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2011.07.14

トランスプロフェッショナル・リテラシー科研CSCD授業見学会概要

2011712日(火)1620分から18時頃まで、コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)の池田光穂教授が大阪大学吹田キャンパス・工学研究科U2213教室で開講している「臨床コミュニケーション1- 2011」(第13回)の授業見学をさせていただきました。今回の授業見学は、すでに何度か紹介したトランスプロフェッショナル・リテラシー科研研究会ワークショップの一環として実施させていただいたものです。トランスプロフェッショナル・リテラシー科研で再来年度から実施したいと考えている領域横断型専門リテラシー教育の授業の参考にするためです。法学研究科のメンバーは私と事務補佐員の2名の参加でしたが、医学部付属病院クオリティーマネジメント部から3名、工学研究科光科学センターから1名と、幅広い分野からの参加が得られました。池田先生の授業はグループワーク型の授業です。参加学生は工学研究科、医学系研究科、生命科学研究科、人間科学研究科など吹田キャンパスにある大学院博士前期課程レベルの学生です。30名強の学生が5つのグループに分かれ、それぞれ議論しながら与えられた課題に答えます。私たちもそれぞれグループに入れてもらって、学生と一緒に考え、議論し、課題に答える作業を行いました。

今回の授業タイトルは「嘘あるいは学術的法螺話と遭遇する」というものでした。グループワークのために配布されたのはジョナサン・D・モレノ著、久保田競監訳、西尾香苗訳『操作される脳』(東京:アスキー・メディアワークス、2008[原著2006])の一部を抜粋した文章です。この文章は一見すると先端科学を分かりやすく紹介する文章のように見えますが、よく読んでみると「とんでも科学」的なことが書いてあります。この文章によれば、ある大学の精神医学者の研究チームが嘘をつくことに関連する脳の領域を同定するためにfMRIfunctional Magnetic Resonance Imaging)を使って研究を行った結果、嘘をつく場合と真実を言う場合に対応する脳の活動部位を同定することができたとするもので、この成果を用いて近い将来に信頼性の高い嘘発見用脳スキャンが開発できるとするものです。グループワークの第一の課題は、その文章から根拠もないのにもっともらしく書かれた「学術的法螺話」を抽出して列挙し、それがどのような点でおかしいのか説明すること、第二の課題はそのような研究成果を用いて高性能の嘘発見用脳スキャンが開発されることを好ましいことと考えるか否かグループ全員の意見を聞いて纏めるということです。

これまでの授業で慣れているのか、池田先生が「これまでとは異なる組み合わせでグループを作ること」と指示すると、6名~7名のグループがすぐにできました。私はグループⅤに入れてもらいました。グループⅤには工学研究科の学生、生命科学研究科の学生、医学系研究科の学生がおり、そこに法学研究科の私が入れてもらう形になりました。グループワークは、最初に司会進行役をきめ、その司会進行役の仕切りで議論しながら文章の問題点を明らかにし、また脳スキャンの是非についてそれぞれ意見を述べ、それらの問題点と意見を報告担当者が纏めて授業の最後に板書し、プレゼンを行うという形で進められました。司会進行役は、ほかの全ての人がすでに経験済みということで、私がやることになりました。報告担当者はじゃんけんで選ばれました。グループワークでは、最初に文章を精読し、そのあと一人ずつ気がついた「根拠のない主張」を挙げていき、それを報告担当者が纏めていきました。グループⅤでは、論拠が成立しているとは言えない箇所や過剰包摂に陥っている箇所を中心に問題点が挙げられました。嘘発見用脳スキャンの是非については、賛否両論となり、研究としてのおもしろさを挙げる意見や実用性を重視する意見がある一方、「嘘」もまた人間の生活には必要なもので、これを困難にしてしまう技術は欲しくないという意見が出て、議論が盛り上がりました。

最後にそれぞれのグループの報告担当者が全ての議論を纏めた上で黒板に板書し、プレゼンをしました。第一の課題について、私のグループでは論拠が成り立つか、その論拠は主張と正確に対応しているか、といった論理問題を中心に問題点を抽出したのですが、他のグループでは「真実」とはなにか「嘘」とはなにかに関わるような根本問題を指摘したり、そもそもfMRIで嘘や真実といった高度な意識活動について判定することはできないのではないかというような技術の限界に関わる問題を指摘したりする意見があり、大変興味深く伺いました。第二の課題については、嘘発見用脳スキャンは必要ないという意見が多数派でした。ほとんどの人が「嘘」も社会生活の中では必要だという意見を持っているようでした。A4用紙1頁分弱の短い文章からこれだけの多様な意見が出てくることに強い印象を受けました。

私の反省点は、教員の立場でありながらグループワークの司会進行役を引き受けてしまい、しかもいつもの癖で喋りすぎてしまったために、他のグループに比べてグループⅤの議論がややおとなしくなってしまったことです。次にこのような機会を設けていただけるときには、学生の意見を引き出す役に徹するように、コミュニケーションスキルを向上させなければならないと痛感しました。

池田先生、このように興味深い経験をする機会を与えて頂き、本当にありがとうございました。トランスプロフェッショナル・リテラシー科研でも、このような興味深い授業を提供できるように研究を進めていきたいと考えております。今後ともご指導ご鞭撻よろしくお願いいたします。

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Comments

平野先生。ブログ記事をアップロードしてからずっと多忙で、今日初めて先生のコメントに気がつきました。当日のグループワークは大変楽しいもので、久しぶりに学生気分を味わうことができました。このような授業は楽しいことが重要なのだと思います。

Posted by: 福井康太 | 2011.07.20 05:23 PM

龍谷大学・平野哲郎です。
残念ながら授業参加はできませんでしたが,福井先生のご報告で内容はよく分かりました。
まさにトランスプロフェッショナルな議論ができたようで興味深く拝読しました。
私も今日,医師と「医療水準」とは何か(要するにフィクションである)という議論をして,異分野間の議論,特にマジック・ワードで分かった気にならない,ということの大切さを実感しました。
なお,昨日,私もホームページを開設しましたので,お時間のあるときにご覧ください。
http://www.lawschool.jp/hirano/index.html

Posted by: 平野哲郎 | 2011.07.15 09:59 PM

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