わる議論をピックアップしてきて英語で要約し、問題点を検討する力業の報告でした。司法制度改革審議会およびその後の検討会での議論では、法科大学院教育についての議論は比較的に活発に行われていますが、法学部についてはこれを存続させるというだけで、そこでの教育の中身については十分な議論が行われていません。学生の進路に応じた法学の基礎理論を重視した法学教育というようなことは言われていますが、それが従来の法学部教育とどのように違うのか、国際化教育や学際教育への対応をどうするか、といった問題は十分に論じられないまま放置されてきたというのが実態であることが分かります。審議会の主要な委員が、法曹の数が増えれば社会が変わるという程度の認識で法科大学院設置の議論をしていたというのは驚きという他ありません。ディスカッションでは、法学研究者養成の問題や弁護士の就職難の問題など深刻な問題について意見交換が行われました。従来ながらのエリートとしての法曹イメージのままでは法曹人口は増やせないということについては日韓の事情は重なっています。
次々回の法学教育科研研究会では私が上海交通大学を視察してきた成果について報告するつもりです。請うご期待。
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Comments
林でございます。 小林正啓先生、貴重なコメントを下さいまして
ありがとうございます。リンク先では法科大学院構想の端緒を、
より具体的に知ることが出来ました。ご助言を生かしながら、
更に探求を進めて参りたいと存じます。
福井先生、研究会についての情報をアップして下さり、感謝致します。
取り急ぎ御礼申し上げます。
Posted by: 林 智良(大阪大学) | 2011.11.12 10:30 PM
小林先生、コメントありがとうございました。同僚の林先生に伝えるとともに、自民党司法制度改革特別調査会での議論について検討の機会を作りたいと思います。
Posted by: 福井康太 | 2011.11.11 10:33 AM
ご無沙汰しております。林先生の力業も見事ですが、法科大学院制度の制度設計は99年の「法科大学院(仮称)構想に関する検討会議」及びその前身である「法学教育の在り方等に関する調査研究協力者会議」でなされており、さらに、そのレールを敷いたのは、自民党司法制度改革特別調査会(1997)です。ですから、法科大学院の制度設計の歴史的経緯を明らかにするためには、自民党の資料にあたる必要があると考えます。
法学教育の在り方等に関する調査研究協力者会議議事録(1999/3/11~)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/004/gijiroku/001/990301.htm
法科大学院(仮称)構想に関する検討会議
http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/286794/www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/003/index.htm
Posted by: 小林正啓 | 2011.11.10 11:16 AM