2020.08.09

日本法社会学会関西研究支部研究会例会・樫村志郎先生停年退職記念祝賀懇親会概要

2020年88日(土)15時から、日本法社会学会関西研究支部研究会例会・樫村志郎先生停年退職記念祝賀懇親会をオンライン(Zoom)で開催しました。オンラインだからなのか、オンラインにも拘らずなのか、延べ30人以上の参加者を得て(本研究会としては)盛会でした。もちろん、祝賀行事だからということもあるでしょう。今回は私の基調報告と、これに対する樫村先生(神戸大学名誉教授)のリプライというシンプルな研究会と懇親会でした。にも拘わらず、めったに顔を出すことのない大御所の先生まで顔をだし、充実した議論ができました。以下はその備忘録としての概要です。

基調報告は、私の「ルーマンとパーソンズ:ルーマンはパーソンズをどのように理解したか」でした。この報告は、20191013日(日)の関西研究支部研究会(前回)に樫村先生が報告された「理解社会学の継承者としての Parsons Garfinkel — Parsons 1937年までの初期著作とGarfinkelによるParsons Primer(『パーソンズ入門』)の読解を通じて」を受けて、私もまたパーソンズと結びつく形でルーマンの理論を整理しなおすということでお引き受けしたものです。機能概念、ダブル・コンティンジェンシー、社会システムの要素の問題(相互行為なのかコミュニケーションなのか)、システムと環境の定義、相互浸透、といった(ある意味わかる人にしかわからない)論点について、ルーマンがパーソンズとどのように格闘して自分なりの解答を導き出したかを紹介しました(前回、樫村先生は同様のことをガーフィンケルの視点で行われたのです)。関心のない人には「そんなの面白くない」と言われそうですが、樫村先生はむしろこのような議論をしたい人なのです。樫村先生停年退職記念祝賀行事にふさわしい報告だったと自画自賛しておきます。

これに対する樫村先生のリプライは大変に鋭いものでした。パーソンズの社会システム理論は生物学モデルを一貫して用いていること、パーソンズのシステムのイメージは生物のホメオスタシスであること、機能とはホメオスタシスのプロセスのことであって、ある部分を切り出して論ずることはできないものであること、AGIL図式は小集団研究のなかで見出された経験的なもので、論理の飛躍などではないこと、行為の目的を理解することを通してしか機能は理解できないことなど、私の理解が不十分だった点をすべて明らかにされました。そのあとのディスカッションでも、ルーマンについて、「複雑性の縮減」というのがすべてのシステムに共通する基本的機能なのではないか、「ホッブス問題」というのは社会学にとって本当に必要な議論なのか、パーソンズは「ホッブズ問題」を功利主義批判の文脈で論じており、行為の成立可能性との関係では論じていないのではないか、パーソンズは生物学モデルを使っているけれども、だからと言ってダーウィニズムの立場には与してはいない、など多くの有益な指摘をいただきました。

研究会終了後は樫村先生停年退職記念祝賀懇親会(オンライン)でした。いま流行のオンライン飲み会の形で、各自食事や飲み物を持ち寄って、2時間近く盛り上がりました。樫村先生が神戸大学に赴任された1980年代の「法と社会懇話会」の時から今の関西研究支部研究会になるまでの歴史を振り返るなど、得難い話を聞くことができました。本当に充実したひと時でした。

日本法社会学会関西研究支部研究会を取り囲む状況は厳しいものですが、樫村先生、今後ともご指導ご鞭撻よろしくお願いいたします。先生のますますのご健勝を心から祈念いたします。

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2020.08.03

日本法社会学会学術大会個別報告分科会①と若手ワークショップの概要

(続き)昨日82日は、ミニシンポジウムと個別報告分科会、そして若手ワークショップがオンラインで行われました。同日午前の部では、個別報告分科会①に参加し、午後の部では若手ワークショップに参加しました。

最初の報告は、郭薇会員(静岡大学)による「法学理論の伝播における『社会的なもの』―2000年〜2018年中国国内文献の川島武宜著作の引用分析」でした。電子化されたジャーナルデータベースを用い、川島武宜の中国語版抄訳論文集である『現代化と法』の法学雑誌での引用件数を年代別(2000年以降)に調べ、中国の法学雑誌で時代ごとに川島がどのように引用されているか、他の同時期の著名な論者の引用と比較してどのような傾向があるかを紹介する興味深い報告でした。中国社会の変化に対応して川島の引用のされ方が変わっている(同じ文献であっても違うことの論拠として使われたりする)という指摘が印象的でした。

2報告は、佐伯昌彦会員(千葉大学)による「少年法制に対する国民の意識の検討」でした。佐伯報告は、少年法改正の論拠として「世論」が引き合いに出される(適用年齢引き下げ賛成派も反対派も「世論」を持ち出す)ことから、少年法に関わる「世論」がどのようなものであって、それがどのように法改正に影響すると考えられるか、ウェブアンケートを使って調査した結果についての興味深い報告でした。一般論として質問した場合には年齢引き下げに賛成する者(80.6%)も、個別具体の設例については処罰を否定する場合が多い(特に14歳の少年の設例について)という指摘については、いいところを突いているという印象を持ちました。

3報告は、馬場健一会員(神戸大学)による「行政不服審査における諮問機関の実態と問題点―各地の情報公開審査会を素材に」でした。ご自身が全国の都道府県と政令指定都市に対して行っている行政文書の情報公開請求(体罰情報の開示請求)に対して、裁判例に従って適切な開示が行われたかどうかを具体的にリストアップし、法令に適切に従って開示が行われているかどうかを分析する挑戦的報告。今回は諮問機関である情報公開審査会の答申に焦点をあて、審査会の人事構成や審議期間といった非法的要因が法令非順守の傾向を生み出していないか検証するものでした。実務家(弁護士)委員が多い審査会ほど法令と異なる答申を出しているというのは衝撃的な発見です。

午後の若手ワークショップも大変興味深いものでした(若手とはとうてい言えないメンバーが結構いました)。ワークショップの前半は「学会奨励賞受賞者との対話」(コーディネータ 波多野綾子会員・東京大学、飯考行・専修大学)でした。

最初の講話は、秋葉丈志会員(早稲田大学)による「『国籍法違憲判決と日本の司法』(信山社,2017)(2017年度学会奨励賞(著書部門)受賞作)をめぐって」でした。フィリピン人と未婚の日本人の間に生まれた子供に日本国籍を認めない国籍法の違憲判決までの経緯と、これに関わった裁判官の経歴について分析した好著。著作の構想と出版までの苦労話のみならず、生い立ちまでさかのぼっての話となり、興味深く拝聴しました。

2の講話は、藤田政博会員(関西大学)による「Japanese Society and Lay Participation in Criminal Justice: Social Attitudes, Trust, and Mass Media (Springer Verlag, 2018) 2018年度学会奨励賞(著書部門)受賞作)をめぐって」でした。裁判員裁判めぐる様々な問題、素人は裁判員としての役割を十分に果たせるのか、裁判員制度によって司法への信頼は高まるのか、マスメディアの裁判員への影響にはどのように対処すればよいのか、といった問題に、法心理学の手法で切り込んだ力作。英語での出版というのも素晴らしい。英語での出版はやはり大変だったようです。

3の講話は、齋藤宙治会員(東京大学)による「「交渉に関する米国の弁護士倫理とその教育効果:離婚事件における真実義務と子どもの福祉を題材に」(豊田愛祥他編『和解は未来を創る(草野芳郎先生古稀記念論集)』(信山社,2018207-236頁))(2018年度学会奨励賞(論文部門)受賞作)をめぐって」でした。同論文は、齋藤会員がハーバードロースクールに留学していた間に行ったウェブアンケートの調査結果を分析したもの。倫理的ジレンマ事例を設け、法曹倫理の既修者と未修者との間でその判断にどのような違いが出るかを明らかにする好論文。いろいろ考えて調査設計をしており、将来性のある研究者だと実感しました。

後半はブレイクアウトセッション。私は秋葉会員のブレイクアウトルームに参加。国際的なアウトプットの意義、研究費獲得の方法、学会で自分を売り込む方法、就職のための戦略など、いろいろなことについて意見交換をしました。もはや若手ではない私は黙っていようと思ったのですが、ご指名などもあり、結構喋る結果となりました。大変盛り上がりました。

今年度の学術大会はすべてオンラインとなり、どうなることかと最初は心配していましたが、結果からすると充実した大会だったと思います。今後の学会の在り方も変わっていくのでしょう。

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2020.08.02

日本法社会学会学術大会ミニシンポジウム②と③の概要

2020年5月に予定されていた2020年度日本法社会学会学術大会はオンラインで時期をずらして分割で実施されることになりましたが、昨日81日はミニシンポジウム/個別報告分科会の実施日でした。午前午後とオンラインで長丁場の議論が行われましたが、1つのセッションに40名以上の参加があり、充実していました。以下は備忘録を兼ねた概要です。

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1日午前には、ミニシンポジウム②「62期第3 回・67期第2WEB調査データの多変量解析」に参加しました。セッションのコーディネータは藤本亮会員(名古屋大学)で、宮澤節生会員(神戸大学・UCへースティングス)が組織した、司法修習期に基づく10年以上におよぶコーホート研究の報告およびディスカッションとなりました。

最初の報告は、宮澤節生会員による「2つのコーホートの準パネル調査による若手弁護士キャリア研究の意義と課題-チーム内コメンテーターとしての具体的検討-」でした。これは研究のこれまでの経緯と現時点での調査結果の概要を紹介するものだったのでコメントは省略。

次の報告は石田京子会員(早稲田大学)による「法曹養成課程に対する評価―62期および67期コーホートの継時的データ分析から」でした。弁護士キャリアが長い弁護士のほうが、キャリアの短い弁護士より法科大学院教育、とりわけ臨床法学教育を役に立つと評価しているという調査結果が印象に残りました。

3報告は、上石圭一会員(追手門学院大学)による「出産・育児経験ある62期女性弁護士の所得と満足度」でした。所得水準について男性弁護士の方が高いというのは想定された結果ですが、それでも男性女性いずれの弁護士も職業満足度に有意な差がないというのは意外な結果でした。女性弁護士は企業内弁護士になる等の形で出産・育児を経験してもキャリアを継続できることに満足を見出しているのではないかという指摘はなるほどと思いました。

4報告は、石田京子会員(大活躍です)による「若手弁護士のワーク・ライフバランス―62期・67期コーホートの継時的データ分析から」でした。弁護士のワーク・ライフバランスにはまだまだ課題が多いと思っていますが、女性弁護士の50%以上が弁護士を配偶者としていること、育児負担が女性弁護士に一方的にかかっていること、弁護士の意識改革が重要な課題であることなど、多くの示唆がありました。

5報告は、藤本亮会員による「若手弁護士の登録地と職場での地位-初期キャリアにおける事務所移動のパターン-」でした。大都市と地方都市間の移動の傾向として、62期は地方都市に分散してその後そこに定着した弁護士が多いのに対して、67期はいったん地方で登録したものの東京に移動した弁護士がかなりいるという調査結果には考えさせられました。東京の大手ないし準大手法律事務所が若手の採用を増やし、また地方に赴任していた組織内弁護士が東京に戻ったことが理由だと指摘されていましたが、これは私の実感とも合っています。

6報告は、武士俣敦会員(福岡大学)による「若手弁護士の業務内容と業務専門化の決定因」でした。弁護士の主要な業務内容については前回の調査と比べてそれほど大きな変化はないものの、ただ、今回行った調査では企業相手の業務が大きく増えていることが特徴的であるということについては、確かにそのような傾向があるだろうと思いました。

昼休みをはさんで、午後の部ではミニシンポジウム③「弁護士のキャリアはどのように変化してきたか―弁護士キャリアの変化とその影響―」に参加しました。セッションのコーディネータは村山眞維会員(明治大学)。村山会員が科研費研究で行ってきた研究成果の報告とディスカッションでした。

最初の報告は、村山眞維会員による概要の説明と、「調査の概要と修習期別に見た弁護士職務状況の変化」でした。村山報告では、法科大学院修了者と予備試験経由者との比較が興味深いものでした。まず、法科大学院修了者の所得分布が一つの山しか作らないのに対して、予備試験経由者の所得分布は普通の所得層の山と高所得層の山の二つの山が形成されているという点。これは若くして予備試験で合格した者を大手法律事務所が好んで採用していることによると思われます。企業内弁護士について、複数の弁護士を雇用する企業が増えているという調査結果も実感に合います。

2報告は、杉野勇会員(お茶の水大学)による「収入レベルの規定要因」でした。大規模事務所、企業対象の法律事務所所属弁護士の収入レベルが高いというのは、特に驚くべきことではありません。出身大学では東大と慶大出身であることは有意にプラス要因であり、留学もプラス要因とのこと。これは東大と慶大出身者が大手事務所に就職することが多く、また、大手事務所が留学プログラムを備えている場合が多いことの表れとみるべきでしょう。

3報告は、飯考行会員(専修大学)による「企業内弁護士のキャリア・パターンと満足度の理由」でした。企業内弁護士は2019年末現在で2500名を超えています。もっとも、最近増加率は漸減しており、ピークは66期だったとのこと。企業内弁護士の最初の就職先は法律事務所が多く、また企業内弁護士は女性弁護士の割合が高い。このことは、女性弁護士がワーク・ライフバランスを考慮して法律事務所から企業へと移ってくることが多いことの表れです。

4報告は、石田京子会員による「弁護士キャリアのジェンダー分析」でした。女性弁護士は男性弁護士の約半分しか所得を得ておらず、事務所内の地位も勤務弁護士が多いなどあまり高くないとのこと。重点分野として女性弁護士は家族法を挙げている者が多いとも。女性弁護士は企業内弁護士への移動も多く、その理由はワーク・ライフバランスを挙げる者が多いとのこと。女性弁護士をめぐる環境はまだまだ多くの課題を残しています。

5報告は、森大輔会員(熊本大学)による「学歴の弁護士キャリアに与える影響」でした。出身学部、出身大学院と収入との関係についての興味深い紹介でした。収入レベルについては、杉野報告にもあったように、東大と慶大が有意に高収入。収入レベルは全体として下がり傾向だが、東大と京大は上がっているとのこと。渉外業務などを手掛ける弁護士については、収入が上がる傾向があるということなのでしょう。

最後の報告は、ダニエル・フット「アメリカ合衆国における最近のキャリア・コース調査との比較」でした。同報告は、アメリカで行われたいくつかの弁護士キャリア・コースに関する調査研究(①ABFによるAfter the JD調査、②Harvard Law School調査など)を手掛かりに、アメリカの弁護士キャリアの傾向について紹介し、日本のそれとを比較するものです。印象に残ったのは、アメリカでも法律事務所に就職する弁護士が圧倒的に多いけれども、議会、官庁、地方政府、企業、公益団体、労働組合など幅広く弁護士がいること、企業内弁護士は1980年ごろから急増するが、大手法律事務所から企業の法務部門以外への移動が多いこと、法務部門以外というのは会社役員が多いこと、など。弁護士としてのキャリアがステイタスであることと、登録料が安価であることから、弁護士に戻ることはないポジションについても弁護士登録を維持するのがほとんどであるとの説明には、彼我の違いの大きさを感じました。

今日もミニシンポジウム/個別報告分科会は続きます。無理にならない範囲で参加します。

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2020.07.26

2020年度日本法社会学会学術大会ミニシンポジウム①「『法の動態に応じて法の担い手の選択可能性を提示する学問』としての法社会学(法動態学)―法社会学教育の対象の明確化とその必要性」概要

2020年度日本法社会学会学術大会のミニシンポジウムと個別報告分科会は、新コロナウイルスの感染対策のために、オンラインで日程を分散して行われることになりました。

2020718日(土)午後に、ミニシンポジウム①「『法の動態に応じて法の担い手の選択可能性を提示する学問』としての法社会学(法動態学)―法社会学教育の対象の明確化とその必要性」がオンラインで行われました。このミニシンポジウムは弁護士の遠藤直哉会員がコーディネーターで、遠藤弁護士が代表をつとめるフェアネス法律事務所の所属弁護士が報告を担当し、明治大学法学部の太田勝造会員がコメンテーターを務めました。報告の概要は以下の通りです。

最初の報告は、遠藤直哉「刑事・民事・行政・団体の法規制の架橋」でした。報告では、遠藤会員が長年打ち出してこられた、刑事法、民事法、行政法、ソフトロー(団体の自主規範)の段階構造とその組み合わせによる問題解決方法についての紹介でした。フェアネス法律事務所はこの組み合わせを駆使した問題解決を実践し、専門事件を中心に優れた若手弁護士を育てているようです。

遠藤会員の報告に続く第2報告は、相川雅和「粉飾会計における法規制の架橋」でした。オリンパス粉飾会計事件を手掛かりとして、監査法人の役割の重要性とその法的責任強化の影響についての報告で、それでもなお監査法人が適切な監査を行わないことの問題の深刻さが明らかにされました。

休憩をはさんで、第3報告は、小嶋高志「医療における刑事・民事の機能と医療事故調査制度」でした。報告者はもともと麻酔科の医師で弁護士資格をとった方。医師の立場から、医療活動について刑事責任を追及することの問題を強調し、事故再発防止のためには医療事故調査制度をより活用することが望ましいとする内容。

これに続く第4報告は、中村智広「薬害事件における法規制の変動の状況」でした。この方は京都大学で薬学の先生をしたのち弁護士資格を取られた方。1980年代以降の薬害事件を手掛かりに、薬事事件に対する責任追及の望ましい在り方について提言する内容の報告でした。

再度休憩をはさんで、第5報告は、岩渕史恵「非弁活動禁止に対する刑事・民事の機能と弁護士会規制」でした。最近の非弁事件を手掛かりとして、隣接法律専門職と弁護士との関係、さらにそれ以上に問題のある業種としての経営コンサルタントの法律事務への介入の問題点を指摘し、法律専門職の整理一元化と法律事務の完全な弁護士による独占を提言する、問題提起的な報告でした。

最後の報告は、渡邉潤也「団体運営の行政・民事・刑事の機能と弁護士の役割」でした。団体運営における自主規範と見ん刑事法、行政規範の機能、そして、これに関わる弁護士の役割について検討する内容。

フェアネス法律事務所によるミニシンポジウムは、法社会学的知見が法実務でどのように使われるのかを目の当たりにさせてくれる興味深いシンポジウムでした。フェアネス法律事務所で育った弁護士がこれからどのように活躍していくのか、目が離せません。

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2020.07.25

第16回仲裁ADR法学会概要

すでに大会から2週間が過ぎてしまいましたが、備忘録は必要なので、簡単なまとめ記事を書きます。2020年7月11日(土)12時30分からオンラインで第16回仲裁ADR法学会が開催されました。本来は九州大学で開催が予定されていましたが、コロナウイルス感染対策のため、オンラインによる大会に変更されました。概要は以下の通りです。

前半(12時30分~14時20分)に行われたのは2件の個別報告でした。第1報告は慶應義塾大学の工藤敏隆会員による「金融ADR機関の業態横断的統合への可能性」(司会は我妻学会員)。日本ではサービス分野ごとに金融ADR機関はいくつも分かれているのが現状ですが、イギリスでは早くからサービス分野を包括する金融ADRが作られており、オーストラリアでも2018年から包括型の金融ADRが動き出しています。それらの試みを踏まえて、日本での包括型の金融ADRを模索する意欲的な報告でした。「包括型」に直ちに移行することは現実的ではないというのは理解できます。

第2報告は名城大学の前田智彦会員による「金融ADRにおける紛争処理の統計的分析」でした(司会は高橋裕会員)。こちらはタイトルの通りで、金融ADR機関についての公開されているデータを統計的に分析するもので、他の民間型ADRとは比べ物にならないほど利用は活発であるものの、近年は徐々に利用が減ってきている現状が紹介されました。金融ADRが変わりつつある期待される役割にどこまでこたえられるのか、難しい局面を迎えているように思います。

総会をはさんで、後半(14時50分~17時30分)はシンポジウムでした。テーマは「ADRにおける代理人の職務上の倫理について」(司会は石田京子会員)。このテーマは繰り返し議論されているものですが、会員の関心も高いことから議論されることになったのだと拝察します。報告者は元裁判官で学習院大学の林圭介会員、弁護士の山﨑雄一郎会員、そして、東京大学の齋藤宙治会員の3名。ADRの代理人の立場の難しさ、とりわけ、交渉する内容が包括的になり、代理権の範囲を枠付けすることが困難であることについて活発に議論が交わされました。

大会からすでに2週間が過ぎており、質疑を含む議論の詳細は省略いたします。オンラインでの大会は集中力が続かないなど、参加者としてもいろいろ難しさを感じました。それでも、通常の大会とほぼ変わらないほどの人数の参加を得て、充実した大会だったと思います。来年度大会以降の正常化を期待しています。

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2020.05.31

2020年度日本法社会学会学術大会概要

すでに1週間が経過しましたが、2020523日(土)・24日(日)の2日間、オンラインで日本法社会学会学術大会が開催されました。本来なら今年度学術大会は愛媛大学で開催されていたはずですが、COVID 19感染対策のために、学会史上はじめてオンラインで大会が行われることになりました。今回の大会は、オンライン(Zoom)で行うことから、大幅に内容を整理して行うこととなり、学術大会企画委員会の企画ミニシンポジウム①②と、全体シンポジウムのみこの日程で実施し、そのほかのミニシンポジウムや個別報告は別の日程で実施することとなりました。以下は私の備忘録を兼ねた概要の整理です。

大会は2313時に開始されました。最初に理事長挨拶があり、そのあと短い休み時間をはさんで企画関連ミニシンポジウム①「AI とのコラボレイションに向けて」(司会飯田高・東京大学)が開始されました。太田勝造先生(明治大学)が以前からずっと温めてこられた「文系と理系の垣根をなくす」新しい試みとしての大会企画の一環です。このセッションでは、最初に太田先生が「企画趣旨」を紹介され、これに続いて、笠原毅彦(桐蔭横浜大学)「AI と司法政策」、平田勇人(朝日大学)「AIによる紛争解決支援」、佐藤 健(国立情報学研究所)「裁判過程における人工知能による高次推論支援の構想」、中山幸二(明治大学)「自動運転におけるAIと責任の帰属」の4報告が行われ、それぞれについてディスカッサントの松村将生(弁護士)がコメントをするという形で議論が進められました。笠原報告は各国司法制度におけるAIICTの活用の最先端を紹介、平田報告は、ICTを活用した紛争解決支援をシンガポールを中心に紹介、佐藤報告は、ベイジアンネットワークを用いた要件事実推論システムについての紹介、中山報告は、レベル3に達した自動運転での法的責任帰属の問題についての報告でした。質疑応答はZoomのチャット機能で行われるなど異例づくめ。多数の質問が出され、対面のセッション以上に議論が盛り上がりました。23日の企画ミニシンポジウムはこれだけです。ミニシンポジウム②と全体シンポジウムは25日に行われました。

25日の9時から、企画関連ミニシンポジウム②「新しい統計学(Bayes Modeling)とのコラボレイションに向けて」(司会 渡辺千原・立命館大学)が行われました。ここでは、最初に太田先生の「企画趣旨」、これに続いて、岡田謙介(東京大学)「心理理学におけるベイズ統計モデリング 再現性問題と認知モデル」、浜田宏(東北大学)「社会学におけるベイズ統計モデリング 理論の数学的表現とデータの対応」、本村陽一(産業技術総合研究所)「確率モデリング技術とAI応用システムの社会実装~ビッグデータを活用した社会のサイバーフィジカルシステムSociety 5.0に向けて~」、これにディスカッサントの森大輔(熊本大学)がコメントするという形で議論が進められました。岡田報告は、心理学でのベイズ統計モデルの受容状況を紹介したうえで、自身の研究でのベイズ統計モデルの具体的な活用例を紹介する報告、浜田報告もまた、社会学におけるベイズ統計モデルの活用例を自身の研究を例として紹介するものでした。いずれも、P値を用いた従来の統計モデルの欠陥を指摘するとともに、多数の要素間の相関を細かく分析することができるベイズ統計モデルの優位性について力説するものでした。本村報告は、実社会ビッグデータから構造化モデルを構築する手法として、確率的潜在意味解析とベイジアンネットワークを連携させた確率モデリング技術を紹介するもので、AIの社会実装の最先端とこれからの可能性を示す内容の報告でした。森コメントはそれぞれの報告の理論的可能性について丁寧な解説をするもので、オーディエンスの理解を深めるのに役立つコメントでした。

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時半から全体シンポジウム「脳科学・認知科学とのコラボレイションに向けて」(司会木下麻奈子)が行われました。このセッションでも、最初に太田先生の「企画趣旨」があり、これに続いて松田いづみ(青山学院大学)「犯罪捜査と脳科学の接点としてのポリグラフ検査」、小川一仁(関西大学)「認知能力,経済的意思決定,政策介入 経済実験の成果から」、浅水屋剛(東京大学)「法的問題の神経科学 適切な問題設定の探求」、加藤淳子(東京大学)「社会的行動の脳神経科学基盤の解明の可能性と限界」で、これにディスカッサントの鈴木仁志(弁護士)と藤田政博(関西大学)がコメントをするという形で議論が進められました。松田報告は、脳科学を用いたポリグラフの劇的な技術革新についての紹介、小川報告は、認知能力の違いが経済的意思決定に有意な影響を与えるという実験室実験の結果を紹介したうえで、認知科学研究が政策介入の在り方についてどのような貢献をなしうるかを明らかにする報告、浅水屋報告は、自身が取り組んでいる、fMRI実験・画像解析を用いる、「法的課題」に答える際の法専門家と素人の脳の活動部位の比較研究を手掛かりとした、脳科学研究の問題定位、加藤報告は脳科学を用いた囚人のジレンマ研究における最先端の議論を紹介するとともに、社会科学における脳科学の可能性と限界について紹介するものでした。チャットによる質疑応答は大変な数に上り、ここでは紹介できません。いずれの報告についても様々な問題が提起されるなど、活発な議論が行われました。

今回の学術大会は異例づくめの大会でしたが、「距離のバリア」をなくしたオンラインセッションの活用可能性を切り開くなど、これからの大きな変化につながる大会となりました。議論の内容も、これからの社会の在り方、そして法社会学と諸科学とのコラボレーションの可能性を切り開くものでした。今回の学術大会が来年度以降の大会の盛会につながっていくことを願ってやみません。


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2020.02.20

インドでの学生向けセミナーについて

2020年213日(木)から20日(木)までの8日間、インド・グジャラート州ガンディーナガルにあるグジャラート国立法科大学(GNLU)に滞在しています。この滞在の後半の目的は学生向けセミナーを実施することです。海外でのセミナー等の記録はできるだけきちんと残すようにしています。研究教育活動実績としてカウントされるからです。今回の滞在では、217日(月)から19()にかけて3つのセミナーを行いました。

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日月曜日には、GNLU1年次と2年次の学生を対象に、“Transplantation of Western/Modern Law in Japan”と題して、日本の「西洋近代法継受」についての話をしました。この話は、以前から私がGNLUで行ってきた講義 “Introduction to Japanese Law”の初回授業の内容を組みなおしたもので、日本法になじみのない学生でも聞けばわかるように工夫しています。明治日本がいかなる時代背景のもとに、どのような思想に基づいて西洋近代法を受け入れ、法典化を進めたのか、第二次世界大戦での敗戦を経て、日本で継受された近代法はどのように変わったのかについて概説しました。下手な英語でのレクチャーにも拘らず、受講生は熱心に私の話を聞き、質疑応答でも多くの質問が出ました。西洋近代法を法典化してもそれが定着するには時間がかかったのではないか、今でも日本には古い時代の考え方が残っているのではないか、アジアの植民地化は江戸末期から明治初頭当時の日本にどのように影響をもたららしたのか、といったまともな質問が出され、ごくオーソドックスな受け答えをすることになりました(ということは私の下手な英語でも概ねきちんと伝わっていたということです)。

 

18日火曜日には、ガンディーナガルから100キロほど離れた場所にあるParul大学(グジャラート州にある私立大学です)法学部でセミナーを行いました。ここでは、GNLU准教授で共同研究者のリチャ・シャーマ博士と私とで合同レクチャーをしました。まず、シャーマ博士が「法の継受」の総論として一般的な話をし、法の継受は歴史的に連綿と続くものであり、多元的かつ相互的なものであるとの問題提起をしました。私はGNLUで用いた“Transplantation of Western/Modern Law in Japan”のスライドを使いつつも、シャーマ博士の話に引き寄せて、法の継受は継続的なプロジェクトであり、今も日本はグローバル法と国内法を融合させる努力を続けており、その成果はアジア諸国に対する法整備支援をはじめとする国際的支援活動を通じてグローバルに拡大されつつあるという話をしました。質疑応答では、第二次世界大戦後の日本法の展開についての質疑が多く出されました。

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日水曜日には、GNLUのトーマス・マシュー教授(法と科学技術論担当)の授業枠で、“Scientific, Social and Legal Dimensions of Artificial Intelligence”と題して特別講義を行いました。昨日までのテーマとは異なり、科学技術に関わるテーマです。人工知能(AI)がもたらす社会の構造的変化に我々はどのように対処すればよいのか、その際に法はどのような役割を果たしうるのかというような内容の話です。環境問題、生命科学、人工知能といった先端科学技術の問題は科学で扱うことができる範囲を超える「トランスサイエンス」の問題であり、そこでは哲学、倫理学、心理学、法学、政策科学と科学技術とを組み合わせて問題の解決に取り組む必要があることを説明し、より具体的に、「自動運転車」、「AIによって消えていく仕事」、「シンギュラリティー」といったトピックを取り上げ、それぞれに固有の問題に言及しながら、私なりの問題への取り組みの方向を示しました。アイザック・アシモフの「ロボット工学三原則」について言及したりもしたので、学生の関心がSF的な方向に引っ張られてしまったきらいもありましたが、意欲的な質問が多数出され、学生の関心の高さが窺われました。話のむすびとして“Cybernetic Regulation”などという眉唾物の落ちをつけたのですが、これにはあまり学生は関心がなかったようです。

今回行った学生向けセミナーを通じて、GNLUParul大学の学生の向学心の高さが強く印象に残りました。日本の学生もまた、隣の日本人学生と自分とを比べて安心するのではなく、世界にいるこのような学生と切磋琢磨していかなければならないと肝に銘ずるべきです。いろいろ考えさせられました。


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2020.02.16

全インド法制史学会議概要

2020年2月13日(木)から20日(木)までの8日間、インド・グジャラート州にあるグジャラート国立法科大学(GNLU)に滞在しています。この滞在の前半の目的は2月14日(金)・15日(土)に同大学で開催される第1回全インド法制史学会議(1st All India Legal History Congress)に参加すること、後半の目的はGNLUで学生向けセミナーを実施することです。まずは前半の第1回全インド法制史学会議が終わったので、この会議の概要を備忘録的にまとめておきたいと思います。

第1回全インド法制史学会議は、GNLU准教授リチャ・シャーマ博士とインドの国立法科大学初の女性学長となったタミル・ナドゥ国立法科大学V.S.エリザベス教授が呼びかけ人となり、インド初の試みとして、全インドの法制史研究者(法制史を専門とする研究者ばかりでなく、法学研究者で法制史に関心をもつ者も含む)が集まり、開催されることとなったものです。この会議は、インド法制史学会(Indian Association of Legal History)の発足のための会合も兼ねています。全インドから報告者として47名、そのほかに招待された研究者、学生が参加して活発な議論が行われました。

14日朝の開会式では、GNLU学長のSanjeevi Santhakumer教授の開会の挨拶、私の招待講演(東アジアと南アジアの法と社会の近代化について)、V.S.エリザベス教授の招待講演(インドにおける法制史学の歩み)が行われました。私は、ここ5年あまりシャーマ博士と手探りで共同研究を進めている東アジアと南アジアの近代法成立の比較研究(まだ構想段階に留まっている)について紹介し、比較研究の意義について話しました(参加者の反応はまずまずだったのでこちらの意図は一応伝わったと思っておきます)。

午前の部会(Session1)では、Modernisation of Lawの分科会にChairとして参加しました。ここでは「法の近代化」という主題のもとに、NPOの慈善活動のCSRへの影響、国際取引システムの形成要因についての経済史的考察、実務家と研究者との距離の拡大について議論が行われました。若手研究者ばかりのセッションだったこともあり、着眼点の新鮮な議論に接することができ、刺激を受けました。なぜか私の講演についての質疑応答も行われました。

午後前半の部会(Session2)では、Law, Society and Historyの分科会に参加しました。ここでは、Dharma概念の明確化(これは仏教用語ではなく、今でも実際に使われる法概念です)、唐律にみられる刑罰と今日の刑罰との比較考察、「売春」の位置づけに関する植民地化の影響、インド憲法におけるガンディー不在の意味について議論が行われました。

午後後半の部会(Session3)はEnvironment, Urbanisation and Legal History & Science and Technologyに参加しました。この部会はいくつかの分科会を一つにまとめたもので、何でもありの印象。環境法概念形成における法の移植の役割、野生動物保護法(1972年)の立法史研究、インド古代からの法医学実務(Arhahastra)の研究、古代インドの医療倫理の研究について報告と質疑応答が行われました。古代に行われていたことを現代の視点でとらえることの功罪が議論の中心となりました。

翌15日午前の部会では、Decolonisation of Lawの分科会に参加しました。ここでは脱植民地化が主題となり、近代インド都市法とヨーロッパの都市法枠組の関係、古代ギリシャの政体モデルと民主主義、国際法におけるムガール帝国の位置づけ、インド女性の性的同意年齢に関する考察の報告が行われ、意見交換が行われました。

私に前提知識のない議論が多く、また語学力の問題もあり、はなはだ不十分な理解しかできませんでしたが、学会を立ち上げようという熱意が伝わってくる、刺激的な会議でした。

本会議の閉会式でインド法制史学会(Indian Association of Legal History)の設立が建議され、設立メンバーによる承認を得て発足することになりました。インドの法制史研究者による常設の学術団体の誕生です。コモンローの伝統の影響が大きいインドでは法実務が重視され、法制史や法社会学、法哲学など基礎法学への関心はそれほど高くはありません。インド法制史学会はあえてこれに抗い、学術志向を前面に出し、インド法学界の学術レベルを高めることを目指しているようです。インド法制史学会の今後の発展に大いに期待しています。

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2019.12.22

ALSA(アジア「法と社会」学会)第4回学術大会(大阪大会)概要(その4)

15日午前中には、ホテル阪急エキスポパークで、Closing Plenary Closing Ceremonyが行われました。Closing Plenaryでは、最初に、KIM Joongi先生 (Yonsei Law School)が“Access to Economic Justice in Asia: From an International and Comparative Perspective”とのタイトルのもとに、経済的手法による国境を超越した当事者救済の可能性についていくつかの例を示して検討され、これに続いて、Valerie HANS先生 (Cornell Law School)が、“Asian Experiments with Lay Participation within a Global Context“とのタイトルの下に、アジア諸国の司法への市民参加の多様なあり方を概観したうえで、その改革が何故に起こったのか、司法のあり方にどのようなインパクトをもたらしているかを紹介されました。最後に、Bruce ARONSON先生 (NYU School of Law)が、”Utilizing Research on Asian Law to Contribute to General Theory”とのタイトルのもとに、アジア諸国のコーポレートガバナンスの比較研究はコーポレートガバナンスの一般理論に何をもたらすことができるのかについて理論的問題を提起されました。アジア諸国には様々なタイプのコーポレートガバナンス制度があり、それぞれの制度の実効性を比較分析することで、子細な機能分析が可能になるという指摘は、他の制度比較分析にも当てはまる重要な指摘です。

以上、ALSA大阪大会で行われた講演とパネルセッションでの報告の内容を一通り概観しました。今大会についてまず特筆すべきことは、本大会のパネルセッションでの報告数が多く、そこで扱われているテーマも多様であったことです。ALSA発足以来、若干の波はあるとはいえ、一貫して参加者数および参加国数は増えています。今回は、南アジアや中央アジア諸国からグループでの参加が行われるようになり、学術交流のフォーラムとしてALSAの存在意義がさらに大きくなっていることが窺われました。加えて、その質が高かったと多くの常連参加者から指摘されていることも付記しておきたいと思います。今回の大会が弾みになって、ALSAがさらに発展していくことを期待しています。

次回2020年大会はタイ・バンコクのチュラロンコン大学で開催されます。次回の大会が楽しみです。(以上、その4)

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ALSA(アジア「法と社会」学会)第4回学術大会(大阪大会)概要(その3)

14日Ⅰ限には、“Asian Judiciary and Legal Education 1: Gender in the Legal Process and Profession”、“Global Conflict Management”、“Human rights and access to justice for linguistic minorities in Asia”、“Current Issues on Afghanistan”、“Competition Law Reforms in Asian Emerging Economies”、“Constitution & Human Rights”、“Issues on Legal Education”8つのパネルセッションが行われました。ここで注目されるのはアジア諸国の司法と法学教育に関するセッションです。司法に関わる専門家のジェンダー比率に関するアジア諸国の比較研究は様々な広がりを持つものであり、より広い範囲での共同研究につなげていくべき課題です。アジアの言語的少数者に対する司法アクセスの保障の問題も発展性のあるテーマです。さらに、アフガニスタンのパネルセッションが行われたことも注目されます。

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日Ⅱ限には、“Asian Judiciary and Legal Education 2: Lay Participation in the Justice System”、“Social Change and the Role of Courts in East Asia”、“The Hong Kong Extradition Bill Saga: Social Movements at the Local Level and Beyond”、“Sex Crime on Trial- A Comparative Study between Japan and Australia”、“Issues of Intellectual Property Law in Asian Emerging Economies”、“Issues on Disaster and Law”、“New Trend of Human Rights”、“Legal Issues on Religion & Culture”ALSA Distinguished Book Award Panel, “The Politics of Love in Myanmar: LGBT Mobilization and Human Rights as A Way of Life” (Stanford 2019)9つのパネルセッションが行われました。ここで注目されるのは、司法への市民参加のセッションと、香港における強制連行法案をめぐる闘争史のセッションです。後者はいま香港が直面している政治問題を正面から取り扱うものであり、特に関心を引きます。ALSA Distinguished Book Awardのパネルも今年の受賞作についての講評であり、重要なセッションとして位置づけられます。

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日Ⅲ限には、JASL Session: Ghosn Scandal and Japanese “Hostage Justice”Osaka Bar Association Session: “Current situation and future prospects of ADR in Japan”、“The problem of "Inclusive" legal education for foreigners Society”、“Corporate Governance in East Asia: A Comparative Approach”、“Constitutional & Administrative Litigations in the Contexts of Constitutionalism in Asia”、“Global Pact for the Environment and Polluter-pays-principle”、 “Medical ADR & Dispute Resolution”、“Legal Issues on Child & Juvenile”8つのパネルセッションが行われました。ここで注目されるのは、日本法社会学会(JASL)セッションとして行われた人質司法に関するパネルセッション、そして、大阪弁護士会の行った日本のADRの将来に関するパネルセッションです。言うまでもなく、日本の「人質司法」は国際的に非難されているものであり、カルロス・ゴーン事件に引きよせてアジア諸国の研究者とこの問題に関する理解を共有することには大きな意味があります。大阪弁護士会は民事紛争についてADRによる紛争解決を積極的に推進していますが、2018年に日本国際紛争解決センター(JIDRC)が開設されたことを受け、国際民事紛争解決におけるADR活用について実務的観点から紹介するパネルセッションを設け、アジアの実務家等と意見交換を行いました。国際環境条約と汚染者責任原則のセッションもタイムリーな問題を扱っており、注目に値するパネルセッションでした。

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日Ⅳ限には、“Asian Judiciary and Legal Education 3: The Judiciary”The ALSA Presidential Session, Part II: “The Anthropocene and the Law in Asia”、“Massive Inclusion in Japanese Society”、“Issues on Company and Property”、“Land Law Reforms in Asian Emerging Economies: Toward Balanced Development”、“Legal Approaches to Environmental Management”、“Legal and Social issues on Labor”、“New Trends of Criminal Law-1”8つのパネルセッションが行われました。ここでもまたALSA Presidential SessionPart 2 の環境問題に関するパネルに参加者が集まっていました。アジアの土地問題に関するパネルセッションも、新興のアジア諸国では土地問題が様々な形で社会問題化していることから、注目を集めました。刑事司法の新潮流のパネルセッションも関心を引いていました。

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日Ⅴ限には、“Asian Judiciary and Legal Education 4: Legal Education”、“ALSA Book Introduction Session”、“Discrimination Issues”、“Business and Human Rights”、“Medical Conflict Management”、“Environmental Issues”、“Current Issues on Hong Kong and Taiwan”New Trends of Criminal Law-2”8つのパネルセッションが行われました。ここでは、法学教育、医療紛争、そして香港と台湾の問題を扱ったセッションが注目されていました。

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日夕刻のConference Dinner中に行われた、樫村志郎先生によるDinner Speechも学術的な内容であり、報告の一つとしてカウントしてよい。樫村先生の講演は、「法現象の分析」に関わるもので、行動は規範によって直接に規律されるのではなく、規範が特定の内容として維持し管理されることによってはじめて規律されることを指摘するものでした。このような分析が大会のパネルセッションには見られなかっただけに、樫村講演は貴重でした。(以上、その3)

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