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2010.12.02

国際商事仲裁セミナー「中国・ベトナムとの間の国際商事仲裁・訴訟の到達点」に参加して参りました。

2010121日(水)14時から16時半過ぎまで、エル・おおさか大会議室にて、日本商事仲裁協会大阪事務所、日本仲裁人協会関西支部、大阪商工会議所の主催で国際商事仲裁セミナー「中国・ベトナムとの間の国際商事仲裁・訴訟の到達点」が行われ、参加して参りました。参加者は主として弁護士と企業法務関係の方々で、エル・おおさか大会議室がほとんど満席になるほどの盛況でした。中国やベトナムの訴訟や仲裁の現状についての関心の高さが窺われました。近々ベトナムの法律事務所を訪問する予定なので、情報収集のためにと思っていたのですが、期待以上に多くのことを学ばせていただきました。

セミナーは、弁護士法人淀屋橋・山上合同法律事務所の藤本一郎弁護士(中国・上海の法律事務所に勤務経験のある弁護士さんです)のコーディネートで、中国とベトナムの訴訟と仲裁について、二人の弁護士の方の講演(第1部)があり(藤本弁護士による質疑に答えるという形でしたが)、そのあとパネルディスカッション(第2部)が行われ、最後にフロアとの質疑応答という形で進められました。

1講演は、長年中国相手の業務を手がけてきておられる粟津光世弁護士(粟津法律事務所、現代アジア法研究会会員)による「中国と日本の間の仲裁・訴訟による紛争解決の到達点」でした。粟津先生は京都産業大学法科大学院で中国法の教鞭を執っておられる方です。まず、中国は仲裁の普及に大変力をいれており、仲裁が司法試験科目に入っていて、国内に仲裁機関が185もあるのだそうです。中国も「外国仲裁判断の承認・執行に関するニューヨーク条約」に加盟しているとのことですが、なお仲裁判断の承認・執行が認められるかどうかについては不確実な点が多いことが紹介されました。もっとも、中国では日本の裁判所による判決が承認・執行されない(相互主義で中国の判決も日本では承認・執行されない)という状況であるため、中国の相手方との紛争を日本で解決したいのであれば、なお承認・執行が認められる仲裁によるほかないのだそうです。粟津先生は、日本商事仲裁協会(JCAA)によって行われた仲裁判断が中国で承認拒絶された二事案を手がかりに、仲裁判断が承認拒絶されるケースについて、一般にそう思われているような公序(公共政策)を理由とする承認拒絶は少なく、むしろ仲裁判断が所定の期間内に行われず、期間延長の通知も送達されていない(相手方の非協力のために仲裁判断日が遅れ、さらに期間延長の送達も上手くいかないからのようですが)というような手続上の瑕疵を理由として承認拒絶されることが多いことを力説しておられました。逆に言えば、手続上の瑕疵がなければ、日本の仲裁判断が承認拒絶されるリスクはかなり低くできるということになります。現状で、日本の仲裁判断が承認拒絶されるのはだいたい5件に1件ぐらい(数字がやや曖昧なようでしたが)ということなので、決して楽観はできませんが、過度に警戒して仲裁による紛争解決を諦める必要はないとのことでした。それから、仲裁判断の承認拒絶には当該法院が一級上の上級法院に伺いを立てる「逐級報告制度」なるものがあるとのことで、このため承認拒絶には必ず上級審の意向が反映されることになり、学者にはこれに批判的な人が多いけれども、この制度には悪い面ばかりではなく、むしろ理由が不適切な承認拒絶を覆す決定もしばしば出しており、この制度の意義は評価すべきではないのか、という指摘には唸らせられました。

2講演は、2009年にJICA長期専門家としてベトナムに滞在して法整備支援に関わられた石那田隆之弁護士(異色な経歴の方で、日本で弁護士として10年以上働いた後、2005年にインドのロースクールに留学され、さらにその後ベトナムで法整備支援事業に携わられたのだそうです)による「ベトナムと日本との間の仲裁・訴訟による紛争解決の到達点」でした。ベトナムの司法制度はなお発展途上の段階で、各国の法整備支援により実体面でも手続面でもようやく制度が充実してきたという段階です。ベトナム民事訴訟法は日本の法整備支援を受けて2004年に制定されています。仲裁に関しては、今年商事仲裁法が制定されたところなのだそうで(201111日施行)、ベトナムの商事仲裁制度がどうなっていくかはこれからの運用にかかっているとのこと。石那田先生によれば、ベトナムでも訴訟と仲裁とが二大紛争解決制度なのだそうですが、伝統的に和解が広く紛争解決に用いられていて、訴訟上の和解も大変多いとのこと。訴訟制度では二審制がとられていますが、その手続は職権主義的で手際よく進められ、1日の期日で結審するほど迅速だとのこと。ただし、判決確定後3年間は「監督審」による破棄差し戻しの可能性があり、法的安定性には問題があるのだそうです。加えて特徴的なことは、裁判所と執行機関とが分離されていて、判決を執行するためには司法省所轄の一元的な執行機関に申立をして執行してもらう必要があること。裁判所まかせで執行手続を進めるというわけには行かないようです。また、合意管轄は制限されており、この制限が渉外事件の場合の訴訟利用の障害になることも指摘されました。外国判決の執行については、制度上は可能とされているけれども、実際には、ベトナムと二国間条約を結んでいる旧社会主義諸国やフランスなどを除けば、外国判決がそのまま承認・執行されるとは考えにくいとのこと。したがって、日本の裁判所の判決がそのまま承認・執行されることは期待できないということになります。ベトナムの司法制度の問題点は、三権分立が貫徹されておらず、社会主義的な民主集中制の影響を受けて「三権分業」というような制度運用が行われていること、法律の最終的解釈権限は立法院にあるとされ、裁判官が法解釈を行うことが困難なこと(日本の裁判官が行うような判決による法規範の具体化というようなことは期待できません)、裁判の公開は行われているものの、裁判例の積み上げが少なく、さらに判例公開制度が未整備なため、法的予見が難しいこと(ただ実質上の最上級審である「監督審」については公開の試みが行われているそうです)、裁判の公開、手続の透明化が進んでいないために裁判官の汚職の問題がなくならないこと、などだそうです。ベトナムの仲裁制度については、裁判官の汚職などのためにベトナムの裁判所の信頼性にはなお問題が指摘されており、そのような問題を回避するために仲裁制度へのニーズは高いと考えられ、渉外事件では実際にかなり利用されているとのことでした。外国で行われた仲裁判断の承認・執行については、ベトナムもニューヨーク条約に加盟しており、制度上は承認・執行が可能なはずですが、実際上外国の仲裁判断が承認・執行されることはあまり期待できないとのこと。ただ、承認拒絶される場合の理由は手続上の瑕疵である場合がほとんどで、法制度の違いが瑕疵を生じさせていることも多いとのこと。例えば、ベトナム民法では表見代理が認められておらず、企業間紛争の仲裁の場合に代表権限のない者(法務担当者など)が代表名で仲裁人と仲裁契約を行った場合には、その仲裁契約が即無効となってしまうのだそうです。仲裁契約に瑕疵があれば、仲裁判断の承認・執行が拒絶されるのは理解できます。ベトナムの国際商事仲裁を一手に引き受けているベトナム国際仲裁センター(VIACVietnam International Arbitration Centre)では毎年50件前後の事案が処理されており、ベトナム商事仲裁法の施行後この機関の利用はますます進んでいくと思われますが、なお仲裁非公開の原則のために本当に公正な手続が行われているかどうかは分からないとのこと。さらに、ベトナム国際仲裁センターの扱う仲裁事案は「外国要素」があること、つまり外国企業が関わっていることが必要であるとされます。たとえ日本企業の投資先であったとしても、ベトナム内国法人同士の紛争であればここでの仲裁は認められません。最後に、むすびとして、石那田先生は、ベトナムの司法制度はまだ発展途上であり、まずは司法制度の確立が第一とされ、司法制度と合わせて仲裁が発展していけば、制度間の競争が働き、全体として適正な紛争解決が実現されるようになるのではないか、と提言されました。

パネルディスカッションは、講演者の二先生とコーディネータの藤本先生、それに日本商事仲裁協会(JCAA)大阪事務所長の大貫雅晴先生が加わり、活発な議論が展開されました。最初に、大貫先生がJCAAの行う国際商事仲裁について補足説明され、大阪事務所でもアジアの仲裁事件が年数十件レベルまで増えてきていること、JCAAで行うアジア諸国相手の国際商事仲裁の9割が任意に履行されており、全体の1割について仲裁判断の執行が問題になるに過ぎないこと、その1割のうち執行承認が拒絶されるのはさらにその1割ぐらいであり、承認拒絶のリスクを過剰に恐れる必要はないこと、粟津講演にもあったように承認拒絶の理由としては「公序」が理由とされることは少なく、手続上の瑕疵で承認拒絶される場合が多いこと、手続上の瑕疵の原因としては通知送達などの場合の相手方当事者の非協力があり、通知送達は慎重に行う必要があること、仲裁廷の裁量が大きく認められているのが中国の特徴であり、中国の著名な法律家などを仲裁人に選ぶことは有効であること、などが指摘されました。ディスカッションの中心となったのは、中国とベトナムの場合に民事訴訟と仲裁のどちらを使うのが有用かという問題だったのですが、訴訟については、中国では「外国要素」のある事案でないと合意管轄が認められず、例えば日本の中国現地法人と中国国内法人との紛争では合意管轄が認められないという問題があること、また日本で裁判をやっても中国で判決が承認・執行されないことから、日本法人が中国法人との訴訟について合意管轄を定めようとすると相互主義(被告地主義)で行うほかないこと、仲裁については、日本法人が中国法人を相手とする場合に合意で第三国仲裁を定めることができるのに問題はないが、ただ仲裁の場合にも日本の現地法人と中国法人との紛争に第三国仲裁を使うことができない(「外国要素」がないから)という問題があること、中国ではアドホック仲裁は認められておらず、きちんとした仲裁人名簿を備えた仲裁機関を指定して仲裁を行う必要があることなどが指摘されました。ベトナムについては、中国の場合と同様に合意管轄が制限されていること、第三国仲裁を日本の現地法人とベトナム国内企業との間で行うことは難しいこと(この場合には準拠法がベトナム法となってしまうので第三国仲裁を行うメリットがない)などが指摘されました。最後のひとことということで粟津先生が指摘された、日本の仲裁機関の仲裁判断では仲裁規則のみ明示され、仲裁機関の明示が行われない場合が多いが、中国の仲裁法(中国仲裁法16条)によればこれでは仲裁判断が無効になるのであり、注意する必要があるという点は重要な指摘だと思いました。フロアとの質疑応答では、企業法務の方から、国際契約に仲裁条項を盛り込む際に準拠法をどちらの国の法律とするかに争いが生ずる場合があり、その時には「準拠法を定めない」という処理をするか、「第三国法を準拠法とする」という処理をすることになるが、中国やベトナムでは、例えばシンガポール法など第三国法を準拠法にするといったことは可能なのかという質問があり、これに対しては合弁契約などは合意で第三国法を準拠法に指定することは許されていないのではないかといった回答が行われていました。

今回のセミナーでは、中国やベトナムの個人や企業を相手に訴訟や仲裁を行う場合の問題点について幅広く学ぶことができました。主催者の日本商事仲裁協会大阪事務所、日本仲裁人協会関西支部、大阪商工会議所のみなさまに心から感謝いたします。

【注記】私は中国法やベトナム法の専門家ではないので、以上の紹介には誤解している点が含まれているかも知れません。引用等にはご注意いただければ幸いです。

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