2019.10.14

2019年10月13日(日)日本法社会学会関西研究支部研究会例会概要

2019年1013日(日) 13時から17時半まで、同志社大学寒梅館6F会議室にて、日本法社会学会関西研究支部研究会例会を開催しました。報告者は2名。前回の研究会からかなり間が空いてしまいましたが、いずれの報告も内容が充実しており、学ぶことの多い研究会でした。以下は備忘録的なメモです。

1報告は、花村俊広氏(大阪大学大学院博士後期課程・社会保険労務士)による「労働局あっせんにおけるあっせん委員の業務プロセスに関する研究―パワーハラスメント事件を題材としたインタビュー調査―」でした。花村さんは、社労士業務の傍ら他大学の修士課程を修了して、大阪大学大学院法学研究科博士後期課程に進学された方です。自らも経験のある労働局あっせん業務について、あっせん委員の実務経験が2年以上ある者を対象とした半構造化面接によるインタビューを実施し、得られたデータをM-GTAにより分析し、あっせん委員が、どのようにして当事者間の話合いを促進しているのか、手続を進めるうえでのボトルネックは何か、といったことを解明することで、委員の資質向上等を図っていくためのモデル形成を行うという、意欲的な研究成果の報告です。あっせん手続は非公開ゆえ、インタビュー調査の実施には様々な困難があり、対象者の選定にもどうしてもバイアスがかかってしまうという点で限界はあるものの、実務と理論を融合させた優れた研究であることは確かです。花村さんのこれからの研究のさらなる進展が期待されます。

2報告は、樫村志郎氏(神戸大学大学院法学研究科教授)による「理解社会学の継承者としての Parsons Garfinkel — Parsons 1937年までの初期著作とGarfinkelによるParsons Primer(『パーソンズ入門』)の読解を通じて—」でした。通俗的な社会学史では、パーソンズ社会学とガーフィンケルのエスノメソドロジーは逆接的関係にあると見られがちです。しかしながら、ガーフィンケル は1946年から1951年までパーソンズ の学生であり、1960年頃にはパーソンズと少なくとも一部では共同研究をする関係にあり、したがって、ガーフィンケルは当然にパーソンズの強い影響を受けています。どのような問題意識のもとにパーソンズが社会システム理論を作り上げていったのか、その問題意識はガーフィンケルにどのように受け継がれているか、パーソンズのHolismや目的手段図式、規範の位置づけなどを一つずつ明らかにすることで、解明が試みられました。樫村報告はあまりに情報量が多く、私には理解できていないところが多々あるのですが、パーソンズの初期著作の解釈から、社会的秩序の成立可能性についての問いを掘り下げ、パーソンズの問題意識を浮かび上がらせる手際のよさは圧巻でした。 

今回の研究会でも、いろいろ勉強することができました。なかなか報告者が見つからず、充実した研究会を実施するのは大変ですが、頑張って続けていきたいと思います。

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2019.07.18

第15回仲裁ADR法学会大会概要

2019年7月13日(土)に、首都大学東京晴海キャンパスで、第15回仲裁ADR法学会大会があり、参加して参りました。毎年、仲裁やADRを研究している研究者や実務家(弁護士にかぎりません)が集まり、その時々の重要なテーマについて議論する大会です。今回もいろいろ示唆を得ました。ただ、大会からすでに時間が経ち始めているので、簡単な感想を備忘録として残しておくことにします。

大会はお昼過ぎから。前半は個別報告2件が行われました。

第1報告は石原遥平会員(公益財団法人日本スポーツ仲裁機構仲裁調停専門員、弁護士)による 「スポーツ仲裁の現状と課題~仲裁機関として果たすべき役割~」でした(司会は早川吉尚会員)。本報告は、設立から16年が経ったスポーツ仲裁人機構のこれまでを振り返るとともに、現在の取り組みを紹介し、さらに、これから同機構がどこに向かっていくのかを紹介する報告でした。判断基準の不明確や判断結果のフィードバックをどのように実現していくかというのが、今後の利用拡大にとって不可欠とのこと。今後の発展に期待しています。

第2報告は、中西淑美会員(山形大学)による「コンフリクト・マネジメントとしての医療メディエーション」でした(司会は入江秀晃会員)。中西さんは早稲田大学の和田仁孝教授と組んでコミュニケーションを通じた医療紛争の予防と解決の研究・実践に取り組んでおられ、今回の報告はその研究・実践のエッセンスの紹介。コンフリクトの重層性についての検討やグリーフケアとしての事故対応といった視点の提示は圧巻でした。中西さんにはさらにこの研究・実践を深めて行ってほしいと思っています。

後半はシンポジウム。テーマは「交通事故ADRの現代的意義」(司会 中山幸二会員)。報告者は、古笛恵子会員(弁護士)、竹井直樹会員(公益財団法人損害保険事業総合研究所シニアフェロー)、八田卓也会員(神戸大学)。最初に、古笛会員が、(一財)自賠責保険・共催紛争処理機構、(公財)交通事故紛争処理センター、(公財)日弁連交通事故相談センター、弁護士会ADRセンターの交通事故紛争解決制度の概要を紹介。続いて、竹井会員がそんぽADRセンターの紛争解決制度の概要を紹介。これに八田会員が研究者の立場から理論的仮説の提示をするという興味深い構成のシンポジウムでした。

苦情処理手続、紛争解決手続とその基準についての実務上の問題提起もさることながら、八田会員の問題提起は秀逸でした。八田報告は、費用便益分析を用いて、裁判所とADRとの適正な役割分担を考察する報告でした。交通事故ADRの新受件数の減少と簡裁事件の増加は交通事故保険の弁護士特約の影響なのかという問いから出発して、安価、迅速、解決内容の妥当性という要素が満たされるのであればADRによる解決も評価できるが、他方、弁護士特約による簡裁事件の増加からはADRがそのような機能を十分に果たし切れていないことが窺われるとし、さらに、弁護士特約の結果として当事者による濫訴や弁護士による時間の引き延ばしというようなモラルハザードが生じていないかを問い、妥当な落としどころを模索する内容でした(私なりの要約なので間違いが含まれているかもしれません)。解決金額について「任意基準<裁判基準」という現実があるなかで、安価、迅速、相対的な妥当性という価値を求める当事者は多く、ADRの活性化はそのようなニーズに答えることで実現できるのではないか、その場合、ADRのデータ開示等をすることで、判断基準の適正化も図ることができるのではないか、という指摘には唸らせられました。

質疑応答の詳細は省略しますが、交通事故紛争の解決基準やデータ公開の可能性、争訟性の高い事案をどのように取り扱うかといったことについてフロアとのやり取りが行われました。

今年の仲裁ADR法学会でも大いに学ばせていただきました。来年が楽しみです。

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2019.06.22

RCSL 2019 オニャーティー学術大会概要その3

RCSL (Research Committee of Sociology of Law) 2019年国際学術大会に参加するため、スペイン・バスク州のオニャーティーに来ています。大会3日目(最終日)の621日(金)は、半日のうえに記念企画が詰まっていたので、1セッションが1時間ずつ。あっという間に終わってしまいました。

21
日の第1セッションでは、Human Rightsの部会に参加しました。ここでは国際条約の国内法化や先住民の人権について議論が行われました。報告は2件。最初の報告は、日本のヘイトスピーチ対策法(2016年)は人種差別撤廃条約の国内法化として位置づけられるかどうかを問う報告。様々なアクターが関わりながら国際圧力と草の根の力との両方によって同法が制定されたことが紹介され、部分的にではあれ同法は人種差別撤廃条約の国内法化と言えるとのこと。第2報告は、カナダの先住民の置かれた状況と先住民の権利保護の難しさについて紹介するものでした。先住民と連邦政府、州政府の間の合意は対等な関係が確保できず、それによって先住民の権利保護を図ることは困難です。ではどのようにしたらよいのかと思っていたら、困難さの指摘だけで報告は終わってしまいました。

2セッションでは、Modernizing Adjudicationの部会に参加しました。ここでは裁判手続のICT化、AI化について議論が行われました。ここでも報告は2件。最初の報告は、ポルトガルで進められている裁判手続のICT Courtについての紹介でした。ポルトガルの裁判所は司法裁判所と行政・税務裁判所の二本立てになっているそうなのですが、前者についてCitius、後者についてSITAFというプロジェクトが進んでおり、訴訟手続の効率化、迅速化、適正化が図られているとのこと。いずれについても、費用面での魅力はあるものの、なお手続保障の点での課題は多く残されているようです。第2報告は、中国の裁判手続のAI化についての報告でした。中国は人口が多く、裁決手続の効率化の要請は他の国よりもはるかに大きいとのこと。そこで、1999年以来3期にわたる司法改革5か年計画を経て裁判手続のICT化、AI化が急ピッチで進められてきたそうです。後発国のメリットもあり、実際に多くの改革が進められ、最近導入が進められているWisdom CourtRobot Judge)は世界中の注目を集めているとのこと。もっとも、過大な期待は禁物で、可能なことは何であるか冷静に見極めることが必要なのは確かです。

このあとIISL創立30周年記念企画として、プレナリーセッション3が行われました。詳細は省略しますが、8か国の代表的研究者がパネルに登壇し、これからの時代に法社会学者に何が可能なのか、議論が行われました。このセッションの途中で私は中座したので、どのような落ちが付いたのかわかりません。そのあと閉会式があり、大会は無事に終了したとのこと。

議論の内容の密度が濃く、まだ未消化ですが、振り返りを行いながら咀嚼していくつもりです。来年の大会にも参加出来たらよいなと願っています。

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2019.06.21

RCSL 2019 オニャーティー学術大会概要その2

RCSL (Research Committee of Sociology of Law) 2019年国際学術大会に参加するため、スペイン・バスク州のオニャーティーに来ています。大会2日目の620日(木)は、大会の中日で、中身の濃いセッションが多数ありました。以下は備忘録を兼ねた概要です。

20
日の第1セッションでは、Disputing Endangered Rightsの部会に参加しました。この部会で私も報告(第3報告)をしています。この部会では、紛争解決方法や紛争解決行動に関する議論が行われました。具体的には、ポルトガルの再婚家族(Stepfamily)の子供の権利保護についての報告、中国の司法的環境救済手続の行政化についての報告、「超高齢社会における紛争経験と司法政策プロジェクト」の調査研究の一環として行われた「暮らしのなかの困りごとに関する全国調査」(2017.1112)の相談先満足度についての調査結果の紹介報告(私の報告)、ブラジルの労働仲裁についての立法動向の紹介が行われ、フロアを交えた議論が行われました。子供の権利保護のために再婚後の血縁のない親にも事実上の親としての義務を課するべきこと、環境訴訟で損害賠償による救済を図ることが困難な中国で救済を実効化するためには、救済手続の行政化を行うことは一歩前進ではあるのだけれど、予見可能性や正統性の点で問題があること、労働仲裁は私的な紛争解決方法であり、手続保障になお問題があり、経済的弱者に対して用いられる場合には一定の規制が必要であることなど、もっともな指摘が行われました。私の報告では、トラブルの相談先は単にしっかりと話を聞けばよいというだけではなく、適切な情報提供や交渉のサポートなどきちんとした対応を行わなければ、利用者のより高い満足を得ることができないことをデータに基づいて紹介しました。最近の調査では、しっかり話を聞くことが相談先のより高い満足度につながるという調査結果が多かったので、反応は上々でした。

2セッションはプレナリーセッション2だったのですが、IISL創立30周年の記念講演だったので紹介を割愛します。

3セッションでは、Judicial Professionals’ Working Conditionsの部会に参加しました。ここでは、裁判官、検察官、Magistrateなど司法職のワークライフバランスや仕事のストレスに関する議論が行われました。具体的には、オーストラリアの裁判官、Magistrateの仕事と家庭生活の両立の難しさについての調査報告、労働条件に関するパラダイムシフトを文献調査で明らかにする報告、仕事の重要性は仕事の満足度に関わる一方、ストレスの原因ともなるというジレンマについて検討する報告、司法の質(Quality of justice)の歴史的変遷についての報告、裁判官、検察官、Magistrateの労働条件に関する立法動向の紹介が行われました。最初のオーストラリアに関する報告を除くと、ポルトガルで行われた共同研究の成果を紹介する企画だったようで、議論が内輪向きであり、率直に言ってあまり興味を引くような内容ではありませんでした。

4セッションでは、Attitudes of Japanese Litigants and Their Lawyers toward the Civil Justice Systems: Preliminary Results of the National Surveyの部会に参加しました。この部会では、「超高齢社会における紛争経験と司法政策プロジェクト」の「訴訟利用調査」についての現時点での調査結果の紹介が行われました。最初に、今回の「訴訟利用調査」が行われるに至った経緯や調査目的の紹介が行われ(太田勝造)、これに続いて、弁護士増員にも拘わらずここ10年以上にわたって訴訟新受件数が増えていないのは何故なのかについての検討結果が紹介され(ダニエル・フット)、さらに、当事者が本人訴訟を選ぶ理由についての分析結果の紹介(長谷川貴陽史)、そして、訴訟利用満足度についての分析結果の紹介(齋藤宙治)が行われました。司法制度改革で大幅な弁護士増員が図られたのに訴訟利用が増えないのは何故なのかはずっと気になっている問題です。弁護士が訴訟をあまり受任したがらないという事情があるようですが、このあたりはさらに掘り下げた検討が必要でしょう。当事者が本人訴訟を行うかどうかの決定は、弁護士報酬が高いということとともに、自分でもできると思ったからという、ある意味身もふたもない結論には妙に納得しました。訴訟利用満足度が、勝ち負けに関わるのみならず、裁判官や弁護士に対する評価の高さが関係しているというのも理解できる結論です。これから行われるさらなる分析が期待されます。

5セッションでは、Lawyers in 21st-Century Societies – 2の部会に参加しました。ここでは、21世紀になってからの各国の弁護士のあり方の大きな変化が議論されました。具体的には、ドイツのリーガルエイドのあり方の変容の紹介、旧社会主義圏である東欧諸国の弁護士のあり方の変容についての各国比較、弁護士人口が急増しているブラジルの弁護士業務の多様化についての紹介、そしてクロアチアとセルビアでの司法の信頼失墜が弁護士のあり方にもたらしている危機についての報告が行われました。弁護士の置かれている状況が激変していることはいずこでも同じなのですが、その具体的な表れは各国それぞれです。ドイツのリーガルエイドが弁護士の訴訟支援から行政などによる当事者サポートに補助の重心を移しているというのは、弁護士費用が高額化している状況の下では避けられない傾向のように思います。旧社会主義圏で法曹増員が行われた結果、新自由主義的傾向が強まる一方、弁護士のギルド化がかえって進んでいるというのは意外でした。ブラジルの弁護士人口は単に多いだけでなく増加率も高く、その圧力で弁護士が様々な業務を新たに開拓していることは理解できます。もっとも、それが野放図であるという印象はぬぐえません。クロアチアとセルビアの弁護士の置かれている状況は、司法制度への信頼が大きく損なわれている中かなり困難なものとなっているようですが、それでもなお弁護士はある程度の信頼は維持しているという調査結果が紹介されました。しかしながらこれは本当に正しいのでしょうか。報告者の願望がかなり含まれているような印象を受けました。

大会2日目には、いろいろな議論を咀嚼しなければならず、消化不良の状態です。少し時間をかけて理解を深めていきたいと思います。


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2019.06.20

RCSL 2019 オニャーティー学術大会概要その1

RCSL (Research Committee of Sociology of Law) 2019年国際学術大会に参加するため、スペイン・バスク州のオニャーティーに来ています。大会日程は、2019619日(水)から21日(金)までの3日間。オニャーティーにある国際法社会学研究所(IISL)が会場。中世の趣を残すオニャーティー大学の建物(多くが歴史的建造物)で大会が行われており、それだけでも驚くばかり。大会そのものは300人程度の参加者でこぢんまりしていますが、宿泊施設が合同であるなど、合宿に近い雰囲気で、一気に知り合いが増えます。例によって備忘録を兼ねて大会の概要をまとめておきます。

大会は19日の9時から始まりました。オープニングセレモニーでは、RCSL会長、LSA理事、バスク州政府司法副長官、など6名が挨拶(スペイン語で内容が分からないものあり)。そのあと、1989年にオニャーティーに国際法社会学研究所(IISL)が設けられた経緯などについて紹介がありました。

これに続いて、プレナリーセッション1として、昨年度にPodgorecki Young Scholar Prizeを受賞した平田彩子さん(岡山大学)と今年度Podgorecki Senior Scholar Prizeを受賞したMavis Maclean先生(Oxford)の表彰と講演が行われました。平田さんは東京大学とUCバークレーに提出した博士論文が、Macleanさんは長年の家族法研究とRCSL会長としての貢献が受賞の対象です。平田さんの『自治体現場の法適用—あいまいな法はいかに実施されるか』(東京大学出版会・2017年)は極めて優れた研究です。世界的に活躍してほしい若手の1人です。

セレモニー直後の第1セッションでは、Law and Sustainable Developmentの部会に参加しました。ここでは、世代間正義について議論が行われました。具体的には、破綻した開発会社の環境に対する世代間責任をどのように担保するか、韓国でのCO2固定化・蓄積政策とこれに関する立法についての紹介、食糧生産における世代間正義の検討、そして世代間正義の直面する新たな危機について議論が行われました。世代間正義と経済成長との両立をどうするかなど、解決困難な課題についてフロアも交えていろいろ意見が出されましたが、道のりは遠いという印象しか残っていません。

昼食後に行われた第2セッションでは、Law, Institutions and Developmentの部会に参加しました。ここでは、主として規制ないしガバナンスの問題が議論されました。具体的には、ある法的規制は負担だと感じられるのに、他の規制は必ずしもそうではないのは何故か、国家と企業の強力な連携がブラジルのグローバル企業をどのように変化させたか(中国との比較)、航空産業における報告制度や情報共有制度がどのように航空安全に働いているのか、AIによるロボットアドバイザリー企業をどのように規制すべきかについて議論が行われました。中心も頂点も存在しないグローバル社会で、ソフトローなどによる直接的でない規制ないしガバナンスに注目が集まっていることは理解できます。もっとも、そのような規制・ガバナンスの危険性にどのように対処するのかについては、まだ議論が尽くされているとはとうてい言えない状態です。

3セッションでは、Comparative Studies of the Legal Professionsの部会に参加しました。この部会の議論はやや統一性に欠けていたのですが、日本の税務統計を用いた弁護士の年収動向についての分析、fMRIを用いたリーガルマインドについての脳科学実験結果の紹介報告、法実務における生きた伝統がどのようにして形成・維持されるかについての報告、高齢弁護士が直面する引退の問題、若手法学研究者のキャリア形成をどのようにして支援するかについての議論が行われました。税務統計を子細に検討すると、日本でも高収入の弁護士は特に減ってはおらず、法人化と組織内弁護士の増加によって弁護士の収入が見えにくくなっていることの反映にすぎないという検証結果は、実感に照らしても納得できます。リーガルマインドの脳科学研究はまだまだ始まったばかりで、分析枠組の構築に向けての試行錯誤とデータ蓄積の段階にとどまっているという印象です。社会的認知の脳科学的構造解明はこれからの課題です。高齢弁護士の引退問題、若手法学研究者育成の問題はいずこでも悩ましい問題だと痛感しました。

初日はあっという間に過ぎました。今日は第1セッションで私自身の報告もあります。私自身の研究ではなく共同研究の紹介報告なので少し緊張しますが、頑張りたいと思います。

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2019.06.02

LSA Washington D.C. 2019大会概要その4

6月1日(土)の夕方のセッションの時間(4:456:30pm)には、Paper SessionLaw, Business, Economy and Society in East AsiaCRN 33: East Asian Law and Society)に参加しました。私もここの報告者の1人です。司会はHiroshi Fukurai先生(UC Santa Cruz)。5人の報告者が報告をしました。

1報告は、私の“Third-Party Committee for Corporate Misconduct - Focusing on the Committee for Rating Third Party Committee Report -”でした。「第三者委員会」の機能や再発防止策のエンフォースメントについてはLSAALSAの学術大会で何度か報告をしているのですが、今回は「第三者委員会報告書格付け委員会」の役割に焦点を当てて報告をしました。「格付け委員会」では何が評価基準となっているか、その目安を明らかにしたうえで、比較的に高い評価を得ている第三者委員会報告書、きわめて低い評価しか得ていない報告書、優秀な報告書として表彰された報告書を挙げ、不祥事からの目隠しに第三者委員会報告書が使われないように「格付け委員会」が目を光らせることの意義とその危険性について指摘したつもりです(どこまで伝わったかは謎ですが)。

2報告は、松中学先生(名古屋大学)による“Gender Diversity in Board of Japanese Firm”でした。日本の会社の独立役員(取締役/監査役)はなかなか数が増えないのみならず、多様性に欠けているという問題について、女性の独立役員を増やすことがその解決につながるのではないかと問題提起する挑戦的内容の報告でした。確かに、日本の会社役員の女性比率は極めて低く、先進諸国では最低の比率です。独立役員に女性を増やせば女性比率が上がるのみならず、役員のバックグラウンドの多様性も向上し、会社のガバナンスが強化されるのではないかという主張は、いまのように極端に悪い状態を少しましな状態に置き換えるうえでは効果があると私も思います。他方、独立役員に選ばれるような女性はほとんど専門家(弁護士やコンサルタントなど)であることが予想され、役員のバックグラウンドの多様性はかえって低くなる可能性も指摘されました。役員のバックグラウンドの多様性の問題は、女性の独立役員を増やすだけでは、簡単には解決しないようです。

3報告は、Bruce Aronson先生(NYU)による“Is NISSAN a Japanese Company?”でした。日産/カルロス・ゴーン事件を手掛かりに日産のコーポレートガバナンスの不十分さを指摘し、そこから日本企業一般のコーポレートガバナンスの課題を明らかにするとともに、そのような課題の打開策を提示する報告でした。日本企業は、マネジメントモデルを採用するにせよ、はたまたモニタリング・モデルを採用するにせよ、日本化されたコーポレートガバナンス基盤の上でグローバルな企業活動を統制しなければならないという困難な課題に直面しているという指摘には唸らされました。

4報告は、清水剛先生(東京大学)による“The Historical Development of “Japanese-style” Corporate Governance”でした。同報告は、日本のコーポレートガバナンスのあり方を戦前までさかのぼって検討し、実は戦前の日本企業のコーポレートガバナンスは、社外役員比率もそれなりに高く、現在のあり方にちかいものだったけれども、戦中戦後の混乱でそもそも会社数が減り、しかも富裕層がいなくなったことで社外役員のなり手がなくなって、内部出身者ばかりの役員によるコーポレートガバナンス体制が出来上がったという歴史的事実を紹介するものでした。日本的経営は法律が作り出したものではなく、社会経済的諸条件が作り出したものであり、法律はそれを補強してきたにすぎないということには納得できます。

5報告は、Daniel Rosen先生(中央大学)による“Uso! Big Lies and Corporate Cover-ups in Japan”でした。粉飾決算やデータ不正、検査結果の改ざんなど、会社の組織が関わる「嘘」の問題は最近とくに注目を集めています。そのような不祥事のたびに会社の役員がマスメディアの前で謝罪をするという風景はもはや日常的なものです。Rosen先生の報告は、このような不祥事はなぜ起こるのか、それは日本特有な問題なのか、解決策はあるのかを問う報告でした。基本的に、日本企業では内部出身者が経営の中枢を担うのであり、コーポレートガバナンスの観点からは好ましくないあり方が続いています。独立役員の必置化など様々な施策が行われているけれど、そのようなあり方を変える見込みはあるのか。Rosen先生はこの点については悲観的なようです。

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4日目(62日午前まで)は諸般の事情で参加せず、夕方には帰国の途に就きます。帰りの旅も長いので、疲れをためないようにゆるゆると帰ります。

来年のLSA大会はデンバーで開催されるとのこと。これもまた楽しみです。


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LSA Washington D.C. 2019大会概要その3

Law and Society Association(北米)の年次大会に参加するためにワシントンD.C.に来ています。昨日(61日)は3日目。今回は午前中のセッション2つと夕方のセッション(私も報告者の1人)に参加しました。

朝一の時間(8:009:45am)は、Paper Session: Dignity in East Asian Law and Society (1)CRN 33: East Asian Law and Society)に参加しました。西欧のキリスト教文化に起源をもつ「尊厳Dignity」の概念は東アジアでどのような意味で受け取られ、議論されているのか。司会は宮澤節生先生(神戸大学名誉教授)。4人が報告をしました。ややバラバラな印象はありましたが興味深い意見交換の場となりました。

1報告は、Terry Halliday氏(American Bar Foundation)とSida Liu氏(University of Toronto)による“Dignity Discourses in China Struggles for Basic Legal Freedoms”でした(報告はHalliday氏)。自由を貫こうとすると生命身体の危険すら伴う中国において人間の尊厳はどこまで尊重されうるのかを問う報告。中国には経済活動の自由も弱者保護もあるけれども、それは政策的なもので、本来、生得的に保障され、尊重されるべき「人間の尊厳」は十分に尊重されていないという主張。ややステレオタイプな中国観の投影のようにも思いましたが、かの国の不気味さがこの点に由来することは確かです。

2報告は、Qian Liu氏(University of Victoria)による“Making Sacrifices for My Family’s Dignity: How does the Emphasis on Face (Mianzi) in Chinese Society Interact with State Law to Affect Leftover Women’s Choices in Marriage and Childbearing”でした。家族の「面子」が法とどのように関わり、女性の生き方、特に結婚や出産にどのような影響をもたらすのかについて検討する報告。「尊厳」はRespectに関わる概念ですが、それが「体面」に近い意味で用いられる場合には、問題が多いと私も思います。

3報告は、Chen Wang氏(University of Ottawa)による“Migration and Dignity of Chinese Highly Skilled Women in Canada”でした。カナダへの中国人移民は増えていますが、中でも女性がカナダに移住する場合の問題について紹介する報告。能力の高い中国人女性が移住する場合であっても、その女性のそれまでの経験や高度な能力は無視され、職業訓練を受けるところからキャリアを始めなければならないこと、ある程度キャリアを積んでも何かの事情でそれを失うとまた職業訓練から始めなければならないことなど、カナダの中国人女性移民が置かれている状況は過酷なようです。このような状況のもとで「人間の尊厳」は保障されていると言えるのかを問うていると理解しました。

4報告は、Jimmy Chia-Shin Hsu氏(Academia Sinica)による“Human Dignity in Jurisprudence of Taiwan Constitutional Court”でした。台湾の憲法裁判所は憲法原則を発展させていくに際して「人間の尊厳」を効果的に用い、従来の法概念を拡張したり、逆に制限を加えたり、現代的意味に置き換えたりする試みを行っており、同性婚を認める判決もこのような文脈で捉えられるということを明らかにする好報告でした。

東アジア人にとっても「尊厳」は様々な意味で用いられていること、特に「体面」に引き寄せてこれが理解される場合には問題が多いことについては、考えさせられました。

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2セッションの時間(10:0011:45am)は、Paper Session: Dignity, Human Rights, and Gender Equity Beyond Temporality and Spaciality (CRN 33: East Asian Law and Society)に参加しました。司会はHiroshi Fukurai先生(UC Santa Cruz)。3人が報告をしました。

1報告は、Ayako Hatano氏(University of Tokyo)による“Internalization of International Gender Norms in Asia A Case of Gender Violence and Sexual Harassment in Japan”でした。女子差別撤廃条約(CEDAW)批准後、CEDAWの諸原則が日本でどのようにして国内化されてきたか、それが国内法の判決にどのように影響を与えてきたかについて記述的に明らかにする報告でした。博士論文の一部をなす研究とのこと。今後の展開が期待されます。

2報告は、Heidi Haddad氏(Pomona College)による“Municipal Rights: Cities Re-Purposing International Human Rights Law”でした。同氏の報告もまたCEDAW原則の国内化についての研究報告で、カリフォルニア州の自治体の条例等にCEDAW原則がどのように反映されているか紹介するものでした。自治体ごとに温度差はありますが、連邦や州レベルよりもさらに市民生活に密接に関わる自治体の条例等に国際法上の原則が直接に影響を及ぼしていることに、驚きを感じました。

3報告は、Rob Lefler先生(University of Arkansas School of Law)による“The Failings of Japanese Patient Safety Reforms in an International Context”でした。Lefler先生は日本の医療過誤訴訟の比較法的研究を長年行っておられる先生です。日本の医療安全制度改革は、損害賠償訴訟の増加によっても、医療損害保険の掛金率の高まりによっても、資格停止等の行政処分の強化によっても、刑事責任によっても、はたまた医療事故調査制度導入をもってしても、大きく前進することはなく、医療安全はまだまだ不十分な状態にあることを、データを示しながら紹介する報告でした。この問題は、医療安全の向上を医療機関に動機づけるインセンティブが欠けているということに尽きるのでしょうか。問題の深刻さを痛感しました。


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2019.06.01

LSA Washington D.C. 2019大会概要その2

Law and Society Association(北米)の年次大会に参加するためにワシントンD.C.に来ています。昨日(531日)はその2日目でしたが、相変わらず体調は回復せず、また今回大会参加の最重要の目的であるAsian Law and Society Association (ALSA)第4回学術大会関係の打ち合わせやBusiness Meetingがあり、参加したのは朝の第1セッションだけでした。

参加したのはPaper Session: Current Legal Issues in Asia and Americas IIでした。報告は4件。以下の報告が行われました。

1報告は、Ana Cristina Augusto Pinheiro氏(Univ. Estácio de Sá)による“Systemic Law as a Tool for Peaceful Conflicts”でした。同氏のいうSystemic Lawとは、医療に例えるとホーリスティック医療のようなもので、方法論としては対立関係を避ける調停方式を多用するといった法(実定法とは異なる)のようでした。現実の法の機能にはあまり関心はないようで、正直なところよく分かりませんでした。

2報告は、まったく準備ができておらず、実務上の経験を語っただけで終わったので、論評するに値しません。紹介を割愛させていただきます。

3報告は、私の友人であるLuis Pedriza氏(獨協大学)による “Human Dignity Under Modern Japanese Constitutional Law”でした。Pedrisa氏の報告は、日本国憲法の「個人の尊重」原理について、歴史を遡り、また憲法上どのような形でこの原理が具体的に表現されているかを紹介するもので、日本の法学者、法律家にとって新味はなかったのですが、スペイン出身の同氏が日本国憲法の「個人の尊重」原理をどのように見ているかが垣間見え、また欧米の研究者にとって分かりやすい紹介報告になっていたと思います。

4報告は、Martin Gallié氏(Université du Québec à Montréal)による “Evicting the Elderly: Magistrates Face Unjust Procedural and Social Policies”でした。カナダ・ケベック州では、賃貸人による賃借人に対する退去請求訴訟の件数が増えており(背景には不動産価格の高騰がある)、しかもわずかな不払いであっても立退きが認められることから、高齢者が強制退去を受けるケースが目立ち、社会問題になっているとのこと。この問題に、執行に関わるMagistrate(この場合の訳は「執行裁判官」としておくのがよいでしょう)が抵抗し、執行を引き延ばすことで不正義を避けようとするような事例がしばしばみられるとのこと。社会政策の失敗を現場の裁判官が何とかしようとするのは、実際上結構あるのだと思いますが、このようなことは社会政策の改善でしか解決できないはずです。考えさせられる報告でした。



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2019.05.31

LSA Washington D.C. 2019大会概要その1

Law and Society Association(北米)の年次大会に参加するためにワシントンD.C.に来ています。大会は529日(木)から62日(日)まで。今回の大会のテーマはDignity(尊厳)です。あらゆる法学上の議論が含まれうるマジックワード。そのためではありませんが、今回もありとあらゆることが並行するセッション(同時並行で30以上)で議論されています。今回もまた私の参加した範囲で備忘録を兼ねて記録を残しておきたいと思います。

5
30日(木)は前日の移動の旅疲れ、時差ぼけ、さらに夜中にちょっとショックな連絡が届いたことなどがあり、コンディションが最悪でした。無理しないモードで初日を過ごさせていただき、午前10時から1145分までの第2セッションのみ参加することになりました。

参加したのは、Paper Session: Indigenous Struggles, Resistance, and the Search for Survival, Mutual Support, and Mutual Aid Across Global Jurisdictions (CRN 33: East Asian Law and Society, CRN 34: Law and Indigeneity) でした。先住民の視点や相互扶助の視点で社会運動をどのように捉えるのかを議論するセッションです。このセッションの司会はHiroshi Fukurai先生(UC Santa Cruz)で、以下の4報告が行われました。(1セッションだけの紹介なので少し詳しく紹介します)。

1報告は、武士俣敦先生(福岡大学)による“Lawyer’s Ethics and Collaborative Practices in Japan: A Study on the Dysfunctional Effect of Ethical Rules on Access to Justiceでした。他の3報告とは異なり、日本において、弁護士倫理が弁護士と他の専門家との連携にどのような影響をもたらすのかについて検討する報告でした。結論から言うと、制約の多い弁護士倫理のために、弁護士と他の専門家との連携は悪影響を受けてしまっており、これを乗り超えるためには弁護士側の認識を変えることが必要だとのこと。いつも思っていることですが、その通りだと思います。

2報告は、Yance Arizona氏(Leiden University)による“Strategic Essentialism: Adat/Indigeneity as a Rhetoric of Rural Communities to Obtain Access to Justice in Land Conflict”でした。インドネシアにおける未開地域の土地紛争の運動論に関する報告です。事例の紹介が中心でしたが、要するに、従来の未開地域の先住民の土地紛争は共産主義と結び付けられ、容易に弾圧されてきたけれど、Indigenity(先住権)を運動の前面に押し出し、先住民が環境保護の主体として自らを位置付けることで、グローバル投資家による土地収奪に対抗する効果的な運動が展開されているとのこと。同じことでもレトリックが違えば確かにグローバルな訴求力をもつことがあると思います。

3報告は、Shambhu Prasad Chakrabarty氏(Amity Law School, Kolkata, India)による “The Role of Universal Periodic Review in the Indian Legal and Political System in Recreating Social Transformation Amongst the Indigenous and Tribal Peoples in India: A Socio- Legal Analysis”でした。いまひとつ内容をつかめていないのですが、インドの先住民、部族民の社会的変化を捉えなおすことで、先住民、部族民の法的、政治的位置づけが変わってくるということを主張する内容の報告だったと思います。先住民、部族民のもつEcological EthicsCommunicative Ethosに目を向けることで、彼らを社会運動の主体として理解できるようになるということには賛同するのですが、そのことによって運動がどう変わるのかは質疑応答を聞いてもあまりよく分かりませんでした。

4報告は、 Grace Tsai氏(Providence University)による “Translating CEDAW Into the Vernacular: Taking the Issue of Atayal Culture Concerning Domestic Violence as an Example”でした。今度は台湾の少数部族についての事例研究の報告です。台湾の少数部族であるAtayaGagaという土着の慣習(男女とも平等に働く)をCEDAW(女性差別撤廃条約 Convention on Elimination of All forms of Discrimination Against Women)の観点から再解釈することが、DVに対抗する方策となるというような趣旨の報告だったと理解しています。CEDAWの原則からかなり距離のある部族民の土着の慣習をこれに引き寄せて解釈するということには違和感はありますが、運動論としてはありうる話なのかと思いました。

いろいろ考えさせられるセッションでした。

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2019.05.13

2019年度日本法社会学会学術大会概要その2

2019年511日(土)、12日(日)、千葉大学西千葉キャンパスにて、2019年度日本法社会学会学術大会が開催され、無事に終了しました。2日目の議論も大変充実していました。

12
日午前の部では、個別報告分科会③(司会:馬場健一[神戸大学])に参加しました。この分科会はたまたまですが脳科学や心理学、統計学を用いた報告が集まっていました。

最初の報告は、浅水屋剛(東京大学)・加藤淳子(東京大学)「法の専門家と素人の法的判断:fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いたリーガル・マインドの探求」でした。被験者に架空の殺人事件5事例を与えて答えてもらい、その時の脳の活動部位をfMRIで三次元データとして記録し、そのデータを多数集めて統計処理し、脳の活動部位を特定する脳科学実験の結果の報告でした。設けられた事例に答えるに際して、法専門家と素人とで脳の活動部位にどのような違いがあるかを検証。今回は感情的反応に関わる法専門家と素人の脳の活動の違いを抽出。まだ研究は第一歩とのこと。これからのさらなる研究に期待したいと思います。

2報告は、藤田政博「人の違法とせらるるは結果のみによらずして行為による: 行為無価値・結果無価値に関する実験研究」でした。刑法の違法性論では、結果の発生こそが違法性の根拠だとする「結果無価値」論と、単に結果の発生だけではなく、行為の非難可能性があることが違法性の根拠だとする「行為無価値」論との理論的対立がありますが、素朴な疑問として、人間は結果の発生だけで違法判断をするとは考えにくいところがあります。藤田さんはこの疑問に答えるべく、殺人事件の事例を工夫して学生を対象とした心理実験をまず行い、これを別の角度から検証すべく、アメリカのクラウドサービスに登録している一般人(平均年齢40歳ぐらい)を対象とした心理実験を行ったとのこと。その結果、いずれについても行為が法規範に違反したという行為の悪質性に関わる要素こそが違法性の判断にとって決定的であることが確認されたとのこと。心理実験を用いた鮮やかな検証には目を見張りました。

3報告は、籾岡宏成「アメリカ合衆国における懲罰的損害賠償制度の統計的分析」でした。アメリカ合衆国の懲罰的損害賠償の賠償額は陪審員が判断するのですが、この点に関して、陪審による判断は極端な倍率となることが多く、恣意的で予測可能性がないから制限すべきだという立場(不法行為法改革論者)と、陪審の懲罰賠償額の判断は控訴院裁判官の判断と統計的にみてそれほど極端な違いはなく、懲罰的賠償額は合理的に予測可能であるとする立場(現状維持派)の対立があります。籾岡さんは、LexisNexisのデータベースから2004年から2012年まで8年間の懲罰賠償が認容された300件以上の連邦控訴院判決を抽出し、これを原審にまでさかのぼってデータを整理。さらにこれを統計的に分析して、陪審による懲罰賠償額と控訴院裁判官による減額された金額を比較して、陪審による賠償額の判断が極端な倍率となり予測可能性を損なうほどに恣意的かどうかを検証。この結果、陪審による懲罰賠償の額は当事者の予測可能性を害するほどに恣意的でないこと、控訴院裁判官による減額は陪審による極端な倍率故に行われるというより、賠償額の大きさに応じて行われることが多いことを明らかにしました。ご研究は大変な力作とお見受けしましたが、アメリカで同種の研究は多数あるようで、どこまで独自性のある研究なのかはよく分からないところがありました。

12
日午後の部は、全体シンポジウム「司法制度改革とは何だったのか」が行われました。今回の大会企画委員長は樫澤秀木(佐賀大学)、司会は上石圭一(追手門学院大)・藤本亮(名古屋大学)です。最初に、企画委員長による「企画趣旨説明」があり、これに続いて丸島俊介(弁護士)による「司法改革の歴史を辿り未来を展望する」、田中正弘(筑波大学)による「我が国の法曹養成の出口拡充戦略は誰が主導すべきか―主体に着目した英米との比較」、高橋裕(神戸大学)による「法社会学会は司法制度改革にどのように接近してきたか:視角と死角」の3報告が行われました。

丸島報告は、ご自身が弁護士としてかかわってきた司法制度改革を振り返るとともに、今後の課題を明らかにし、これから向かうべき方向を示す重厚な報告。田中報告は、大学の認証評価を研究する教育学者という立場からみた司法制度改革、とりわけ法科大学院改革についての課題と展望を明らかにする報告。高橋報告は、法学論文データベースから司法制度改革に関わる論文タイトルとキーワード、会員情報をテキストマイニング等の方法で分析し、司法制度改革に法社会学会の会員がどのように関わってきたのか、これからどのように関わっていくべきなのかを明らかにする力技の報告でした。以上の報告に対して、三成美保(奈良女子大学)がジェンダー論の観点から、宮澤節生(神戸大学名誉教授)が司法制度改革にずっと関わってきたご自身の観点からコメントをするという形で、問題提起が行われました。

シンポジウムの後半はパネリスト間での意見交換とフロアとの質疑応答。議論は多岐に及んだので、詳細は省略します。基本的に、司法制度改革はジェンダーの視点が大きく欠けており、今後はジェンダー的な視点からのさらなる改革が必要であるということ、若手にとって弁護士が魅力的な職業であるようにするためにはどのような施策が必要か、そもそも訴訟事件数は何ゆえに減少しているのか、原因究明は行われているのか、法社会学会の会員はどのように現実の問題に取り組んでいくべきなのか、といった課題について白熱した議論が展開されました。

今年度の学術大会も充実した大会でした。来年度はAIや脳科学、ベイズ統計学といった新しい課題について議論が行われるようです。新しい展望は見出されるのでしょうか。

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