2008.08.11

アンケート調査実施のご案内

大阪大学「法曹の新しい職域」研究会では、日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究A「法曹の新職域グランドデザイン構築」研究代表者・三成賢次)を受けて、昨年2月に企業における弁護士ニーズに関する調査を実施させていただきましたが、さらに分析内容を充実したものにするため、大阪弁護士会のご後援のもとに、現在、弁護士の業務内容や職業意識に関するアンケート調査を実施させていただいております。また、全国の組織内弁護士に対しても、同時並行で、業務内容や職業意識に関する同様の調査を実施させていただいております。

本調査における調査票送付先の抽出には、日弁連HPおよび大阪弁護士会HP上で公開された事務所の住所録を利用させていただきました。

調査結果については、弁護士の能力がよりよく発揮できるようなサポート体制の構築に向けての提言や、弁護士育成に関わる教育的取組みへのフィードバックなど、さまざまな形で活用させていただく予定です。

調査票をお受け取りの先生方には、
お手数ではございますが、調査票にご回答いただき、同封の封筒にて8月29日(金)までに郵送していただきますようお願い申し上げます。

ご多忙のところ誠に恐縮ではございますが、私どもの実施するアンケート調査に対しご理解を賜り、ご協力いただければ幸いに存じます。何卒よろしくお願い申し上げます。

     大阪大学「法曹の新しい職域」に関する研究会 事務局長

          大阪大学大学院法学研究科准教授  福井康太

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2008.08.08

第2回大阪大学企業コンプライアンス研究会概要

2008年8月7日()16時30分から19時まで、大阪大学大学院法学研究科大会議室(法経総合研究棟4F)にて、第2回大阪大学企業コンプライアンス研究会が開催されました。基調報告はコンプライアンス研究センターの郷原信郎弁護士。郷原先生は言うまでもなくわが国におけるコンプライアンス研究の第一人者です。報告タイトルは「フルセット・コンプライアンスを考える」。比較的少人数の研究会でしたが、充実した議論を行うことができました。

郷原先生は、「法令遵守が日本を滅ぼす/コンプライアンスが日本を救う」という著書タイトルに用いられたフレーズの紹介から報告をはじめられました。ここで郷原先生が強調されたのは、まず「コンプライアンス>法令遵守」ということ、そして「遵守」という言葉が盲目的遵守をもたらしやすいという問題点でした。「法令遵守」が語られる場合には、枝葉末節にばかり関心が行き、基本原則や法目的といった肝心な問題から注意が外れてしまうという結果になりやすいというのです。

日本では司法は社会の周辺でしか機能していません。司法は、特殊な問題を特殊なやり方で解決するものとしてしか認識されていないというのです。他方、アメリカでは、司法は社会の中心に関わるものと考えられています。日常的な問題が司法的に処理されるのです。喩えるなら、アメリカの司法は文化包丁であるのに対して、日本の司法は伝家の宝刀です。伝家の宝刀は使われないところに意味があります。そのような法文化に慣れ親しんできたところに「法化社会」が浸透してきたために、社会の周辺でしか使われなかった司法が次第に中心でも頻繁に使われるようになってきたというのが、今日の日本の現状だというのです。日本の日常になじまない司法が頻繁に使われるというのですから、人々が抵抗を感じるのは当然とも思えます。

実態と乖離した法令を形式的に遵守させようとすれば、企業はまともな活動ができなくなり、社会は混乱に陥ります。そこで、法令遵守は、まずもって社会的要請と合致するのでなければなりません。しかし、日本の場合には法令を守ることはしばしば社会的要請と合致していません。これでは、法令遵守が徹底されればされるほど社会がうまく機能しなくなってしまいます。「法令遵守が日本を滅ぼす」と言われるゆえんです。

郷原先生によれば、コンプライアンスとは、組織に向けられた社会的要請にしなやかに鋭敏に反応し、目的を実現していくことなのだそうです。そこでは、社会的要請に対する鋭敏さ(Sensitivity)と目的実現に向けての協働関係(collaboration)が強く求められます。そして、社会的要請に組織がどのように適応していくか、複数の社会的要請にいかにしてバランスよく適応していくかを考える視点が「フルセット・コンプライアンス」です。
コンプライアンスは、個々バラバラな「点」としてではなく、複数の要素からなる「面」として理解されなければならないとされます。


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フルセット・コンプライアンスとは、「方針の明確化」「組織の構築」「予防的コンプライアンス」「治療的コンプライアンス」「環境整備コンプライアンス」という5つの要素をフルセットで実現することだとされます(上図を参照)。まず「方針の明確化」はコンプライアンスの最も大切な要素です。社会的要請に合わせて組織の方針が立てられなければコンプライアンスは始まりません。次に、そのようにして立てられた方針に従って組織が構築されなければなりません。さらに、方針の実現に向けて組織全体を機能させるようにするのが予防的コンプライアンスです。そして、不祥事が発生してしまった場合に原因究明を行い適切な対応を行うのが治療的コンプライアンスです。最後に、不祥事がそもそも起きない環境整備を行うのが環境整備コンプライアンスです。

郷原先生は、日本においてコンプライアンスを実現することがいかに困難かを考えるための例として、違法行為の二つの類型を挙げられます。すなわち、アメリカにおける違法行為はいわば「ムシ」だとされます。ムシは取り除けば、それで問題は解消します。これに対して、日本の違法行為はいわば「カビ」だと言われます。カビは目に見えるところだけではなく、内側に大きく広がっているのが特徴です。一つの違法行為の背景に構造的問題が潜んでいるというわけです。カビ型の違法行為を誤って個別の違法行為として処理すると、カビの被害はどんどん広がっていき、収拾が付かない事態に陥ってしまいます。わが国においてコンプライアンスに取り組むことがいかに困難かが窺われます。

さらに、郷原先生は、コンプライアンスに関連する概念として、リスクマネジメントとクライシスマネジメントを挙げ、両者の違いを説明されます。リスクマネジメントは平時におけるリスク対応で、リスクの顕在化を予防することです。これに対して、クライシスマネジメントとは、危機的状況において損失を最小限に食い止めるための活動を言います。クライシスマネジメントの場面では、コンプライアンスの問題が最も凝縮された形で表れてきます。ここで重要なことは、「責任」にどう対応するかです。クライシスマネジメントにおいては、「社会的責任>法的責任」という考えのもとに問題を処理することが求められます。そこでは、まず事実を徹底的に調査し、原因究明を行い、その原因究明に基づいて社会的要請にマッチした適切なマスコミ対応を行うことが求められます。十分な原因究明を行わずに社会的要請とミスマッチなマスコミ対応を行うと、会社の社会的評価が大きく損なわれ、会社に壊滅的なダメージを与えることになります。しかし、このような対応をアドバイスできる法曹はまだまだ少ないとされます。多くの法曹は、つい法的責任の追及に目がいき、肝心の原因究明をおろそかさせてしまいます。クライシスマネジメントが拙劣であったために会社が壊滅的ダメージを受けたのが不二家です。不二家問題の核心は、食品に対する社会的要請のトレンドが安全から安心に移行していることを見誤り、基準違反の事実ばかりに目くじらを立て、消費者を安心させるための適切なメッセージを出さなかったことにあるとされます。

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報告の最後に当たり、郷原先生は、社会の変化を適切に読み取る方法として、上図のような法令環境マップを提示されました。社会の変化は法令の変化に表れます。競争環境の変化は競争法に表れ、情報環境の変化は個人情報保護法に表れます。金融環境の変化は金融商品取引法に表れます。企業活動にとってとりわけ重要なのは事業法です。事業法には目的規定があり、そこから企業の行うべき指針が読み取られます。法曹は、事業法の目的規定と他の関係法令の諸目的とが整合的であるように、企業の具体的な活動指針を示すことができなければなりません。郷原先生は、法令環境マップの使い方を示すために、新日本監査法人元職員インサイダー取引事件を例として挙げられました。この事件の背景は、関係法令である金融商品取引法、監査法人法、公認会計士法から読み取ることができるのだそうです。それらの法令から、監査法人の役割は、内部的立場から外部的立場に役割がシフトしているということが読み取られます。この変化は、企業監査の需要を増大させ、監査法人の大規模化を引き起こしました。監査法人が大規模化し、少数の大規模監査法人に企業情報が集中する一方、監査法人内での公認会計士の労働環境は激変し、末端まで管理が行き届かなくなってしまいました。この結果、新日本監査法人元職員インサイダー取引事件は起こるべくして起こったというのです。

フロアとのディスカッションの詳細は紹介できません。印象に残った質問を挙げると、①法曹が企業でコンプライアンス実現のための役割を担うといっても、そのような役割は誰にでも果たせるわけではない。また企業内に入っていける法曹は限られている。多くの一般的な法曹はどのような形で企業コンプライアンスに関わっていけばよいのか。②経営陣がコンプライアンスの必要性を自覚し、それを末端まで浸透させようとしても、現場が自主的に取り組むようにならないと、コンプライアンスは十分に徹底されない。末端の現場にまでコンプライアンスを浸透させるにはどうしたらよいのか。③社会的要請相互の矛盾に関して、独禁法と労働法とのトレードオフの関係について言及があったが、このトレードオフ関係の一つの解決策として経済法学者は「独禁法解釈において消費者利益を考慮する」という考え方を打ち出してきた。この考え方についてはどのように評価されるか。④アメリカではルールが不合理な場合にはルールをよくしていこうという考え方があるが、日本にはそうした考え方があまり定着しているとは言えない。不合理なルールを是正できるようにするにはそのためのルートが設けられなければならないが、どのような方法が考えられるか。このように、答えにくい質問が次々に出されたにも拘わらず、郷原先生がてきぱきと回答されていたのが印象的でした。

今回の大阪大学企業コンプライアンス研究会からは本当に多くの示唆を頂きました。ご多忙にも拘わらず貴重なお話を頂いた郷原先生、そして研究会でディスカッションにご参加いただいたメンバーのみなさま、本当にありがとうございました。

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2008.08.05

2008年8月4日交渉教育研究会概要

2008年8月4日(月)18時30分から、上智大学(四谷キャンパス)2号館にて、交渉教育研究会会合が開かれました。本研究会では、数年に渡る議論の成果として、今年3月に実演交渉DVD「交渉は楽しい!」を完成させることができました。今回の会合の課題は、まず、このDVDの発展型をこれからどのような形で作り上げていくかを議論し、あわせて今年のインターカレッジ・ネゴシエーション・コンペティションの問題についてのブレーンストーミングを行うことでした。比較的に事務的な内容が主であったにも拘わらず、充実した議論が行われました。

諸般の事情で、会合の前半にネゴシエーション・コンペティションの問題のブレーンストーミングが行われました。主として、学生から評価が分かりにくいといった指摘のある交渉リーグのあり方について様々な意見が出されました。今年の問題作成に差し障りがあるのであまり詳しい内容は紹介できません。興味深かった指摘としては、①無理に交渉がまとまる方向に持っていく必要はなく、最終的に決裂するような交渉であっても内容的に充実していれば高い評価を付けてもよいのではないか(もっとも、その場合の評価基準をどうするかは難しい問題である)、②レッド社とブルー社の二者間交渉だけではなく、多数当事者間交渉にできるような工夫も必要なのではないか、例えば、レッド社とブルー社のほかに「不在の第三者」がいることにして、交渉プロセスを複雑化してはどうか、③交渉リーグに備えて関係する情報について学生が下調べして来るのはよいが、それが過度に至ると、交渉リーグが知識くらべの場になってしまい、かえって交渉センスが発揮されにくくなるのは問題である(この対策として、現実とは異なる架空の設定を課題に盛り込む工夫を試みてきたが、あまりに現実と異なる設定にもできず悩ましい)、④交渉の最後に合意文書をまとめさせるというのは、交渉リーグの時間制限の中では難しくはないか、例えば、合意事項のほとんどはすでに合意できているというような設定にし、未合意事項についてのみ交渉して文章をまとめるというようなやり方の方がよくはないか、⑤交渉に感情を組み込むような工夫はできないのか、例えば、一定の条件をクリアーしないかぎり、社長の激怒が収まらず、交渉担当者が態度を軟化させることができないというような工夫はどうか、⑥交渉に意外性の要素を組み込むために、交渉途中で「相場が急落した」とか「本件に関する判決が出た」というような事情変更情報を流すような工夫はできないか、⑦交渉リーグで審査側が特に学生に求める項目、例えば「相手の話によく耳を傾けているか」といった項目を強調することで教育効果を引き出すような工夫はできないのか、⑧交渉において最も重要なことは、当事者間の見解がぶつかり合っているときに、その対立を超える視点で両者の思惑を合致させるような創意工夫を行うことであり、最初から合意の達成が不可能であるような設定で交渉を行わせるのは生産的とは言えないのではないか、等々。ここでの議論が反映されれば、これからのネゴシエーション・コンペティションはさらに充実したものになることは間違いないでしょう。

会合の後半は、実演交渉DVDの発展型をどうするかについての議論でした。大阪大学の野村美明教授から、今回作成したDVDをアレンジして小中学生を対象に上映し、低年次からの交渉教育ないし法教育のための一つのモデルにしてはどうかという提案が出されました。世界のトップレベルと互角に交渉できるネゴシエーターを育てていくためには、低年次からの交渉教育が不可欠であるという考えに立つ提案です。この考えには基本的に賛成できます。もっとも、今回作成したDVDは基本的に大学生を対象にしており、小中学生の日常の目線で作られているとは必ずしも言えないので、まずは小学生や中学生の日常について学び、彼らがリアリティーを感じることができる題材を集めて、設例を作り直す必要があるという指摘もありました。これについて、NHKのテレビ番組「課外授業~ようこそ先輩~」が参考になるという意見もあり、早速これは見てみないといけないと思いました。私は漠然と、クラス委員を決めるというような設定で、みんながやりたい委員とだれもやりたくない委員を誰がやるかをめぐって、クラス全体の利害を考え、個別の利害を調整し合う工夫をするような(道徳の授業のようですが)設例を作れば、生き生きとした交渉の授業ができるのではないかと考えたりしていたのですが、時間の関係でその場では提案することができませんでした。交渉よりもディベートの方が小中学生の授業には組み込みやすいという意見もありました。しかし、交渉教育の目的は協力し合って問題解決を実現することを学ばせるところにあります。ディベート教育の目的が事実と評価を分けて議論することを学ばせるところにあるとすれば、これと交渉教育の目的はかなり異なっています。これまでの研究会での議論の成果を生かしていくなら、ディベートよりも交渉を教育に用いていく方がよいように思われました。

小中学生に対する交渉教育のためには、現場の小中学校教師の協力が不可欠です。また、実験的な試みに協力して頂ける学校を見つけることも容易ではないと思います。様々な課題が山積していますが、交渉教育研究会の今後の議論はますます面白くなってきそうです。

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2008.07.28

大阪大学・大阪弁護士会共催シンポジウム「企業における弁護士ニーズを考える」のご案内

大阪大学「法曹の新しい職域」に関する研究会は、大阪弁護士会と共催で、シンポジウム「企業における弁護士ニーズを考える」を開催いたします。日時等は下記の通りです。

【日時】 
 8月25日(月)13時30分から16時30分まで

【場所】 
 大阪弁護士会館2階ホール

【内容】

 講演1「企業における弁護士ニーズ:阪大調査から」
       大阪大学 福井康太
 講演2「中小企業における弁護士ニーズ:日弁連調査から」
       大阪弁護士会・弁護士 矢野智美
 コメント1「今日の日本経済と弁護士ニーズ」
       日本経団連 小畑良晴
 コメント2「企業における弁護士ニーズと就職市場」
       第一東京弁護士会・弁護士 西田章

 パネルディスカッション
       コーディネーター:福井康太
       パネラー:小畑良晴
             西田章
             田中宏(大阪弁護士会・弁護士)

本シンポジウムでは、企業における弁護士ニーズをふまえた上で、法科大学院生や司法修習生、そして若手弁護士がどのようにして新たな弁護士業務を開拓していくか、そのためにはどのような努力が必要か、さらに、法科大学院にはどのような手助けが可能なのかといった点についてディスカッションしたいと考えております。弁護士の業務開拓にご関心のおありの方、これからの弁護士像について考えを深めたいと考えておられる方に多数ご参加いただければと願っております。本シンポジウムの対象は、基本的には、法科大学院生、司法修習生、弁護士、大学教員などですが、福井(ktfukui@law.osaka-u.ac.jp)までご連絡いただければ、その他一般の方の参加も検討させていただきます。

参加は無料ですが、資料準備等の都合があり、お申し込みをお願いしております。事務処理の都合上、電子メールもしくは別添用紙のFAXフォームにてお申し込み下さい。メールでのお申し込みの際には、ご芳名、ご所属、ご身分(法科大学院生、司法修習生、弁護士、その他)、ご連絡先をお知らせいただければと存じます。

symposium_1.pdf
symposium_2.pdf

Symposium_1_4

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2008.07.13

第4回仲裁ADR法学会大会概要

2008年7月12日(土)13時から17時半すぎまで、名古屋大学東山キャンパス工学部IB情報館大講義室にて、第4回仲裁ADR法学会大会が開催されました。今回は、シンポジウムのテーマが「医療事故ADRの課題と可能性」とタイムリーなテーマだったこともあり、東京大阪以外の開催地だったにも拘わらず大盛況でした。

大会の前半は個別報告でした。個別報告の第一は、国士舘大学の中村達也教授によるご報告「投資仲裁の法適用に関する基本的問題」でした。投資活動のグローバル化に伴い、目下、様々な二国間・多国間投資協定が締結され、投資家と投資受入国との投資紛争(投資受入国による協定違反等)が増えているそうですが、わが国では投資紛争への仲裁制度の利用(投資仲裁)はあまり見られないそうです。このような背景を紹介した上で、中村教授は投資仲裁の利用促進の前提として、①投資仲裁はわが国仲裁法の適用対象となるか、②投資仲裁判断はニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認および執行に関する条約)の適用対象となるか、という二つの論点について理論的な検討を行われました。詳細は私の能力の限界を超えるので紹介できません。私の理解した範囲で結論だけ述べれば、①については、多くの二国間条約による投資仲裁はその趣旨や目的から仲裁地国の仲裁法の適用対象と解され、わが国の仲裁法の適用対象にもなる、②についても、ニューヨーク条約の趣旨・目的に照らして投資仲裁判断を同条約の適用対象から除外すべきではないという内容のご報告でした。理論的な問題がクリアーされたとしても、投資仲裁が日本でより多く利用されるためには、まだまだ多くの工夫が必要なのではないかと考えさせられました。

個別報告の第二は、私の大学院時代の先輩である、國學院大学の西川佳代教授によるご報告「執行ADRを考える」でした。わが国の民事執行制度の機能不全は長らく議論されてきた問題で、今般の司法制度改革でも執行制度の実効性を確保するための様々な改革が試みられました。もっとも、そこでの改革は、専ら執行制度の迅速・効率を目的とするもので、執行制度の硬直性の克服を目指すものではありませんでした。西川教授は、執行制度の問題性を、まさにその硬直性の中に見出されます。というのも、執行段階でもなお事実上紛争調整は続くのですが、現行の民事執行制度は「差し押さえ→換価→満足」というルートしか保障しておらず、利用者の不満をより少なくすることができる、より柔軟な自主的履行の途を排除してしまうからです。西川教授は、「差し押さえ→換価→満足」というルートとは異なる、調整的な履行促進のルートを「執行ADR」として位置づけられます。そこでは、現行執行制度が念頭に置く、判決以前の判断過程と判決後の執行過程との峻別は相対化され、争点に関する調整と執行方法に関する調整とが相互乗り入れ的に行われることになります。つまり、執行段階においても、一度形成された判決等の再調整が広く行われることになります。そのような「執行ADR」として機能しうるものとして、西川教授は、裁判所による民事調停や特定調停(司法型執行ADR)を挙げ、さらに民間執行ADRの可能性を検討されました。いずれの執行ADRについても調整開始時に執行停止が必要な場合が出てきますが、西川教授は、これについて制度が不備であることが問題だと指摘されました。執行ADRの実現のためには、それが執行妨害に悪用されないための方策をどのように整えるかといった課題が多々残っていますが、西川教授の鋭い問題提起には唸らされました。

総会と休憩を挟んで、大会の後半はシンポジウム「医療事故ADRの課題と可能性」でした。コーディネーターは早稲田大学の和田仁孝教授。パネリストは医師で自治医科大学付属病院医療安全対策部部長の長谷川剛教授、弁護士で法政大学教授の中村芳彦氏、医事法を専門とする神戸大学の手嶋豊教授。最初にパネリストによる講演が行われ、フロアからの質疑が行われるというやり方でディスカッションが進められました。個別の講演の詳細には踏み込めません。私の印象に残ったのは、医療裁判では医学的にはとても許容できない判決がまかり通り、不信感に満ちた審尋、さらには見せしめ的な刑事手続などのために真面目な医師のやる気がそがれ、ただでさえ過酷な医療現場がさらに過酷なものになっており、そのような状況を変えていくために、医療ADRを活性化させ、再発防止などを組み込んだ、より実態に即した紛争解決が広く行われるようにならなければならないという長谷川医師の指摘、また、事後的紛争解決に特化された医療ADRの他に、早期対応を行う「院内ADR」を充実させ、これと外部の医療ADRとを連携させることで、効果的かつ満足度の高い医療紛争解決を実現できるのではないかとする中村弁護士の指摘、さらに、医療ADRとしてどのようなADRが望ましいかという点について、ADRは裁判制度の欠陥を補うものを想定すべきという観点から対話型ADRが望ましいのではないかとする手嶋教授の提言でした。いずれの講演も医療ADRに対する期待を明らかにしつつも、多くの課題を指摘するものでした。質疑応答は多岐に及ぶものでした。出された質問の例を挙げると、①院内ADRは果たして中立公正な機関と言えるのか(回答:最初から医療側と患者側が対立関係にあると考える必要はなく、むしろ院内ADRに関与する者の倫理コードをどのようにするかが重要)、②医療ADRは再発防止により大きく貢献するというが、ADRが原則非公開であることからすると、情報開示が進まず、むしろ再発防止は妨げられることになるのではないか(回答:裁判が公開だからと行って、その情報が再発防止に繋がるかといえば否であり、より実質的に意味のある再発防止策をADRで検討し、適切な形で公開していけば、同種の過誤の再発防止により大きく貢献する)、③医療損害賠償責任保険がADRによる解決の場合には下りない場合が多いというが、保険会社を説得するための方策はないのか(回答:ADRで早期に事件を解決した方が、保険会社が支払わなければならない額も少なく押さえられるし、また、医療側が患者との間で後遺障害等のケアをするといった履行を内容とする和解をすれば、保険会社の支払額はさらに減るのであり、そのようなメリットを示していけば、保険会社の理解も得られるようになる)、④ADRでの調整決裂の場合に、ADRの記録が訴訟で使用されるという問題にはどのように対処すればよいのか(回答:あらかじめ訴訟での記録不使用の合意をとるとか、記録を廃棄させるといった方法は考えられるが、こんなことで患者側が納得してADRを利用するだろうか。ADRでの主張と異なる主張を当事者に認めるようであれば、かえって紛争を悪化させるだけだという問題もある)等々。医療ADRの現状の肯定に留まることなく、むしろ多くの課題が確認されたことが、今回の医療事故ADRに関するシンポジウムの成果だったと言えるでしょう。

今年の学術大会も盛会でした。来年度の大会は学会設立5周年記念大会です。どのような議論が展開されるのでしょうか。今から楽しみです。

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2008.07.04

第1回大阪大学企業コンプライアンス研究会概要

2008年7月3日(木)18時から20時過ぎまで、大阪大学豊中キャンパス法経総合研究棟3Fセミナー室Aにて、第1回大阪大学企業コンプライアンス研究会を開催致しました。本研究会は、企業のコンプライアンスの議論が会社のガバナンスに関わる大きな制度設計の段階から現場レベルでのコンプライアンスの実現に関わる議論の段階へと移行しつつあることを受けて、様々な法分野、社会科学・人間科学分野を交えた学際的な視点で、コンプライアンスを向上させる現場での対話やリーダーシップの望ましいあり方を検討するために立ち上げた研究会です。さしあたりは来年度の科研費・外部資金の獲得を目指し、今年度中に数回の企画を実施しようと目論んでおります。第1回研究会では、親しくさせて頂いている、弁護士で桐蔭横浜大学法科大学院教授の大澤恒夫先生に「励ましとしてのコンプライアンス」というタイトルで基調報告を行っていただき、それを手がかりとしてディスカッションいたしました。少人数ながら学内のみならず学外の研究者や弁護士も交えて充実した研究会になりました。

大澤先生の基調報告は、先生ご自身がどのような経緯で登録後すぐに日本IBMの社内弁護士になられたかというお話から始まりました。そして、日本IBMでの経験と、その後の顧問弁護士や社外監査役としての経験を手がかりとして、コンプライアンスに関わる者(社内弁護士であれ、顧問弁護士であれ、はたまた一般従業員であれ)はどのような役割を果たすべき存在なのかを明らかにされました。大澤先生によれば、コンプライアンスに関わる者は映画「12人の怒れる男」の8番陪審員のように、自分の感じるままに疑問を提起し、周囲の圧力に屈せず、それでいて他者の意見に素直に耳を傾け、その疑問の解明に冷静かつねばり強く取り組むような存在であるとのこと。また、問題発生局面で様々な議論が錯綜するなか、中立的な立場で議論を交通整理するファシリテーターの役割を果たす存在も、コンプライアンスにとって重要だとされます。人間は容易に周囲の雰囲気に流される存在です。雰囲気に流されずに疑問を提起し、ねばり強く解明しようと試みる存在がいかに貴重であるか、また、疑問を解明していくにあたって、議論を交通整理する中立的ファシリテーターの存在がいかに重要であるか、思い当たることは多々あります。大澤先生は、企業における法実践とは、まずもって現場で活動している経営者や従業員の自律を支援し、時として問題に直面し、萎縮している彼らの気持ちをほぐし、問題に積極的に取り組めるようにする(自律性支援)とともに、そのような取り組みが正しいことだと伝えることで正当化の手助けをする(正当性支援)こと、その両方を通じて、経営者や従業員が納得づくで企業活動に取り組めるようにすることであると言います。経営者も従業員も生身の人間です。だからこそ、そのような個人としての経営者や従業員の自律性と正当性を側面から支援する「励ましとしてのコンプライアンス」が重要になってくるというのです。

「励ましのコンプライアンス」にとっては対話が決定的に重要です。対話によって、困難の中で混乱している経営者や従業員の「自己の物語」の修復を支援するのが「励ましのコンプライアンス」の実践です。より具体的には、偏りのない「無知の姿勢」で経営者や従業員の話を積極的に傾聴し、問題の真の原因の探求と、納得できる再発防止策を立てることが求められます。コンプライアンスに関わる者は、たとえ社外の弁護士としてコンプライアンスに関わる場合でも、経営者や従業員と一体となって、彼ら個々人の参加意識を高め、彼らと一緒に真の問題について考え、彼らの自律性・正当性の励ましをおこなわなければなりません。そして、その会社が社会から求められる応答責任に迅速かつ適切に応えることができるように支援しなければなりません。

話はコンプライアンスを担う「専門家」に及びました。大澤先生によれば「専門家」(弁護士を念頭に置いていますが、これに限定されません)は「反省的実践家」でなければなりません。しばしば専門の枠を越境し、経験を通じて学びながら問題の解決に取り組むのが「反省的実践家」です。このような「専門家」は、目立たないところで、忍耐強く慎重に一歩一歩行動する人、犠牲を出さずに自分の組織や周りの人、自分自身にとって正しいと思われることを実践する人、要するに「静かなリーダーシップ」を発揮する存在でなければならないとされます。リーダーシップとは、見えないものを見て、あるいは見ようとして一人で歩み出すことです。そのような実践こそが、困難な状況に突破口を開き、人々を問題解決へと一歩進ませることができるのです。さらに、コンプライアンスを担う「専門家」に求められる技法としてファシリテーションが重要であるとされます。ファシリテーションとは、質問や発言、言い換えや要約、視点の転換といった手法を駆使しながら、中立的な立場で議論の交通整理を行い、関係者が自律的に解決を見いだすのを支援する技法です。専門知識を武器に人々を説き伏せ、強引に問題解決へと導いていく従来の専門家像とは全く異なる専門家像が示されました。

大澤先生は最後に、自ら社外監査役として経験した事案を講義用にアレンジした事例を示して、自らのコンプライアンス教育実践について紹介されました。事例は、あるメーカーで使用期限の切れた製品が販売されているという情報を同社元従業員の内部告発で得たという○○報道社(明らかに反社会的勢力)から、取材をさせろというような内容の手紙が届いたという設定です。授業では、この手紙を受け取った会社として、どのようなアクションプランを立てるべきかをグループ討議し、その後、グループを会社役員・従業員役と弁護団役とに分けて、相談会議のロールプレイを行い、事後に振り返り等を行うことで、法科大学院の学生に実践的なコンプライアンスを学ばせるとのことでした。ちなみに、大澤先生がこの問題に直面されたときには、ためらう社員を励まし、参加意識を持たせ、徹底した事実解明を支援するとともに、再発防止策の策定を手伝い、さらに、先手を打って自主的に監督官庁への報告とプレスリリースを行なって、全社一丸となって問題解決に取り組む機運を高めたのだそうです。大澤先生は、社員の参加意識が高まり、会社の結束力が強まったことが印象的だったと言います。全社一丸となってのコンプライアンス実践は会社を活性化するということが言えそうです。

ディスカッションの詳細は紹介できませんが出された質問の主要なものは次の通り。①小さな組織ならともかく、大きな組織で専門家が対話を促進するというのは困難なのではないか(回答:若い人に責任を持たせて任せ、彼らを対話の専門家として育てていくことで、組織全体に対話実践を広げていくことは可能なのではないか)、②対話を促す環境整備はどのようにして進めるのか(回答:日常の細かな場面に対話的手法を持ち込むことで、対話を促す環境を少しずつ整えていく)、③社内弁護士としての関与と社外の顧問弁護士や社外監査役としての関与とはかなり異なるというイメージだが、実際にはどのように異なるのか(回答:社内弁護士は社員と一緒になって問題解決に取り組むのに対して、顧問弁護士や社外監査役などは、外部者の特権として「無知の姿勢」でいろいろなことを質問し、内部とは違う視点で問題発見に努めるということなのではないか)、④外部からの関与は内部での対話を促進するということが言えそうだが、何によって対話が促されるのか(回答:社外監査役や顧問弁護士にも一定の「責任」が課されており、その責任を果たすべく一生懸命対話に努めるからこそ、社内の対話促進に貢献する)、など。充実したディスカッションでした。

第1回大阪大学企業コンプライアンス研究会は基調報告もディスカッションも非常に盛り上がり、大変楽しいひとときでした。今後はさらに活動を拡げ、外部資金を獲得し、対話実践によるコンプライアンス支援の輪を広げていきたいと思っております。

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2008.06.26

第3回司法アクセス学会企業法務研究会概要

2008年6月25日(水)18時から20時過ぎまで、東京・茅場町の(社)商事法務研究会会議室にて、第3回司法アクセス学会企業法務研究会が開催されました。今回の研究会では、07年8月以来弁護士の人材紹介ビジネスに積極的に取り組んでおられるC&Rリーガル・エージェンシー社の近藤和志氏が基調報告され、活発な議論が展開されました。同社は、弁護士が「弁護士業務に専念できる環境の構築・支援」を理念に、人材を求める法律事務所や企業と、活躍の場を求める弁護士や司法修習生、法科大学院生との人材情報のマッチング・ビジネスを行っておられます。

近藤氏の基調講演は、同社の沿革について紹介するところから始まりました。C&Rリーガル・エージェンシー社の母体であるC&R(クリーク・アンド・リバー)社は、TV局や広告代理店のクリエイターに特化した人材紹介エージェントとして成功した会社です。「分野に特化した」人材紹介を行うというところが同社の売りなのだそうで、ディレクターやデザイナーの紹介を行っているそうです。同社は、医療や技術分野に特化する形で、C&Rメディカル・プリンシプル社、C&Rリーディング・エッジ社を立ち上げ、医療分野やITエンジニアリング分野での人材紹介を行うようになり、さらにC&Rリーガル・エージェンシー社を立ち上げて、弁護士に対する人材紹介を行うに至ったとのことです。C&Rリーガル・エージェンシー社では、弁護士や司法修習生、法科大学院生の登録情報と、法律事務所や企業からの問い合わせ情報をデータベース化し、マッチングを試みます。法律事務所や企業法務の求人情報を求めて、弁護士、司法修習生、法科大学院生の登録数が目下増え続けているのだそうです。

C&Rグループの成功は、メディカル・プリンシプル社の拡大によるところが大きいのだそうです。同社は現在19000人の登録を誇っています。同社が医療分野でのマッチング・ビジネスを大きく拡大させたのは、04年に行われた研修医制度改革をきっかけにしています。この改革で、研修医は大学病院の医局以外の研修施設を自由に選ぶことができるようになり、また研修終了後の勤務先も自分の希望で選ぶことができるようになりました。この結果、新人の医師は都市部の条件のよい病院での研修を選び、そのまま都市部に定着する傾向を強めました。これによって起こったのが地方医療施設での医師不足です。もはや医局の力に頼ることができなくなった地方の医療施設では、自ら人材を確保しなければならなくなりました。そこで、医療人材紹介ビジネスが注目されることになったというわけです。メディカル・プリンシプル社では、常勤医師よりもスポット非常勤の医師の成約件数が圧倒的に多いのだそうです。医師には研究日などの理由で外来に出ない日が認められていますが、そのような空白部を埋めるスポット非常勤医師のニーズが非常に高いということが見て取れます。司法制度改革によって進められている法曹増員によっても、医師の場合と同様の求人ニーズが弁護士について生ずる可能性は高いと思われます。C&Rリーガル・エージェンシー社が弁護士人材紹介ビジネスに注目するゆえんです。

近藤氏は、メディカル・プリンシプル社での経験を踏まえ、医師と弁護士の専門家としての類似性を指摘されます。近藤氏が指摘するのは、①国試合格が必要であること、②医師会や弁護士会のような上位組織への登録制度があること、③専門性が高いこと、④高所得職種と見られていること、⑤ハードワーク傾向があること、⑥慢性的に人手不足であること、です。他方、相違点としては、医師の場合には、新人、経験者いずれにも人材紹介サービスを利用するニーズがあり、また医療施設も新人、経験者のいずれをも採用したいと考えているのに対して、弁護士の場合には、新人、経験者ともに人材紹介サービスを利用するニーズがあるにもかかわらず、経験弁護士に対する法律事務所や企業の求人は多いのに対して、新人弁護士に対する求人は多くはないということです。また、医師の場合には、人材紹介サービスを利用する医療施設が全国のいずれの地域にも広く見られるのに対して、弁護士の場合には人材紹介サービスを利用するのは都市部の大規模法律事務所や大企業に限られるということも、大きな違いです。したがって、弁護士、とりわけ新人弁護士の人材紹介ビジネスで成功するためには、法律事務所や企業に新人弁護士を採用してもよいと思ってもらえるだけの研修サポートや、給与以外にやりがいなどを求めている新人弁護士の就職ニーズと企業の求人ニーズとをマッチングすることが重要な課題となります。

企業で社内弁護士雇用のニーズが高いのはまず外資系で、続いて金融・商社、メーカー、不動産会社、IT・ベンチャー企業となります。IT・ベンチャー企業の多くは、まだ外部の顧問弁護士で足りているとされます。IT・ベンチャー企業では弁護士にふさわしい年俸を払うことが困難だという事情もあるようです。C&Rリーガル・エージェンシー社の今後の課題としては、地方における司法ニーズや弁護士ニーズに応えること、省庁や地方自治体の採用を積極的に働きかけていくこと、大学系列の法律事務所の設置を手助けしていくこと、土・日や深夜に相談を受ける、気軽に相談を受け付けてくれる法律事務所の設置支援といったことが挙げられるそうです。以上が同社のいう「弁護士業務に専念できる環境の構築・支援」ということになります。

諸般の事情でディスカッションの詳細は紹介できませんが、議論になった論点の概要は次の通りです。①医師に言う専門性が診療分野の個別専門性であるのに対して、弁護士の場合には、法分野ごとの個別専門性を問題にするのは大手の法律事務所に限られ、中小の法律事務所では法律を用いて業務を行うということそれ自体が一つの専門性と見られている。実際、分野を問わず、訴訟を行うということはそれ自体で一つの専門性と考えることができるし、また、プライマリーケアを行うこと自体も一つの専門と見るべきである。②同社は人材登録する弁護士の人材評価について、経験年数を最も重視し、何期修習であるかが重要な指標であるとする。しかし、弁護士の場合にはどれだけの報酬額、タイムチャージで仕事をしているかもまた重要な指標である。というのも、医師の場合には、こなしてきた症例数や経験年数の方が、給与額よりも能力の高さに繋がることが多い(例えば、国立病院などの専門的医療経験の多い医師よりも、専門的医療経験のない一般開業医の方がしばしば高収入である)が、弁護士の場合には、地域格差はあるものの、能力評価と収入とは概ね対応していると思われる。③弁護士が転職する基準となるのは多くの場合に前職との収入の差である。もっとも、転職を希望する弁護士は、収入だけで転職を決するのではなく、訴訟をもっとやりたいとか、知財の仕事をもっとやりたいといった、自己実現ニーズもあるのであり、こうしたニーズと求人側のニーズとマッチングすることは重要である。④大手・大都市に限られている人材紹介ビジネスの利用を地方に広げ、地方で就職したいと考えている弁護士や司法修習生のニーズと地方の求人ニーズとのマッチングを進めることは重要な課題である。例えば、地方の企業は、新人弁護士を採用してみようと思っても、自社で人材育成をするだけの設備や育成プログラムを設けることができないために諦めてしまうということもある。地方の法律事務所の場合も同様で、後継弁護士を勤務弁護士として雇いたいと思っても、一人前に育てるだけの体系的なプログラムを用意できる自信がないということがある。人材紹介ビジネスがそのような研修プログラムを合わせて提供することができれば(研修プログラムを提供してもよいという法律事務所や企業、研究教育機関を仲介するのでもよい)、地方での弁護士の就職支援に大きく貢献できるのではないか。④地方の企業だけではなく、自治体もまた弁護士を雇用したいという潜在的ニーズを持っている。ニーズはあっても、現状ではどのように処遇してよいか分からないということが問題である。まずはロールモデルを提示し、潜在的なニーズを顕在化させることが重要なのではないか。⑤企業法務としては、グローバルな取引を行っている関係上、英語力を備え、外国法の基礎知識のある人材を求めている。法科大学院には理系の出身者もおり、またTOIEC750点以上の英語力を備えている学生も多い。これらの人材を企業法務とマッチングすることができれば、社内弁護士は大幅に増えていくのではないか、等々。ディスカッションでは、このように活発な議論が展開されました。

今回もまた、得るものの多い研究会でした。C&Rリーガル・エージェンシー社の近藤様、このような議論のできる貴重な機会を提供して頂き、ありがとうございました。

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2008.06.22

講演会「法曹の新職域グランドデザイン構築:国内排出量取引制度の意義と法曹の役割」概要

2008年6月20日(金)18時から20時すぎまで、大阪大学豊中キャンパス法経講義棟3階5番講義室にて、講演会「法曹の新職域グランドデザイン構築:国内排出量取引制度の意義と法曹の役割」が開催されました。本講演会は、科学研究費補助金基盤研究A「法曹の新職域グランドデザイン構築」の研究活動の一環として行われました。講演者は森・濱田松本法律事務所の武川丈士(むかわ・たけし)弁護士。武川先生は東京大学在学中に司法試験に合格され、1998年に弁護士登録。その後は不動産の流動化・証券化を中心とする業務に従事され、01年に米国留学。03~04年に三井物産に出向。この頃から排出権取引に関与するようになり、排出権取引に関する論文を執筆され、この領域の第一人者と目されるようになります。05年からは環境省や経済産業省で排出権取引に関する検討会の委員を歴任しておられます。タイムリーな問題に関する第一人者による講演会ということで、80名以上の参加者を得て大盛会でした。

武川先生のご講演は、理路整然として非常に分かりやすいものでした。まず導入として、地球温暖化の現状と、温暖化対策に本格的に取り組まざるを得なくなった「CO2本位制社会」のインパクトを紹介され、フロアとの問題意識の共有化を図った上で、排出権取引についての基本的理解へと話を進められました。排出権取引制度(Cap &Trade制度:「排出権取引」、「排出量取引」、「排出枠取引」の用語は内容的に異ならないので、互換的に使用)とは、各主体(国家や事業者)に一定のCO2排出上限(枠)を定めるとともに、削減努力によって排出枠が余った主体にはそれを売却することを認め、他方、削減にコストがかかる主体には足りない枠の購入を認めることによって、枠内での排出を義務づけ、最終的に総排出量を目標量に収めようとする制度です。比較的にCO2削減コストのかからない主体と削減コストがかかる主体の間での排出枠の取引を認めることで、全体としてCO2削減を効率化することを目論む制度であると言えます。この制度は、排出上限に関する実効的な法的枠組が存在することが大前提とするものです。したがって、その制度設計と運用には法曹の役割が極めて重要となります。

現在のところ、わが国の排出権取引については条約レベルの京都議定書の枠組(京都メカニズム:クリーン開発メカニズム、共同実施、国際排出権取引を柱とする)は存在するものの、法律レベルのCap & Trade制度は未導入です。条約は国に対する義務づけをするもので、民間企業に対する義務づけ効力はありません。それにもかかわらず、日本企業は、転売目的やCap制導入を見越した一種の「保険」という意識から、さらにはCSRの一環として、そして「経団連自主行動計画」に縛られて、京都メカニズムの実施に真剣に取り組んでいます。日本の産業界は政府と一体となって経団連自主行動計画の策定を行い、目標設定に事実上コミットしており、経団連自主行動計画の目標が達成されなかった場合には、環境税や直接上限の設定といったより重い規制を課されても受忍せざるを得ない立場にあります。それゆえに「経団連自主行動計画」は事実上京都メカニズムを強制する効力を持つに至っています。経団連自主行動計画の達成のために京都メカニズムを利用する(すなわち産業界が政府に対して無償で京都クレジットを譲渡する)ことが認められており、このために産業界は京都メカニズムに取り組まざるをえないわけです。政府は「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)平成17年改正で排出量算定報告公開制度を導入するとともに、18年改正で同法を京都メカニズムの基本法とし、取引ルールの整備(排出権の法的性質に関する整理、国別登録簿制度の整備、排出権取引に関する規律の明確化)を進めています。もっとも、武川先生は、制度整備の場面に法曹の関与が必ずしも十分でなかったために、その法的な詰めは不十分なものに留まっているとされます。どういうことなのでしょうか。

京都メカニズムで取引対象となる排出量(京都クレジット)の法的性質は様々な観点から検討する必要があります。憲法との関係では営業の自由(憲法22条)や財産権の制約に対する補償の要否(憲法29条3項)、民法との関係では「京都クレジット」の譲渡性の有無といった論点があります。さらに、排出量の原始的帰属は国有財産法との関係で問題となります。そもそも「京都クレジット」に財産権性があるかどうかという論点は制度の根本に関わってきます。「京都クレジット」の財産権性については、排出量には管理可能性があり取引の対象となるということで、実務上は動産類似の財産権という考え方が主流です。温対法平成18年改正に関する検討会での議論を通じて、「京都クレジット」の法的性格については、動産類似の財産権として財産権性が承認され、譲渡や信託の対象となることが確認されました。しかし、動産に関して適用される法的規律がすべて適用されるわけではなく、ケースバイケースの検討が必要とされます。さらに、割当量口座簿登録の法的効力も重要な問題です。というのも排出量の二重譲渡といった問題をどのように処理するかという問題があるからです。これについては、口座簿登録は効力要件とされ、登録には公信力も付与されました。とはいえ、これらの議論の整理はなお大枠的なレベルに留まり、個別の問題は実務上の判断の積み重ねに委ねられることになりました。以上のような整理を背景として、「京都クレジット」を対象とする取引制度の整備も急ピッチで進められ、目下、金融商品取引法や銀行法等の改正により排出権取引の業法上の位置づけも明らかにされつつあります。さらには東京証券取引所が排出権取引の検討会を立ち上げ、本格的に国内排出枠取引制度(国内キャップ・アンド・トレード制度)導入が検討される段階になっています。

武川先生は、国内排出枠取引制度の今後についてはまだまだ不透明な情勢だとされます。環境省と経済産業省は別々に制度の検討を行っており、統合的な対応は遅れています。今年6月9日には首相官邸は福田ビジョンを発表し、2050年までに達成すべき長期目標(2050年までに60~80%削減)を明らかにしましたが、国内排出枠取引制度の本格導入については曖昧な態度をとっています。他方、自治体レベルで東京都が都内の事業者を対象とした排出権取引制度の導入を提案し(6月10日に条例案提出)、他の自治体もこれに追随する動きを見せています。このままでは排出権が乱立することになり、市場に非効率が生じかねません。現段階では、制度の開始時期や対象施設、キャップの初期割当の方法も確定されていません。実施に当たっては国際競争下にある産業に対する配慮(関税措置など)も必要です。排出枠のバンキングやボローイングの制度も導入が求められます。排出枠の初期割当の法的位置づけ、具体的な取引方法や口座簿のあり方、業法規制、取引者保護といった問題についても十分な検討が必要です。

武川先生は、講演の締めくくりとして国内排出枠取引制度における法曹の役割について説明されました。排出枠関連ビジネスで排出枠取得契約や売買契約を作成するためには弁護士の関与は重要です。金融機関等が取引に関わる場合には業法対応の問題もあります。排出権関連の金融商品開発にあたっては法的なフレーム作りに弁護士の関与は不可欠でしょう。さらに関連立法の策定過程にも取引実務の経験のある弁護士の関与は必要です。実際、企業は国内排出枠取引制度が重要なリスク要因ないし経営戦略上の重要な要素となることを見越して、このような問題に精通した弁護士に対して熱い視線を送っているそうです。国内排出枠取引制度が新たな弁護士需要を生むことは明らかです。他方、排出権取引を専門的に扱う日本の弁護士はまだまだ不足しています(多く見積もっても10名以内、一定水準をクリアーしている弁護士は3~4名)。制度設計期であることから官公庁にも弁護士が必要なはずですが、実際にはほとんどいないのが実情です。とくに、国際交渉の場面に弁護士がいないのは致命的だとされます。制度整備に携わる関係者に民事法・取引法の理解が不足しているために、国内排出枠取引制度は問題の多い制度として走り出しつつあります。このような状況を改善するためには、民事法・取引法に通じた意欲的な法曹の関与がさらに求められるというわけです。

これから弁護士になろうとする者は、既存のルールに対する社会的ニーズのみならず、新しいルールに対する社会的ニーズにも敏感となり、そのような新しい社会的ニーズを基本的な法知識や実務経験と結びつけることによって新しい職域を切り開き、社会に対して貢献することが求められます。そのためには法科大学院の学生のみなさんは基本をきちんと身につける必要があるということで、武川講演は締めくくられました。

武川講演を受けて、私が5分間ほどの短いコメントを付けました。私のコメントでは、国内排出枠取引のように新しい法曹の職域は潜在的には広がり続けており、このような潜在的な職域をいかに発掘して実際に切り開いていくかがこれからの弁護士の課題であること、例えば、現段階では国内排出枠取引の制度構築が問題なのだろうが、取引制度が本格始動してからは紛争解決に対するニーズも生まれてくるはずであり、そこを目指す弁護士が出てきて然るべきであること、そのような職域に進出するためには幅広い法的知識を融合させることが必要であり、例えば(武川弁護士のように)ファイナンス法や取引法の知識、環境法の知識、資源エネルギー法の知識を融合させることが求められること、そして何より、新しい職務に関するニーズを読み取り、それに適応して仕事を生み出すことができる能力が求められることを述べ、最後に、新しい職域で活躍できる優れた弁護士になるために、新人弁護士が行うべきことは何かということを質問しておきました。

質疑応答では、武川先生は、まず私の質問に答えて、弁護士の将来は最初の3年間で決まるのであり、最初の3年間は優秀な先輩・同僚の下で必死に仕事をすることが必要だというお話をされました。森・濱田松本法律事務所は新人を徹底的に鍛えることで有名ですが、そうした特訓を通じてすばらしい弁護士がたくさん輩出されているというのは宜なるかなです。フロアからも様々な質問が出されました。①排出権の原始的帰属についてもう少し教えて欲しい(回答:中国では明文で排出枠が国に原始的に帰属すると明文化されるも、わが国では明文はない)。②排出権の国際的な取引における法適用に関して具体的に問題となっていることは何か(回答:例えば、日本の温対法であれば、記録を信頼して取引を行った者は善意取得の規定によって保護される。しかし、排出権が日本国外から日本国内に譲渡される取引においては善意取得の規定が適用されないことが明文で規定されている。かかる例外規定が置かれた趣旨は、(i)こうした局面においては善意者保護が全くなされないという趣旨なのか、(ii)それとも国際的な排出権の移転の場面においては日本の国内法を及ぼすべきではなく、国際公法秩序に解決を委ねることを前提に国内法の適用を控えたということなのか、必ずしも明らかではない。このように、排出権の国際的な取引においては、国際公法、国際私法上のルールが錯綜し、いまだに決まっていないことが多い。)。③行政による制度設計の場面に法律家が関与することの意味はどのような点にあるのか、これまでは行政官だけでやってきたがそれでは十分でなくなってきているという意味なのか(回答:行政官の能力は決して低くはないが、民法や取引法の知識は行政官ではどうしても足りない。今日の立法活動では実務的処理の感覚がなければ策定できない制度が増えており、弁護士が関与する必要性は高まっている)。④排出権取引制度は温暖化対策にとって本当に実効性があるのか、現在の制度では、排出枠の初期割当量がそもそも温室効果ガスの増加を前提とした水準にあるために、排出量が増え続ける点では変わりがないのではないか(回答:確かに制度のスタート時点ではその通りだが、排出量取引で技術開発のインセンティブが働けば、将来CO2発生量を現在の2分の1にする技術が開発されて吸収量と調和する可能性もある)。⑤国境措置による批准国・非批准国間の利害調整は実効性がないのではないか(回答:一国だけでは実効性はなく、各国の連携が必要)。⑥審議会等に招かれるような弁護士になるためにはどうしたらよいのか(回答:何もやらなければ呼ばれることはない。著書や論文を執筆してその道に精通していることをアピールすることは重要。大手の事務所に所属していることも意味があると思う)。⑦排出権取引に関わる弁護士の数が多くても10人に満たず、一定水準をクリアーするのは3~4人という数は十分なのか(回答:弁護士がそれで稼いでいくことができるだけのニーズという点からすれば、3~4人というのは調和的な人数だろうが、潜在的なニーズを考えれば全く足りていない)。⑧弁護士が仕事をする上では「人間力」も必要なのではないか(回答:「人間力」も必要かもしれないが、それはすべての仕事に必要なものでとくに弁護士に求められる能力というわけではない。それは法科大学院だけで身につけるべき能力ではない。法科大学院では基本的な法的思考を身につけて欲しい)。⑨国内キャップ・アンド・トレード制度を計画的に進めるためにはどうしたらよいのか(回答:まずは乱立しているものをまとめるビジョンが必要。それぞれの制度が部分最適を求めれば将来に混乱をもたらすだけ)。⑩リーガルマインドとは何か(回答:一言で答えるのは難しいが、問題点を直感的に把握し、それを論理的に相手に伝える能力が重要だろう。リーガルマインドは、優秀な先輩や同僚と一緒にしっかりした仕事をすることを通じてしか涵養されない)。⑪東京都だけで条例で排出枠取引制度を作っても、排出企業が逃げ出すだけで実効性は発揮できないのではないのか(回答:そうした懸念は理論的には存在し、カーボンリーケージと呼ばれている。この懸念に対しては、企業は総合的に様々なコストを勘案して移転を決めるのであり、排出枠だけが決め手となるわけではないとの反論がなされている。東京都の試算ではそれほど移転する企業は出ないと見られている)。中には素朴な質問もありましたが、武川先生は、すべての質問に誠実に答えておられました。フロアの参加者による大きな拍手で講演会は終わりました。

講演会終了後、法科大学院や法学研究科の学生を交えて懇親会が行われたのですが、その折りにも、武川先生は司法試験の勉強の進め方や弁護士が若いうちに経験しなければならないことについて熱心に語っておられました。参加した学生は多くの示唆を得たのではないかと思います。武川先生、ご多忙中にもかかわらず、夜遅くまで私どもの企画におつきあい頂きありがとうございました。今後とも大阪大学をよろしくお願いします。

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2008.06.20

大阪大学大学院高等司法研究科ALEC主催・第3回スーパーロイヤリング概要

2008年6月19日(木)17時30分から、大阪大学豊中キャンパス法経総合研究棟4F大会議室にて、スーパーロイヤリング第3弾が開催されました。スーパーロイヤリングとは、以前紹介したように、本学高等司法研究科ALECの主催で、法科大学院生、法学研究科院生、法学部生の法律の学修や就職活動支援の一環として、企業の法務担当者や弁護士などを招いて情報提供を行うことを目的とする講演会です。今回はアフラック統括法律顧問代行の芦原一郎弁護士の講演。テーマは「社内弁護士という選択」。芦原先生は91年に早稲田大学法学部を卒業され、翌年司法試験に合格、95年に弁護士登録されてから森綜合法律事務所(現:森・濱田松本法律事務所)に入所、99年からアフラックの社内弁護士になられ、以後9年間に社内弁護士として従業員から法務部長、そして役員という3つの立場を経験されました。まさに、社内弁護士についてお話し頂くのに適材の先生ということができます。私も、組織内弁護士について調査研究を進めている立場から参加させて頂きました。

芦原先生のご講演は、まず会社に対する民暴の事例についてその場で考えさせるというところから始まりました。社内弁護士は日々の業務のなかで、このような問題にもきちんとした対応ができなければならないのです。ちなみに、蛇の目ミシン株主代表訴訟事件最高裁判決以来、企業は反社会的勢力による暴力を用いた不当要求に対して適切な対応をしなければ、法的責任を問われる時代になってきています。さらに平成19年6月19日に内閣が示した企業暴力防排指針によれば、企業は反社会的勢力とは取引を含めた一切の関係遮断をしなければならないとされます。社内弁護士はそのような確立された規範を用い、また民暴は従業員の身の危険の問題という具体的な論拠を用いるなどして役員会を説得し、法の求める「適切な対応」「関係遮断」を実現するというのです。この事例から、社内弁護士の業務をリアルに想像することができました。

続いて、日弁連業務改革委員会作成の、弁護士の新しい職域として組織内弁護士を紹介するDVDビデオの映写が行われました。このビデオでは、官公庁で任期付き公務員として働いている弁護士と、アフラックの社内弁護士の活躍が紹介されました。アフラック社内弁護士の紹介では、芦原先生が社内弁護士になった動機や、先生が立ち上げられた「定期便」モデル(社内弁護士と一般の法務部員がチームを組んで社内を巡回し、様々な現場の問題を吸い上げ、また諮問に答えるシステムです)が紹介されました。会社と一体になって仕事ができ、直接に現場のニーズに応えて仕事ができるという社内弁護士の魅力が伝わってきました。

ビデオ映写が終わると、芦原先生は社内弁護士のミッションとは何であるのかについて話をされました。しばしば社内弁護士は監査役的な立場(つまり株主の利益を代表する立場)にあり、社長を頂点とするビジネスサイドに敵対する存在だと誤解されていますが、芦原先生によればそうではなく、社内弁護士はビジネスサイドに立ち、他の従業員と一緒になって日常業務を行うことをミッションとしているということが強調されました。また、そのような存在だからこそ、リスクを避けるという消極的なチェックではなく、むしろ適切にリスクをとるための手助けをするのが社内弁護士の仕事の中核ということになると言われます。リスクを孕む決定も、十分な情報に基づいて十分に検討したうえで行うのであれば、その法的リスクを大きく減らすことができます。そのような決断のアシストをするのが社内弁護士の仕事なのです。社内弁護士の仕事がこのようなものだと理解されるようになれば、日本企業でも社内弁護士が普及してくるに違いありません。

講演の締めくくりとして、芦原先生が立ち上げられたアフラック社内組織である「定期便」システムについて紹介されました。先述のように、「定期便」とは、社内弁護士と一般の法務部員がチームを組んで社内を巡回し、様々な現場の問題を吸い上げ、また諮問に答えるシステムです。法務サイドが現場の情報を適切に集め、また現場の法的問題に即時に対応できるということで、現場の評価も上々とのこと。弁護士と一般法務部員がチームを組むのは、弁護士の法的センスと従業員の社内経験とをうまく融合させる工夫です。また、弁護士が余所に移っていっても、弁護士と一緒に仕事をして身につけた経験は法務部員において蓄積され、さらにこの法務部員が社内の他の部署に移動することで、弁護士の法的センスが様々な部署に浸透していくということも考慮されています。一般従業員は、定期便システムで様々な経験を積み、知識を身につけることができます。この意味で、法務部は人材養成プロジェクトの中心に位置づけられることになります。

講演後の質疑では、①インハウスローヤーはどこからやってきて、企業を去った後にはどこに移っていくのかという質問、②代表取締役など経営者になる弁護士はまだまだ少ないが、そのために求められる資質とはなにか、③芦原弁護士が社内弁護士になるという決断をした理由はなにかといった質問がだされました。①については、社内弁護士は一度社内弁護士になると社内弁護士しかできなくなるということがしばしば言われるが、そうとばかりは言えず、むしろ社内でどのような経験をしたかということが重要で、社内での経験を生かして個人事務所を開業する者もいれば、大手の法律事務所に移る者もいる、②については、社長に期待される役割は、今日では説明責任を果たすということによって果たされるのであり、社長が説明責任を果たす役割を補佐するのがまさに弁護士だとするなら、今後は弁護士と社長に期待される役割とで重なる部分は大きくなっていくだろうという回答。③については、大手事務所の多忙さに嫌気がさしたことと、新しいビジネスモデルを作ってみたいという気持ちがあったことなどが社内弁護士を選んだ理由だとのことでした。以上が芦原先生の講演会の概要です。学生からの質疑を含め、充実した講演会でした。

講演会後、芦原先生と数名の教員とで懇親の機会を持つことができました。その折り、先生が森綜合法律事務所時代に先輩弁護士から特訓を受けたこと(当時の森綜合法律事務所では最若手の新人に主任弁護人を担当させ、その重責の下で新人に猛特訓を行っていたのだそうです)や、その特訓によって育てられた経験が、一般法務部員とチームを組んで行う「定期便」の発想に繋がっていることなど、貴重なお話しを伺いました。また、森綜合法律事務所(現:森・濱田松本法律事務所)では、新しい分野の仕事を経験したら不完全であっても著書にまとめて出版することが推奨されており、そうした出版によって本当に最新の情報が集まってくるようになり、その仕事の第一人者になることができるというお話しは、私たち大学人にとって実践的な示唆になります。そもそも、今のように知のインフレ時代には知識をため込んでいることの価値は低く(ストックされた知の価値はすぐに下がってしまう)、むしろ不完全であっても最新の知識を頻繁に世に問うことによって、最新の情報を集めることができ、知の拠点を形成することができるというのは耳の痛い指摘です。これからの大学はそのような情報の拠点を目指すのでなければなりません。

芦原先生、貴重なお話しをありがとうございました。今後ともご指導ご鞭撻よろしくお願い致します。

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2008.06.16

2008年6月15日(日)日本法社会学会関西研究支部例会概要

2008年6月15日()13時から、同志社大学寒梅館6F会議室にて、日本法社会学会関西研究支部例会が開催されました。今回の研究会では、京都大学大学院法学研究科研修員の古山真知子さんと、立命館大学政策科学部准教授の高村学人さんの研究報告が行われました。いずれも、地域における自主的なルール形成に関わる報告で興味深い内容でした。

古山さんの報告は、アメリカにおけるゲーテッド・コミュニティーについて紹介し、その意味と問題点を検討するものでした。ゲーテッド・コミュニティーとは、1960年代から増加してきた、壁に囲まれ、ゲートがついた高級住宅地のことです。社会的成功者たちが、自らを差別化し、安全で快適な生活圏を確保するために作り出したもので、ゲートの中には公園などの共有地があり、管理運営は家屋所有者組合が行います。また安全で快適な生活を維持するために、コミュニティーの住民には厳格な規則の遵守が求められます。古山さんは、この規則がコミュニティーのライフスタイルの均質化を図り、コミュニティーの秩序を維持するとともに、自治を実現するために重要な役割を果たしていると言います。ゲーテッド・コミュニティーは、新しいタイプの社会的排除をもたらすものという意味で問題を抱えていますが、他方、自主的なルールと自己負担に基づく新たな自治のあり方を提起しているということも言えます。古山報告は、これをどのように捉えていけばよいのかという問題提起型の報告であったと理解しています。

高村さんの報告は、2007年に施行された京都市屋外広告物新条例がどのような動機に基づいて事業者に遵守されているかについての研究報告でした。京都市では、2004年の景観緑三法の制改定によって屋外広告物規制が強化されたことを受けて、屋外広告物条例を全面改正し、屋上広告物の全面禁止、屋外広告物の高さ上限の引き下げ、広告物の面積制限強化、形態の制限、意匠の制限など、厳格な屋外広告物規制を行っています。高村さんは、京都市市街地景観課、京都市屋外美術館協同組合、京都府遊技業協同組合、京都府料理飲食業組合連合会、百足屋町町内会などでインタビューを重ね、新条例の執行・遵守状況を把握するとともに、その遵守の動機について調べておられます。高村さんの報告では、一般には屋外広告規制に最も抵抗を示すと思われそうなパチンコ業界が規制の遵守に最も熱心(軽微な条例違反による営業停止を恐れているため)であること、市中心部のモデル地域で開業した大型店舗は(おそらく市民への積極的アピールのために)規制の範囲内で京都らしい屋外広告を工夫していること、百足屋町や二寧坂では京都らしい町並みを維持するために条例以上に厳格な自主規制が設けられていることなどが明らかにされました。これらの条例遵守の動機には、単に罰則を恐れての規制遵守とは異なる、京都独自の町並みへのこだわりといった価値的な意味合いがほの見えているように思えます。そのような「価値合理的」な規範遵守動機をもっと重視してよいと、私も思います。

いずれの報告も、これからさらに成果が期待される研究報告です。お二方の今後の研究成果から目が離せません。

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