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2008.05.12

2008年度日本法社会学会学術大会概要

2008年5月10日(土)、11日(日)の2日間、神戸大学にて日本法社会学会学術大会が開催されました。今年度の大会も大変に盛りだくさんで、全体シンポジウムのほかに、ミニシンポジウムが7つ(うち全体企画関連2つ)、個別報告分科会が2つ開かれ、いずれのセッションでも活発な議論が展開されました。全体シンポジウムのテーマは「民事司法過程の法社会学」。今回私は、全体シンポジウムの司会者の一人です。いつものことなのですが、同時並行でいくつものセッションが開かれます。以下では、私が参加したかぎりで大会の概要を紹介させて頂きます。

10日の午前中は、個別報告分科会Aに参加致しました。この分科会では若手の報告が4本。テーマは、環境影響評価、企業再生、「死別の悲しみ」の法的救済、個人データ流出紛争の救済など。いずれの報告も充実した内容で、いろいろ学ばせて頂いたのですが、この分科会でとくに印象に残ったのは、愛媛大学法文学部准教授の小佐井良太さんの報告でした(彼は私の大学院の後輩で、今年度の法社会学会・学会奨励賞を受賞されました)。小佐井さんは、以前から医療過誤や大学生の飲酒にまつわる事故などで「死別の悲しみ」を抱えている被害者の救済をどのようにして図っていくか、その際に司法はどのような役割を果たしうるかについて研究を進めてこられましたが、今回は定期金賠償方式に基づく「命日払い」請求について報告されました。日本の法実務では、死亡による損害は死亡逸失利益として一括的に算定され、支払方法として分割払の方法がしばしば採用されます。死亡逸失利益の算定にあたっては中間利息控除が行われますが、この算定過程で原告である被害者家族は、被害者の「命の値段」が切り下げられていくような苦痛を味わいます。さらに、子供を失った親の場合、経済的損失よりも、喪失による心の傷の方が問題であり、訴訟においても加害者に真摯に謝罪してもらうことを求めている場合が多いと言います。「お金が問題ではない。きちんと謝罪して欲しい」というわけです。小佐井さんは、そのような原告の要求を満たす上では、損害賠償を請求するにあたって、加害者である被告に謝罪の意味を込めて「命日ごとに一定額の定期金を賠償金として支払え」という「命日払い」の請求方法は適合的だと言います。この方法なら損害賠償請求の際に原告が中間利息控除計算の苦痛を感じることも回避できます。このような意味で、定期金賠償方式は分割払いとは決定的に異なり、むしろ原告の紛争解決ニーズにより広く応えていくことを可能にする重要な手段だと言うのです。この報告に当たって、小佐井さんは関連する判例をきちんと押さえるばかりでなく、原告や原告代理人にインタビューを行って緻密に裏付けをとっており、近年まれに見る充実した報告だったと思います。

10日の午後はミニシンポジウム⑤「弁護士研究のフロンティア―民事分野における依頼者・弁護士関係を中心に―」に参加しました。本セッションは依頼者・弁護士関係を扱う企画であり、報告者に企業法務で著書多数の有名な弁護士や司法過疎地の弁護士についての研究者、アメリカの弁護士についての研究者などがおり、またコメンテーターに法曹倫理の研究者が入っていたこともあって、フロアには弁護士の参加者が多く見られました。日本では、これまで学界も実務も依頼者・弁護士関係をステレオタイプ化して捉えてきており、「専門家である弁護士」と「素人である依頼者」の力関係をいかに規律するかという問題意識のもとに依頼者・弁護士関係を理解してきました。しかし、ビジネスロイヤリングにおいては、弁護士を使う側の企業の方が力関係では上であり、むしろ弁護士の独立性をいかに確保するかが問題になります。また、司法過疎地では弁護士の数が少なく、その少ない弁護士に多くの人が相談を持ち込むために、しばしば利益相反の問題が生じ、弁護士の利用に障害をきたします。さらに、弁護士はしばしば自らの主義と信念のもとに社会的事件に取り組み、依頼人の権利とともに社会的正義を実現しようと試みます(これを「コーズロイヤリング」と言います)が、このような場合にともすれば弁護士の信念が先行してしまい、当事者の本来の目的が忘れられてしまうことがあります。このセッションでは、冒頭で、弁護士業務のこのような様々な局面を区別し、それぞれの局面にふさわしい依頼者・弁護士関係、ひいては弁護士倫理を考えなければならないという問題提起が行われました。個々の報告では、企業の弁護士に対する期待は従来とは変わってきており、弁護士は法的リスクのみならず企業倫理上のリスク、企業のブランドイメージに関する助言まで求められるようになっており、このような役割期待のもとで依頼者・弁護士関係が考えられなければならないということが指摘され、また、司法過疎地でしばしば依頼者と弁護士の利益相反が生じるという点については、そのような地域では弁護士倫理の縛りを少し弱めるという考えもありうるという問題提起もありました。さらに、コーズロイヤリングについては、日本の弁護士は公害訴訟や薬害訴訟、クレサラ被害者救済運動などの社会運動に様々な形でコミットしてきたのであり、コーズロイヤリングは日本の弁護士活動の一部を構成し、弁護士の公益性と矛盾するものではないという指摘がなされました。フロアとのディスカッションでは、著名な弁護士さんが「日本の弁護士活動はコーズロイヤリングを中核として行われてきた」というコメントをされたことから、コーズロイヤリングに議論が集中しました。フロアの参加者のコーズロイヤリングに関する問題意識の高さが伺われました。司法過疎地の利益相反問題については、弁護士倫理は全国一律であるべきであり、弁護士倫理の縛りをゆるめるべきではないという意見が優勢でした。弁護士の社会的信用に関わる問題だけに、弁護士倫理の縛りをゆるめるということには慎重にならざるを得ないということなのでしょう。

11日の午前は、ミニシンポジウム⑦「法とのファースト・コンタクト」に参加しました。ここでは、人はトラブルにあったときにどのようにして法にアクセスするのかについて、民事紛争に関する量的研究と質的研究の視点から検討が行われ、さらに弁護士の視点から司法アクセス不在の形態とその克服に関する報告が行われました。第1報告では、一般の人々は法的救済を求めるにあたって必ずしも専門性を重視するわけではなく、むしろ十分に話を聞いてくれるという親しみやすさを重視しているということが指摘され、第2報告では、弁護士に相談に訪れる人のほとんどが弁護士を元から知っていたか家族等の紹介で訪問するけれども、必ずしも弁護士に好意を抱いて相談に訪れるわけではないという指摘がなされ、第3報告(知り合いの大澤恒夫弁護士の報告)では、弁護士過疎地でなくても、弁護士に依頼を断られ続けたり、重大な経営判断ゆえに他人に話せなかったり、また、うっかり暴力団等に相談してしまったことで弁護士に相談することができずに当事者が大きな損害を被ってしまうというような場合があるけれども、素人の力は侮ることができないのであり、そのような人々もしばしばインターネットや図書館等の非専門家的リソースを利用して自力で自らの権利を実現しているという指摘がなされました。報告に関するコメントで「弁護士が法の世界のすべてを取り仕切ることはできるのか」という問題が提起されましたがなるほどと唸らせられました。

11日午後は全体シンポジウム「民事司法過程の法社会学」でした。本学会の多くの会員が関わった科研費特定領域研究による「民事紛争全国調査」をはじめとするいくつかの実態調査の調査結果を検討するセッションです。数年がかりの調査の分析結果の報告ということで、内容は大変充実していました。もっとも、私は司会者の一人だったこともあり、じっくりと内容を吟味できなかったことは心残りでした。第1報告では、弁護士アクセスの約6割が旧知か知人の紹介によるのであり、弁護士の利用経験もなければ知人もない場合には司法アクセスが顕著に少ないという調査結果が明らかにされ、第2報告では、裁判の満足度は必ずしも勝敗の結果に依存するものではなく、むしろ「じっくり話を聞いてくれること」の方がより大きな満足要因であること、ここ10年ほどで裁判の迅速化が急ピッチで進められているけれども、裁判の迅速性は必ずしも大きな満足要因ではないことなどが明らかにされ、第3報告では、アメリカやイギリスと比較して日本で法的問題の発生が少ないわけではないが、わが国では比較的に第三者機関への相談は少なく、親族や友人に対する相談が多いこと、弁護士や裁判所の利用は一貫して少ないこと、非司法機関の利用は多いが、それが司法機関への利用ルートとはなっていないことなどが報告されました。第4報告は少し毛色が違い医療事故紛争に関するもので、そこでは、日本の場合医療事故紛争処理に当たっては判定型の法的処理よりも話し合いによる解決が好まれ、しばしば日常性ニーズと専門性ニーズを融合させる対話自律型ADRが望まれるが、実際にはわが国の医療ADRとしては効率性ニーズに対応した訴訟類似の評価型ADRが主流になっているという問題が提起されました。これに2人がコメントし、裁判所はこれまで訴訟満足度を上げる努力をし、できることは十分やってきているが、当事者はそれとは異なる点で不満を抱いているのではないかという指摘や、様々な紛争解決機関の満足度を一律的な数字で測ることの問題性が指摘されました。フロアとのディスカッションでは、本調査が依拠している「近代モデル」(近代化が進めば弁護士利用や司法アクセスは向上する)に対する問題提起や、調査対象に労働審判制度も組み込んで欲しいという要望や、医療ADRについて日本のADR認証制度は必ずしも裁判類似の「判定型」を基本モデルとするものではなく、むしろ法を使用し法的情報を欲しがるのはしばしば当事者であるといった指摘がなされ、さらに、医療紛争において問題になるのは医療の専門性が主であって、これまで法はこれと闘ってきたという指摘などがなされ、議論は活況を呈しました。

今回の学術大会は、議論が盛りだくさんであったため、そのうちのごく限られた部分しか紹介できません。それでも、今回の大会がいかに充実した大会であったかは十分に伝わったと思います。本大会の議論が今後さらに深められていくことを期待しています。


日本法社会学会HP

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