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2011.05.10

2011年度日本法社会学会学術大会概要(その1):個別報告分科会A

201157日(土)、8日(日)の二日間、東京大学本郷キャンパスにて、今年度の日本法社会学会学術大会が開催され、参加して参りました。今回私は学術大会企画委員長で、主催者側の立場です。私が二年前から企画し準備してきた全体テーマで二つの企画関連ミニシンポジウムと全体シンポジウムを行わせていただきました。全体テーマは「法曹の新しい職域と法社会学:法の変容とこれからの法曹像」。このテーマのもとに、ここ20年ぐらいのタイムスパンでみた法曹の職域の大きな変容について議論させていただきました。今回の大会では、全体で10のミニシンポジウムと2つの個別報告分科会が開かれており、さらに、東日本大震災に関連する緊急企画として「災害・救援・復興をどうとらえるか」も開かれ、大変に盛りだくさんの大会でした。私が参加したセッションはそのうちのごく僅かですが、参加した範囲内での概要を紹介させていただきます(紹介が長文になるので、分割して掲載いたします)。

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7日午前には、私の指導する大学院生二人が報告するということで個別報告分科会Aに参加いたしました。最初の報告は、明治大学政治経済学部の西川伸一教授による「幹部裁判官のキャリアパスについて」でした。同報告は、最高裁判事、東京高裁長官など裁判官の特定高位ポストに就任している者の経歴をしらみつぶしに調べて、裁判官がそのような高位ポストに就くためには最高裁事務総局、司法研修所、最高裁判所調査官、法務省民事局、高裁判事、地裁長官といった特定の地位に就くことが不可欠の条件であり、また出身大学と高位ポストの間にも有意な相関があるということを実証的に明らかにするもので、興味深く話を伺いました。

第二報告は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所ジュニアフェローの馬場淳さんによる「グローバル化する人権のジレンマ―パプアニューギニアのDV対策の事例から―」でした。パプアニューギニアは大家族が多く、また夫婦間で「しつけ」目的で暴力が日常的に用いられることから、頻繁にDVが起こるのだそうです。これを見たオーストラリア等の人権団体が1990年代から啓蒙活動を始め、最近になって保護命令の制度が導入されることになったとのこと。ところが、この制度はDV被害者を悲惨な暴力被害から引き離すという本来目的とは異なり、妻側から夫に離縁を突きつけるための便利な制度として広く利用されるようになってきているのだそうです。馬場さんは、人権保護の目的で導入された保護命令制度が、ニューギニアの家族共同体の人間関係に亀裂を走らせ、共同体を破壊しているのではないかと問題提起をされました。なるほどと思う点も多かったのですが、私は、大家族の人間関係の中で妻の立場が弱く、自らのイニシアティブでなかなか離婚できないという社会的条件のもとで、この制度が妻にとって手頃な実効的離縁手段として利用されることには理由があるのではと思っています。本来的目的とは異なるものであっても、一定の社会的条件のもとで制度は様々な手段として用いられるということを痛感いたしました。

第三報告は、国立都城工業高等専門学校の吉井千周さんによる「アメリカにおけるマイノリティの伝統的婚姻」でした。吉井報告は、もともとラオスに住んでいたモン族が祖国で迫害に遭い、その一部がアメリカに集団移住した後に起こった、不幸な誤解に基づく裁判を詳細にレビューし、マイノリティの伝統とアメリカの価値観や法制度とのコンフリクトの根深さについて検討するものでした。モン族の伝統社会では「誘拐婚」というものが正式な制度として存在してきたのだそうです。「誘拐婚」とは、気に入った女性を男性が自宅に監禁し、使者を通じて女性の家とやり取りしながら婚姻を進めるやり方なのだそうです。しかし、そのような「誘拐婚」がアメリカ社会で許されるわけはありません。加害者(?)の男性(逮捕時42歳)は17年連れ添った内縁の妻(当時29歳)に対するレイプとそれに関連する5つの性犯罪を理由に逮捕・起訴され、一審で110年の禁固刑を受けることになりました。もっとも、控訴審では伝統的婚姻に配慮して減刑が行われ、12年の禁固刑が確定することになりました。なるほどマイノリティの伝統文化が受入国の制度や文化と衝突を繰り返すという問題には根深いものがあります。もっとも、このような問題を生じやすくする貧困の問題や女性の低学歴などについても議論があり、様々な要因がマイノリティ問題の背景に潜んでいることが理解できました。

第四報告は、私の指導する博士後期課程院生の櫻井良生さん(社会人院生です)による「ADRにおける法の限界と求められる条件」でした。櫻井さんは、行政書士業務と併せて労働安全衛生関係のコンサルティングを行うコンサルタント会社を経営しておられます。櫻井さんは顧問先の会社の経営者等から頼まれて、事件性のない範囲でいろいろな相談を受けることがあるのだそうです。櫻井さんはそのようないくつかの事例の紹介を通じて、じっくり話を聞くことの重要性や、法律の無力さなどについて検討し、弁護士会などが行うADRの最近のあり方について問題提起をされました。今のADRには法の限界についての認識が欠けているというのです。私の指導する大学院生の報告なので評価的なコメントは最小限に留めますが、私も認証制度が導入されて以降の最近のADRのあり方については同様な感想を持っています。

第五報告も、私が指導する博士後期課程院生の川島惟さんによる「紛争理論としての「承認論」―批判的社会理論の観点から―」でした。川島報告は、アクセル・ホネットの「承認論」を手がかりに、社会的紛争の中に相互承認の契機を読み取り、さらには社会統合の契機を見いだすという壮大な報告でした。ホネットはハバーマスとともにドイツの批判的社会理論の論客として知られる社会思想家です。ホネットは、哲学者ヘーゲルの承認論を現代的に再評価し、紛争を通じて行われる人格の相互承認が社会統合の上で果たす役割を重視しています。ホネットの主張が、今日の社会で非正規労働者などが疎外されている状況に対するアンチテーゼとして意義を持つことは確かです。もっとも、このような意味での「社会統合」がグローバル市場を通じて行われる「市場統合」に打ち勝つことができるかどうかについては、大きな疑問が残ります。ここでも評価的なコメントは最小限に留めますが、川島さんの今後の課題は「市場統合」に対抗する「社会統合」戦略をより具体的に描き出すことにあると思っています。

個別報告A分科会は、いろいろな分野の報告が行われ、学ぶことの多いセッションでした。私の指導する院生もよい経験をさせてもらえたのではないかと思います。[続く]

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