日本法社会学会関西研究支部研究会例会・樫村志郎先生停年退職記念祝賀懇親会概要
2020年8月8日(土)15時から、日本法社会学会関西研究支部研究会例会・樫村志郎先生停年退職記念祝賀懇親会をオンライン(Zoom)で開催しました。オンラインだからなのか、オンラインにも拘らずなのか、延べ30人以上の参加者を得て(本研究会としては)盛会でした。もちろん、祝賀行事だからということもあるでしょう。今回は私の基調報告と、これに対する樫村先生(神戸大学名誉教授)のリプライというシンプルな研究会と懇親会でした。にも拘わらず、めったに顔を出すことのない大御所の先生まで顔をだし、充実した議論ができました。以下はその備忘録としての概要です。
基調報告は、私の「ルーマンとパーソンズ:ルーマンはパーソンズをどのように理解したか」でした。この報告は、2019年10月13日(日)の関西研究支部研究会(前回)に樫村先生が報告された「理解社会学の継承者としての Parsons とGarfinkel — Parsons の1937年までの初期著作とGarfinkelによるParsons Primer(『パーソンズ入門』)の読解を通じて—」を受けて、私もまたパーソンズと結びつく形でルーマンの理論を整理しなおすということでお引き受けしたものです。機能概念、ダブル・コンティンジェンシー、社会システムの要素の問題(相互行為なのかコミュニケーションなのか)、システムと環境の定義、相互浸透、といった(ある意味わかる人にしかわからない)論点について、ルーマンがパーソンズとどのように格闘して自分なりの解答を導き出したかを紹介しました(前回、樫村先生は同様のことをガーフィンケルの視点で行われたのです)。関心のない人には「そんなの面白くない」と言われそうですが、樫村先生はむしろこのような議論をしたい人なのです。樫村先生停年退職記念祝賀行事にふさわしい報告だったと自画自賛しておきます。
これに対する樫村先生のリプライは大変に鋭いものでした。パーソンズの社会システム理論は生物学モデルを一貫して用いていること、パーソンズのシステムのイメージは生物のホメオスタシスであること、機能とはホメオスタシスのプロセスのことであって、ある部分を切り出して論ずることはできないものであること、AGIL図式は小集団研究のなかで見出された経験的なもので、論理の飛躍などではないこと、行為の目的を理解することを通してしか機能は理解できないことなど、私の理解が不十分だった点をすべて明らかにされました。そのあとのディスカッションでも、ルーマンについて、「複雑性の縮減」というのがすべてのシステムに共通する基本的機能なのではないか、「ホッブス問題」というのは社会学にとって本当に必要な議論なのか、パーソンズは「ホッブズ問題」を功利主義批判の文脈で論じており、行為の成立可能性との関係では論じていないのではないか、パーソンズは生物学モデルを使っているけれども、だからと言ってダーウィニズムの立場には与してはいない、など多くの有益な指摘をいただきました。
研究会終了後は樫村先生停年退職記念祝賀懇親会(オンライン)でした。いま流行のオンライン飲み会の形で、各自食事や飲み物を持ち寄って、2時間近く盛り上がりました。樫村先生が神戸大学に赴任された1980年代の「法と社会懇話会」の時から今の関西研究支部研究会になるまでの歴史を振り返るなど、得難い話を聞くことができました。本当に充実したひと時でした。
日本法社会学会関西研究支部研究会を取り囲む状況は厳しいものですが、樫村先生、今後ともご指導ご鞭撻よろしくお願いいたします。先生のますますのご健勝を心から祈念いたします。
Recent Comments